単純に商品を販売するだけではなく、顧客との関わり方が非常に重要になってきている現代では、製品やサービスを提供する企業は、顧客との関係性を示す指標の一つである「リテンション率」を無視することができなくなっています。しかし、そもそもリテンション率を理解していない、指標として重視していないという企業も少なくないと思います。そこで、本記事ではリテンション率の基本的な知識や重要性とともに、リテンション率を向上させるためポイントなどを解説します。

 

1. リテンション率とは?

リテンション率とは、ある特定の期間において顧客が継続してサービスを利用した割合を示す指標です。日本語では「顧客維持率」や「顧客定着率」「顧客継続率」などと表現されることがあります。多くの製品やサービスで算出・活用可能な指標ではありますが、特にWebサービスやサブスクビジネス、アプリを提供する企業にとっては非常に重要な指標となっています。

2. リテンションの意味

そもそもリテンション率の「リテンション」とはどのような意味を持っているのでしょうか。英語では「retention」と書き、保有や保持、維持などの意味を持っています。ビジネスにおいては既存の顧客が自社の製品やサービスを利用し続けること、ブランドや商品そのものに興味関心を持ち続けることを表します。特に、顧客が具体的なアクションを起こすことが企業にとっての「維持」や「継続」を意味することになります。顧客との関係性を表す言葉として理解しておくとよいでしょう。

3. リテンションの重要性

自社の製品やサービスを継続的に利用することを意味するリテンション率の重要度は年々増してきています。リテンション率が高いということは顧客が自社のサービスに対して一定の満足感を抱いていることになり、企業にとって新規顧客の獲得率向上よりも重要な意味を持つ場合があります。特にこれからの時代においてはリテンションの重要性を無視することができません。既存のユーザーに目を向けない企業は時代の変化についていけなくなり、やがて淘汰されてしまうリスクも高まるでしょう。

3-1. 人口減少と多様化

世界は今後もしばらくは人口が増加すると考えられていますが、日本では少子高齢化が進み、今後人口が減少していくと予測されています。当たり前ですが、人口が減ると企業は消費者やユーザーの獲得がより難しくなっていきます。それによって、市場が縮小していく見込みとなっています。新規のユーザーを獲得することも重要ですが、自社の商品やサービスをすでに利用している既存ユーザーを保持・育成していく取り組みが、売上や利益を安定させるためには非常に重要になります。

また、インターネットの進化・発展により、多くの消費者が情報収集を容易に行えるようになったことも無視できません。このような動きによって消費者の価値観は多様化し、それに合わせるように市場に溢れる製品やサービスも広がりをみせています。企業にとっては競合が増えることを意味し、新規ユーザーの獲得が難しくなっているといえるでしょう。リテンションに着目し、その割合を上げることは既存顧客に焦点を当てることを意味します。多様化の波にのまれず、企業が生き残り売上や利益を安定させる、あるいはさらに上げていくためには、リテンション率の向上が非常に重要であることを念頭においていきましょう。

4. リテンション率の計算式

リテンション率の算出には、「継続顧客数 ÷ 新規顧客数 × 100」の計算式が使われるのが一般的です。非常にシンプルな計算式であるため、データさえ収集できれば誰でもすぐにリテンション率を算出することができます。継続顧客数・新規顧客数ともに、一定期間における顧客数を当てはめるのがポイントです。期間を設定しなければ、継続顧客数が新規顧客数を上回りリテンション率が100%を超えてしまうなど誤った数値が出ることもあるので注意しましょう。継続顧客数は、新規顧客数のうち、どの程度のユーザーが継続して利用してくれたのか、あるいは残っているのかを表す数値です。この点を押さえたうえで、正確に数値化する必要があります。

例えば、とある期間の新規顧客数が10,000人で、1カ月後の継続顧客数が8,000人の場合は下記のような計算方法で導き出されます。

8,000 ÷ 10,000 × 100 = 80

つまり、この場合のリテンション率は80%という計算となります。

4-1. リテンション率を計算する意味

リテンション率を計算する意味は、顧客の行動や企業あるいは商品に対する満足度、愛着、信頼度などを数値化できるためです。これらは、たいてい抽象的なものになりがちです。リテンション率として顧客の維持率を数値化できれば、顧客マーケティングや商品の開発・改善などにも有効活用できるでしょう。期間ごとの細かい顧客のアクションの推移も把握可能です。企業が成長していく上で必要なデータとなりうるでしょう。

5. リテンション率を計算する際に押さえておきたいポイント

リテンション率の計算は恣意的に上下させることが可能です。それでは、効果的にマーケティングに活かすことができません。リテンション率を計算する際には、ユーザーのアクションとその期間の設定がポイントとなります。

5-1. ユーザーのアクションについて

企業や商品/サービスによって、ユーザーに求めるアクションは異なるはずです。Webサイトへの訪問・閲覧か、あるいは商品の購入・契約かでアクションは全く異なります。継続顧客数と新規顧客数を割り出すためには、まずユーザーのアクションを詳細に定めておかなければいけません。新規顧客であっても、例えば、無料プランへの登録と高額プランの契約では企業への影響も含め意味合いが大きく異なるでしょう。アクションごとに継続顧客数と新規顧客数を割り出さなければ、正確かつマーケティングに有効活用できるリテンション率は算出できないため注意が必要です。

5-2. ユーザーのアクションする期間

リテンション率は特定の期間における顧客維持をを示した割合です。この期間の設定も企業や商品、イベントなどによって異なります。毎日使用してもらいたいサービスと、年に数回程度の使用で構わないサービスとでは、期間の設定は異なるでしょう。期間の設定は企業が恣意的に決定するケースもあれば、ユーザーのアクションを元に決定されることもあります。後者であれば、既存の顧客がアクションを起こす頻度などから適切な期間を割り出し設定します。期間設定を間違えると、その後のリテンション率を活用したマーケティングにも支障が出るため、ユーザーのアクションを注視しながら期間を割り出しましょう。

6. リテンション率向上のメリット

リテンション率に着目し、向上させていくメリットを解説します。

6-1. コストカットによる収益の改善

顧客やユーザーをシンプルに新規と既存とに分けた場合、新規のユーザー獲得には既存のユーザーの保持・維持と比較し、非常に大きなコストがかかるのが一般的です。新規顧客の獲得には、ときに莫大な広告費が必要となり、そのためのマーケティング費用や人件費などのコストも捻出しなければなりません。既存の顧客はすでに自社の商品に触れ、実際に購入・利用しているため、多少なりとも魅力を感じてくれているのではないでしょうか。そのような既存顧客の保持は新規顧客の獲得と比べて、コストをあまりかけずに実現することが可能です。

特に、顧客離れが起こりやすい企業では離れた顧客と同じ数の、あるいはそれ以上の新規顧客を獲得しなければ十分な売上や利益の確保が見込めません。収益の安定性や向上を考えた場合には、新規顧客の獲得よりも既存のユーザーへのマーケティングやアプローチを徹底した方がコストを削減できるでしょう。コストカットは収益の改善や増大へと直結します。リテンション率に着目し、その割合を向上させることは、ポジティブな意味合いをもつコストカットによって企業の収益を改善させる重要な施策となります

6-2. ロイヤルカスタマーの育成

継続的に自社の商品を利用してもらうためには、顧客の育成が欠かせません。企業や商品を心から信頼する、いわゆる「ロイヤルカスタマー」へと育てる必要があるのです。リテンション率が上がると、自然とロイヤルカスタマーの予備軍ともいえるユーザーが増加します。そこからさらに個別にアプローチをしていくことでロイヤルカスタマーへの育成に成功し、顧客を企業や商品へと長期間つなぎとめることができます。また、顧客の育成は、さらに高額の製品やプランなどへ移行する「アップセル」や、関連商品の購入などにも手を広げる「クロスセル」にも繋がります。このように満足度を高めリテンション率を向上させることで、顧客単価を増やすことも可能です。

6-3. ポジティブな口コミの拡散

リテンション率の向上は、顧客の企業に対する信頼度や満足度の向上を意味します。企業と顧客の関係性が強化されることで、既存のユーザーが新しいユーザーを呼び込む効果も期待できるでしょう。リテンション率の向上を目指す取り組みは、新規よりも既存の顧客にフォーカスすることを重視します。しかし、既存の顧客が周囲の人々に能動的にアプローチしてくれることで、結果的にコストを削減しながら新規のユーザー獲得の効果も期待できます。

 

7. リテンション率が下がってしまう要因

顧客がなかなか定着せずリテンション率が下がってしまうのであれば、必ずどこかにその原因があります。リテンション率が下がってしまう要因を考えてみましょう。

7-1. 使い勝手が悪いなど商品に魅力がない

そもそもサービスの使い勝手が悪い、製品自体に魅力がないなどの原因が考えられるでしょう。一度使ってはみたものの、もし使い勝手が悪く利用するメリットが感じられなければ、当然ながらユーザーは利用を継続しません。その場合は、商品そのものの改善が求められます。また、他社の同じような製品やサービスとの差別化に成功していない可能性もあるでしょう。価格設定を変える、商品を改良するか新商品を開発する、もしくはイメージ戦略なども取り入れながら競合他社との差別化を意識するなどして、独自性があり、ユーザーの利用満足度の高い商品を提供しなければいけません

7-2. 顧客対応に問題がある

商品に魅力があっても、顧客対応に問題があるとユーザーが思うように定着しないことがあります。特にカスタマーサービスの対応の遅さや態度の悪さなどがリテンション率の低下へと繋がるケースが考えられます。ユーザーが疑問や悩み、課題を抱えたのであれば、企業側はすぐさまその解決へと動き出さなければなりません。場合によっては返金や返品、交換などにも適切に対応する必要があるでしょう。

7-3. ユーザーへのフォローが乏しい

一度、購入・契約してもらったら、それで終わりではありません。利用後のユーザーへのフォローを徹底しなければ、リテンション率は向上しないでしょうあ。しばらくアクションを起こしていないユーザーがいれば、個別にアプローチすることも求められます。あるいは、属性ごとにフォローを変え、適切なサービスや商品の案内を継続的に行うなどの工夫も欠かせません。フォローまで含めて商品であると認識し、ユーザーとの関係性を築く必要があります。

8. リテンションを上げるためのポイント

リテンション率を上げるためには、リテンション率を下げてしまう要因を取り除かなければいけません。具体的にどのような施策を行うべきか考えてみましょう。

8-1. 顧客の反応や行動の把握

どのような施策を打つにしても、顧客のデータを集めなければ何も始まりません。商品や企業側からのアプローチ・フォローなどに対しユーザーがどのような反応をし、行動を起こしているのかを詳細に把握しましょう。期間・商品ごとのデータやユーザーの属性ごとのデータなどを細分化しながら収集し、数値化します。その際、顧客管理システムやMAツールなどの活用が必須です。これらシステムやツールを導入したうえで上手に活かしつつ、顧客のニーズや変化などを捉えることが求められます。

8-2. ポジティブな体験の提供

顧客対応の改善は欠かせないポイントとなります。特に、ポジティブな体験を増やすことが求められます。製品やサービスそのものの利用による体験も重要ですが、商品に問題が生じた際などの対応にも気を遣わなければいけません。顧客がクレームを入れたとしても、カスタマーサポートの質がよければ、顧客の企業に対する信頼度は逆に向上します。安心感なども生まれ、利用の継続や新たなユーザーの紹介などに繋がるでしょう。利用のしやすさや、Webサイトなどに記載されている説明のわかりやすさなどもポジティブな体験となり得ます。細かな点にも目を向け、常に改善や改良を重ねて良質な体験を積み上げてもらうことが、リテンション率を上げるための重要なポイントの一つとなっています。

8-3. ロイヤリティプログラムの導入

会員特典など既存のユーザーに対して特別なサービスを提供する「ロイヤリティプログラム」の導入も、リテンション率向上の施策の一つとなるでしょう。優良顧客への継続的なアプローチはとても重要です。一般ユーザーを育成して優良顧客やロイヤルカスタマーとなれば、さらに手厚いサービスにより、お互いになくてはならない存在とすることができます。限定のクーポンや先行販売、プレゼントなどの特典はロイヤリティプログラムの代表例です。適度に取り入れながら利用の継続、さらには高額プランなどへの移行も目指しましょう。

9. リテンション率向上施策を打つ際の注意点

リテンション率を向上させるためには、さまざま施策を打つ必要があります。しかし、フォローや情報提供、お知らせなどが過剰になってしまうと、逆効果となる恐れがあるので注意が必要です。企業に過剰に接触されることを嫌うユーザーも一定数存在します。商品の契約や購入、あるいは更新などを迫られている、営業されていると感じてしまうと気持ちが冷め、企業や商品から離れたり解約したりするなどの行動に出ることも考えられます。過剰接触とならないよう、ユーザーが求めていることを丁寧に探りながら的確にニーズを捉え、顧客満足度とリテンション率の向上を目指さなければいけません。

10. SaaS企業におけるリテンション率をKPIに置く場合の注意点

SaaS企業においては、大きな製品を一つ購入してもらうなどではなく、ユーザーに継続的に利用してもらわなければ安定した収益を残すことができません。そのためにKPIの一つとしてリテンション率を設定し、さまざまな施策やアプローチを試みる企業は多いでしょう。リテンション率をKPIとして設定すると、それを達成するために必要な取り組みが見えやすくなります。KPIから逆算する形で短期的な施策を考えて実行していくことで、確実に業績の向上へとつなげることができます。

10-1. 段階や商品などに合わせたKPIを設定する

最も重要な点は、商品やサービスのジャンルやプラン、さらには適切な期間に合わせてKPIを設定することです。SaaS企業であっても、立ち上げ初期の段階とある程度成熟してきた段階とでは求められるリテンション率などは異なります。そもそも早い段階で、過剰にリテンション率を気にする必要はありません。一方で、サービスの提供を始めてからある程度の期間が経過しているのであれば、ユーザーが利用を開始したタイミングなどを考慮し、利用期間ごとのリテンション率をKPIとして設定するなどの工夫が求められます。ユーザーの利用期間により離脱率/解約率も異なるはずです。すべてのユーザーを同様に扱うと正確な情報が得られず、KPIとしても不適切な設定となる恐れがあるので注意しましょう。

同様に、利用商品のジャンルや利用プランなどによっても顧客のアクションは変わります。段階や期間と同じく、ジャンルやプランごとにKPIを設定しなければいけません。安価なプランの方が継続しやすいとは限らないでしょう。高額プランの利用者は企業やサービスに対する信頼度が高かったり、リプレイスコストを考えると解約に至らない場合もあるので、リテンション率が高くなる可能性もあります。もちろん商品内容やカスタマーサービスの質などにもよりますが、リテンション率をKPIに取り入れる際には商品ごとに細かく設定することが重要です。KPIが細分化されることで、企業側が取り組むべき施策や顧客へのアプローチ方法が明確になるメリットも得られるでしょう。

11. まとめ

顧客の維持率や定着率を表すリテンション率は、顧客の企業に対する満足度や信頼度を示す指標でもあります。リテンション率の向上はコストカットや安定した収益の確保、ユーザーの育成など多くのメリットをもたらしてくれるでしょう。一方で、ユーザーへの過剰な接触は企業離れに繋がるリスクもあります。MAツールなどで情報収集・分析を徹底したうえで、適切なフォローやアプローチによりリテンション率を上げることが重要です。

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  • Marketics 編集部

    ユーザーデータ・広告データ・購買データなど、マーケティングプロセス上に存在する全てのビジネスデータを、 ノーコードで、一元的に取得・統合・活用・分析することが可能なSaaS型データマーケティングプラットフォーム「b→dash」が運営する マーケティングメディア「Marketics」の編集部。インタビュー記事やノウハウ記事を定期的に発信しています。

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