事業を運営する上で、様々な業務を効率的に処理し、限りあるリソースを最適に活用することはとても重要です。それはマーケティングの分野でも同様で、クリエイティブな部分にリソースを集中させることで、より大きな成果を生み出していくことができます。そのためには、ツールを活用していかに生産性を向上させるかが重要になります。この記事では、マーケティング業務を効率化させるツールであるMAについて、基本的な知識やメリット・デメリット、導入に関しての注意点を説明していきます。

 

1. MA(マーケティングオートメーション)って何?

現代においてビジネスを成功に導くためには、「マーケティング」は必要不可欠なものとなっています。マーケティングの目的については、経営学の祖ともいわれるピーター・ドラッカーが「販売を不要にすることである」と述べたことはよく知られています。この「販売」行為を不要にするには、「顧客が欲しい物を提供すればよい」とドラッカーは主張しています。つまり、顧客のニーズにあった商品やサービスを提供できれば、顧客の方から買いに来てくれるという考え方です。

では、顧客のニーズを捉えるにはどうすればよいのでしょうか。現代のマーケティングでは、データドリブンマーケティングと呼ばれる、顧客データを活用することでそのニーズを捕捉する手法が一般的になっています。データドリブンマーケティングでは、さまざまなツールを場面に応じて活用することになりますが、その際に使われる代表的なツールのひとつにMAツールがあります。

MAツールを活用すれば、顧客のニーズを捉え、適切なタイミングやコンテンツを顧客一人ひとりに届けることが可能になります。また、MAツールは顧客ニーズを捉えるのに役立てられるだけでなく、マーケティング活動に関わるさまざまな業務を自動化することも可能です。

つまり、MAは顧客のニーズを捉え、そのためのマーケティング活動を自動化することで効率性を高めながら顧客に商品を販売することを可能にするツールと言えます。

2. MAの基本的な機能

マーケティング活動の成果を高めるためには、全ての顧客に対して画一的な情報を提供するのではなく、様々な異なるニーズを持つ顧客一人ひとりに個別最適化したアプローチをする必要があります。きめ細やかな対応が必要という意味ではバリエーションが求められますが、作業自体は繰り返しなものも多いため、多くの作業がMAによって自動化することが可能です。ここでは、MAが保有する基本的な機能を見てみましょう。

2-1. 見込み顧客情報の統合管理

顧客に関する情報は様々なものがありますが、何も意識していなければバラバラなフォーマットやシステムで蓄積されてしまいます。BtoBであれば、名刺情報やWebサイトなどのフォーム入力情報、コールセンターの登録情報や営業のアプローチ結果、BtoCであれば、店舗やEC、アプリの会員データ、購買データ、サイトのアクセスログなどが挙げられます。これらのデータが組織内で統合されていないと、同じ顧客に違う担当者から何度もアプローチをしてしまったり、店舗ですでに購入した商品をECでおすすめしてしまったりという、無駄な工数や顧客満足度を下げることにつながってしまいます。

MAはこのような情報を一元管理することができます。連絡先などの顧客情報だけでなく、顧客情報を入手した経緯やWebサイトへの来歴、営業アプローチの結果などをデーターベース化するので、条件を指定した抽出にも対応できる動的な情報源が構築可能です。

2-2. 顧客とのコミュニケーション

MAでは、主にメールによって顧客とのコミュニケーションの密度を高める機能が実装されています。特定の条件に一致する対象を抜き出して送信する「セグメントメール配信機能」や、HTMLメールを簡単な操作で作成できる「HTMLメール作成機能」、送信したメールの開封/クリック成果を測定できる「分析機能」、メールからWebサイトへの流入とページ遷移履歴を追跡する「個人トラッキング機能」などが挙げられます。また、特定電子メール法によって定められている、ユーザーからの配信停止要請に対応することは信頼関係構築に不可欠ですが、そのための「オプトアウト管理機能」を持つMAツールもあります。

3. MAでできるようになること

MAツールを導入することで様々なことができるようになります。ここでは、BtoBとBtoC事業に分けて、一部をご紹介します。

3-1. BtoB事業の場合

BtoB事業においてMAツールを活用する場合、リード管理、スコアリング、メール配信などが実施可能になります。

リード管理

自社サイトでのコンバージョンやセミナー応募などの様々なチャネル経由で獲得した、リードと呼ばれる見込み顧客の情報を一元管理することができます。氏名やメールアドレス、年齢などの情報から顧客属性を分けて管理することもでき、セグメントを切って商品の案内を送ったりすることで、見込み顧客の購買意欲を促進することができます。

スコアリング

「メールを開封したら1点」、「自社サイトを閲覧したら3点」、「そこからさらに資料請求まで至ったら+10点」というように、見込み顧客の行動に応じてスコアをつけることが可能です。一定以上のスコアに至った見込み顧客は自社への関心が高いと判断され、営業担当者に引き渡す、といったオペレーションを行うことで、営業活動を効率化し顧客獲得の効率性を高めることも可能になります。

メール配信

顧客の属性情報や行動情報に基づいてセグメントしたグループに応じて、適切な内容、適切なタイミングでメールを配信することができます。メールを配信するだけではなく、メールの開封率やクリック率などの配信成果の数字を検証してPDCAを回すことも可能です。

3-2. BtoC事業の場合

BtoC事業においてMAツールを活用する場合、「メール」「LINE」「SMS」などを活用した顧客へのアプローチや、それらのチャネルを組み合わせるシナリオ配信などが実施可能になります。

メール配信

BtoB事業におけるメール配信機能と同じく、属性情報や行動情報に基づき顧客をセグメント化し、セグメントごとに適切なコンテンツを適切なタイミングでメールで配信することが可能です。

LINE配信

企業が保持しているLINE公式アカウントと友だちになっているアカウントに対して、販売促進のメッセージをLINE配信することが可能です。

SMS配信

SMS(Short Message Service)とは、顧客の携帯電話の番号を用いることで、携帯端末に短文の販売促進メッセージを配信することができます。

シナリオ配信

メール、LINE、SMSやPush通知など、顧客にアプローチするチャネルを組み合わせて適切なセグメント、タイミング、コンテンツでアプローチをすることが可能です。メールで販売促進メッセージを送ったが、そのメールを開封しなかった顧客に対してLINEで追客する、といったことが可能になります。

4. MAのメリットについて

MAツールを導入することで得られるメリットは大きく「KGI/KPIの改善」「生産性の向上」の2点が挙げられます。それぞれ具体的に説明していきます。

4-1. KGI/KPIの改善

先述したとおり、MAツールは顧客一人ひとりのニーズを捉えて、個別最適化したコミュニケーションを実現するためのツールです。例えば、「メールでキャンペーンを案内したが未開封の顧客に対して、LINEで再度キャンペーン情報を送付する」「20代の女性顧客のみにおすすめ商品を案内する」「直近10日以内にサイトに訪れたが資料請求に至らなかった見込み顧客に対して、ライトな事例コンテンツをメールで送付する」というように、顧客一人ひとりのニーズに合わせてアプローチが可能になるため、全顧客に対して同じ内容のメルマガを配信する場合と比較すると、反応率は圧倒的に変わります。そのため、メールの開封率、クリック率、CVRなどのKPIはもちろん、それによる売上や受注件数などのKGIの改善にも寄与します。

4-2. 生産性の向上

「4-1. KGI/KPIの改善」で説明したような、セグメントを細かく切ってコンテンツやチャネルを出し分ける/使い分ける施策を手動で行う場合、どれくらいの工数がかかるでしょうか。システムからセグメントを抽出して配信リストを作り、セグメント毎のメールを作成して、1通1通メールを作って配信し、数日後メールを開かなった人のセグメントを抽出して再度その人だけにLINEを送って…というように、膨大な工数が発生してしまいます。それ以外にも、手動での作業はオペレーションミスにも繋がります。

しかし、MAツールを導入すれば、これらの作業を自動化することが可能です。セグメント毎のメールの出し分けや、シナリオを事前に設定しておくことで条件に応じて自動的にメールやLINEなどを配信してくれるので、工数を大幅に削減し、生産性を向上させることが可能になります。

5. MAのデメリットについて

MA導入における良い点ばかりを解説してきましたが、導入する上でのデメリットや注意しておくべきことも多くあります。どんなに便利なツールであっても、そのツールの持つ特性を正しく理解して使わなければ効果は望めません。

5-1. スキルのある人的リソースが要求される

MAツールは導入さえすれば全ての作業を自動化してくれる魔法のツールではありません。あくまで「ツール」に過ぎないため、これを活かせる「使い手」が必要です。高度な機能を持っているMAツールには、相応の知識や技能をもった人的リソースが要求される場合があります。そのため、MAの導入と同時に、組織内にマーケティングの知識やスキルを持ったリソースを確保しておくことが重要です。外部のコンサルタント等にアウトソーシングすることも可能ですが、コストを考えると組織内の人材で運用するほうがベターでしょう。

5-2. 時間とコストがかかる

MAツールを導入して各部門の情報連携を構築し、マーケティング戦略や施策に活かして成果を生み出すまでには一定の時間が必要です。特に初めてMAツールを導入する場合には、導入時に想定外の作業が発生してしまったり、運用に乗っても様々な施策を試行錯誤する必要があり、成果が表れるまでに時間がかかります。MAツールが運用にのって成果が出始めるまで、イニシャルコストとともにランニングコストもかかるということを念頭において導入しないと「いつまでたってもメリットが感じられない」と評価されてしまう可能性があります。

 

6. MAを導入して失敗する原因

MAツールを導入したものの、成果が得られずに失敗するケースも非常に多くあります。ここでは主な原因を見ていきましょう。

6-1. 目的・目標が不明瞭

最初によくある失敗例として挙げられるものは、ただ漠然と「MAツールを入れればうまくいく」という思い込みから、ツールを導入すること自体を目的としてしまっているケースです。どのようなKGI/KPIを改善するのか、どの作業を効率化するのか、そのためにどうやってPDCAを回すべきかを明確にできていないと、ただ導入しただけでうまく活用できずに終わってしまいます。

MAツールを導入する前に、まず目的を明確にし、導入後に達成すべき数値目標を設定することが重要です。目標については、「CVRを〇%向上」というように、具体的な目標を置くことがよいでしょう。

6-2. 保有リード数が少ない

メールマーケティングやメルマガなどの施策を始める際にMAツールの導入を検討される企業はとても多いです。しかし、メールを配信しようとしても、そもそも自社で保有するリード/顧客の数が少なく、数百件しか送信することができなかったというケースが存在します。これでは、ツールを導入しても十分な効果を発揮することができず、多額のコストがかかってしまうだけとなってしまいます。もし、現在自社の保有リード/顧客数が少ないようであれば、MAツールを導入するのではなく、「イベントにより見込み顧客を獲得する」「広告出稿により新規顧客を増やす」など、リード/顧客数を増やすところから始めることをおすすめします。

6-3. 機能が複雑で使いこなせない

MAツールが日本で話題になった当初は外資系のツールが多く、非常に高機能で複雑なものが多かったですが、最近では国産のツールやライトに使えるものまで様々な種類のものが登場しています。ツールの数が増えた分、自社に合うツールを選定することは難しくなりつつありますが、自社に合わないツールを導入してしまうと当たり前ですが失敗に繋がる可能性は高まります。その一つに、身の丈に合わない高機能なツールを導入してしまうことが挙げられます。

高機能のツールを完璧に使いこなすことができるのは、何年もマーケティングに携わり十分なスキルが身についている担当者や、データやツールを触ったことがあるリテラシーの高い担当者くらいです。これからマーケティングに取り組み始める方や、専門の知識がない方にとっては、最低限の施策で精一杯になってしまい、十分に機能を使いこなすことができていない状態に陥ることが多いです。また、ツールベンダーによっては、それらのサポートに費用がかかることもあります。このような状態では、十分にMAツールを使いこなすことは難しいでしょう。

7. MAの導入失敗事例

続いて、MA導入において失敗してしまった具体的な事例を見ていきましょう。

A社:BtoB向け人事労務ソフト販売企業

BtoB企業向けに人事労務ソフトを販売しているA社は、経営陣がMAに過度な期待をして「他社でMAを導入して成果をあげている」という理由で、経営陣の意思決定のもと、高機能なMAツールを導入しました。しかし、マーケティング部には若手のメンバーしかおらず、マーケティング/データ/ツールに関するリテラシーがあるメンバーがいなかったので、高額なコストがかかり続けたまま、導入した高機能なツールを誰も使いこなすことができないという状況が続いてしまいました。

B社:ECでの単品通販企業

半年前に創業した、ECでの単品通販事業を運営するB社は、さらなる売上の向上を目指し、MAツールの導入を決めました。しかし、創業から半年しか経っていないこともあり、オンライン広告を中心に新規顧客獲得を進めていたものの、ツール導入時の顧客数はわずか1,000件ほど。MAツールを導入し、セグメントを細かく切った配信を試みましたが、月額20万円のコストに見合う成果は得られず、費用対効果が得られない状況が続き、数カ月後に解約することになりました。

8. MAの導入を検討する前に確認したい注意点

運用面での注意点とともに確認しておくべき重要な事項は「コンプライアンス(法令遵守)」に関わる問題です。MAを活用する際は個人情報を扱うことになるため、法令を遵守した情報の取り扱いが求められます。要点を確認しておきましょう。

8-1. 個人情報保護法

個人情報の適正な取り扱いを定めた法律です。2005年施行、2017年に改正され全事業者に適用されています。氏名、住所、生年月日、顔写真などをMAツールにインポートして業務に用いる場合は「個人情報取扱事業者」となり、利用目的の通知・公表の義務が発生します。また、Web行動解析機能利用の際には、クッキーの利用に関して明確に記述しておく必要があります。

8-2. 特定電子メール法

広告や宣伝目的のメールを規制する法律で、2002年に施行され、2008年に改正されています。MAツールで「特定電子メール」に該当するメールを配信するときには、事前の配信許可(オプトイン)を得ること、配信メールには配信解除(オプトアウト)が可能なこと、及びその方法の明記が求められます

9. MAの導入成功事例

MAツールは、その役割を正しく理解し適切な運用を行えば大きな効果が見込めます。ここでは、BtoB及びBtoCへの導入事例を紹介します。

9-1. BtoBの成功事例:LINE Pay 株式会社

見込み顧客となる中小規模の商業店舗を運営する事業者にむけて、メールと電話を連携させたMAツールを用いています。実績としては、加盟申込数の昨年対比が約140%まで伸びました。また、MAツールとSFAツールを連携させて、顧客へのきめ細かいフォローアップ体制の構築にも成功しています。

9-2. BtoCの成功事例:株式会社パソナ

見込み顧客としての求職者にむけて、長期的なアプローチのためにMAツールを活用して、仕事とのマッチングの可能性を高めています。実績としては、面談設定率は昨年対比150%、転職成功率は昨年対比170%を達成しています。

10. まとめ

MAは正しく導入すれば業務の効率化と成約率の向上につながります。しかし、そのためには導入前の運用体制についての検討が不可欠です。拙速に導入すれば、MAの機能を使いこなせずに失敗する場合も少なくありません。MA導入に際しては、目標の設定や人的リソースの確保、またコンプライアンスの徹底も含めて、事前の準備に充分な時間を掛けることをお勧めします。

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  • Marketics 編集部

    ユーザーデータ・広告データ・購買データなど、マーケティングプロセス上に存在する全てのビジネスデータを、 ノーコードで、一元的に取得・統合・活用・分析することが可能なSaaS型データマーケティングプラットフォーム「b→dash」が運営する マーケティングメディア「Marketics」の編集部。インタビュー記事やノウハウ記事を定期的に発信しています。

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