「少し気を抜くだけでディスラプトされかねない」
大手カード会社、クレディセゾン 取締役 デジタル事業部長 兼 デジタルマーケティング部長の磯部氏はこう語る。同社は独立系という特徴を活かし資本系列や業種の枠に縛られることなく、「サービス先端企業」を経営理念に掲げ、多様な提携パートナーとビジネスを展開している。また、公表している経営戦略にも「データ活用」を明確に打ち出し、カード事業だけに依存しない経営の多角化・グローバル化を目指すチャレンジングなファイナンスカンパニーである印象だ。そんな同社のデータ活用を前提とした構想についてお伺いした。

まずは磯部さんの経歴を教えてください。

私は、1992年にクレディセゾンに入社しました。1年目は現場勤務で、渋谷の百貨店の店頭に立ちカード入会を募集する業務を行っていました。2年目からは本部に配属され、カード会員のデータを元に、カードの利用分析、カードの限度額増枠の企画やプランを作ることなどをしていました。1993年のことなので、周りの会社に比べると、かなり早い時期からデータ分析をやり始めた印象がありますね。また、提携カード事業やアメリカン・エキスプレスとのコブランドカードをやり始めるころには、その提携交渉や企画にも携わっていました。

その後は銀行や百貨店・コンビニとの合弁会社へ3回ほど出向し、サービス開発や企業再生支援、マーケティングなど多岐にわたる仕事に従事しました。

若いころから、かなり経営に近い場所でも仕事を行っていたのですね。

会社の経営だけではなく、様々なことを経験しました。3社目に出向した合弁会社では、人事から債権回収、最後には社長までやりました。それらを経験したのが20代から30代後半ですね。また、インターネットビジネスに力を入れるべきだということを経営企画の視点から思っていて、そのような部門を作るべきだということを思っていました。そこで、2011年にネット事業部ができたと同時に自分自身も配属され、今、担当しているデジタル事業部とあわせて8年目になります。

デジタル事業部の役割を教えてください。

デジタル事業部の役割は大きく分けると3つあります。

1つ目は、稼働効率の良いカードを、いかにたくさん募集できるかという、カード自体のマーケティングです。つまり、クレディセゾンのカードを使って買い物をしてもらう機会を増やすということですね。こちらは皆さんが一番イメージしやすいものだと思います。

2つ目はカードが選ばれる理由の1つでもある、ポイントの価値を高めていくことです。私たちのカードには「永久不滅ポイント」というポイントに有効期限がなく、様々な商品と交換できる仕組みがあるのですが、その永久不滅ポイントのブランディングを行いポイントの価値を高める努力を行っています。

最後の3つ目は、会員基盤や蓄積された会員データを用いて、新規事業を創り、新たな収益源を創出することです。カードや当社のサービスを使っていただいたときに蓄積されたデータを統合・分析し、新たなビジネスを創っていきます。

非常に幅広い役割を担っているのですね。これらの施策を行うにあたり、ネット会員のお客様の数が非常に重要になってくると思います。ネット会員の数を増やすために工夫されていることはありますか?

ネット会員の数を増やす原動力になっているのは、店頭でクレジットカードの新規会員受付をしている現場の力です。店頭でのカード募集時に、同時にネット会員にも登録頂けるよう、現場の社員がお客様にコミュニケーションをとっています。

私たちはこれを「同時登録率」と呼んでいるのですが、その比率が毎年上がっており、直近では新規カード発行者数のうち約75%の人がネット会員にも登録頂いています。これは他のカード会社の割合に比べるとかなり高い数字です。ネット会員数を増やす工夫としては、現場のKPIの1つに同時登録率を設定することです。KPIを設定することで、積極的に業務に取り組んでもらっています。

続いてデジタル事業部の1つ目の役割であった、カード自体のマーケティングは何が課題としては何がありますか?

クレジットカード事業というのはそもそも、カードに入会いただいたお客様とその後コミュニケーションを多くとることができませんでした。一度契約してしまうと、フェイスtoフェイスでお客様と会話する機会がほぼありません。しかし、ITが発達することでお客様についての情報が集められるようになり、お客様と徐々にダイレクトでのコミュニケーションが出来るようになってきました。

私達はカード会社なので、膨大な種類のデータを持っています。具体的には属性データやカードの利用履歴データがあります。他には、コールセンターにかかる電話の履歴データやWebからのお問い合わせデータ、オーソリのデータなどです。

また、カードビジネス以外でいくと、先ほど述べた永久不滅ポイントのアフィリエイトモールのデータや、7、8年当社が行っているリサーチのデータもあります。このようにたくさんのデータを持っているからこそ、私たちはお客様とタイムリーなコミュニケーションをとる必要があります。

カード会社がお客様とタイムリーなコミュニケーションをとるには、どのような施策が必要ですか?

今考えている施策は2つあります。

1つ目は、カードを契約してすぐのお客様へのコミュニケーションの改善です。カードを契約したてのお客様に対して満足度を向上させていきたいと考えています。
お客様はそれぞれ、カードを契約した場所も、動機も、種類も違います。そういったお客様に対して、マス的なアプローチではなく、双方向でのアプローチを目指しています。

これまでは一方通行でかつ、会社都合のタイミングだけだったので、マーケティングオートメーションツールを導入し的確にコミュニケーションをしようと考えています。そうすることで、カードやポイントの使い方から、お店や商品の情報までをお届けし、お客様それぞれにあった形で有益な情報をご案内しようと考えています。

2つ目は、アプリや決済サービスと連携して、シームレスなカード利用を促進することによるCRMです。今ではスマホが普及し、スマホアプリの中に決済の役割がどんどん入ってくるようになりました。タイムリーに情報配信し、新しいペイメント手法と連携することで、アプリを通して新しい買い物体験ができるようになります。

そんな中で、決済とそこに紐づくデータを上手く結び付け、シームレスにカード利用をできるようにすることは、私たちカード会社の使命だと思っているのです。異業種や外資系の企業も参入してきていますが、何とか私たちのようなプレイヤーも役割を果たしたいと考えています。

その他にどのようなことをクレディセゾンとしてやっていきたいとお考えですか?

こちらも今やろうとしている新しい取り組みは2つあります。

1つ目に、データを広告として活用することです。近年、企業が、アドフラウドやブランド棄損などによって、web広告に対する不信感を強めています。web広告におけるデータの曖昧さや不確かさが原因となっており、広告代理店やメディア、アドテク企業に対して、より一層の透明性を求めているのです。

それに対して、僕たちはカード発行時に審査をしているので、完全な事実データです。この事実データというのは、先ほどのアドフラウドとは真逆であり、アドテク業界や広告業界でとても価値のあるものだと考えています。これらのデータを使って新たな事業に活用するというチャレンジですね。

2つ目は、pointの価値を高めることです。その1つがポイントで長期投資を体験できるという取り組みです。通常はポイントがたまると、金券類やモノアイテムなどに交換すると思いますが、クレディセゾンでは実際の投資信託と連携させてポイントを運用することができるのです。投資教育になりますし、本格的にやるにはまだ抵抗があるという方にも、そこで経験していただいて、投資を身近に感じてもらいたいと思います。

また、これは有効期限のあるポイントではやることができません。私たちの場合文字通り「永久不滅」なので実現可能という点でも、弊社ならではの取り組みではないかと思います。

新しい取り組みをどんどん取り入れているのがとても印象的ですね。クレディセゾンはデータ活用に対して、どうしてこれほどまでに積極的なのですか?

当社の経営理念が「サービス先端企業」であり、お客様に有益なことはどんどんリスクをとって始めようという雰囲気があるからです。

例えば、タクシーやスーパーでカードを利用するときに、今は当たり前となっている「サインレス」ですが、80~90年代にかけてはクレジットカード会社はサインすることを啓蒙する立場でした。しかし、買い物時のサインはやはり手間だと考えていたので、「それならばなくしてしまえ」とサインレスを最初に始めたのが弊社でした。

最近ではコーポレートベンチャー・キャピタルのセゾン・ベンチャーズを国内カード会社の中で初めて設立したり、オムニバスというアドテクの会社を完全子会社化したり、今までの延長線上ではないチャレンジを続けています。「挑戦のない所にリターンはない」という考えが浸透しています。

最後に磯部さんから、これからデータマーケティングをやっていきたいと考えている企業さんにアドバイスをお願いします。

シンプルですが「危機感を持って仕事をしよう」ということだと思います。私たち自身、冒頭でお話した通り、様々なテクノロジーが発展することにより異業種や外資企業のファイナンス業への参入が相次ぎディスラプトされる側になりかねません。

一方で、いろいろなベンチャーがいる中で、上手くシナジーを発揮することができればイノベーションが生まれる可能性もあります。そういう状況に身を置き、少し気を抜くだけで足元をすくわれかねないことを考えると、とても危機感を感じるのです。それは私たちだけではなく、全てのカード会社、そして、全ての日本企業が感じなければいけないことだと思っています。

しかし、悲観的なことばかりでもありません。日本人による会社だからこその良さがあると思うからです。対ユーザーで言うと、きめ細やかな対応ができますし、オフラインの接客は最高に良いと思っています。それらをオンラインのテクノロジーと組み合わせることで、日本の会社こそのおもてなし、つまり、「新しいリテールの買い物体験」を届けられるのではないでしょうか?それは、Amazon流のハイテクとは違った形で良さを出していけると思います。

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弊社が提供している マーケティングツール『b→dash』 は、マーケティングプロセス上に 存在する全てのビジネスデータを、ノーコードで、一元的に取得・統合・活用・分析することが可能なSaaS型データマーケティングプラットフォームであり、BtoC業界を中心に、様々な業種・業態のお客様にご導入頂いております。

Editor Profile

  • 福井 和典

    株式会社データX マーケティング管掌執行役員

    日本IBMにてシステムエンジニア、GREEにてCRM領域のオペレーション企画、PwCでの業務コンサルタントとしての経験を経て、2016年よりデータXに入社。データX入社後は、カスタマーサクセス部門に在籍し、小売/金融/アパレル/ECなど幅広い業種に対するb→dash導入支援を統括。
    その後は、主にb→dashのマーケティング/広報/PR活動や事業企画に従事。

Speaker Profile

  • 磯部 泰之

    クレディセゾン

    取締役 デジタル事業部長

    デジタルマーケティング部長

    1992年株式会社クレディセゾンに新卒として入社。営業企画やDBマーケティング推進業務に従事後、銀行・百貨店・コンビニ等との合弁会社へ出向。その後経営企画や広告宣伝部門を経て、2011年より現職。データビジネス事業企画、ネットビジネスでの新規事業開発を担当。また、2015年6月VBとの事業シナジーを目的に設立した「セゾン・ベンチャーズ」にて取締役を兼任。 2017年3月 ネット事業部長(現デジタル事業部)就任。

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