前編では、LIFULLにおけるデータ活用の考え方や、全社で統合的なデータマネジメントを進めるうえでの課題についてお話頂いた。後編では、実際に施策を設計する際のプロセスや、マーケターの育成についてお話を伺います。

オンライン・オフラインとチャネルが多様化している中で、カスタマージャーニーをどのように設計されているか教えていただいてもよろしいでしょうか?

過去に一度、深層心理調査というリサーチをもとに、綿密にカスタマージャーニーを設計したこともありますが、カスタマージャーニーを厳密に規定することはできませんでした。先ほど申し上げた通り、例えば「家を買う」までの顧客の行動に一連の流れが存在することは確かなのですが、各プロセスにおける顧客のニーズや課題にはばらつきがあり、厳密にパターン化することができません。

だから、カスタマージャーニーは、「家を買う」という顧客行動の出口から逆算して、動機を細かく分類して設計するのではなく、定性調査から得られた一つ一つの事象に基づいて設計しています。実際にその方が効果は大きいと感じています。

「こういうことに悩んでいる」「こういうものが欲しい」などの、実際に拾ったユーザーの声を追って、最終的にそのユーザーのニーズを自分たちのサービスや製品で解決できているか、満たせるかを検証しています。声をたくさん拾えばそれだけ顧客行動のパターンも増えるため、そのようにして顧客のシナリオを増やしています。カスタマージャーニーを考えることは確かに重要ですが、あまり規定しすぎずに、日々変化していく顧客の行動や心に関心を向けて、柔軟に対応していく方が重要だと考えています。

ユーザーのシナリオが多様化していくなか、MAのようなツールをどのように活用しているのか教えてください。

MAのようなツールは、当初の目的を見失ってしまい、導入すること自体が目的化してしまうことがよく起こり得ます。ツールを用いると、ユーザーシナリオを際限なく細分化することができるので、作業をしているうちに作業自体が目的化してしまい、結局、全体を通じて何をしたいのか、ユーザーにどんな価値を提供したいのかという目的を見失ってしまうことが起こります。だからこそ、ツールを使う際は、まずツールを使う目的を明確にし、それを組織全体に共有することを心がけています。

先ほどお話しした引越しを例に挙げれば、「賃貸物件を借りたユーザーに、引越しの際にもLIFULLのサービスを用いてもらうこと」が目的になります。

現状、賃貸のサービスを利用したユーザーが、引越しのサービスの存在を知らないため、LIFULLのサービスを使わずに引越しを行ってしまっています。LIFULLの引越しサービスの存在を知っていればそちらを使うはずなので、まずは存在を知ってもらうことが、ツール活用により達成したい要件になります。

目的をそこまでブレイクダウンできたら、MAの利用目的も、「コンテンツを配信するタイミングや量などを、サービスの存在を知ってもらえるように調節する」と明確になります。

最後に、社内のマーケター教育についてお伺いしたいです。まず、マーケターに必要な能力を教えてください。

まず前提として、LIFULLには、「経営は、ビジネスとクリエイティブとテクノロジーの3つの掛け合わせ」という考え方があります。よくマーケティングというと、テクノロジーが大事だとか、いやクリエイティブに力を入れるべきだとか、3つの要素のうち一つにフォーカスをされることが多いですが、そうではなく全て大事だということです。

そのためLIFULLのマーケターには、この三つの特徴を理解し、ビジネスの観点ではこう、テクノロジーの観点ではこうといったように、それぞれの要素を、ユーザーの声に合わせた形で表現することが求められます。つまりマーケターに必要な能力とは、ユーザーを理解した上で、そのニーズに合わせて、クリエイティブとテクノロジーとビジネスの掛け合わせをプロデュースする能力だと考えています。

今お話しされていたことを前提に、マーケターを育成していくためには、まず何から始めるべきなのでしょうか?

先程述べたマーケターの能力は、サービスをプロデュースする能力と、ユーザーを理解する能力の大きく二つに分けられます。マーケターとして備えるべき基礎能力という意味で、我々は「OSスキル」と呼んでいます。それを身に付けさせることが、育成の第一歩です。このスキルさえ身に付けてしまえば、マーケティングの潮流がどんなものになっても、顧客のことを考えて、自分たちが顧客にどういう価値を提供できるかをその都度考えられるようになります。

よく言われるような、「誰に・何を・どのように」を考える力もそうですが、それが全てではありません。マーケターには、PDCAそれぞれの観点から必要な能力が存在します。「誰に・何を・どのように」を考える力、施策がどれくらい進んでいるかを管理する力、ログを解析して数字から意味を引き出せる力です。それらを全てひっくるめて「OSスキル」と定義しています。

今までお話ししていただいたことをもし全て実現できたら良い人材が育ちますね。そのための育成体制は整備されているのでしょうか?

先ほど、「経営は、ビジネスとテクノロジーとクリエイティブの掛け合わせ」という話をしましたが、マーケターは基本的に、ディレクター、デザイナー、エンジニアが揃った横断部門に配属させるようにしています。

それぞれの要素を学び、いかに組み合わせていくかを考えさせることで、先ほどお話ししたマーケターとしての能力を身に付けさせます。実際に私も育成に関わっており、各部門に所属するマーケターの目標設定や課題把握を、部門長と共にサポートしています。

データを扱いながらプロデューサースキルを伸ばすことは容易ではないと思います。その中で、テクノロジーを活用できるマーケターになるためには、何が大事になるのでしょうか?

データマーケティングの世界は、体系的に整っていて正攻法がある世界ではありません。正解がない世界ということです。しかし見方を変えれば、誰も正解を知らないので、挑戦しやすい世界であるとも言えます。

そのような環境の中でトライアンドエラーを重ねて、成功と失敗をいかに経験できるかが大切だと思います。体系化された知識が少ないので、知識は自分で学んで蓄えていくしかありません。つまり、成功と失敗をたくさん積みながら、自分の中で物事を体系立てて考えることが、マーケターにとっては大事になってきます。

正解のない世界があったときに、きっと多くの企業が、「わからないからやらない」という発想になると思うのですが、御社はなぜ、そういった世界に飛び込むという選択をできたのでしょうか?そういう文化があるということでしょうか?

「目指すビジョンを実現するためには既知の手段だけにとらわれない」という文化は存在します。新しいものが出たときに、一早く取り込んで活用できないかを考えるのも、その文化に基づいているからです。もちろん闇雲に新しいことに手を出しているわけではありませんが、新しいことに積極的に挑戦できる風土ではあると思います。その風土がリスクをとることを可能にしていると思います。

最後に、菅野さんが考える「未来のCMOに必要なもの」を一言でお願いします!

トータルプロデュースできる能力です。マーケティング戦略は会社によって異なりますが、マーケティングの手段は共通している部分があります。会社がビジョンを実現するために、進むべき道を示して、その道をプロデュースしていく能力と気概が必要だと思います。

弊社が提供している マーケティングツール『b→dash』 は、マーケティングプロセス上に 存在する全てのビジネスデータを、ノーコードで、一元的に取得・統合・活用・分析することが可能なSaaS型データマーケティングプラットフォームであり、BtoC業界を中心に、様々な業種・業態のお客様にご導入頂いております。

Editor Profile

  • 福井 和典

    株式会社データX マーケティング管掌執行役員

    日本IBMにてシステムエンジニア、GREEにてCRM領域のオペレーション企画、PwCでの業務コンサルタントとしての経験を経て、2016年よりデータXに入社。データX入社後は、カスタマーサクセス部門に在籍し、小売/金融/アパレル/ECなど幅広い業種に対するb→dash導入支援を統括。
    その後は、主にb→dashのマーケティング/広報/PR活動や事業企画に従事。

Speaker Profile

  • 菅野 勇太

    LIFULL

    マーケティング戦略部 MAユニット長

    2008年新卒で入社し10年間同社のマーケティングに携わっている。その間、国内でいち早くマーケティングオートメーションの導入を進めたり、AIの活用を推進するなどテクノロジーを積極的に活用したマーケティングを実施している。また社内でのマーケティング人材のスキルセットの整理などマネジメント領域においても活躍中。

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