前編では中澤氏のこれまでのご経歴や、マーケティングのKPIと経営活動を結びつける方法を伺いました。後編では“データ”を軸にした、これからIDOMが挑戦するマーケティングの未来についてお話を伺います。

これまでIDOMではどのようなことを実施してきたのでしょうか。

IDOMは入社してまだ2年ですが、もともと“IDOMのマーケティングを変革する”というミッションで入社しました。ただ私の専門はデジタルマーケティングなので、最初の1年間はデジタルマーケティングを担当させていただいて、SEOの改革をしたり、デジタルマーケティングのレベルを引き上げるようなことをしてきました。

一方で、入社して最も難しいと思ったのが、IDOMは車という商材を扱っているので、約7年に1回しか買い替えがないのでCRMが機能しないんです。検討期間が長く、かつ高額商品なのでBtoB的なアプローチが必要になるので、マーケティングの生産性を上げることが重要なんです。

前提として、マーケティングの定義をプロモーションだけではなくお客さんからお金をいただくところまでとしたときに、営業まで関わる広義なマーケティングの生産性の向上は今も注力しています。その取り組みの中で生まれたものの一つが「クルマコネクト」ですし、他にも店頭に商談に来ていただいたお客さんの後追いをデジタルと融合しようとしています。

そもそもIDOMのマーケティングはオムニチャネルが前提なので、マーケティング活動全てがオムニチャネルと言えます。そのため、どうやってマーケティングの生産性を向上させるかに今は注力しています。

先ほどお話の中で出てきた「クルマコネクト」について具体的にお伺いできますでしょうか。

生産性を向上するためにするべきことは大きく2点あります。

1つは、今のマーケティングはCRMではなくアクイジションが主流なのでフロー型になりやすいため、ストック型に切り替えていく取り組みをしています。

認知したお客さんをそのまま店舗に流すのではなく、お客さんが検討している期間に並走するという形で、この思想の一つとして「クルマコネクト」があります。生産性を高めるうえで最も重要なのは、店頭での受注確率を高めることです。最も人的コストがかかるのは店頭ですから。通常、店舗接客にかかる時間は、長いと2時間くらいかかるので、受注確率を上げることが「クルマコネクト」の目的の一つです。

「クルマコネクト」が何をやっているかというと、リーチしたお客さんとの関わり方をフロー型からストック型に変えますということですね。もう1つはストック型の中で検討期間にお客さんと並走する中で、最終的に店頭で商談をする際の受注確率を上げるという事です。クルマコネクトはこの2点を実現するためのサービスとなっています。

やっていることはとてもシンプルで、お客さんからの相談や悩みを聞きながら車を提案しています。クルマコネクトはLINEのようなチャットサービスなので、ゆっくり考えたい人は三日に一回返信をしたり、急いでいる人は一日に何回も返信したりというように、お客さんの検討に合わせながら、お客さんのペースでコミュニケーションができるので非常に心地がいいわけです。

最初は何が欲しいかわからないところからお話をしていく中で、実は欲しかったのは軽自動車ではなくて、SUVだったというように、イメージが固まってきたタイミングでもう一度店頭で話を聞いてみることを提案すると、店頭での話がスムーズなんです。当然やり取りの中身は店員にも共有するので、お客さんの検討状況を把握した上で商談に臨めます。そのため受注率は通常に比べて2~3倍高く、大きな成果を上げています。

チャットに関してはAIを導入していたりするのでしょうか。

AIに関してはいろいろと検討もしましたが、現状は使っていないですね。泥臭いですが今は完全に人力でやっています。最近流行りのチャットボットは検索アシストかFAQがメインですが、我々のクルマコネクトは営業なので、交渉や共感が出来るAIが必要ですが、現時点では存在しません。特に、交渉が出来るチャットボットはいまだ開発されておらず、しばらくは人間でないと不可能な領域だと思っています。

AI化以外に、クルマコネクトにおける今後の方向性は何か考えていらっしゃいますか?

クルマコネクトに関しては、NORELなど他の様々な事業も含めて、最終的に車に関するお客さんとの接点や相互窓口というような位置づけにしていきたいと思っています。

技術的な部分に関しては、チャットボットにAIを活用するのは無理だと思いますが、優良顧客の判別ではAIの応用が可能だと思っています。

我々は「ステージ理論」と呼んでいるんですが、お客さんがどの検討ステージにいるのかを5段階を分けていて、そのステージの判別をAIで実現する研究をしています。将来的にはクルマコネクトだけでなく、その人の検討状況や検討度合い、本気度がどの段階にあるのかを、発言や発話をベースに判別できれば、様々なところに活用できる技術になっていくと考えています。

AIの活用にはデータの存在が必要不可欠だと思いますが、どのようなデータを取得されているのですか?

データマーケティングの観点だと、行動データとコミュニケーションデータの2つが重要になりますが、現状コミュニケーションデータを取るのは難しいので主に行動データが軸になっています。

顧客行動に関しては各種KPIを定義して、かなり細かくコミュニケーションを分解して、細かいデータを取得しています。それぞれのKPIがどんなアクションによってどのように変化したかを計測して、週2でPDCAを回しています。一部コミュニケーションの発話の部分もKPIに組み込まれています。

先ほどCRM的な考え方は商材的に難しいとおっしゃっていましたが、1度購入された方とのコミュニケーションはどのようにされているのですか?

我々としてはそこが一番の課題だと思っていて、やらなければいけないと思う反面、通常のECと違って7年~10年の購入サイクルなのでマーケティングでのCRMは難しいんです。購入直後のお客さんにメールやDMを送っても意味がないですから。そうではなくて、物理的なサービス装置を用意して初めてCRMが機能するので、そこまで含めた施策や戦略を考えています。

例えばCtoCのサービスのように、お客さんが購入した後のサービスを提供することで収益を得ながら関係性も構築するということですか?

そういうことです。所詮、マーケティングってお客さんにサービスや商品を使う必然性を気づいてもらったり、繋ぐためのコミュニケーション手段でしかないので、そもそものサービスがあることが重要です。

IDOMとしては今後どのような展開を考えているのでしょうか?

今期のマーケティングに関しては、“営業の科学化”に注力しています。マーケティングをどの範囲まで定義するかにもよりますが、私の中ではマーケティング=売るための仕組みだと思っているので、サービスもあれば、プロモーションや営業も含まれるわけです。中でも一番難しいのが営業領域で、いかに科学的なPDCAを実現できるかが我々のような営業会社にとっては最後の砦になります。営業をAIに置き換えることは考えていませんが、営業をPDCAすることは可能だと思っています。

実はクルマコネクトを通してこの発想に至ったんですが、クルマコネクトを立ち上げてから約1年半経ちましたが、最初の8か月は何をやっても数字が上がらず、実はあと少しで会社から見放されて閉鎖するところでした。当初は、営業だから売れる営業マンを揃えれば売れるだろうと思っていたので、社員それぞれのやり方に任せていました。

しかし全く成果が出なかったので、独自の営業をやめさせて、画一的なコミュニケーションをスクリプトレベルで細かく設計しました。さらに、A/Bテストをすることでコミュニケーションも改善され、ナレッジも溜まっていったので、組織的なPDCAが回るようになりました。

すると、1、2ヶ月で営業のKPIが約7倍になったんです。この経験を通して、営業は科学的にPDCAを回す必要があり、そのためにはコミュニケーションを定義して、A/Bテストができる状態にしておくことの重要性を学びました。コミュニケーションの組織化・可視化と、A/Bテストの3点で回す必要があるんです。

営業の型化、PDCA化は相当な反発があったかと思いますが。

当然ありました。ただ、営業のKPIがなかなか上がらないのは、個々の能力とPDCAに任せられているからで、組織的なPDCAが回っていないからなんです。今回の件から、組織的なPDCAを回した方が良いということがわかったので、最終的にはその領域に着手する必要があると思いますし、逆に実現可能だとも思っています。

マーケティングにおいて体制面でなにか大切にされていることはありますか?

マーケティングの組織はどうしてもプロフェッショナルな個の集まりになってしまうので、共通の価値観は非常に大事だと思います。逆にそれ以外で同じベクトルに向かわせるのは難しいですからね。

IDOMの場合、どんな価値観を持っているのでしょうか?

まだ上手く明文化しきれていませんが、現在、マーケティング部の中では、店頭でいうと「来店価値」のような、お客さんにとっての本質的な価値の重要性について議論しています。本質的な価値や来店価値がそもそも何なのかという、IDOMの店頭に来る理由・サービスを使う理由を突き詰めていく必要があると思いますし、マーケティングにおいても、いかにお客さんにそれを理解してもらうかが重要です。

コミュニケーションデータや行動データを取得していると思いますが、どの部署がデータを扱っているのでしょうか?

領域によりますね。環境が整っている領域に関してはマーケターが自分でデータを吸い上げていますし、環境が整っていない領域に関してはシステム担当にデータを抽出してもらっていたりと様々です。基本的にIDOMは物事をデータで見る数字文化が根付いています。なので、データに知見のある社員は多いですね。

これからの時代において、マーケターが持っておくべきスキルや考え方があれば教えてください!

想像力ではないでしょうか。想像力というよりは妄想力と言った方が良いかもしれませんね。格好良く言えばインサイトと言うのかもしれませんが、その瞬間、その瞬間でのお客さんの映像をどれだけ思い浮かべられるかが重要です。さらに我々がアクションを仕掛けたときに、どんな表情をするのか、どう動くのか、どう考えるのかをどれだけ妄想できるかが、とても重要になってくると思います。

そのお話を聞くと、尚更店舗の経験が活きてきそうですね。

その通りです。本当は店舗の経験があると1番良いんですが、最近、お客さんのWeb上での行動を録画・再生できるサービスも出てきているので、これらを使うのも一つの手ではないでしょうか。私も実際に使っていますが、お客さんの気持ちがとてもわかります。0から考えるのは難しいので、このようなお客さんの行動や考えを妄想するのをサポートするツールは今後かなり重要になると思います。テクノロジーは人間を代替するものではなく、あくまで人間をサポートする形で発展・活用されていくのではないでしょうか。

最後に、中澤さんが考える未来のCMOに必要なものを一言でお願いします!

経営とマーケティングをつなぐ役割と、その手段を持つことではないでしょうか。具体的な手段に関しては、先ほどお伝えした、経営の指標とマーケティングの指標を連結させるための経営管理的なテクニックだと思います。

「マーケターは経営者視点を持つべき」とか、「マーケティングが経営をサポートしないといけない」と良く言われますが、一番の問題はその具体的な“手段”なんです。私はその手段というのは、数字しかないと思っています。いくら話し合っても、毎日一緒に行動しても、会社は最終的に数字で判断するので、マーケティング活動と数字をしっかりリンクさせるためのテクニックと手段を持っている必要があります。

弊社が提供している マーケティングツール『b→dash』 は、マーケティングプロセス上に 存在する全てのビジネスデータを、ノーコードで、一元的に取得・統合・活用・分析することが可能なSaaS型データマーケティングプラットフォームであり、BtoC業界を中心に、様々な業種・業態のお客様にご導入頂いております。

Editor Profile

  • 福井 和典

    株式会社データX マーケティング管掌執行役員

    日本IBMにてシステムエンジニア、GREEにてCRM領域のオペレーション企画、PwCでの業務コンサルタントとしての経験を経て、2016年よりデータXに入社。データX入社後は、カスタマーサクセス部門に在籍し、小売/金融/アパレル/ECなど幅広い業種に対するb→dash導入支援を統括。
    その後は、主にb→dashのマーケティング/広報/PR活動や事業企画に従事。

Speaker Profile

  • 中澤 伸也

    IDOM

    デジタルマーケティングセクション セクションリーダー

    家電量販店ソフマップに入社後、現場経験を積んだ後に2000年にECリニューアルプロジェクトに参画、「日経EC大賞グランプリ」を獲得。2006年にゴルフダイジェスト・オンラインに入社、マーケティング部責任者として全体を統括。2013年にエクスぺリアンジャパンに入社しCMOの経験を経て、現在IDOM(旧:ガリバーインターナショナル)にてマーケティングチームを率いる。

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