幅広い層から圧倒的な支持を集める日本最大級のセレクトショップ、BEAMS。多品種少量在庫のビジネスモデルにおけるオムニチャネルの実現に向け、業界に先駆けて店舗とEC在庫の一元化を推進。更には、ECサイトと公式サイトを統合し、顧客のアクティブ化を導くだけでなく、サイトのメディア化や販売スタッフによるインフルエンサー施策等、ブランドと顧客がより良い関係を作れる多様な施策を仕掛けている同社。そんな最先端の顧客体験を追及し続けるBEAMSがどのようにデジタルシフトを進めていったのか、入社以来、デジタルシフトを推進してきた矢嶋氏に話を伺った。
まずは簡単に矢嶋さんのキャリアについて教えて頂けますでしょうか。
大学生の時にBEAMSでアルバイトをしていたのがきっかけでそのまま入社し、20年間BEAMS一筋です。正社員として入社後は銀座店で3年間働きましたが、ちょうどその頃、BEAMS CLUBという会員サービスが新しく始まりました。
当時は、顧客管理カードや入会申込書も手書きで記入していたため、情報の精度が今ほど高くありませんでした。私自身はその頃から、「これからの時代は全てデータ化される」、「デジタルの時代が来る」と考えており、その話を社内で訴え続けていると後方支援のような部署に移ることになりました。
なぜ当時からデジタルの時代が来ると思っていたのでしょうか。
これは学生時代の別のアルバイト経験がベースになりますが、アメリカでは既にマーケティング理論が進んでいることを身をもって知りまして、ロイヤルカスタマーの重要性やファン理論などに興味を持っていました。
入社後の2000年代前半はガラケーの全盛時代でしたが、インターネットの普及が加速することで、いずれアメリカで言われているような1to1の関係性が重要になると思っていましたし、漠然とそれがデジタルだと捉えていました。当時はmixiやブログが流行りはじめていて、私もブロガーのオフ会などに参加していましたが、そういった場で学んだのもきっかけです。
現在はECのご担当ですが、EC担当に移られたのはいつ頃なのでしょうか。
ECの担当に移ったのは、2005年です。なので、13年間ずっとECを担当しています。ECに移ったきっかけは、デジタルの時代が来ると考えていたちょうどその頃、上長から「ZOZOTOWNって知っているか?」と聞かれたことでした。「知っています。」と答えると、すぐに辞令が下り、ZOZOTOWN出店を一人で行うことになりました。
はじめは何も情報がない中、手探りでZOZOTOWNを運営していましたが、とにかく出店直後から驚くような売上を作ることができ、毎日社内外の調整に奔走していました。2005年9月にメンズのショップをオープンしまして、その2ヶ月後にはレディースのショップ、翌年の4月にはBEAMS Tの単独店も立ち上げ、本当にEC漬けの毎日でした。4月の時点では、私の他にアルバイト3名まで増えましたが、毎月億単位の売上を獲得するなど驚異的な成長率でした。
また、ZOZOの展開に伴って、他のECモールへの出店も同時進行していました。当時は、「インターネットで洋服は売れない」というのが当たり前の時代でしたが、やり方次第で変えられる、とわかったので、色々試行錯誤しながら取り組んでいました。時代の流れもあり、ECの売上が急速に成長していたので、会社からももっと売上を上げるように期待されていましたが、社内ではまだまだ新設部署のECは常に在庫不足の問題に悩んでいました。
ただ、最初は半信半疑ながらも在庫を預けてもらい、その後しっかりとECで実績を作れば、商品の仕入れ部門とも理解が深まります。そうすると、次のシーズンは最初からEC用の在庫が配分される、という現場ならではのすり合わせを各部署と重ねながら、地道に在庫確保に奔走したのもいい思い出です。
ただし、本来やりたかったマーケティング目線の取り組みにおいて、売上獲得以外のECの意味については見いだせていませんでした。というのも、どういったお客様が何を買ったのかという情報は、各ECモールが持っていても弊社には残りません。デジタルでお客様の購買情報を分析し、より良いサービスを提供しようと思っても、手元にデータがなかったんです。そのような思いから、自社ECサイトを立ち上げることに決めました。
自社ECサイトの構築を社内に説得するためには、どのように承認を取られていったのでしょうか。
当時、社内で承認を得るために、3つのメリットを訴求しました。
一つ目は、当たり前ですがECが新たな販売チャネルになるということ。レーベルごとに販売チャネルが一つ増えることになるので、一店舗増えるのと同等の売上効果が得られます。
二つ目は、商品情報のメディア効果が期待できること。ECサイトに商品を掲載することにより、お客様はいつでも商品を知ることができます。
三つ目は、データを取得できることです。顧客データや購買履歴を取得することで、お客様の購買傾向を分析することができ、次のマーケティング施策に活かせるだけでなく、商品に関わるさまざまな業務にも、生のお客様の声を反映させることができます。
これらのメリットを提示しつつ、ECの売上も伸びていたということもあり、ECにリソースを投資した分だけ伸びるという理解を得ることができました。
一方で、自社ECサイトの立ち上げを進めていくうえで何か課題はあったのでしょうか?
大きく二つの課題がありました。まず一つ目の課題は、複数あるレーベルの訴求です。BEAMSは現在、約30のレーベルを持っていますが、それぞれのレーベルによってテーマやターゲットが異なるので、ECサイト内でもその世界観を表現してほしい、と。
商品の画像もそうですが、各レーベルのコンセプトやテーマを伝えるためのコンテンツを作ってほしい、という様々な要望が上がってきていたので、それを実現するのにとても苦労しました。もともと、オフィシャルサイト自体は別に存在していて、自社ECサイトが後からできたこともあり、なかなか連動してもらえなかったこともありました。
もう一つの課題は、自社EC用の販売在庫がない、ということでした。ECでの売上が増加しているとはいえ、店舗と比べるとまだまだ規模は小さいです。そのため、売れるか売れないかわからない自社ECサイトへ在庫を渡せない、という事態が起きていました。そもそも、BEAMSはセレクトショップと言われるように、多品種少量の在庫しか持たないので、最初に在庫を集めて商品を販売しても、数日すると全部完売しているという事態になりかねないため、在庫の供給体制をどう確保していくのかは大きな課題でした。
多品種少量在庫をもつセレクトショップならではの悩みですね…在庫の問題はどのように解決されたのでしょうか。
EC用に一番在庫を抱えているのはどこなのか、と考えた時に、2008年当時はZOZOTOWNでした。すでに新規出店から3年が経過していて、売上も順調に伸びていたので、各部署がZOZOには商品を集めてくれていました。
最初は本当に在庫を確保するのに苦労しましたが、ある時期から急に、店頭でモバイルを見せながら「この商品をください」とお客様に言われることが増えていきまして、ネットで欲しい商品を見つけて、その商品を目当てに来店するお客様が増えているのであれば、もっとECを積極的に活用しよう、と会社全体の意識が変わり始めました。
ECがカタログのような機能を持ち始めたんですね。
そうですね。それまでは、ファッション雑誌に掲載されれば一気に売れることもある時代でしたが、それが少しずつ変わっていきました。ECに売りたい商品を出せば、店舗への送客ツールとして機能してくれるので、本部からはもっとECを活用したいと言われるようになり、社内の協力が得られやすくなりました。
BEAMSの場合、倉庫とECの在庫を統合させていますが、他のアパレル企業も同じような方法でECを運営した方が良いのでしょうか。
2018年現在、弊社は自社倉庫と自社EC物流を統合させていますが、必ずしも弊社と同じようにやれば良いとは思いません。自社ECがアパレル業界において一つの重要なチャネルとして認識される時代にはなっていますが、裏側の物流は各社ごとに最適化する必要があると思います。弊社では、もともと物流を内製化しているからこそ、ECの在庫統合が実現できました。
弊社も今でこそEC物流まで自社運営していますが、ECを始めた2009年当時は、ZOZOと在庫を一元化させ、数年間はアウトソーシングで行っていました。自社ECの導入当初と、現在では全く規模感も違いますし、そのままアウトソーシングし続ける選択肢もあると思います。自社ECの役割や、どういうことを実現していきたいか、各社の経営戦略に直結しますので、それぞれに合った方法を探していけばいいかと思います。
<おすすめ記事はこちら>
● マーケティングオートメーション(MA) の概念を知りたい方
マーケティングオートメーション(MA)とは?
● マーケティングオートメーション(MA) のツールについて知りたい方
【2022年最新比較】おすすめMAツール10選+選び方
無料MA(マーケティングオートメーション)ツールおすすめ10選!
● マーケティングオートメーション(MA) の実践に関心がある方
MAのシナリオ設計のコツ!マーケティングで成果を生むには?
【厳選8事例】マーケティングオートメーション(MA) 導入の成功/失敗事例まとめ!効果は?
● マーケティングオートメーション(MA) の乗り換えを検討している方
MAツール乗り換えで失敗しないために抑えておくべきポイント4選
弊社が提供している マーケティングツール『b→dash』 は、マーケティングプロセス上に 存在する全てのビジネスデータを、ノーコードで、一元的に取得・統合・活用・分析することが可能なSaaS型データマーケティングプラットフォームであり、BtoC業界を中心に、様々な業種・業態のお客様にご導入頂いております。
Editor Profile
Speaker Profile
-
矢嶋 正明
ビームス
開発事業本部 EC統括部 部長
2000年ビームス入社。店舗での販売を経て、2005年にEC部門を立ち上げ。
各ECモールから自社ECサイトまで、横断的に全社のEC事業を推進。
2016年 全ての自社サイトを統合し、メディアコマースサイトを構築。
2017年 公式サイトを活用して、実店舗とECのオムニチャネル化を実現。
2018年 台湾で現地直営型ECサイトを立ち上げ、国内外のEC事業を推進中。