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2017.12.14

“カスタマーセントリック”を意識したチャレンジングな組織文化
大量のデータを取得、統合、活用するGDO流マーケティングの裏側

メディアやEC、ゴルフ場の予約、周辺サービスなど多数の事業を展開するGDO(ゴルフダイジェスト・オンライン)。複数事業を持つことは顧客とのタッチポイント創出になる一方で、データの扱いが困難であることは多くの企業の課題ではないだろうか。今回は、顧客データの取得・統合・活用を積極的に行うGDOのマーケティングの裏側について、お客様デザイン本部にてデータドリブンマーケティングの基礎を作った志賀様、福永様にお話を伺った。
(写真左:志賀智之氏・写真右:福永和洋氏)

――最初に、志賀様のこれまでのご経歴を簡単にお伺いできますでしょうか。

志賀:
ファーストキャリアは開発会社、セカンドキャリアではフリーランスで雑誌やネットでクリエイターをしていました。その後ソフマップに入社し、メディアの立ち上げを行いました。”ソフマップでメディア?”と思われるかもしれませんが、ソフマップは特殊な会社で、自社の雑誌を持っていて、フリーペーパーの発行や自社のカタログ雑誌の販売を行っていました。メディア周りを担当しつつ、ECのリニューアルプロジェクトに参加しました。

――ECの立ち上げについてもう少し詳しくお伺いできますでしょうか。

志賀:
僕は雑誌の制作で記事やカタログ編集のノウハウがあったので、サイトのUX・UI設計とCMSの開発、レコメンドエンジンの導入を担当しました。
その後ソフマップでのECサイトリニューアルの経験を活かし、ネットイヤーに転職しクライアントサービスを経験しました。ソフマップ時代に一緒のプロジェクトで繋がりがあり、当時の執行役員だった方に呼んでいただいてGDOに入社し、最初はIT戦略室という部署に配属されました。その部署ではIT投資案件の立案とPM、他プロジェクトの支援としてPMOをしていました。その後、会計システム、会員システム、フロントのECシステムまで、ほぼすべてのシステムを入れ替える全社プロジェクトを2、3年かけて行い、システムを改善していきました。ある程度改善できたということで、その後は情報活用推進部に配属になり、現在はUXやITの知見もあるということでお客様体験デザイン本部という複数の部署が統合されてできた部署を担当しています。お客様体験デザイン本部は機能部門なのでプロフィット部門ではないですが、できてから5年が経ちます。GDOは会社規模の割に多くのサービスがあるため、複雑性ゆえに横串系の組織を維持するのが難しいですが、お客様体験デザイン本部は現状うまくいっていますね。

――では次に福永さんのご経歴もお願いできますでしょうか。

福永:
GDOは5社目になります。新卒では当時社員数3人のコンサルティング会社に入社し、マーケティング、新卒採用などの組織人事、ウェブサイト制作などの業務を中心に行っていました。次のキャリアではより人数が携わるプロジェクト業務をやりたかったので、トランスコスモスに入社しました。今では富士ゼロックスなどがバリアブルプリント言ってより環境が整っていますが、2004年当時にある程度人力で、DMをパーソナライズして発送していくようなことや、リサーチやログ解析を元にしたサイト制作をしたりしていました。その時点でコンサルティング会社を2社経験したので、今度は当事者になりたいと思い、リクルートエージェントでマーケティングを担当しました。その後はキャリアデザインセンターに転職し、そこでもマーケティングを担当しました。そして5社目では小売りの経験を積みたいと思い、GDOに入社しました。GDOではお客様体験デザイン本部で志賀と一緒に5年くらい働き、現在はメディアの担当をしています。

――志賀さんと福永さんはお客様体験デザイン本部で一緒に働かれていたのですね。

福永:
そうですね。役割分担としては、私が宣伝・広報周りの経験があったので、ユーザーを外から連れてくる業務を担当し、志賀は中のサイト作り、CRM、コールセンターなどユーザーとのコミュニケーション業務を担当していました。プレマーケティングとアフターマーケティングで分かれていたイメージですね。現在は、私が異動してしまったので、志賀が新規の集客も担当しています。一方僕は、入り広側として弊社のメディアに広告を出稿していただいてマネタイズをする業務を担当しています。今までずっと営業される側だったので、そういった点では過去の経験は生きていますね。

――今までのご経験の中で成功体験や失敗体験についてお伺いしてもよろしいですか。

志賀:
ソフマップ時代のECのリニューアルは成功でしたね。その時はまだ市場として100億円規模のECサイトもなかったので、当時にしては成功だったのではないかと思います。GDOに来てからは良いことも悪いこともありました。我々が事業としている”メディア”と”EC”と”予約”ってなかなか相容れないものなのですが、それぞれのクオリティが高く、かつそれらがうまくつながっているのでここまで成長できたのだと思います。そのような環境の中で、マーケティングやその他企画など、いろいろなことに取り組めたのは自分の成長のエンジンになっていると思います。うちは他社よりリリースに時間がかかりますが、新しいことに目を付けて着手するのはかなり早いと思います。

――積極的に新しい取り組みをしようという会社の文化があるのでしょうか。

志賀:
第一に社長が新しいもの好きですね。あとは好奇心旺盛な人たちが集まっていることが大きいのではないかと思います。あとは、視点を変えれば3つの事業会社が1つの会社の中にある状態なので、3社繋げてしっかり顧客管理を行い、3つのサイトの情報を1つにまとめて、ユーザー行動を把握したうえでシナリオを組んで、マーケティングオートメーション(MA)の導入を行っているというのはかなり差別化になっていると思いますね。

実際にMAを導入している企業から相談を受ける際に感じることですが、GDOはゴルフを軸に周辺サービスを展開しているので、お客様とのタッチポイントが多いのがかなり特徴的です。長期的にお客様との接点を持てるところは強みですね。ECがあり、予約があり、周辺サービスがあり、メディアまでやっている企業はなかなかないですから。メディアを見て温まった状態の人に施策を打つといったこともできますしね。

一方で、ECだけしかやっていないと、「買って、買って」と単純なプッシュしか出来ません。保険業界のMAや不動産業界のCRMに関する話を聞いていると、お客様とのタッチポイントを作るのが難しそうだと非常に感じます。

――GDOの場合、やはり顧客との接点を増やすことを目的にサービスを増やしていったのでしょうか。

志賀:
もともとはゴルフが好きな人たちが集まっていくうちにどんどんサービスが増えていったのだと思いますが、顧客との接点を増やしていった理由の一つに、トライシクル戦略というものがあります。トライシクル戦略とは、社長がハーバード大学時代に、ゴルフビジネスをブレイクさせるためには3つの事業が必要だというレポートを書いて生まれた考え方です。机上の空論は誰でもできますが、それを成立させたという点は本当にすごいと思います。

あとは、ゴルフダイジェストというブランドがあったことと、ネットバブルが奇跡的に融合したことが成功の要因だと思います。もしゴルフダイジェストというブランドが無い状態で様々なサービスを展開していたら、ここまで成功していなかったかもしれません。メディアがECに手を出すと大抵失敗するので。怖いもの知らずで、積極的にいろんなことにチャレンジしていたのも大きな要因だと思います

――やはりチャレンジングな文化が非常にうまくはまっているのですね。

志賀:
うちの社長は”カスタマーセントリック”という、顧客も気づいていないニーズの探求に関してかなり思いが強いことも理由の一つです。あとはゴルフ好きの人たちがたくさんいたので、インサイトが把握しやすかったことも大きいと思います。細かいサービスも含めると30サービスくらいあります。とはいえ、すべてのサービスがうまくいったかというとそうではなく、失敗したサービスもたくさんあります。昔はコミュニティやブログもやっていましたから。

――トライしてから撤退するPDCAの速さも速いのでしょうか。

志賀:
GDOは引くことに関しては正直得意ではありません。組織的にリソースを集中させて一気に育てるよりも、少しずつ育てることがほとんどです。先ほど社内にゴルフ好きはたくさんいると言いましたが、プロモーションへの理解や運用の弱さという観点で言えば、やはり創業から十数年しかたっていないのでまだまだベンチャーですね。リクルートのようにどんどん事業創造はしますが、横断組織的であるマーケティング部門での集客やプロモーションはまだ弱いです。とはいえ、後先考えて何もやらないよりは10回打席に立つ方が良いかもしれませんし、その辺りは会社の文化次第ではないでしょうか。

――現在注力されていることがあれば教えてください。

志賀:
お客様体験デザイン本部が持っているミッションは新規獲得と、顧客との関係性の維持です。基本的に既存顧客の部分は事業部が担当するのですが、事業部が手の届かない、リピーターをどう定着させていくかといった部分のお手伝いをしています。あとはCRMですかね。MAの導入部分やマーケティングのシステム基盤の構築などを基本的には担当します。

新規の獲得はお金が必要かつ、効率も悪いので事業部のP/Lではできない側面もあります。なので、うちのような横串の部門に利益から再投資させ、そこから新規へ全社投資しないとなかなか戦略的に進みません。その点、全社の潤滑油役とも言えますね。そして、その中で効率の良い新規の開拓チャネルを探していきます。事業部はリスティング等をやれば一定新規獲得は可能ですが、成長していくためにはそれだけでは不十分ですから。

そのために注力していることとしては大きく4つあります。まず、新規獲得では、アプリを使った会員獲得と、機械学習を使ったルックアライク(ある顧客層と類似した消費傾向や行動様式の消費者に対して広告を配信するマーケティング手法)ですね。我々のロイヤルカスタマーに近い人物像を外のマーケットから潜在ユーザーとして探しています。これを繰り返していると、通常のCPAの3分の1位で獲得できる、普段発想しえないとても効率がいい層がたまに見つかります。しかし、スケールを拡大させてしまうとCPAが上がってしまうので、パートナーさんと一緒に少しずつ取り組んでいます。あとは、LINEなどのチャネルを増やすことと、カスタマーサポートの充実も行っています。これから色々なチャネルで顧客接点ができて、チャットなどの対話チャネルも増えてくるので、その部分を充実させていきたいと考えています。

――顧客といかに多くの接点を持つか、データを取得するかが重用になってきているということですね。

志賀:
その通りです。今年、弊社もやっと全社的にシステムをクラウドに移行することができました。DWHも全てRedshiftに置き換えて、マーケティングの基盤はほぼ一新できたと思います。マーケティングサイドとしてはデータを活用することに重点をおきたいという思いが強かったので、クラウドもSaaSも喜んで導入しようという状況でした。一方で、当時システムサイドとしてはやはり保守的な意見が多かったですが、うまくいっているのを見て最近はコンフリクトもありません。

福永:
また、マーケティングで取り扱うデータが爆発的に増えてきたことに伴い、データ容量が逼迫してしまうことを想定すると、クラウドに移行する必要があったという部分も大きいです。オンプレの状態でも相当なデータ量をもっていたので、ログを使い始めるととんでもないデータ量になってしまいます。その点クラウドは柔軟にCPUの構造を変えられるなど、スケールアウトやバージョンアップをすることができるというのがいいところですね。会社の中にコンバージョンポイントがあって、それをきっかけにイベントドリブンのメールを出す場合、通常の会社だと数ポイントぐらいしかないのに対して、GDOはECのコンバージョンや登録のコンバージョン、予約のコンバージョンなど全部で20ポイントくらいあります。それらをキーにして分析し、様々なマーケティングアクションができるのがGDOの強みです。また、そのためにログをきれいに残し、たくさんの施策が編み出せるトラックポイントや、ログを活用してマーケティング施策をたくさん打てるのがGDOの特徴です。大量のデータを取得・活用することができるので、CPUは早くないとダメですし、データが取れるのであればどんどんきれいに取得していこうという流れに自然となっていきました。

志賀:
一方で、他社さんのお話を伺っていると、そもそもDWHが無いという話もよく聞きますが、それでうまくデータマーケティングが実現できるな、とは正直思います。あとは、GDOの場合、組織的な特徴もあると思います。我々はマーケティング本部的な部署の中に開発やシステムの機能も持っています。もしこれが、マーケティング本部外のシステム部門にお願いするという形だったらこれほど上手くいっていないと思います。マーケティング部門の中に開発者がいて、システムがあるので、自分たちで理解・運用ができる、という部分がスピードを生んでいるのだと思います。よくあるマーケティング部と情報システム部のハレーションは全くないですね。

(ーー中編後編に続く)

Text by Yuuki Miyagawa


【プロフィール】
志賀智之
株式会社ゴルフダイジェスト・オンライン
お客様体験デザイン本部 部長
2008年に㈱ゴルフダイジェスト・オンライン入社。IT戦略室長、情報活用推進部 部長を歴任し、データベースマーケティングやメディア部門でのSalesForce活用など、データを活用したマーケティングを推進。現職のお客様体験デザイン本部の副本部長に着任後、UXDの推進、マーケティングプラットフォーム構想、各種マーケティングシステムの導入とデータを活用したマーケティングを推進中。

福永和洋
株式会社ゴルフダイジェスト・オンライン
メディアビジネスユニット 副ユニット長
2010年に㈱ゴルフダイジェスト・オンライン入社。 コンサル側、事業会社者側のマーケティングの経験を活かして、データマイニングや デジタルマーケティングなどのマーケティング領域を担当。近年はメディアビジネスユニットにおいて、自社のコンテンツ企画やGDOに集まっているトラフィックを価値化するためにメディアマネタイズに従事している。ゴルフメーカーのプロモーション支援をはじめ、ゴルフ以外の業界/業種に対してGDOのメディアを活用したプロモーションプランを提案している。
https://www.golfdigest.co.jp/


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