業界や職種に関わらずビジネスの場に身を置く人は、「D2C」という言葉を見聞きする機会が増えているのではないでしょうか。近年ますます注目度が上がり、メディアでも数多く取り上げられており、ビジネス拡大や収益向上のポイントの一つにもなっているD2C。本記事では、注目されている背景やメリット・デメリットなども交えながらD2Cについて解説します。
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1. D2Cとはなにか?
D2Cとはどんなものか。その意味や従来のビジネスモデルとの違いに焦点を当てながら解説していきます。あわせてD2Cビジネスを取り入れている企業事例も紹介します。
1-1. D2Cが意味すること
D2Cは「Direct to Consumer」を略したものです。Consumerは消費者を表す英単語ですが、商品の企画・開発・製造などをしている企業が消費者にダイレクトに商品を届けるビジネスモデルがD2Cの意味することとなります。2(two)はtoと発音が近いことを理由に代用されているに過ぎません。そのため「DtoC」の表記もしばしば目にしますが、意味は同じです。
1-2. 従来型のビジネスモデルとの違い
商品の売買や契約に関わるビジネスモデルは、従来「B2B」か「B2C」が主流でした。B2Bは「Business to Business」を略したもので、企業間の取引を意味しています。例えば、メーカーの製造した機器を工場が購入し仕入れるような取引はB2Bとなります。B2Cは「Business to Consumer」を略したもので、企業と消費者間の取引を意味する用語です。例えば、メーカーの製造した電子レンジを一般の個人消費者が家電量販店で購入するようなビジネスモデルがB2Cとなります。
D2CとB2Bとの明確な違いは商品の販売相手が一般消費者(Consumer)である点です。一方で、B2Cはメーカーが企画・製造などした商品を卸売業者や小売店などを介して消費者へと届けるケースもあるのに対し、D2Cは商品の企画や開発、製造などを行っている企業が自社運営のECサイトなどを通じで消費者へと直接届けます。この点がD2Cの特徴であり、B2Cとの違いです。ただ、「ケースもある」と表現したように、B2Cは必ずしも卸売業者や小売店などを介して消費者へと商品を届けるとは限りません。企業から消費者へ商品を販売する点ではD2Cと同様なため、D2CはB2Cに含まれるビジネスモデルの1つであると解釈するとよいでしょう。
1-3. D2Cの有名事例
事例①:(メガネ)Warby Parker
D2Cのビジネスモデルを採用して成功を収めている企業は少なくありません。例えば、アメリカのメガネメーカーである「Warby Parker」もその一つです。2010年に創業し、ECでメガネの販売を開始。2021年には上場も果たしています。デザイナーも社内に抱え、商品の企画や開発、そして販売まで自社で完結。D2Cの代表的存在といえるでしょう。特にスマホなどで取引することが当たり前となっている若い世代にアプローチすることで人気を獲得しています。商品の質だけではなくイメージ戦略にも力を入れているブランドであり、この点も成功した理由といえそうです。
事例②:(アパレル)AWAY
同じくアメリカ発のスーツケースブランドである「AWAY」も、D2Cの有名かつ成功事例の一つとして取り上げられています。2015年の創業以来、2年半という期間で50万点ものスーツケースを販売した実績があります。ターゲットは若者から中年層あたりで、おしゃれさやクールさだけではなく機能性にもこだわる人たち向けに商品を企画・開発している点が特徴です。スーツケースでスマホを充電できるなど、若者やビジネスマンのニーズを的確に捉えた点も成功した理由でしょう。さらに補償や返品に関するサービスも充実。コスト調整などがしやすいD2Cならではの戦略を積極的に取り入れています。
事例③:(美容)バルクオム
国内のD2Cの有名事例といえば、「バルクオム」でしょう。メンズスキンケアに特化したブランドとして2013年に創業されました(株式会社バルクオムとして法人化したのは2017年)。その後、カフェやジムなどの事業も展開しています。D2Cならではの機動力でSNSを積極的に活用し顧客を獲得。あくまでもユーザー視点で身近に感じられるブランド戦略で知名度と業績を伸ばしてきました。さらなる販路拡大を求め、すでに小売店などにも商品を卸しています。B2Cのビジネスモデルにも展開していますが、D2Cによりそのきっかけを見出したブランドの代表的存在といえるでしょう。
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2. D2Cのメリット・デメリット
D2Cのイメージはある程度つかめたのではないでしょうか。多くの企業が取り入れている理由は、このビジネスモデルにいくつものメリットがあるためです。一方で、D2Cにはデメリットもあります。企業がD2Cを取り入れる際にはメリットとともにデメリットの存在も無視はできません。それぞれを解説するので、自社商品にとってはどちらがより有利なのか、デメリットを最小限に押さえながらビジネス展開できるのかなどを考えながらみていきましょう。
2-1. D2Cのメリット
マージンの抑止
D2Cは仲介業者を通さずに商品を消費者へと届けられるため、マージンを最小限に抑えることが可能です。これにより収益性を高められるメリットがあります。消費者が購入する際に支払う代金は、コストに利益が上乗せされ算出されます。このコストにはさまざまなものが含まれますが、D2Cを採用することにより、その一部のカットが可能なのです。コストカットは企業の利益へと直結します。あるいは商品価格を下げることができ、品質を落とさずに低価格の商品を消費者へと届けることができるでしょう。こうしたメリットにより販売数が増えれば、それが企業の利益を増やすことにも繋がります。企業と消費者双方にとってメリットがあるビジネスモデルといえるのです。
ブランドイメージの維持
ブランドイメージを維持しやすくなる点もD2Cのメリットです。小売店で販売すると、その店舗のイメージによりブランドイメージが薄まることが懸念されます。特に品質にこだわる企業や商品であれば、安売りを武器とする小売店に陳列されるだけでブランドイメージが毀損されかねません。D2Cであれば自社運営のECサイトなどで販売が可能なため、ブランドや商品のイメージを的確に伝えやすくなるのです。小売店や多くのブランド・店舗が集まる複合的なECショップでは開催することが難しいキャンペーンの展開もしやすくなります。既存のプラットフォームに縛られない見せ方や売り方ができるメリットは、ブランド価値を向上させるための欠かせない武器となるでしょう。
顧客データの収集
顧客データの収集や蓄積、分析がしやすい点もD2Cのメリットの一つです。小売店やモールへ出品すると、顧客の購買行動などを正確に捉えることができません。自社運営のECサイトで直接商品を販売することで、顧客の属性や行動などが確実に把握できます。商品販売のための施策や戦略も練りやすくなるでしょう。また、そうした施策や戦略を即座に試行し、問題点や課題を見出したうえで迅速に改良・修正することも可能です。業績アップに欠かせないPDCAサイクルを適切かつ迅速に回すことが、従来のビジネスモデルよりもしやすいのです。
顧客データを収集/蓄積し、そして分析をするためにはCDPが必要となりますが、そんなCDPについては下記にて詳しく説明をしていますので是非合わせてご一読ください。
2-2. D2Cのデメリット
既存のECサイトや街中にある小売店などは、独自の集客施策を行っています。半額セールやポイント3倍サービスなどのキャンペーンが代表的な例でしょう。また、客はECサイト内で検索したり店舗内を見て回ったりすることで、これまで出会えなかったメーカーやブランドの商品を目にし、新たに認知することも珍しくはありません。D2Cのみで商品の販売を行うと、このような既存のECサイトや小売店の集客施策に頼れないデメリットがあります。商品を取り扱っている企業自身が認知度を上げて集客するための戦略を練らなければならないので、商品に独自性や魅力が強く求められるため、より商品力が問われる点も課題となるでしょう。
関連して、顧客の集客にコストがかかる可能性も高まります。仲介業者を通さないことでカットしたマージンをマーケティングや顧客対応へと回す必要も生じるでしょう。宣伝費などがカットしたコスト以上にかかってしまえば本末転倒です。商品やブランドのイメージを保ちながら顧客獲得のための戦略を十分に練らなければならない点は非常に難しく、D2Cのデメリットといえます。
このデメリットを最小化するためのマーケティングノウハウも欠かせません。新規のブランドやD2Cを取り入れたばかりの企業では、マーケティングノウハウを獲得・蓄積するまでに多くの時間を要するでしょう。軌道にのる前にブームが去ってしまうことや、消費者のニーズが変化することなどのリスクも考慮する必要があります。
3. なぜD2Cが注目されているのか?
顧客行動の変化
D2Cが注目され、それを取り入れる企業が増えてきた理由は、企業と消費者との距離が縮まったことにあります。インターネットの普及が、その大きな要因でしょう。通販サイトは以前から存在していましたが、SNSなどで企業やブランドが消費者へとダイレクトにイメージや価値を提供・アピールすることが可能となり、両者の距離は一段と縮まることになりました。消費者は商品が購入できれば、媒体や購入場所は問わない傾向も強まっています。スマートフォン一つでECサイトへとつながり目当ての商品が購入できれば、それが既存のプラットフォームでも企業が独自に運営するECショップでも構わないのです。マージンがカットされることにより良質な商品が低価格で手に入れられるとなれば、消費者は既存の媒体や店舗を利用しなくなり、D2Cを行う企業から直接購入する流れとなることは必然でしょう。
顧客の趣味嗜好の細分化
また、多様性を認めることや受け入れることに対する抵抗感がなくなりつつあり、個性や独自性が重要視される時代へと移行している点もD2C普及の背景にありそうです。D2Cを行う企業はブランドや商品に独自性があり、オリジナルであることを一つの武器とする傾向がみられます。他のブランドや商品と異なる点を積極的にアピールすることで、時代にマッチしたマーケティング効果を狙えるのです。小売店などに他のブランドや商品と並べられ埋もれてしまうことを避けたいと考えれば、商品力に自信のある企業がD2Cを積極的に取り入れることもやはり必然といえるでしょう。
モノ消費からコト消費への移行
モノ消費からコト消費へと消費者の行動が変化していることもD2Cが注目される理由の一つです。D2Cを取り入れる企業の商品は体験やライフスタイルにフォーカスしたものが多く、コト消費を重視する消費者の思考や行動とマッチしているといえます。その傾向が、D2Cの普及と発展を後押ししているのでしょう。販売するものは物質的なものであっても、そこに新たな体験や発見がある点が多くのD2C商品にみられる特徴です。現代社会に生きる消費者のニーズを上手に捉えた企業がD2Cビジネスにより業績を伸ばしたことにより、さらに注目度が高まっているのです。
4. D2Cで失敗しないために必要なこと
自社商品の理解
D2Cで失敗しないためには、自社商品への理解が重要です。自社商品はD2Cに向いているのか否かについても冷静に見極めなければいけません。また、どこに魅力や独自性があるのかも把握する必要があります。既存のプラットフォームや小売店を頼れないため、商品力とマーケティング力が不可欠ですが、マーケティング力は商品の魅力や独自性が理解できていなければ適切には行えないでしょう。商品価値を深く理解し、それをアウトプットすることがD2Cの成功には不可欠です。
消費者の理解
ターゲットとなる消費者への理解も欠かせません。D2C商品を展開する企業の多くは広く浅くではなく、ターゲットを限定し信頼関係を築くようにアプローチを行っています。企業としては、より多くの人へ届けたい気持ちはあるでしょうが、そればかりを考えていると失敗のリスクは高まります。ペルソナを設定し、そこへのアプローチを適切に行うことで長く深く付き合える関係を築くことがD2Cビジネスには必須なのです。
PDCAサイクル
D2Cで失敗しないためには、施策の積極的な実行と修正・改善も欠かせません。積極的なマーケティングに関しては、例えばSNSなどネット媒体を活用した働きかけは不可欠となるでしょう。施策を実行したあとは必ず消費者の行動を把握・分析し、適切な修正と改善を行います。新たな施策を構築したら、それを実行する。そこから得たデータを元に修正・改善するなどPDCAサイクルの継続が成功のための大きなポイントの一つです。広告戦略だけではなく、ECサイトの見やすさや商品へのアプローチのしやすさ、決済のしやすさなども重要。商品力だけに頼ってしまうと失敗のリスクが高まるため注意が必要です。
施策を行った後、そこから得たデータを分析をする上で押さえておくべきポイントについては下記にて詳しく説明をしていますので、是非合わせてご一読ください。
5. まとめ
商品の開発や製造を行う企業が自社のECサイトなどを通じてダイレクトに消費者へと商品を届ける「D2C」。ビジネスモデルとして普及し、さらに注目度は高まっています。積極的に取り入れたいと考える企業も多いでしょう。そのためにはD2Cのメリットとデメリットを理解し、確かな商品力と戦略を元に取り入れることが求められます。それができれば消費者のニーズを掴むことができ、時代に合わせて成長する企業となれるでしょう。
[参考]
・OMOとは?

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●目次
1. D2Cとはなにか?
2. D2Cのメリット・デメリット
3. なぜD2Cが注目されているのか?
4. D2Cで失敗しないために必要なこと
5. まとめ