ページトップへ
2020.01.09

【MiXER Report】The P&G Way マーケティング・プリンシプル
~現役P&Gブランドマネージャーたちが語るマーケティングのすべて~

11月20日、21日の2日間、ANAインターコンチネンタルホテル東京において、“マーケティングの未来を見に行く2日間”をテーマに、世界No.1サービスをリードするマーケターや、近未来のデファクトスタンダードの創造を目指すサービスクリエイター、更には人気芸能人まで、約70名に及ぶ各領域のトップランナーが登壇した『MiXER ~The Marketing Conference~』。
世界No.1のMarketing Companyと称され、数多くのマーケティングリーダーを輩出してきたP&G。MiXER Day1、2つ目の貴重講演はP&G現役のマーケター2名によるパネルセッションとなった。
登壇者は、プロクター・アンド・ギャンブル・インターナショナル・オペレーションズ Asia Pacific Feminine Care Associate Brand Director岡田久雄氏、プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン株式会社 Japan Baby Care Associate Brand Director瀬戸温夫氏の、2人の現役P&Gマーケターと、モデレーターの元P&Gで元資生堂CMOの株式会社クー・マーケティング・カンパニー代表取締役 音部大介氏だ。

What’s P&G ~ 65のリーディングブランドが作る売上7兆円のビッグカンパニー ~

 セッションは、「P&Gがどのような会社なのか」に関する元P&Gの音部氏による解説から始まった。

 「P&Gは65ものリーディングブランドを持ち、約7兆円もの売り上げを誇りながら、昨年は5%の成長を実現しています。世界180か国で展開し、9万人の従業員のうち4万人は女性というダイバーシティも重視された企業と言えます。
“7兆円”という会社全体の売上げに注目されますが、P&G社内においては、各ブランド単位で売上げ責任を持ち、オペレーションが行われる、という認識となっています。」(音部氏)

 ここから、2名のパネラーが自己紹介を行った。岡田氏は様々なブランド・業務に携わった後、現在はシンガポールを拠点に新規ブランドの立ち上げを行っている。開発した新ブランドの『ウィスパー』は日本ではすでに展開がスタートしている。

 「20代以上のあらゆる女性が一般的に抱える身近な“失禁”という課題を解決する新商品です。私は単に商品を提供するだけでなく、“失禁”という名称から来る後ろ向きな言葉の響きを、例えば“UI(urinary incontinence)”という通称を定着させて社会の認識も変化させる、といった取り組みも始めています。」(岡田氏)

プロクター・アンド・ギャンブル・インターナショナル・オペレーションズ
Asia Pacific Feminine Care Associate Brand Director 岡田 久雄氏

 次に、紙おむつブランド“パンパース”を担当する瀬戸氏がマイクを握った。瀬戸氏は入社後シンガポールで5年間駐在し、現在は日本で勤務している。岡田氏と異なり、入社以来一貫して紙おむつのマーケティングに携わっている。

 パンパースは1977年より日本で販売され、現在、紙おむつとして売上No.1、病産院が選ぶNo.1ブランドとなっている。

プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン株式会社
Japan Baby Care Associate Brand Director 瀬戸 温夫氏

P&Gにおける「マーケティング本部」の役割

 図はP&G社内における「マーケティング(マーケター)」の立ち位置を示している。

 「P&Gのマーケターは“ブランド”という1つの組織の中であらゆる部門を引っ張る役割を負っています。そしてこれは新卒1年目の担当であっても変わらず、明確に“リーダー”であることを求められます」(瀬戸氏)

 「マーケティングの役割は、単に広告・販促・コミュニケーションの担当者ではなく、1人の経営者としてブランド全体を管理することです。したがって、我々マーケターに課せられるKPIは、『売上』『利益』『ユーザー数』『ブランドエクイティ』の4つです。」(岡田氏)

P&GマーケターのSuccess Case

Case1 ~パンパースのV字回復~

 続いて、登壇者2名の成功事例の共有が始まった。まずは瀬戸氏が話し始める。

 「パンパースは、今では紙おむつカテゴリーの売上No.1ブランドとなり、この10年間で売上が約2倍になりました。しかし、10年前はブランドとして低迷期で、私が入社する直前くらいから回復の兆しは見えていたものの、私は、この回復を加速させることが求められていました」(瀬戸氏)

 瀬戸氏は『プレミアム価格帯紙おむつ』の市場規模推移を示す1枚のスライドを投影した。同カテゴリーは5年間で約10倍の成長を遂げている。今回は特にこの『プレミアム価格帯』における成長をピックアップした話が展開された。少子高齢化が進む日本でどのように市場を創造拡大し、売上を伸ばしたのか。

 「紙おむつの利用者である子供が減っているという外部環境の中で、シェアを奪い合っても未来がありません。ではマーケターは何をすべきなのか。結果として大きな成功をおさめられましたが、数ある成功要因の中で、3つの施策を取り上げてご説明します。そして全ての施策に一貫しているのは、『Consumer is Boss』というP&Gの社内全体で共有されている価値観です」(瀬戸氏)

『病産院への卸売り』の強化

 1つ目の施策は病産院というチャネルの活用だ。

 「パンパースは病産院で最も選ばれるブランドです。ただ病産院の市場自体は小さい。ではなぜこの市場を狙ったのかといえば、それはおむつを使う『お母さん』への影響に着目したからです。出産直後で、育児に不安を抱えるお母さんにとって病産院で使う『最初のおむつ』は、記憶に残る『特別なおむつ』です。卸し先は病産院ですが、結果的にお母さんへ強烈なアプローチができると考えました」(瀬戸氏)

情緒的な価値を生む『ブランドコミュニケーション』の刷新

 2つ目は、おむつの機能ではなく、『お母さんを支えたい』という情緒的メッセージを訴求する動画プロモーションについて。

 「ブランドとして、『お母さんの悩み』に着目したブランディングムービーを配信しました。例えば、『MOM’S 1ST BIRTHDAY』の動画は、お母さんも、“ママとして1歳を迎えておめでとう”というメッセージを込めていますが、全く広告を打たずに約600万再生を記録しました。
 また、『子育てを世の中全体で支えていこう』というメッセージを込めた動画も非常にポジティブな反応を得ることができました」(瀬戸氏)

アプリによるCRM

 3つ目は消費者との関係を構築した『アプリによるCRM』だ。

 「おむつは購入頻度も単価も高いですが、だからこそ、ポイントプログラムのような企画がはまると考えました。おむつを買えば買うほどポイントがたまる仕組みです。この結果、一人一人の購買データを取得でき、どのような方が高価格帯のおむつを買うのか、というデータも把握でき、データを消費者との直接的なコミュニケーションに活かすことができるようになりました。今は、ブランド全体の売上のほとんどをカバーできるくらいのデータ量が蓄積されています」(瀬戸氏)

消費財市場において“メーカーがデータマーケティングを実践する方法”を学んだ

 「パンパースの成長実現を通して特に私が学んだのは、消費財市場における『メーカーのデータマーケティングの実践方法』です。一般的に、多くのメーカーは直接消費者のデータを取得することはできません。基本的に消費者とつながっているのは消費財市場の場合ドラッグストアさんや、店舗を持つメーカーです。しかし、今回のプロジェクトを通してアプリの活用”というメーカーにとっての成功例を作ることができたと考えています。
 購買データなど、消費者の行動をつかむデータの活用は大きな力を持っているとわかったので、今後、私がパンパース以外のビジネスに携わったとしても、何らかの方法で消費者と接点を持つことを考えていくでしょう」(瀬戸氏)

Case2 ~ 大企業病を脱してDisruptを防ぐために ~

 「世の中のあらゆる市場で“Disrupt”が起きています。そして私たちP&Gもその危機に直面していました。今日は私が関わった事例を通して、どのようにその危機を脱したのかお話したいと思います」(岡田氏)

 瀬戸氏に続いてマイクを取った岡田氏は、『パンテーン』を含むヘアケア事業における事例を語った。業績低迷に苦しんでいたヘアケア事業は、安売りで一時的な売上を確保する、といった施策を繰り返していたようだ。そんな中で一つの転機となったのが、グローバルのヘアケア事業部における会議だった。

① マーケターの企画力を最大化させるための環境作り

 「当時の課題は、私たちマーケターが考えた企画の実現に時間がかかりすぎる、又は実現できないということでした。P&Gも様々な部署があり、マーケターが『正しい』と思ったことを実践したくても、他の部署から待ったがかかってしまうのです。
 そのような状況を変えるべく、あるグローバルの責任者が集まる会議において組織、働き方の改善を提言しました。その提言が受け入れられ、マーケターが消費者のニーズをくみ取ってそれを商品開発や販促に活かせる仕組みを作りました。この取り組みはこの後の変化のための土台作りでした」(岡田氏)

② コンシューマードリブンなブランドコミュニケーションへ刷新

 「一つの事例として『パンテーン』を取り上げましょう。私自身もそうでしたが、パンテーンのマーケティングにあたって、『髪のダメージを修繕できること』という便益ばかりに着目をしていました。しかし消費者の多くは私たちブランド側が思うほどにその便益に価値を感じていなかったのです。
 消費者のニーズをくみ取り、そのニーズに対して私たちが持つ商品の強みをソリューションとして提供する”、マーケティングの基本かもしれませんが、当時の私たちが忘れていたことでした」(岡田氏)

③多様性を取込むポートフォリオの拡大

 「ますます多様化が進む世の中で、一つのメガブランドだけではなく、ポートフォリオを組んで商品を展開していきました。また、日本市場を世界市場の“イノベーションハブ”とし、日本で成功したブランドをアジアや場合により欧米など世界中に横展開するという事業モデルを構築しました。結果としてヘアケア事業は売上・利益・市場シェアを飛躍的に伸ばすことができました。
 とはいえ、今後もこのモデルが10年間通用するとも思いません。常に“Consumer is Boss”のキーワードを忘れずに変化し続けたいと考えています。」(岡田氏)

お客様のニーズに根差したコミュニケーション構築の大切さを改めて知った

 ヘアケア事業における成功を経て、岡田氏自身何を学んだのか。音部氏の投げかけに答えた。

 「ヘアケア事業を立て直すために、単なる便益ではなく、お客様が仕事中や旅行中など、それぞれのシーンでヘアケアに求めていることは何か、を常に考えました。その結果、ブランドが掲げるミッションを定義することが、お客様に受け入れられるコミュニケーションを生むということを改めて学びました。」(岡田氏)

P&Gマーケターの「勝ち筋を立てるための方法」とは

“ブランドのあるべき”と“実現方法”を突き詰めること

 音部氏の投げかけに応え、瀬戸氏から話を始めた。

 「まず、お客様を一番知る私たちマーケターが、『ブランドの“あるべき”や“ビジョン”』を描くことが大切だと考えています。マーケターは広告の担当者であるだけでなく、売上に責任を持つ。この考え方に沿って、例えばパンテーンのように市場が縮小傾向にある場合、レッドオーシャンで競合と争うだけでいいのか、ということをそもそも考えることが重要です。
 次に、“Think what needs to be true”という言葉をP&Gではよく使いますが、掲げたビジョンを実現するために何が必要なのか、という観点で物事を進めることです。ビジョンの達成に壁はつきものですので、できない理由を探せばいくらでもあります。それを実現させるために動くこと、そして動くときは『データに基づいて』動く。これがマーケターには必要だと考えています。」(瀬戸氏)

“Purpose Driven Marketing” ~ ブランドの存在意義を具体的に定める ~

 瀬戸氏に続き、岡田氏がマイクをとった。

“Purpose Driven Marketing”、つまりブランドの存在意義を定めることが大切です。もちろん時代や社会は変化しますので、その時々にあわせて変える必要があります。“ウィスパー”でも“パンテーン”でもそうでしたが、消費者が何を望んでいるのか、を起点にブランドが提供できる価値、ブランドがお客様の人生にどう貢献できるのかを突き詰めることが、P&Gのマーケターに求められる“売上”や“利益”、“市場シェア”といったKPIの達成につながります。目先の業績ばかりを追いかけて、例えばプロモーションやプライスに手を加えるだけでは、当然利益が減ってしまいますから。」(岡田氏)

 “ビジョン”、“Purpose Driven Marketing”などは、多くの企業ではマネジメント層が考え、部下に伝えることが多い。しかしP&Gにおいては、日々消費者のあらゆるデータを見て、“消費者に最も近い”現場のマーケターが主導することを求められる。現場のマーケターは、マネジメントを説得する材料としてビジョンやPurposeを活用し、自らが責任を持つブランドの成長を実現している。

P&Gの今後のデータやテクノロジーの活用とは

 残り時間も短くなった中で、最後の質問がされた。この問いかけに対しても、瀬戸氏から話をスタートした。

 「Consumer is Bossの考え方は変わりません。なので、データやテクノロジーの活用も消費者のニーズ次第となります。お客様の生活を豊かにするためのテクノロジーの活用は積極的に進めています」(瀬戸氏)

米国で販売されている育児モニター

 「消費者の認知、購買、リピートに至るカスタマージャーニーを全て可視化することは、マーケティングにとって重要です。消費者がどこで購買をやめてしまうのか、どの施策がCVに寄与したのかを知り、投資効率の最適化を進めたいと考えています。」(岡田氏)

 世界最高のマーケティングングカンパニーP&G。二人の現役ブランドマネージャーによるセッションを、モデレーターの音部氏が締めくくった。

 「消費者の行動、ニーズをデータの観点で可視化する。これが二人のマーケターが実践し、そして今後更に進めようと考えていることです。では、企業のデータマーケティングを実現するには何が大切なのか。それは、そもそも企業のあらゆる意思決定をデータに基づいて行うことです。つまりデータドリブンな文化を作ること、これがデータマーケティングの実現にとって前提となる重要なことである、と考えています」(音部氏)

無料のeBook
詳しくはこちら

LIKE @ Marketer's Compass

Get Mail Magazine

メルマガに登録する