「デシル分析」という名前は聞いたことがあるものの、結局何ができるのか理解している方は意外と少ないのではないでしょうか。今回はそのような方向けに、デシル分析と他の分析の違いやその実践事例を交えながら、メリット/デメリットを解説します。

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1. デシル分析とは何か

デシル分析とは、購買データを元にすべての顧客の購入金額を高い順に10等分し、各ランクの購入金額・売上高構成比を試算する分析方法のことです。「デシル」とは「デシリットル」に近い言葉とされ、ラテン語では10等分を意味します。その概要や目的について確認していきましょう。デシル分析を行うためには、顧客の購買データを取得していることが前提となります。

1-1. デシル分析の概要

デシル分析によって、売上貢献度の高い優良顧客層を把握することができます。つまり、全顧客を購入金額からグルーピングして把握し、そこから有益な情報を掴む分析手法です。これにより費用対効果の高い販売戦略やマーケティング施策を打ち出すことが可能となります。

1-2 デシル分析を行う目的

デシル分析が企業で重用されるのは、リピーターの獲得にかかるコストの低減が背景にあります。リピーターをつくるには、新規顧客を獲得するよりもはるかにマーケティングにかけるコストが小さくて済むと言われています。新規顧客で売上を維持しようとするとコストがかかるため、既存顧客をリピーターに昇華させることが大切です。既存顧客に再購入を促すのと、新規顧客に購入を促すのに必要な投資の比率は、一般的に2対8くらいだとされています。新規顧客にかけるコストの4分の1程度で、リピーターを増やすことができます。デシル分析によって、既存顧客の購入金額に応じた戦略を練ることで、費用対効果の高い販促活動が行えるでしょう。

2. デシル分析の実施方法

デシル分析の手順とその活用法について解説していきます。デシル分析はEXCELでも簡単に行うことができます。まずは、デシル分析のやり方に慣れて、顧客の購買データを上手く活用していけるようにすることがポイントです。

2-1. デシル分析の手順

自社の製品を購入した人が500人いると仮定して、デシル分析を3ステップで行っていきます。下記の方法で、各グループの購入金額/購入金額比率/累積購入金額比率/1人あたりの購入金額を求められるので、自社の数値に置き換えて計算していきましょう。

ステップ①:分析したい顧客データを準備

デシル分析を行う際にまず最初に行うことは顧客データを準備することです。500人の顧客を購入金額の高い順に並び替えるのですが、どのくらいの購入期間のデータを扱うかは企業側で任意で決めて構いません。一般的には1カ月/3カ月/半年/1年間/1年以上などのデータが使われます。

ステップ②:10等分にグループを分ける

次に、合計金額の上位から10のグループをつくります。今回は500人の顧客を分類するので、50名ずつにわけていきます。最も合計金額の高いグループはデシル①に属し、金額が低くなるごとに数字がカウントアップされていき、一番合計金額が低いグループはデシル⑩と呼ばれます。

ステップ③:各グループの売上構成比を洗い出す

各グループの売上構成比を出すためには、購入金額の合計値を算出する必要があります。仮にデシル1が100万円、デシル2が90万円と、グループの数字がカウントアップされるごとに、合計金額が10万円ずつ減ったとしましょう。そうすると、全体購入金額は「100万円 + 90万円 + … +20万円 +10万円 = 550万円」となります。購入金額構成比は、各グループの合計金額を全体の購入金額で割ると求められます。そのため、デシル1の購入金額構成比は、「グループ合計額100万円」を「全体購入金額550万円」で割って算出した「0.18」となり、購入金額比率は、.18に100を乗じて18%となります。

続いて、累積の購入金額構成比は、算出するグループまでの合計額を全体の購入金額で割ると算出できます。デシル1だと購入金額比率も累積金額比率も同じ値になってしまうので、ここではデシル2の累積金額構成比の算出例を紹介しましょう。デシル2の累積金額構成比は、「デシル1とデシル2を足した190万円」を「全体購入金額550万円」で割った「0.35」となり、累積購入金額比率に変換すると、0.35に100を乗じて35%です。

上記の例では、デシル1とデシル2の上位2つのグループが、売上の35%を占めていることが分かります。購入金額が上位の顧客と、下位の顧客の金額差が激しい場合は、上位2~3グループで売全体の8~9割占めていることも珍しくありません。累積購入金額比率は、上位グループの売上への貢献度合いを判断する材料となります。

最後に、各グループの1人あたりの購入金額は、グループごとの合計額を所属する人数で割ると簡単に求められます。たとえば、デシル1の顧客1人あたりの購入金額は、「グループの合計額100万円」を「所属人数の50人」で割って“2万円”となります。デシル2で求めると、グループの合計額90万円を所属人数の50人で割って、顧客1人あたりの購入金額は1.8万円です。上記の方法でデシル1から10まで売上構成比を求めていくと、全体のうちの何割が優良顧客に相当するのかが把握できます。

3. デシル分析のメリット・デメリット

デシル分析におけるメリット・デメリットは何でしょうか。ここでは、デシル分析のメリット・デメリットについて解説します。

3-1. デシル分析のメリット

デシル分析は誰でも簡単に分析できることがメリットです。顧客の購入金額のデータさえそろっていれば、優良顧客がすぐに分かるようになります。これからマーケティングの効果測定を始めようとしている企業も、比較的導入しやすい分析方法でしょう。

経済学で有名なパレートの法則(2対8の原理)にのっとると、売上の8割は2割の顧客が占めているという風に考えることもできます。そのままパレートの法則で優良顧客の範囲を決めた場合、100人の顧客がいたら上位20人だけに力を入れれば良いと捉えられます。しかし、本当に売上に大きな貢献している顧客は全体の2割だけかというと、実際には異なるケースがあります。デシル分析によって累積購入金額比率を求めてみると、デシル①からデシル③まで、デシル①からデシル④までが売上の8割を占めている可能性もあるのです。優良顧客を逃さないようにするためにも、デシル分析で売上構成比は把握しておくことが大切です。

3-2. デシル分析のデメリット

デシル分析は簡単で分かりやすい方法ですが、マーケティングの効果測定を詳しく行うには不向きです。同分析法では、優良顧客層しか判断できないため、顧客の属性・定着率・購買予測などを把握するには違う分析法も取り入れる必要があります。ABC分析・RFM分析・CTB分析を組み合わせて実施すると、マーケティングを行う際の方向性が定めやすくなるでしょう。

また分析を行う上で必須のデータ準備において工数を削減し、データ分析のPDCAを高速化させたBIツール活用事例について、下記資料にて詳しくご紹介しておりますので、こちらも是非合わせてご一読ください。

4. デシル分析と他の分析方法との違い

ここでは、マーケティングの効果測定を行う際に、デシル分析と混同されやすい「RFM分析」「ABC分析」との違いを説明します。

4-1. RFM分析

RFM分析とは、顧客のRecency(最終購買日)/Frequency(購買頻度)/
Monetary(累計購買金額)の3つの指標から分析する方法です。3つの指標を5段階評価していくだけでグループ数は125にも上り、グループごとに施策を考えるのは現実的ではありません。

RFM分析とデシル分析の違いを端的に説明すると、まず指標の数が異なります。RFM分析が3つの指標からなる分析手法であるのに対して、デシル分析は購入金額という1つの指標からの分析です。1つに指標が絞られている分、比較的楽に試算できますが、RFM分析と比較するとやや正確性に欠ける点があります。しかし、RFM分析はシンプルさという点では劣り、かなり複雑なデータとなるため、分析業務の経験がないと活用が難しいかもしれません。これから分析業務を始める場合には、まずは簡単なデシル分析を行ってみて、慣れてきたらRFM分析を取り入れることをおすすめします。

また、RFM分析もデシル分析もデータから因果関係を読み解き、注力するターゲットを見定められますが、貢献度が低い顧客だからといって、放置したままで良いという訳ではありません。あくまでアプローチの優先度を決定したにすぎないという意識を持つことが大切です。

今は売上への貢献度が低くい顧客でも、ゆくゆくは優良顧客となり得る可能性も多いにあります。この先の未来においても安定的な売上を実現するために、優先度を決めたうえでどの顧客にも抜かりなく対応することを忘れないようにしましょう。

[参考記事]
RFM分析とは?顧客をグループ分けしてLTV最大化を!

4-2. ABC分析

もうひとつ、デシル分析に類似する分析手法である「ABC分析」について見ていきましょう。さきほど、RFM分析よりもデシル分析のほうがシンプルであると説明しましたが、ABC分析はデシル分析よりもさらにシンプルな分析手法です。

ABC分析では、デシル分析と同じく「購入金額」の指標のみを使用します。金額順に顧客を並べていく点も同じですが、ABC分析では、その後のグループ分けがA〜Cの3グループのみとなります。ちなみにABC分析の場合は「3等分」にするのではなく、「売上高累計構成比の◯%までをAグループ」といった形で、分析目的などに応じて割合を設定してグループ分けを行います。ABC分析は簡単な手順で全体を大局的に把握できるという利点がありますが、ひとつひとつのグループを構成する顧客数は多くなるため、デシル分析と比べても各グループのターゲット像は曖昧になります。

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5. デシル分析でのつまづきポイントと解消法

3章でも説明したようにデシル分析にも当然デメリットや注意点はあります。ただ、デシル分析自体の欠陥ではなく、数ある顧客分析手法と比較した際に、デシル分析の苦手な部分といった意味合いです。

デシル分析を使いこなすためにも、事前に注意点を把握しておきましょう。

注意点①:分析の精度が完璧ではない

デシル分析のメリットは、分析方法が簡潔で素早く実施できる点です。ただし、素早く実施するためにデータを単純化して理解する必要があるので、多くの要因を無視することにもなり、同時にデメリットにもなりえます。デシル分析では注目する要素を購入金額に絞っています。RFM分析の際にも登場したRecency(最終購買日)やFrequency(購買頻度)という重要な要素を無視しているため、現在の状況から外れた結果が導き出されかねません。

例えば、1年間の売上データを集計して分析します。この際に、高額商品を一度だけ購入した顧客や、11か月前は頻繁に購入していたものの10か月前から利用が一切ない顧客などが、購入金額の多さから優良顧客と判断される場合があります。デシル分析を使う際には、無視する要素も認識しておきましょう。

注意点②:詳細なマーケティング施策を行うには向いていない

注意点①でもご説明しましたが、Recency(最終購買日)やFrequency(購買頻度)の観点を無視しているので、セグメントごとの施策の精度も落ちてしまいます。

累計購入金額が同じであっても、現在頻繁に購入している顧客と、かつて頻繁に購入して顧客では有効な施策は異なります。現在頻繁に購入している顧客は、さらにリピートしてくれる可能性が高いでしょう。そのため、コストをかけた手厚い施策や、さらに頻繁に購入してもらう施策が有効です。しかし、かつて頻繁に購入していたものの、しばらく購入していない顧客に再度利用してもらうためには、より大きな割引などの目を引く施策が必要です。

デシル分析のデメリットを理解したうえで、そこを補完する効果的な分析をする方法も知っておくことが重要です。

まとめ

デシル分析は顧客分析の初歩としては最適です。しかし、慣れてきたら異なる期間で区切ったり、他の手法と併用したりして、より多面的に顧客データを見られるように工夫すべきです。

6.デシル分析の実践事例

デシル分析は顧客分析の中で最も初歩的な分析方法の1つである一方で、非常にシンプルに分かりやすく活用することが可能です。

6-1. EC業界での実践事例

EC業界においては、10個のグループに分けた後に、グループごとに応じたマーケティング施策を行います。例えば、デシル①~③に分類される上位顧客に対してはクーポンやDMを送付するといった施策が有効です。反対に、デシル⑥~⑩の下位グループには低単価の商品を訴求するなど、お得さを前面にアピールすることで、購買行動に繋がる可能性があります。

6-2. 飲食業界での実践事例

飲食業界においては、デシル①~③の来店頻度が高く多くの商品を購入していただいているグループには、自店舗のロイヤルカスタマーとして、これからも通い続けてもらえるようなコミュニケーション施策を行うようにします。一方で、新規来店してくれたお客様や、1~2回程度の購入に留まっているライトユーザーグループには、再来店を促す/2回目を手に取りやすくするといった「リピーター化」を目指す施策を行います。このようなきめ細やかなコミュニケーションは、顧客に対しても良い印象を残すでしょう。

7. デシル分析を行う際に使用するツール

顧客分析手法としておすすめのデシル分析ですが、ツールを活用して行うこともできます。Excelを使って簡単に行うこともできますし、その他のデータも保存して他の分析に利用したい場合はBIツールを活用することもおすすめです。

7-1. Excel

デシル分析だけを行いたい場合は、Excelでも十分に対応することが可能です。Excelを使ってデータを集計する場合は、最低限以下の4項目が必要となります。

【Excelでデシル分析を行う場合に必要な項目】
・商品の注文を識別できる項目:例)注文番号
・顧客を識別できる項目:例)顧客ID
・購買日
・購買金額

上記の項目をExcelにまとめ、ピボットテーブルを利用して集計を行えば、簡単に顧客ごとの購買金額や累積購買金額ごとにデータをまとめることができます。

7-2. BIツール

Excelを利用しても行うことができるデシル分析ですが、分析した結果をレポートで可視化したい場合や分析工数を削減したい場合、さらに高度な分析も実施したい場合は、BIツールの活用も有効です。

[参考記事]
BIツールとは?データを分析→ビジュアライズで生産性向上|選び方・失敗例も紹介!

BIツールのでも特にデシル分析に有効なBIツールを6つご紹介します。

おすすめツール①:Qlik Sense

レポート作成機能やダッシュボード機能のほか、CDP機能も含まれるためデータベースが不要です。オンプレミス型のためカスタマイズも細かく可能です。

おすすめツール②:Yellowfin

分析に必要なレポーティング機能やダッシュボード機能だけでなく、複数人で共同作業できる機能やチャット機能、採決機能が搭載されています。分析の際には手動でのデータ統合が必要となります。Google AnalyticsやSalesforceといった3rdパーティーデータとも連携可能です。価格は、5ユーザーあたり月額25,000円です。

おすすめツール③:DOMO

レポート/ダッシュボード機能のほか、データクレンジング機能やデータ統合基盤としての機能が備わっています。共同作業ができるコラボレーション機能やアラート機能、メール通知機能も搭載されています。

おすすめツール④:Motion Board

分析機能やダッシュボード機能のほかに、帳票基盤ソリューション「SVF」、帳票クラウド「SVF Cloud」と連携することで帳簿、伝票などの帳票レポートを作成できます。機能の種類が豊富ですが、その場限りのデータ抽出や複雑な分析を行うことができず、あらかじめ設定されている分析方法でしか分析できません。初期費用100,000円、ライセンス料はプランによって異なりますが、価格は10ユーザーで30,000円から90,000円です。

おすすめツール⑤:Tableau

UI/UXが非常にわかりやすいため、誰でも簡単に扱うことが可能です。データ統合基盤は備えていないため、データの整備に時間がかかります。バージョンによりますが、1ユーザー当たり年間約5万円から10万円ほどかかります。

おすすめツール⑥:b→dash

データの収集や加工/統合のみならずBIやMA、web接客などマーケティングに必要な機能がAll in Oneで搭載されています。また、CDPを利用する際にはSQLを扱う必要があるのが一般的ですが、b→dashではExcelを扱うようにノーコードで簡単にデータの加工/統合が可能です。

BIツールについてその概要から、各社ツールの比較、選定ポイントまでさらに詳しく知りたい方は、下記資料にてご紹介しておりますので、こちらも是非合わせてご一読ください。

8. まとめ

今回はデシル分析とは何か、他の分析の違いやその実践事例を交えながら、メリット・デメリットなどを説明しました。デシル分析によって優良顧客とそれ以外の顧客をきっちりと区別し、ターゲットの特性にマッチするマーケティング施策を考え、実施することは重要な取り組みです。

ただし、先述の通りデシル分析は手軽に始めやすい一方で、緻密な分析には向かないため注意が必要です。全体への当たりをつけたり、今後の施策の方向性を決めたりする際に有効活用してみましょう。また、デメリットをカバーするためには他の分析手法やツールと併用することがおすすめです。改めてデシル分析とは何かについて理解を深めて、蓄積してきた顧客データを有効活用していきましょう。

弊社が提供している マーケティングツール『b→dash』 は、マーケティングプロセス上に 存在する全てのビジネスデータを、ノーコードで、一元的に取得・統合・活用・分析することが可能なSaaS型データマーケティングプラットフォームであり、BtoC業界を中心に、様々な業種・業態のお客様にご導入頂いております。

Editor Profile

  • 福井 和典

    株式会社データX マーケティング管掌執行役員

    日本IBMにてシステムエンジニア、GREEにてCRM領域のオペレーション企画、PwCでの業務コンサルタントとしての経験を経て、2016年よりデータXに入社。データX入社後は、カスタマーサクセス部門に在籍し、小売/金融/アパレル/ECなど幅広い業種に対するb→dash導入支援を統括。
    その後は、主にb→dashのマーケティング/広報/PR活動や事業企画に従事。

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