2018年3月8日、東京・五反田でデータマーケティングをテーマとした育成スクール『b→academy』※1(運営:マーケテイングプラットフォーム「b→dash」)が開講された。企画責任者を務めるチェアマンとして、オイシックスドット大地株式会社のCMT(チーフマーケティングテクノロジスト)兼 株式会社フロムスクラッチCIO(チーフイノベーションオフィサー)西井敏恭が開講の挨拶をした後、第1回目のゲストとして株式会社エウレカCPO/CMOの中村裕一氏が登場。「Pairsのデータマーケティング」と題し、オンラインデーティングサービス『Pairs』がサービスローンチ後急成長を継続してきた成功の裏側について、データマーケティングの視点で語った。

Facebookページで初期ユーザーを獲得

Pairsは2012年にサービスローンチされた、国内最大級の恋愛・婚活マッチングサービス。当時既にオンラインの婚活サービスはいくつか存在しており、Pairsは後発サービスであった。しかし、サービス開始からわずか5年で会員数は累計700万人を超える規模に成長し、日本だけでなく台湾と韓国にも展開している。中村氏はエウレカがまだ社員数3名ほどの時にインターン生として加わり、その後Pairs事業の立上げから現在までその成長を牽引してきた立役者だ。

Pairsのサービス特徴は、ユーザーが相手を見つけて実際に会うまでの6つのステップ。

①会員登録する
②理想の条件で好みの相手を探す
③相手のプロフィールを確認する
④いいね!を送る(メッセージ交換を相手に希望する)
⑤マッチングする(相手からメッセージ交換の同意を得られる)
⑥メッセージのやりとりをする

 

という流れの中で、6つ目のメッセージのやりとりを行うには男性ユーザーの課金が必要となる。つまり、コンバージョンに至るには、会員登録と課金の2つのハードルがあるのだ。そのため、まずはいかに会員登録をしてもらい、その後課金をして利用継続してもらうかが事業を伸ばす上での重要なポイントになる。サービスローンチ後、最初の壁であるユーザー獲得フェーズを乗り越えることができたのは、Facebookファンページの運用に成功したことが大きい。

まだ知名度が低く広告予算も限られているなかで、オーガニックと広告いずれもユーザー獲得に苦戦し、予算消化により広告がストップしてしまうと、どうにもならない状況だった。Facebookファンページの運用であれば、基本的には予算が必要なく、いいね!をしてくれたフォロワー経由で見込みユーザープールを作ることができるので、その点に注目した。

見込みユーザープールを形成する方法として、「相性占い」や「性格診断」などの診断系アプリを3ヶ月で少なくとも100個ほどは作った。それらを利用するには、Pairsのファンページにいいね!をすることが必須という仕組みが当時可能だったことから、診断系アプリの増加とともにPairsに流入してくる新規ユーザー数も激増。Pairsが恋愛・婚活マッチングサービスということもあり、これらのアプリとの親和性が高かったのも成功要因の一つだと当時を振り返る。

成長を阻むのはオンラインからの
出会いへの抵抗意識

難しかったのは、口コミで人を増やすこと。
そもそも「Pairsを使って恋人ができたとか結婚したということを他人にオープンに言える人がまだ少ない」というのが当時の大きな課題だった。そこでPairsを「家族や友人に堂々と言えるようなサービスにする」ことが最重要目標となった。会員数や知名度は着実に上がってきてはいるが、サービス規模が非連続的に成長して大きくなっていくためには、ブランドを作って、オンラインデーティングサービスで出会うことを文化として根付かせることが必要だと考えたのだ。

この課題を乗り越えるためのアプローチは2つ。1つ目は、Pairsで出会うことへのハードルを下げること。条件検索だけで相手を見つけるのではなく、コミュニティ機能を使って趣味・価値観・ライフスタイルなどでの共通点からも理想の相手を探せるようにすることで、Pairsをきっかけに出会う経験を重ねてもらい、その結果としてPairsを使いやすくしようという設計だ。2つ目は、他のサービスブランドとコラボレートすること。例えば、大手飲料メーカーのキリンのような、生活者にとってすでに身近な存在となっている既存ブランドと組んだマッチングイベントやキャンペーンを行うことで、ユーザーに安心感を抱いてもらうことが狙いだ。親や友人だけでなく、親戚や職場の上司・同僚にもオープンにできるようにするべく、引き続きこれらのアプローチを通した地道なブランド施策を続けている。

意味のないKPIは不要
比較データから見るPairsの顧客分析方法とは

Pairsが、初期のユーザー獲得に成功した後も継続的に会員数と売上を伸ばし続けられたのは、徹底的なデータマネジメントが実現できていたからだ。あまり良くないのは、数字の本質を理解せずにトップダウンで「今年の目標は前年の35%UPとしよう」といった意味のない目標の立て方をすることだ。数字そのものだけでは、35%がまだまだストレッチできる余地があるのか、上限を迎えていて実現不可能なのかが分からない。

一方Pairsでは、データを成形することによって“比較データ”をうまく活用していた。例えば、仮にPairsでのマッチング率が30%だったとして、この時点では30%が高いのか低いのか判断ができない。もし30%が上限だったらこの数字を向上させるために時間を使う必要はないが、もし競合が60%だったら絶対に施策を行うべきである。ただ競合の内部データは手に入れることはできない。そこで考えたのがKPIをセグメント別に比較することだ。そうするとセグメントごとの傾向が見えるので、それぞれに対するアプローチが可能になる。Pairsの場合、例えば課金ユーザーを“ロイヤリティ”というセグメントで分けると、一度課金した後に途中で無料プランに戻ったユーザー(優良離脱顧客)のいいね!率が、課金ユーザー全体のいいね!率と比べて低いということがわかったりする。その分析から、優良離脱顧客のいいね!率が低い理由を考えて、個別の改善施策につなげることができる。他にも、分類したセグメントをさらに別のセグメントで分けてさらに細かく分析しており、年齢別や利用頻度別なども使う。

セグメントごとに細分化して、比較する上で注意していることが2つある。1つ目は、その施策を行うことで全体のボリュームが増えているかどうかということ。1つのセグメントの値を上げることだけに注力していると他のセグメントにも影響を及ぼしてしまい、全体のボリュームが下がってしまうことが起こり得る。そのため、施策を行うときは「値Aは変わらないが、値Bは上がる」という想定をした上で意思決定するようにしている。2つ目は、セグメントごとの特徴を理解した後は、どこまでそのセグメントを群に戻しても問題がないか見極めること。セグメントを細かく分けていくと施策が増えて、運用・開発コストもかさんでしまう。そのため、セグメントの各条件を取り除いても結果に影響が出ない範囲で細分化したセグメントを一定規模の群に戻し、施策を行っていくことが大切である。

エウレカにDNAとして染みつく
データドリブンな日常会話

最後に中村氏は、エウレカの文化として「データを比較できる形にすること」が日常のコミュニケーションにおいても根付いていると語った。データの話をするときは「どのセグメントなのか」「比較対象はあるのか」といった点に必ず言及している。例えば、いいね!率について話せば「誰の?若年層?30歳前後?年配者?」と誰かが確認をする。「それってAと比べてどうなの?高いのか?低いのか?」という質問も必ず出てくる。もし比較していない場合は「なんでやっていないの?感覚での高い低い、というのは要らないよね」というようなコミュニケーションが常時行われている。そういった文化が浸透しているからこそ、データドリブンで意思決定することが当たり前になっている。

会は終始盛り上がり、中村氏のセッション後、参加者からは本日のトピックであった「データの成形」についての質問や、自社のデータ施策に関する相談など多くの手が上がった。セッション後には懇親会があり、データマーケティングに課題意識を持つ参加者同士が交流した。「社内のメンバー皆で参加したらよかった」「普段なかなか聞けないデータマーケティングの苦労や、乗り越え方について聞けた」「今まさに悩んでいるトピックだったので頭が整理された」といった声が寄せられた。

今後、当アカデミーは4月、6月と継続的に開催される予定で随時Webサイトにて最新情報が案内される。

弊社が提供している マーケティングツール『b→dash』 は、マーケティングプロセス上に 存在する全てのビジネスデータを、ノーコードで、一元的に取得・統合・活用・分析することが可能なSaaS型データマーケティングプラットフォームであり、BtoC業界を中心に、様々な業種・業態のお客様にご導入頂いております。

Editor Profile

  • 福井 和典

    株式会社データX マーケティング管掌執行役員

    日本IBMにてシステムエンジニア、GREEにてCRM領域のオペレーション企画、PwCでの業務コンサルタントとしての経験を経て、2016年よりデータXに入社。データX入社後は、カスタマーサクセス部門に在籍し、小売/金融/アパレル/ECなど幅広い業種に対するb→dash導入支援を統括。
    その後は、主にb→dashのマーケティング/広報/PR活動や事業企画に従事。

Event Overview

開催日時 2018年 3月 8日 (木)

サービスリリース後約5年で累計700万人の会員サービスへと急成長したオンラインデーティングサービス「Pairs」。今や知らない人はいないと思います。しかし、なぜ彼らがゼロから市場を築き、繰り返し利用されるサービスとしてユーザーに定着したのか、その本質的な成功要因を知っている人はほとんどいません。今回、Pairsのサービス立上げから事業の急成長を牽引してきたエウレカCPO/CMOの中村氏よりこれまで明かされることのなかった秘密を語っていただきます。国内・海外問わず、先進事例を参考に、いかに新規顧客を開拓し、優良顧客を増やすべきなのか、独自の戦略とKPIを設計してきたと言う中村氏。今回の講義では、どの業界でも応用できる顧客分析やKPI設計、One to oneマーケティングのポイントなど、“データの力”を余すことなく解説頂きます。

Speaker Profile

  • 中村 裕一

    エウレカ

    取締役CPO/CMO

    2011年、横浜市立大学大学院を中退。その後株式会社エウレカに入社し、大手化粧品企業向けの口コミ広告事業に従事。2012年、同社マーケティング事業部のマネージャーとして、企業のFacebookを活用した集客支援を行う。Pairsの立ち上げとともに、Facebookページの集客事業の立ち上げ、1年間で250万人を超えるファンを獲得、リーチ数で国内No.1ファンページに育てる。2014年、執行役員CSOに就任。2016年、取締役CPO/CMO就任。

About b→academy

b→academyは“Innovation・Data・Digital”をテーマに取り上げるマーケター育成のためのスクール。
従来のマーケティングのトピックにテクノロジーの要素を取り入れることで、データマーケティングの集合知を創ることを目指しており、当アカデミーのチェアマンは、オイシックス・ラ・大地株式会社のCMT(チーフマーケティングテクノロジスト)兼 株式会社フロムスクラッチCIO(チーフイノベーションオフィサー)西井敏恭が企画責任者を務める。今後継続的に開催されるこのイベントでは、“データ経営時代”の先頭を走るマーケターを招き、最先端のトピックを取り上げる。

https://bdash-marketing.com/seminar/b-academy/
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