株式会社メルカリがローンチした「スマホ決済サービス」であるメルペイは、サービスとして後発組ながら全国170万か所に加盟店を広げている。同社でディレクターとしてマーケティングに責任を持つ山代 真啓氏はメルペイの立上げからジョインし、同サービスの急成長に貢献している。
Indeedは、世界最大級の求人検索エンジンである。Web上のあらゆる求人情報をクローリングし、求職者と求人企業両方に対してサービスを展開している。同社のマーケティングディレクター水島 剛氏は、Indeedの求職者及び採用担当者両面のマーケティングコミュニケーションを統括している。
グロースハック実現の“大前提”「KPIの設定のポイント」とは
まずはメルペイの山代氏にお話頂いた。
マーケターが売上責任を持つ体制の中で設定されるべき「KPI」とは何か。山代氏が話を続ける。
山代非連続的な成長を実現するために、やはり『GO BOLD』な目標設定が重要です。もちろん無理な目標設定はしません。正しく現状を理解して、高い目標とのギャップを埋めていく事がマーケティングの仕事です。
具体的なKPIとしては、例えばCPAやLTVを最重視しています。アプリの世界ではここに本質があると考えています。1人のお客様を獲得するのにいくら必要なのか、そのお客様がいくらの価値をもたらしてくれるのか、こだわって可視化しなければなりません。
続いて、Indeedの水島氏からKPI設定時に心がけている事をお話頂いた。
Indeed Japan株式会社 マーケティングディレクター 水島 剛 氏
水島我々のKPIは、ジョブシーカー(就職希望者)への認知度や求人案件の投稿数です。大切にしているのは、投資のリターンの見立てをどれほど幅広く考えられるかです。
例えば、ジョブシーカー向けのCMを打った場合、ブリーフィングでは、ジョブシーカーへの認知度や増加を目標としていますが、結果としては、使っている企業側のスコアが上がるし、例えばIndeedで働きたいという人も増える。こういった予期せぬリターンをどこまで視野を広げて考えられるかが重要ポイントだと考えています。
世間を賑わした話題のキャンペーンの意図とは
世間で大きな話題を作ったキャンペーンを展開した両社だが、何を意図し目指していたのか。
Case1 株式会社メルペイ
〝すすめるペイ″キャンペーン
山代「招待キャンペーンを実施しました。当キャンペーンの目的は、特に若年層を動かし、最終的にメルペイのユーザーになって頂くこと。そして同時に、既存ユーザーの利用と定着を促すことです。
第一弾として、若い方々への影響力が高いyoutuberの『ヒカキン』さん、『はじめしゃちょー』さんを起用しました。そして、youtuberとファンが互いに交流できる場も用意し、盛り上がれる場を提供しました。また、招待する側もされる側も得をするようにポイントを付与する、といった仕掛けをいくつも実施しました。
第二弾に起用したのは『きゃりーぱみゅぱみゅ』さんです。やはり若年層の利用拡大が狙いです。この仕掛けでは、特別招待コードの入力者が一定以上に達すると、きゃりーさんが新曲を出すというゲーム性を取り入れました。
招待プログラムというグロースの仕組みと、話題性のある企画、TVCMなどのオフライン施策からデジタル、特にyoutubeを軸にしたマーケティングの展開によって、狙い通り若年層のお客さまにメルペイを使ってもらい、トップラインを伸ばすことに成功した企画の一つです。
株式会社メルペイ ディレクター マーケティング責任者 山代 真啓 氏
Case2 Indeed Japan株式会社
“ワンピース”キャンペーン
水島Indeedで仕事を探す方の数、Indeedで求人をする企業数、2つのKPIを同時に急激に成長させたい、と考えていました。このCMの前に展開していたCMでもIndeedの認知度は上がり成果につながっていましたが、Indeedへの流入数(PVなど)はもっと伸びるはずだ、と考えていました。過去のCMでは動かなかった層を動かすきっかけを作りたかったのです。
そこで、国民的漫画であり、私たちがターゲットとする世代の方なら誰もが知っているであろう『ワンピース』とコラボさせて頂き、キャンペーンを展開しました。
結果として設定していたあらゆるKPIが増加しましたが、それはこのコラボによって、『「仕事探しならIndeed」という求職者側の認識、求人活動ならIndeed』という企業側の認識、どちらも作ることができたからだと思います。
さらに、『仕事を現時点では能動的に探していないけれど今の仕事に満足もしていない』といった人に対して、『Indeedでの仕事探しは楽しそう』という印象も与え、市場全体の求職者数の増加にも成功したのではないかと考えています。
グロースハック実現のためのメンバーのスキルセットや組織体制とは
山代具体的に事業成長のためにグロースハックを実践していくためには組織作りが欠かせない。先行して成果を生み出している2社の考えを伺った。
メンバーという観点では、データアナリストの重要性を感じています。マーケティングがパフォーマンスを発揮するためには、すべてのKPIを可視化出来なければならず、データアナリストはある種の羅針盤になっています。
また、組織体制という観点では、獲得、オフライン、CRM、店頭などあらゆるマーケティング機能を一人の責任者が見るべきであると考えています。具体的には、各プロジェクトでオーナーを立て、その人間が全ての機能を管轄する体制を組んでいます。
水島マーケティングは『機能と機能を繋げてより各機能を機能させるための機能である』と考えています。事業成長に責任を持つマーケターは、相応のビッグアイディアを求められます。ビッグアイディアを作り出すには、ブランディングやアクティベーション、PRなどマーケティングが関わるあらゆる観点のアイディア・企画を掛け合わせる必要があります。
こう考えると、マーケターは1人で何かを成し遂げることはできません。様々な部署と話をし、自らの考え、企画をブラッシュアップし、組織全体を動かす必要があります。
したがって、『アイディアをぶつけ合うことができるか』『自分のファンクションに留まらない』という点は非常に重要です。
この考え方を実現するために、グローバルと日本とでは組織体制を変えました。マーケティングディレクターがあらゆる機能を横ぐしで見られるようにしました。
また、今日本のマーケティングチームは全員私が面接をして採用したメンバーですが、全メンバーに、自分の領域を越えて仕事をし、成果を残すことを伝え、同意してくれた者たちです。
ビジネスをグロースさせるためマーケターとしてこだわっていること
最後に、二人の考える「ビジネスグロースのための肝」をシェア頂いた。
山代まず、『プロダクトとマーケティングを融合できているか』という点です。マーケターは事業責任者として、全ての機能を管轄するべきです。
次に、『センターピンとなるKPIを決める』ことです。二つ同時に追わず、一つ一つしっかり追い、達成することが大切です。エネルギーをその時点で一つに集中させるべきと考えています。
最後に『数字を追いかける組織を作る』という点です。弊社の場合、毎朝Slackで事業のKPIが見られるようになっています。そしてそれを全社員が確認できます。1人でビジネスを成功させることはできませんので、数字作りに本気になっている集団を作ることを私自身常に意識しています。
水島ビッグアイディアを生み出すことも非常に大切ですが、日々、1%の改善を積み重ねられるかが鍵だと考えています。1%の成長を大切にし、最終的に100%、200%の成長に繋げられるか、これが成長するサービスとそうでないサービスとの分岐点だと考えています。
また、グロースハックはマーケテイングだけではなく、自分達のチーム作りでも応用出来ます。様々な領域でグロースハックの考えで取り組む事が大事だと考えています。
弊社が提供している マーケティングツール『b→dash』 は、マーケティングプロセス上に 存在する全てのビジネスデータを、ノーコードで、一元的に取得・統合・活用・分析することが可能なSaaS型データマーケティングプラットフォームであり、BtoC業界を中心に、様々な業種・業態のお客様にご導入頂いております。
Editor Profile
Speaker Profile
-
山代 真啓
メルペイ
ディレクター マーケティング責任者
慶應義塾大学を卒業後、P&G Japan マーケティング本部に入社。 紙おむつ「パンパース」ブランドの日本市場を担当後、シンガポールにて同ブランドのグローバル、アジア市場のブランドマネージャーに。 その後ヘアケアブランド「パンテーン」の商品開発、マーケティングを牽引。2017年6月より株式会社メルカリに入社。 マーケティングチームマネージャーとして、TV CM等ブランディング、獲得型オンラインマーケティング、グロース領域までマーケティング全般を統括。2018年4月からはメルペイに異動し、マーケティングとHRを兼務、組織の立ち上げに従事。7月よりグロースチームのマーケティング責任者としてディレクターを務める。
-
水島 剛
Indeed Japan
マーケティングディレクター
2004年米国ボストン大学学士号取得。05年博報堂入社。戦略プランナーとして、家電、車、ゲーム、流通、コスメ、飲料、教育、インフラ、動画コンテンツ等、様々な企業やサービスのマーケティング課題の解決業務に携わる。15年LINE株式会社に入社。『LINE バイト』『LINE Pay』のマーケティング責任者として、戦略立案から施策実行まで全プロセスをリード。18年2月より現職。Indeed Japanの求職者向け、及び採用担当者向けのマーケティングコミュニケーションを統括する。
-
中俣 博之
START
代表取締役社長
新潟市内野生まれ。学生起業を経て、2006年から2014年までDeNAに在籍。ゲーム事業部長として、主にアジア/ヨーロッパ企業とのゲーム開発の協業事業等を推進。2014年7月に株式会社LITALICOに入社。同年10月に経営企画/HR/マーケティング/新規事業領域の管掌取締役に就任。2016年に東証マザーズ上場、翌年に東証一部市場へ。2019年に同社の役員を退任し、スタートアップ支援の株式会社STARTを設立し、代表取締役社長に就任(現任)。その他には、株式会社フロムスクラッチ取締役、株式会社ライトマップ取締役等複数社の経営に携わる。
About MiXER
2019年 11月20日〜21日の2日間、ANAインターコンチネンタルホテル東京において、“マーケティングの未来を見に行く2日間”をテーマに、世界No1サービスをリードするマーケターや、近未来のデファクトスタンダードの創造を目指すサービスクリエイター、更には人気芸能人まで、約70名に及ぶ各領域のトップランナーが登壇した『MiXER - THE MARKETING CONFERENCE』。初開催となった『MiXER』は、約3万のセッション申込数、約5千人の来場者が参加し、大変な盛り上がりの中、終了した。
日時:2019年 11月 20日(水)~ 21日(木)
時間:20日 13:00~、21日 10:00~
場所:ANAインターコンチネンタルホテル東京(東京都港区赤坂1-12-33)
参加費:無料
山代消費財などの分野では、マーケティングが売上責任を負うという理解の浸透度は高いと思います。しかし、弊社のようなITサービスのセクターではまだその意識が育っていないと感じています。マーケティングと事業グロースは一体だと思っていますので、マーケティングがトップラインの結果責任を持つべきでしょう。