世の中の男女から圧倒的な支持を集めるファッションブランド、ナノ・ユニバース(nano・universe)。
WEB戦略部部長、越智将平氏は「ブランドオリジナリティを生み出すためのマーケティングが重要」と語る。EC、店舗で取得するデータを活用し、EC化率40%を誇る同ブランドの成長の裏側は、そしてこれから見据える店舗×ネットの未来とは。お話を伺った。

まずはこれまでの越智さんの取り組みについて教えてください。

ナノ・ユニバースには2002年に入社しました。最初は店舗で働いていて、5年くらい経ったタイミングで店舗と兼任という形でECを担当し始めました。当時はアパレル会社の中にWebの専門部署が無い時代だったので、店舗と兼任しながらもコーポレートサイト等の立ち上げに関わって、少しずつWebの仕事が増えていきました。その後にメルマガやPUSH通知が一般的になってきて、徐々にマーケティング領域全般も担当するようになった形です。

その中で会社としても個人としても大きなターニングポイントだったのが2014年の10月です。それまで温めてきたオムニチャネル系の戦略を、一気にリリースするタイミングがあり、そこからナノ・ユニバースの新しいフェーズが始まりました。
具体的に取り組んだことは大きく2つあって、1つはアプリのリリースに伴う会員IDの統合です。これまでバラバラに管理されていたお客様のデータを一つのIDに統合しました。もう1つは、自社ECサイトの構築です。それまでは外部サービスを使って在庫を預けるだけのミラーサイトのようなECサイトだったのですが、自社ですべてサービス設計した本物の自社ECに切り替えました。これをきっかけにデジタルを活用したマーケティングが社内でも本格化してきました。

2014年段階で踏み切ったきっかけは何かあったんですか?

2013年段階から計画は進めていたんですが、当時ナノ・ユニバースとして今後どういう戦略をとっていくかを議論していた時に、ちょうど世の中でオムニチャネルという言葉が出始めてきた頃ということもあり、やはりキーワードはWebだろうという話になりました。しかも当時はまだEC化率の平均値が5%くらいの時代にも関わらず、弊社はすでに25%もあったんです。周りと比べて相当ECに振り切っている会社だったんですね。
今でこそ当たり前ですが、そうなるとECと店舗での買い回りが当然のように起きてきます。かつ他のセレクトショップと比べてユーザーの年齢も若かったので、デジタルに対する受け入れが強い方や、ECに対する精神的なハードルも低い方がたくさんいました。もっとデジタルを上手く生かしたマーケティングやサービスを仕掛けていかない限り、店舗はこれ以上成長できないと感じていました。そのような背景もあって、2013年頃から色々なアイデアを出しながら進めていきました。

メインのターゲット層としては、どういった層を見ていらっしゃったのですか?

当時と今で若干変わってはいるものの、基本的には30代中心です。男性で言えば、社会人として余裕が出てきたお客様、女性で言えば、お子様の出産・結婚といったライフイベントがあって、生活のスタイルが変わるタイミングにいるお客様ですね。30代になるとファッションのテイストや生き方も変わってくるので、そのような方々がメインのターゲットになっています。

2014年の段階でデジタルマーケティングを推進していくにあたって、成功談や失敗談があれば教えてください。

失敗は山ほどあるので成功談からお話すると、アパレル業界の中では率先してメンバーズカードを完全アプリ化できたことです。店舗とも連携して、メンバーズカードをアプリ化したんですが、この1つのプロジェクトでも成功と失敗がたくさんありました。やはり現場の立場からは、まだアプリを信じ切れないという声が続出したんです。店長会でアンケートをとっても95%が反対をしていて、「アプリのダウンロードなんて絶対にお客様はしてくれない」、「カードの方が手軽だし、直接紙に個人情報を書いてもらう方が現実的」という意見が大半を占めていました。今思えばあるある話なんですが、テクノロジー化することへの現場の抵抗感は予想以上に大きいんです。でも実際フタをあけてみると、思っていたよりアプリへの抵抗感はお客様にはなくて、ダウンロード数は伸びていきました。

ちょっと工夫したこととしては、紙のマニュアルをデジタル化して、デジタルのマニュアルを作ったことです。当初は店長会でアプリ化のアナウンスをする際に、ダウンロードの方法はこうやって伝えてください、ダウンロードの得点のポイントはこうですとか、細かいオペレーションを資料ベースで説明していました。みなさん一生懸命メモは取ってくれるんですが、店長からするとそれをお店に持ち帰ってスタッフに伝えるのって地獄の作業なんですよね(笑)。みなさんITに明るい訳でもないですし。そこで、本部側もちょっとやり方を変えて、用途に応じたタブレットで見られるマニュアルを作りました。

これであれば誰でもサクサクと見ることができますし、例えば、アプリ使用時のポイント付与の仕方や、新規入会のやり方は全て動画を撮って、動画を見ながら覚えれば理解しやすいこともわかりました。そういったマニュアル周りを徹底的に強化して、新人のスタッフでもタブレットだけ渡せば覚えてもらえるようにしたり、店長の負担軽減になるようなことは色々とやりました。当然他にもWi-Fiを置いたり、ネットワークの環境を整えたりしていったところ、アプリのダウンロード数も非常に伸びて、初年度で約40万ダウンロードも達成することができました。デジタル広告を一切実施せずに、ほぼ店舗だけでこの数字を達成できたのは非常に大きな成功体験ですね。

確かにそれは非常に大きな成功体験ですね。いかに店舗を巻き込んでいけるかが重要に感じます。

メンバーズカードのデジタル移行は近年オムニチャネルの基本になってきていますが、僕らの場合、店舗の有力なスタッフが全国に数百人いるので、そのスタッフの力を借りてアプリを宣伝していくというコツをつかめたことが非常に大きいです。そうすると面白いことに、ECの売り上げも同時に伸びていくんですよね。これをマーケティングと呼ぶのかわからないですが、店舗を活かしたデジタルマーケティングはネット専業の会社にはできないことなので、店舗の力を最大限に活用できたことはEC成功における大きな鍵だったんじゃないかと思います。

ナノ・ユニバースさんは、POSレジのタブレット化等、先行して色々な取り組みをしていると思います。経営レベルで先進的な取り組みを決断したり、現場の意見を吸い上げて推進させていったりと、同じようなことを他の会社が実現するには障壁も多いと思いますが、ナノ・ユニバースが実現できている理由はどこにあるのでしょうか。

ナノ・ユニバースは昔から基本的な経営方針として、ECを中心としたデジタル領域への積極的な投資に覚悟を決めていました。なので、よく他の会社から聞くような、やりたいけどできない、といったストレスは比較的少ないです。経営判断においても、権限委譲をしてくれて、積極的に投資をしているところがナノ・ユニバースの特徴なので、そこは最大限に生かしてやっていますね。逆に言ってしまえば、経営者が判断しない限り絶対に進んで行かない部分だと思います。

メガネスーパーの川添さんも「ECの成功可否は経営判断に委ねられる」とおっしゃっていました。

そうですね、現場リーダーと経営者の間で信頼関係と権限委譲ができていないと、なかなか進まないように感じます。

ちなみに、今はどのような業務をされているのですか?

今はアプリのリニューアルや、ECの改修などですね。基本的にはデジタルマーケティング領域を見ています。注力領域でいうとアプリのリニューアルですね。第一フェーズとしてメンバーズカードのアプリ化は達成して、この2年間でダウンロード数も80万DLくらいまで行きました。非常にうまくいっているんですが、次のフェーズに向けてアプリに関してはさらに投資をする必要があると感じています。

どのようなリニューアルを想定しているのでしょうか?

一言で言うと、店舗とWebの繋がりを更に強化するアプリになると思います。世間一般でも言われていることですが、店舗とEC両方来ていただくお客様の方が年間の購入額が高いというのは明らかです。現状、店舗に来ていただいたお客様にWebに来ていただくという、Offline to Onlineはできているんですが、更にもう一回店舗に行っていただくというところまではできていません。お客様にリアルとデジタルをループしていただく、とでも言うのでしょうか。もう一回店舗に行きたくなるような仕掛けをアプリでは実現出来ればと思っています。

あとはもう少し現場レベルのマーケティングの話ですと、僕が所属するWeb戦略部は、Webのことだけでなく店舗の販促もやっているんです。なので、ECサイトと店舗それぞれで乖離が起きないように、同じイメージでお客様にメッセージを伝えるという部分にも注力していますね。

なるほど。店舗とEC関係なく、ナノ・ユニバースの体験価値をお客様に提供するということですね。

そのとおりです。最近ではデジタル起点でのプロモーションやコンセプト発想も増えてきています。例えば、あるブランドを発表する時に、ECサイトでどんなLPを作るかとか、そこにどんな動画を作ろうかとか、まずはデジタルから発想してディスカッションを始めて、出来上がったイメージやコンセプトを店舗のディスプレイにも展開するようなこともやりはじめています。

具体的にはどのようなことを実施されてきたんでしょうか。

ナノ・ユニバースが秋冬に注力している、東京西川さんコラボの西川ダウンという商品があるんですが、本格的な寒冷地でも耐えられるような機能性と、都会の生活に馴染むタウンユースなデザインという両面を表現することがマーケティングのテーマでした。
雪山と都会がミックスされているビジュアルを軸にすることが決まり、CGを駆使して、都会を歩いているけど雪山が見えるようなイメージの動画も作ってLPを作成しました。さらに店舗のディスプレイに関しても、Webのコンテンツ発信で、背景には雪山、手前には都会があるような販促ツールも作成しました。

このような件が今とても増えています。アパレルの場合、Webサイトを見てから店舗に来る、店舗を見てからWebサイトに来るというお客様が非常に多いんです。店舗に行って初めて商品を見たけど、その場では買わずに、ちょっと気になってWebサイトでチェックするっていう経験よくありますよね。その時に、店舗とWebサイトが全く違う世界観だと、がっかりすると思うんです。その逆もしかりで、顧客体験を考えるとそれでは絶対にダメだと思うんです。今はそれをなくすために店舗とWebの統一感を大事にしています。

弊社が提供している マーケティングツール『b→dash』 は、マーケティングプロセス上に 存在する全てのビジネスデータを、ノーコードで、一元的に取得・統合・活用・分析することが可能なSaaS型データマーケティングプラットフォームであり、BtoC業界を中心に、様々な業種・業態のお客様にご導入頂いております。

Editor Profile

  • 福井 和典

    株式会社データX マーケティング管掌執行役員

    日本IBMにてシステムエンジニア、GREEにてCRM領域のオペレーション企画、PwCでの業務コンサルタントとしての経験を経て、2016年よりデータXに入社。データX入社後は、カスタマーサクセス部門に在籍し、小売/金融/アパレル/ECなど幅広い業種に対するb→dash導入支援を統括。
    その後は、主にb→dashのマーケティング/広報/PR活動や事業企画に従事。

Speaker Profile

  • 越智 将平

    ナノ・ユニバース

    経営企画本部 WEB戦略部 部長

    2002年 株式会社ナノ・ユニバース入社。店舗での販売業務を経て、2005年よりECの担当となる。
    2010年よりWEB事業の責任者として、EC事業の拡大、会員制度の構築、デジタルマーケティングを中心に取り組んできた。現在はオムニチャネル戦略を推進中。

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