リテンション(retention)とは、「保持」「維持」という意味の英語です。リテンションマーケティングとは、既存の顧客との良好な関係性を維持していくための施策を指します。新規顧客の獲得ではなく、既存の顧客に対してリピート購入や定期購入への引き上げを促すためのマーケティング施策です。
既存の顧客と長期的な関係を築くためには、丁寧なコミュニケーション、良い体験、高い価値を提供することによって、「またこの商品・サービスを使いたい」と思ってもらうことが大切です。今回は顧客と良い関係を維持していくための「リテンションマーケティング」について解説します。

弊社が提供している マーケティングツール『b→dash』 は、顧客の情報収集や分析を徹底して行い、適切なフォローやアプローチをしてリテンション率を向上させるために必須となる、BIやMA、CDPといった機能がAll in Oneで搭載されているツールとなっています。

1. リテンションマーケティングとは?

1-1. 注目されている背景

近年、リテンションマーケティングが注目されている背景として、売上増加には新規顧客獲得よりも、顧客維持(リテンション)に注力した方が売上につながりやすいという見方が広がっているためです。

1-2. 企業にとっての重要性

リテンションマーケティングは、主に「LTVの向上」「費用対効果の良さ」「休眠・離反顧客の掘り起こし」「顧客ロイヤリティ向上による新規顧客の獲得」といった観点から、企業成長に貢献することができます。

 2. リテンションマーケティングのメリット・効果とは

2-1. LTVの向上

リテンションマーケティングによって、利用をリピートする顧客が増えると、将来的な収益性を考える指標、LTVが向上します。LTVとは顧客生涯価値を意味する言葉で、1人の顧客が取引を始めてから終わるまでの期間にもたらす利益の総額を指します。「1:5の法則」(※1)や「5:25の法則」(※2)で言われるように、新規で顧客を獲得するよりも既存の顧客を維持する方が、コストも時間もかからないため、利益率の向上が見込めます。

(※1)「1:5の法則」とは、新規顧客を獲得するためには、既存の顧客を維持するコストの5倍のコストが必要というマーケティングの法則のことを指します

(※2)「5:25の法則」とは、顧客離れを5%改善できれば、最低でも25%の収益向上が見込めるというマーケティングの法則のことを指します。

2-2. 優良顧客の育成

顧客ニーズに合わせた丁寧なコミュニケーションを実現することで、よりクラスの高い商品を選んでもらったり(アップセル)、関連商品を合わせ買いしてもらったり(クロスセル)といった形で顧客単価を上げることができます。こうして購入金額の大きい優良顧客を増やすことができると、利益率が向上して経営の安定が望めます。さらに、優良顧客を優遇する、特別な体験を提供するといった取り組みによって、信頼感や愛着を持って企業を支持してくれるロイヤルカスタマーを育てることも可能です。

2-3. 休眠顧客の掘り起こし

リテンションマーケティングでは、しばらく利用のない休眠顧客に情報を送り続けることで、再び自社に目を向けてもらうきっかけをつくることができます。顧客のデータをもとに、特典やキャンペーンといったコミュニケーション内容を工夫しながら、粘り強くアプローチします。

2-4. 既存顧客からのフィードバック

長く商品やサービスを使い続けてくれる顧客からは、良質なフィードバックを受けられることがしばしばあります。実際に使用してきた生活者ならではの指摘や意見は、サービス改善や、新製品開発のきっかけになります。

2-5. 顧客ひとりひとりに合わせてアプローチ

各属性・興味などを細かく分析することができるため、分析結果に基づいて、メールやマイページなどのコミュニケーションツールで情報を発信することができます。

2-6. 新規顧客の獲得

リテンション施策を通じて既存顧客の満足度やロイヤリティを高めることは、新規顧客獲得にも大きく貢献します。自社やブランドや商品のファンになると、その顧客は継続的に購入してくれるだけでなく、口コミやSNSで第3者に商品を紹介してくれる可能性があります。その結果、コストをかけずに新規顧客を獲得することができます。

3. リテンションの成果指標として見ていくべき要素

3-1. リテンションレート(既存顧客維持率)

リテンション施策の成果を測る指標として「リテンションレート(既存顧客維持率)」が挙げられます。リテンションレートは以下の公式で求められます。

リテンションレート(%)=継続顧客数 ÷ 新規顧客数 × 100

例えば、先月に新規顧客を100人獲得し、今月そのうちの30人がサービスの利用を継続した場合、リテンションレートは、30%(=30÷100×100)になります。同様に解約率(チャーンレート)という指標もありますが、こちらは解約側に焦点を当てた指標で、上記の例で言えば、解約率は70%(=70÷100×100)になります。

リテンションレートは、業種や業態・ビジネス形態によってまちまちです。まずはリテンションレートをしっかりと認識すること、そしてリテンション施策によって、どのような変化が表れたのかをモニタリングしましょう。

3-2. ユニットエコノミクス

仮にリテンションレートが向上したとしても、顧客単価が安くなったり、購入頻度が落ちたりしてしまえば、ビジネスの健全性を保つことはできません。

その際に重要な指標が「LTV(顧客生涯価値)」と「CAC(顧客獲得単価)」を組み合わせたユニットエコノミクスという指標です。LTVとCACはそれぞれ、顧客一人がどれだけ利益を生み出すか、顧客一人を獲得するためにはどれだけコストがかかるかを表す指標です。

ユニットエコノミクスの算出方法は、以下の通りです。

ユニットエコノミクス = LTV ÷ CAC

例えば、ECサイトにおいて一人の会員が生み出す利益(LTV)が10万円、一人の会員を獲得するコスト(CAC)が3万円だったとします。このような場合、ユニットエコノミクスは、約3.3と算出することができます。

当たり前の話ですが、LTVよりもCACが上回った場合(ユニットエコノミクスが1を下回る場合)は、長期的にビジネスを維持することはできませんし、仮にLTVがCACを上回ったとしても、その数値が低ければ、こちらも同様にビジネスの拡大は見込めません。

ビジネスを健全に運営していくためには、

・LTV > CAC × 3
・CACの回収期間が12ヶ月以内

の上記の2点をクリアしていることが望ましいと言えます。

ユニットエコノミクスを把握することで、新規顧客を獲得するためのマーケティン費用の妥当性や、どこまで赤字を許容できるかなどの判断基準となります。

弊社が提供している マーケティングツール『b→dash』 は、顧客の情報収集や分析を徹底して行い、適切なフォローやアプローチをしてリテンション率を向上させるために必須となる、BIやMA、CDPといった機能がAll in Oneで搭載されているツールとなっています。

4. リテンションマーケティングの具体的な手法

4-1. メールマーケティング

メールマーケティングとはメール配信を活用し既存顧客に対しリテンションを図る施策です。一言でメールマーケティングには、「メールマガジン」や「シナリオメール」、「ターゲティングメール」「リターゲティングメール」「休眠発掘メール」など、様々な手法があります。
定期的に発信する「メールマガジン」や資料請求した日などを起点に予め用意した内容のメールを順番に送付する「ステップメール」など種類は様々です。有益な情報で顧客をナーチャリングしたり、割引情報で休眠発掘するなど目的に合わせて様々な手法をとることが可能です。

4-2. レコメンド

サイトやアプリで、「あなたへのオススメ」の表記を見た経験のある方も多いのではないでしょうか。これがレコメンドです。レコメンドとは、購買履歴や閲覧履歴などの情報に基づき顧客のニーズを把握し、おすすめの商品やサービスをサイトやアプリ内で紹介する手法です。
既存の商品からハイグレードの商品に乗り換えてもらうことで、顧客単価を向上させることを意味する「アップセル」や同時に様々な商品を購入してもらうことを意味する「クロスセル」に役立ちます。

4-3. SMS

SMSマーケティングとはショートメッセージサービスと呼ばれるSMSをコミュニケーションツールとして用いるマーケティング施策です。SMSはスマートフォンやフィーチャーフォンで送受信できる短い文字数のテキストメッセージで、多くのキャリアの端末で共通システムとして利用できます。携帯電話番号をメッセージの宛先にするのがSMSの特色で、個人と一対一の対応になっていることからDMのように活用できる連絡手段として注目されています。

4-4. プッシュ通知

プッシュ通知とは、スマホ画面にメッセージを表示することでアプリの休眠顧客に対しリーチできる機能です。表示するメッセージはお得情報やイベント情報などが考えられます。スマホアプリは手間なくダウンロードできる反面、継続して利用される割合は非常に少ないのが特徴。Localytics社の調査によると、アプリインストール後90日間で71%の顧客が離脱することがわかりました。以上のことからプッシュ通知を使用し、定期的な起動を促すことは有効な手法です。

4-5. リテンション広告

リテンション広告とは、既存顧客に自社製品やサービスをさらに利用してもらう、休眠顧客に再び利用してもらうことを目的として提示する広告全般を指します。例えばサイトの下部や側面に表示される広告や、動画の合間に流れる広告などがあり、プッシュ通知の設定をOFFにしている顧客にも有効です。

4-6. カスタマーサポート(お客様窓口)

顧客からの問い合わせ全般はカスタマーサポートに該当します。カスタマーサポートに問い合わせをする場合、何かしらの問題を抱えていることがほとんどです。迅速かつ丁寧な対応で解決することで、顧客に対し安心感や満足感を与えロイヤリティを高めることができます。

カスタマーサポートは、メールや電話だけでなく、チャットサービスやLINEなど複数用意し利便性を高めるとさらに効果的です。また、顧客の声を意味するVOC(Voice Of Customer)を集めることもできるため、商品・サービスの改善に役立つといったメリットもあります。

4-7. カスタマーサクセス

カスタマーサポートは問い合わせを待つ受動的な手法ですが、カスタマーサクセスは、能動的に働きかけ顧客の目的達成や事業成長をサポートする手法のことです。優れたカスタマーサクセスには顧客の成功体験を伴うため、信頼を得やすく長期的な関係を築くことができます。カスタマーサクセスによる継続的・能動的な働きかけを徹底することで、リテンション率の向上やファン化の促進が期待できるでしょう。

4-8. CRMツール・DMPなど各種ツールの導入

データ分析ツールはデータの収集・整理・加工・統合・分析などを行えるツールのことです。リテンションマーケティングを実施した結果どのような結果になったのか把握する際に使用します。

データ分析ツールを用いて分析を実施するメリットは、「データを効率よく収集できる」、「分析工程の簡略化」「分析精度の向上」「課題把握が容易」「精度の高い仮説の立案」などが挙げられます。データ分析ツールを使用することで、簡単に素早く精度の高い分析結果を把握することが可能であり、結果から問題点の把握や解決に向けた仮説立案などを行うことが可能です。

4-9. オフラインイベントの開催

ワークショップやイベント、製品発表会、セミナーなどのことを指します。実際に商品やサービスを体験できるほか、ユーザー同士が交流する場としても利用可能です。文字や画像、動画などを使用してリテンションを試みる他の手法と比較し、理解が深まりやすいといった特徴があります。オンラインに比べリーチできる人数は少ないものの、商品やサービスに関する知識が深まりやすく、ロイヤリティ向上につながりやすい手法です。

5. リテンションマーケティングを活用し成功するためのポイント

    1. 5-1. 顧客のセグメント・分析を行う

リテンションマーケティングを開始する上でまず重要なことは、顧客について知ることです。顧客に関するデータの収集、セグメント化を行うことにより、顧客ごとのニーズを汲み取りましょう。セグメント化における施策の1つにRFM分析があります。Recency(最新購入日)、Frequency(購入頻度)、Monetary(累計購入金額)の頭文字を取ったものであり、それぞれのベクトルを用いて三次元的に分析を行います。これにより、「優良顧客」や「休眠顧客」などにセグメント化することで、適切な施策の立案・実行が可能です。

また、収集したデータを分析する際は、データ分析ツールを使用することも手段の1つです。顧客が多い場合、手動での管理は難易度が高いうえミスも起こりやすくなるため、分析ソフトを導入し効率化することを推奨します。

    1. 5-2. 成果指標(KPI)を明確にする

    2. 顧客の分析には成果指標(KPI)の明確化が一般的です。

マーケティングで分析対象として用いられるKPIには、売上高や購入日・購入回数・利用金額をまとめたRFMなど多くの種類があります。リテンションマーケティングでは、リテンションレートとユニットエコノミクスのKPIが役立ちます。

    1. 5-3. 分析に基づいた施策を立案

効果的なリテンションマーケティングには、分析によりセグメント化した顧客一人ひとりに適切な施策を実行する「One to Oneマーケティング」が必要になります。例えば、次のような施策が挙げられます。

・優良顧客だけに感謝の意を込めたクーポンを配布する
・休眠顧客には、過去に配信したDMで開封率が高い内容を再構成して送付する
・シナリオメールの反応状況を分析してチューニングする

上記のような顧客に最適化した施策を行うことで、ロイヤルティやLTVの向上につながります。とはいえ、One to Oneマーケティングを行うには的確な分析力と社内リソースが必要です。現在の環境での対応が難しい場合は、MAツールなどの自動化ツール導入を検討してみてください。

  1. 5-4. MAツールを活用する

  2. MAツールを活用することで、見込み顧客の管理やスコアリング、見込み顧客の属性別に行うコンテンツの自動配信のほか、Webサイトやブログなどのアクセス解析まで実施することができます。

  3. そんなMAツールに関して、下記資料にて詳しく説明していますので、是非合わせてご一読ください。

  4.  
    1. 5-5. ロイヤルカスタマーを育成・維持する

  5. 顧客単価を向上させるには、自社製品・サービスをできるだけ継続利用してもらう必要があります。そのためには顧客ロイヤリティを高めるための施策が必要です。顧客ロイヤリティとは顧客の、企業や製品・サービスに対する愛着度を表しています。

    顧客満足度と似ていますが、顧客満足度が高くても企業とのやりとりが継続されなければ顧客単価は上がりません。顧客ロイヤリティを上げるには、CRM支援ツールを用いた顧客データの把握と分析、また製品・サービスの利用後に対する手厚いサポートなど、顧客体験による特別感を感じてもらう方法が効果的です。

    1. 5-6. PDCAを回す

    データは、現状における課題や施策に対する結果を可視化してくれます。課題解決のための施策を計画して実行、効果を検証し改善策を提案して実行し、PDCAサイクルを早く回します。

    6. リテンションマーケティングの活用事例一覧

      1. 6-1. ZOZOTOWN

    「ツケ払い」とは、商品の注文後2ヶ月間支払いを延長できるサービスです。これにより、カートに入れたまま購入を忘れてしまい休眠顧客になっていたユーザーの購入確定率を高めることに成功しました。金銭的に余裕がない場合でも商品を購入可能であることから顧客との関係が切れず、長期的な関係構築を実現しています。

    ZOZO TOWNは様々なリテンションマーケティング施策を打ち出しています。例えば、会員限定クーポンの配布や、アプリからのプッシュ通知はリテンションマーケティングに該当します。中でも「ツケ払い」は長期的な関係構築を実現する上で有効です。

      1. 6-2. 星野リゾート

    星野リゾートはリテンションマーケティングにより「リピート率20%以上」を達成しています。それでは、具体的にどのような施策で高いリピート率を達成しているのでしょうか。星野リゾートはアンケートにより顧客の意見を取り入れ、サービス改善を行うことで高いリピート率を実現しています。

    アンケートは随時データ化し、顧客ごとのニーズや好みなどを整理しています。次回訪問した際には、あらかじめ顧客情報を把握した上で接客を行うことで一人ひとりに最適なおもてなしを提供するOne to Oneマーケティングを実現している企業です。

      1. 6-3. Netflix

    Netflixでは、ユーザーがどんなコンテンツを視聴したのか、どのくらいの速度、どんなデバイスで、1日のうちどの時間帯に観たのかなどユーザーの行動データを収集〜分析しています。個別のユーザーにおすすめのコンテンツをレコメンドすることや、ユーザー全体の視聴傾向を掴むことでオリジナルコンテンツの制作に活かしています。

    ユーザーの行動データを施策に活かすことで、解約率(チャーンレート)を引き下げ、LTVを向上させています。

    1. 7.まとめ

    リテンションマーケティングは、新規顧客の獲得ハードルが上昇傾向にある現代において非常に有効な施策です。
    既存顧客との長期的な関係構築により、ハイコストパフォーマンスを実現できます。また、リテンションマーケティングには、メルマガやプッシュ通知などの様々な手法があります。顧客データの収集、分析により現在リーチしたい層を把握し、KPIを設定した上で最適な手法で顧客に対しアプローチしましょう。

弊社が提供している マーケティングツール『b→dash』 は、マーケティングプロセス上に 存在する全てのビジネスデータを、ノーコードで、一元的に取得・統合・活用・分析することが可能なSaaS型データマーケティングプラットフォームであり、BtoC業界を中心に、様々な業種・業態のお客様にご導入頂いております。

Editor Profile

  • 福井 和典

    株式会社データX マーケティング管掌執行役員

    日本IBMにてシステムエンジニア、GREEにてCRM領域のオペレーション企画、PwCでの業務コンサルタントとしての経験を経て、2016年よりデータXに入社。データX入社後は、カスタマーサクセス部門に在籍し、小売/金融/アパレル/ECなど幅広い業種に対するb→dash導入支援を統括。
    その後は、主にb→dashのマーケティング/広報/PR活動や事業企画に従事。

Category
Tag