ページトップへ
2020.04.10

【MiXER Report】New! “ブランド創造論” ~強いブランドがファンを生み、市場を動かすまで~

あらゆるマーケターにとって、『ブランドを創ること』は一つの至上命題ともいえる。MiXERではレッドブル・ジャパン元CMOであり、一般社団法人渋谷未来デザインの長田新子氏と、世界中の賞レースを席捲するクラフトチョコレート“Minimal”を運営する株式会社βace CEO 山下貴嗣氏、そしてモデレーターとして株式会社サンリオ チーフデジタルオフィサー 田口歩氏が登壇。世の中に新しい文化を作りだす『ブランド』を生み広げるナレッジに迫った。

ブランドの立ち上げ

「ミッションファーストがMinimalのブランディング」~山下氏~

 山下氏がブランディングにおいて最も大切にしているのはミッションであるという。

 「ブランドとは世の中にメッセージを発信していく触媒です。したがって、自分たちのブランドを通して何を成し遂げたいかが重要です。私たちは社内外で、2100年の話をよくします。もちろんその時に生きているかわかりませんが、意思を残していきたいし、私たちが作ったカテゴリーが文化になることを一番大事にしています。」(山下氏)

『チョコレートを、新しくする』。これがMinimalの掲げるミッションだ。

 現在のチョコレート市場は100円ほどの「価格で選ぶお菓子」と、ピエール・エルメやジャン=ポール・エヴァンのような「高級ブランド」に二分される。Minimalはこの市場に『嗜好品としてのクラフトチョコレート』というカテゴリーを作ることを目標としている。

 「ただ単に『いいものを作りました、どうですか?』ではなく、食べて頂く方にはMinimalという未完成のブランドのミッションの達成に仲間として参加頂きたいと考えています。だからこそ『このブランド作りに参加して頂けませんか』というコミュニケーションを大事にしています。」(山下氏)

 Minimalが新しくするものは『味』だけではない。原料となるカカオ生産に始まる『物流』から、嗜好品としての『楽しみ方』までをすべて一新する。
 一般のチョコレートのビジネスモデルは分業制だ。カカオ豆の農家があり、豆を産地から仕入れる商社がいて、工場で大量に製菓材料のチョコレート生地をつくる一次加工メーカー、その後チョコレート生地をデコレーションするメーカー、パティシエ、ショコラティエがいて、最後に量販店や各専門店で販売される。植民地貿易時代以降変わらないチョコレート業界の構造だ。
 これをMinimalは直接世界中の農家に足を運び仕入れ、自ら製造し、自ら届ける。産業自体の変革を目指すこと。その取り組み全てが、Minimalのブランドストーリーとなっている。

「店舗滞在時間を長くする、逆張りのKPI」

 Minimalは広告費をかけず短期間で1,500以上のメディアへの露出を成功させるなど、急速に認知を広げてきた。山下氏は認知を一過性のブームで終わらせないため、認知の後の『理解』に力を注いできた。その一つの取り組みが逆張りのKPI設定だ。目先の売上ではなく、体験の充実をKPIに置いた。

 「チョコレートを楽しんで頂くだけでなく、想いをこめて、自分たちの思想、ストーリーをセットで体験して頂くことがブランド創造の近道だと考えています。
 お店は売るだけの機能ではなくて、ブランドの世界観を体感頂く大切な場です。だからこそ、KPIを逆張りしています。一般的な店舗は回転率を重要視して滞在時間はなるべく短い方がいいのですが、Minimalでは、試食を全て出して食べ放題にし、自分の舌で選んで頂くということ。そして、滞在時間を1分でも長くすることをKPIとして置き、実行しています。
 お客様自身に体験頂き、ブランド側の思いもお伝えすることで、Minimalを好きになって頂く。もっと言えばMinimalというブランドの仲間に、そして支援者になって頂く。そこで、私たち売り手と買い手の境界線をファジーにして、お客様に一歩、ブランド側に入って頂いた状態をどう作るか。このために各種KPIを置いています。」(山下氏)

「新たなカテゴリーを生む『ストーリー』」~長田氏~

 長田氏がレッドブル入社後に取り組んだことは、当時日本に存在していなかった「エナジードリンク」というカテゴリーを新たに作ることだった。『ミッション』が重要であるという山下氏の話に続けた。

 「会社がどういうミッションを持っているかは私たちも常に念頭に置いていました。ミッションがファンを作ると考えているからです。ただエナジードリンクという商品を売るだけでは一度勝てても、勝ち残れないし、ファンもついてこない。
 私たちの場合、『Red Bull Gives You Wings、レッドブル翼をさずける』というスローガンがミッションですが、立上げ当時は、全く認知のない日本の皆様にどうやって伝えていくかが問題でした。そもそも”エナジードリンク”という呼び方もカテゴリーもない状態でしたから。
 マーケティング全般の活動を通して、アスリート、アーティストや学生などに『翼を授ける』こととは何かを愚直に問い、取組み続けていました。
 レッドブルの場合、このスローガンと商品が一つのセットとなったグローバルブランドなので、リニューアルとかパッケージ変更はなかなかできません。なのでプロモーションに力を注いだのですが、外部メディア、あるいは自社のメディアでブランドコミュニケーションを最大化していくという方法をとりました。
 ブランドコミュニケーションにおいて大切にしていたことは、ストーリーを作ることです。大きな広告予算を投じなくても、一つの小さいきっかけでもストーリーは作れますので、その『小さなきっかけが生み出すストーリー』をどれだけ『多く』そして『継続して』やるかを重視していました」(長田氏)

「体験がカテゴリーを作る」

 TVCM含め、市場がレッドブルと関わるきっかけ作りとなるマーケティング施策実施の判断基準は、『突き抜ける』というイメージを伝えられるかどうかだった。そして、『突き抜けた』、独自の施策にお客様を巻き込み、体験してもらうことを重要なゴールに置いたのだという。

 「市場でカテゴリーを作るとは何か、と考えると、多くの人がエナジードリンクを飲んでいる状態であり、さらに飲んだ人たちにエナジードリンクを受け入れてもらった状態です。味やパッケージは簡単に変更できないので、ただ商品を売るだけではいけません。もし味や見た目が好きじゃなかったらその人にとってレッドブルは1回限りの商品として終わってしまいます。だからこそ、可能な限り、商品をレッドブルのミッションが持つ文脈の中で体験して頂くことに注力し、その体験が人々の中で伝搬する仕組みを考えました」(長田氏)

ブランドの創業期において、山下氏、長田氏の2名に共通していたことは、
・ブランドのミッションを伝えること
・そのためには『体験』が強力な手段になること
この2つだ。

ブランド拡大期〜マス市場にいかに広げるか〜

 続いて、ブランド拡大期において行なった施策について、長田氏、山下氏の順で伺った。

日本に合わせたローカライゼーション~長田氏~

 元々海外で販売していたレッドブルが日本のマス市場に浸透させるために行ったのは「ローカライゼーション」だった。

「実は185mlのレッドブルは日本でしか売っていません。理由としては2つあって、日本における主要な販売チャネルである自動販売機で展開できる形態にするためと、コンシューマーのニーズに応えるためです。その時250mlのものは当時はちょっと多くて残してしまうということがありました。
 常にブランドとしてはどういうオケージョンで飲めるというのを突き詰めています。だから、ぬるいまま誰かにだすのは基本NGで、例えばスポーツやゲームをするシーンなど、この瞬間に絶対これが必要というところに商品をサンプリングしたりといったことです」(長田氏)

「新たなカテゴリー・シーンを作る」

 レッドブルは楽しさを彷彿とさせるキャンペーンを主にスポーツ、音楽シーンと合わせて打ち続けることで、レッドブルの世界観を共有してくれる仲間を増やしていった。

 「イベントをやった時にどういうアスリート、インフルエンサーを入れて、どうコミュニケーションをするか、その時に絶対にその場所で必ずレッドブルを飲むシーンを作る。例えば、クラブだったらクラブに着いたらまずレッドブルウォッカを飲むとか、また、アーティストが絶対にすることの中にレッドブルを飲むシーンを作るとか、絶対に起きるオケージョンがあります。それを続けると、みんなが口コミ(WOM)で話し始めてくれて、市場に広まっていく。イベントやキャンペーンをやって終わりではなく、各キャンペーンでの『レッドブルストーリー』をできるだけ多く作り続け、それをいろんな関係者や参加者と共に発信することをやっていました。この『イベント・キャンペーン×ストーリー数』こそ、レッドブルをマスにどんどん広げることができた施策ですね。」(長田氏)

©redbullcontentpool

 Minimalは、「チョコを楽しみたい」と思うシーンをどう作り出していくかにこだわっている。
 多くのメディア掲載を実現しPRに成功したMinimalだが、自分たちの打ち出したいイメージを浸透させるために、タイアップやコラボにあたっては相手ブランドが有名か無名かではなく「一緒にMinimalが目指すシーンを作れるか」を判断基準にしている。

「広くマスに浸透させるために『ブランドを想起させるシーンを作る』というのはレッドブルさんと同じエッセンスがあります。
 私たちは『Life with Good Chocolate』という言葉を標語にしています。私たちも新しいチョコレート体験を作るためにいろいろやっていますが、例えば他のブランドさんとタイアップする際も、全てハイブランドならOKではなく、そのブランドとMinimalというブランドがコラボして生まれる『意味』を非常に大切にしてこだわっています。
 メディア選びでも、露出できることは嬉しいですが、なんでもかんでも出すのではなくて、自分たちのブランドのアイデンティティや意味をそのメディアさんの提供価値にのせれるか、そして、一緒にシーンづくりができるかが大事だと思っています。」(山下氏)

さいごに

 こだわりのチョコレートを食べるという非日常なシーンや、頑張りたいときに飲むエナジードリンクなど、シーンや体験と商品を結び付けること、ストーリーの中に商品を位置づけることは、両者の取り組みの共通点だった。

 セッションの最後に、長田氏、山下氏に『ブランド創り』に注意すべきことについて伺った。

「レッドブルはレッドブルっぽいよねと言われる、あの映像を見ればブランドアイデンティティを強く示せる、皆が頭に思い浮かべるような『らしさ』が大切です。つまり『自社が持っていて他社には置き換えられないもの』とは何か、ということ。他社がやれることは特にうちではやらなくていい、という感覚です。
 『置き換えられないもの』は、それこそブランドが持つミッションが作るのだと思います。ではそれを人に伝えるにはどうすればいいか。そこには『多様性』があった方がいいと考えています。例えば会社にはDJもいたので、めちゃくちゃ音楽の『シーン』に詳しくて、彼らから得た知識がストーリー作りに役立っていました。
 また、クロスファンクショナルアプローチについては自社内だけじゃなく、パートナーもどれだけ巻き込めるか。出会った人全て巻き込んで一緒に自社のブランドミッション実現を目指す状態を作ることです。これらは『ブランド創り』のために大事にすべきかなと思います。」(長田氏)

「私は、『誰かのために』とか『ペルソナ』などの特定できないとか、空想の設定はあまり意味がないと思っています。自分が本当に好きなもの、そして一人でもいいので熱中してくれる誰かをつくれることを大事にするべきだと思います。私たちにとって、そうあるために大事にするべきはミッションです。2100年は誰も生きていないかもしれないけれど、チョコレートの新しい楽しみ方、新しい産業のあり方を世の中に届け、文化を作ることは不可能ではないはずです。そのために、自分たちは今何をすべきかを逆算して考えるようにしています。社内では、そのゴールから考えたときに正しいことを言っている人の施策を取ると決めています。どこかにいる誰かではなくて、目の前の誰か一人だけにでも強く共感頂けるように、あらゆる施策を深く深く掘ること。そうすると、商品やアイディアに独自のストーリーが生まれます。そしてたった一人のために練り上げていたことが多くの人を魅了するようになる。これがブランディングだと考えています」(山下氏)

 明確かつ極限まで研ぎ澄まされ独自性を持った『ミッション』と、緻密に設計され数と質の両面でこだわり抜かれた『ストーリーテリング』が新しいブランドを生み出し、新しい文化をつくる。
 あらゆるマーケター、経営者が持ち続けるべき原点というべき考え方が語られた時間となった。

Text by Takuya Kuzumi

無料のeBook
詳しくはこちら

LIKE @ Marketer's Compass

Get Mail Magazine

メルマガに登録する