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2018.04.19

【b→academy #2(前編)】
『横浜DeNAベイスターズのデータマーケティング』
―徹底的なデータ分析で導き出したスタジアム満員の法則―

  •  2018年3月にスタートした「b→academy」※1(運営:マーケテイングプラットフォーム「b→dash」)。
     4月10日、東京・五反田にて第2回目の講義が開催された。企画責任者を務めるチェアマンとして、オイシックスドット大地株式会社のCMT(チーフマーケティングテクノロジスト)兼 株式会社フロムスクラッチCIO(チーフイノベーションオフィサー)西井 敏恭が開講の挨拶をした後、1つめのセッションは株式会社横浜DeNAベイスターズ 執行役員 木村 洋太氏にご登壇いただいた。
     「b→academy」では、「データやテクノロジーを活用したマーケティングを当たり前にする」というミッションを掲げ、最先端マーケティングに関する知や事例のシェア、マーケター同士の交流を行っている。
     今回も200名を超えるお申込みを頂き、当日は当選した約80名のデジタルやデータに携わるマーケティングリーダーが集まった。

    大躍進を遂げた横浜ベイスターズ

     プロ野球の横浜DeNAベイスターズ(以後、ベイスターズ)は、2011年、前身の横浜ベイスターズの買収により誕生した。しかし誕生当時の年間来場者数は約110万人で12球団最下位。座席稼働率も半分ほどというような状況で20数億円の赤字であった。ところが誕生以来観客動員数は右肩上がりに増加し続け、2017年には過去最多の197万9446人を記録した。本拠地である横浜スタジアムの稼働率も96.2%と最高値を叩き出し、主催71試合中63試合が大入り満員になるなど、人気の拡大を続けている。
     前職、米系戦略コンサルティングファーム、Bain and Company に勤めていた木村氏は2012年、偶然新聞に掲載されていた求人情報を見て横浜DeNAベイスターズにジョインし、この急成長を牽引した立役者である。
     今回は、データに基づくターゲットを全社で定義し、チケット販売の最大化施策や、徹底した自社ブランディングで人気拡大を遂げ、スポーツ業界内外から注目を集める、ベイスターズのマーケティング戦略についてお話をいただいた。

    全社で再定義された、ターゲット像“アクティブサラリーマン”を導く
    プロセス

     セッションは、ターゲット設定についての説明からスタートした。
     2013年当時、ベイスターズではチケット販売企画部門や、広告部門など部門ごとに思い描くターゲット像がばらばらで、各施策のテイストが全く異なる状況だったそうだ。そのため戦略ターゲットと、なりたいブランド像を決める必要性があったと木村氏は語る。

     「戦略ターゲットを決めるにあたり、もともと顧客に関するデータが手元になかったため、2012年から1年間かけて、定量定性データを収集することを始めた。」と木村氏。

    <顧客分析を行うための活用データ>
    ・自社顧客、外部パネルに対してのネットアンケート
    ・現地でのアンケート
    ・現地ミステリーショッパー
    ・フォーカスグループインタビュー
    ・モバイル空間統計(どのような属性の方がエリア内にいるのかがわかる携帯キャリアのサービス)
    ・自社のチケット販売公式Webサイト『ベイチケ』やアプリでの行動・購買データ

     上記のデータにより平日のナイターにはどの地域の人が来ているか、休日の試合にはどのような属性の人が来ているかが分かったり、他には神奈川県民全体、および試合の来場データにおける性別・年代別データ、ベイスターズファンの属性データ、2012年から2013年にどの属性の来場者が増えているかを示した増加率のデータ等を分析した。

     結果、「アクティブサラリーマン」と独自に名付けたターゲット設定に絞られたのだと木村氏は語る。

     「“20代、30代の男性で、居酒屋の感覚で観戦をしにくる人”と言うような、細かい設定をすることで、実際に社員の周囲にいる友達等とイメージを重ねやすくなる。結果、今まで『20代向けに施策を打って』と言われても考えられなかった社員が、リアルに施策を考えられるようになった。すると社内でのイメージがそろい始め、今までばらばらに動いていた部署がそろって動くようになった。」(木村氏)

  •  2014年はそこで平日の試合での「ビール半額祭り」といった、このターゲット層に喜んでいただけそうな施策を次々と社内で案を出し合い実施したそうだ。

    球団のなりたいブランド像を設定

     続いて木村氏は、ベイスターズという球団全体のブランディングについて話を進めた。

     本来プロ野球チームはもっと地域に根ざすものであるはずなのに、ベイスターズはそれができていなかったと木村氏は指摘した。「横浜はおしゃれで先進的な街というイメージの一方、ベイスターズは弱くてダサいという印象がついてしまっている。」と木村氏は語る。

     そこで、少しでも横浜に寄せるために様々な施策を行った。例としてユニフォームが挙げられた。海と港の町という横浜の印象にあわせ、ユニフォームのカラーを海のイメージに寄せより鮮やかな青に変更したそうだ。
     そうやって少しずつベイスターズの印象を横浜に寄せることにより、横浜の球団であるベイスターズというキャラクター像を形成してきたのだと木村氏は語った。

    観客動員最大化のためのデータ活用

    続いて実際にデータを活用した事例として、木村氏は観客動員数最大化に繋がる取組みについて言及をした。
    同球団にとって、横浜スタジアムを観客で満員にすることが収益最大化に繋がる。プロ野球では、毎年夏に試合スケジュールが決まる。当時のベイスターズには対戦相手のチームや曜日等、どの組み合わせが動員を増やすのにベストなのかというデータがなかったのだと木村氏は語った。

     また、試合日程が決まった後は、何もしなくても売れるベースとなるチケットの枚数や、あとどのような追加施策を行えば、大入りを出せるのか、みたいな議論が出来なかった。

     そこで実際に木村氏が行った、チケットの販売数、勝ち負けなどのデータを入力した回帰分析についての解説が行われた。それらを基にどのようなケースで来客数が多いのかを調査した結果、時期、曜日、対戦カードやチーム条件など、様々な条件によって決まる集客人数が おおよそ見えてくるようになったそうだ。招待や割引キャンペーンによる施策の影響も見つつ、はじめは稼働率50%後半だったのが、現在はなんと96.2%にまで増加したのだと、木村氏はデータドリブンで施策を行う重要性について語った。

     勿論、大体この曜日がいいのでは、という経験に基づく答えはあったが、データを用いた意思決定が出来ていなかった。現在はイベント・プロモーション等の投資など、無駄な投資を避けながら、販売機会・ブランディング機会を最大化できていると言う。

    非常識への挑戦を行いながら、結果のデータを蓄積

     続いて木村氏は、何もデータが蓄積されていなかった時期について言及した。最初はデータが何も無かったため、まずはデータを集めないといけない。しかしデータがそろうまで何もしないわけにはいかない。そこで、挑戦する気概や社風作りを行ったのだと当時の状況を共有した。

     例えば「中畑監督とのディナーやヘリクルーズ、スイートルームの宿泊がついた100万円チケット」、「試合の結果に満足できなかったら返金」、「球場に馬やライオンを呼んだイベント」等、笑い混じりに当時の様々なチャレンジの事例を挙げていく。

     その裏でずっとデータを取り続けたのだと木村氏は主張した。データを取ると、満足度の高い施策、低い施策がわかってくる。

     「各施策の後に実施するアンケートで特に注目したのは、満足度が高い人のポジティブコメントと、低い人のネガティブコメント。満足度が高い人のネガティブは、また来てくれるのであまり気にしなくて良い。一方、低い人のネガティブコメントは、そこでお客さんを失っている可能性がある。満足度の高い人のポジティブ条件を伸ばし続け、お客さんの期待を上回り続ける。」(木村氏)

     「YOKOHAMA STAR☆NIGHT」という選手が着用する限定ユニフォームがプレゼントされ、球場内で特別なショーなどを行う、目玉イベントの事例を挙げつつ、お客さんの期待を上回り続ける難しさに言及しつつも、その重要性について繰り返した。

    マーケティングの基本は、PDCAの徹底とお客さんと向き合うこと

     今回のまとめとして木村氏が言及したのは、PDCAをまわすという基礎の徹底が大切だということだ。今まで話したことは全て、きちんとPDCAを実行するだけのこと、と木村氏は語る。その中のポイントとして、「アクティブサラリーマン」という誰でもイメージしやすいターゲット設定を全社に認知させたこと、整合性を自分たちで確認しながらPDCAをまわしたこと、顧客の声を拾える仕組みを作ったこと等を挙げた。

     最後に会場の参加者へ、力強いラストメッセージが語られ、セッションは締めくくられた。

     「現場感に基づくことが大切ですよね。マーケティング部門は、デスクでアウトプットを出すこともできるのですが、そうではなくて、満員のお客さんの様子を見て、そのお客さんをどういう表情にしたくてこの施策を打つんだ、という部分を決めていく。そういう部分を見逃すと、何か歪みが生まれていくのだと思います。データに基づくが基づきすぎない、という部分が大切なのかなと思います。」(木村氏)

    Marketing Leader’s Review ~参加者の声~

 データマーケティングと言うとどうしても難しいイメージがありましたが、b→academyに参加してそのイメージが変わりましたデータマネジメントは、「データが無いから、もしくはバラバラに存在していて、何も出来ない」とあきらめるではなく、まずは全社データを統合するのが難しいのであれば、マーケティングターゲットを見つけることを優先し、そのために分析すべきデータを取捨選択して、シンプル且つSTEPをもって始めることが重要だと思いました。
 最も重要なメインターゲットが誰なのかを今あるデータで設定することで、全社で共通認識
(ターゲットイメージ)を持ち、そのターゲットに複数回アクションを促すために必要な仮説作りのPDCAデータを集めに行く。これによりまずはメインターゲットのお客様でビジネスを作りながら、次のSTEPでブランディングに必要な施策を実施していくと売上を追いつつもブランディング施策を実施できることが可能になると今回の例から学びました。
 今回は現担当者の方が話されることで、成功事例だけではなく、失敗事例や試行錯誤した話しが聴けたことがとても学びになりました。次回も是非、参加して学ぶだけでなく、参加者の方々とディスカッションすることで理解を深めたいと思います。(株式会社ドゥクラッセCMO兼Web事業部長 藤原氏)

今後、当アカデミーは継続的に開催される予定で随時Webサイトにて最新情報が案内される。次回は 6月6日(水)に予定しており申し込みは5月中旬から開始される予定だ。
https://bdash-marketing.com/seminar/b-academy

 続いて、SESSION2『グローバルブランドが挑む! 心を動かすデータマーケティング』セミナーレポートへ≫

  • ※1 マーケテイングイノベーションスクール「b→academy」
    b→academyは“Innovation・Data・Digital“をテーマに取り上げるマーケター育成のためのスクール。従来のマーケティングのトピックにテクノロジーの要素を取り入れることで、データマーケティングの集合知を創ることを目指しており、当アカデミーのチェアマンは、オイシックスドット大地株式会社のCMT(チーフマーケティングテクノロジスト)兼 株式会社フロムスクラッチCIO(チーフイノベーションオフィサー)西井敏恭が企画責任者を務める。
    今後継続的に開催されるこのイベントでは、“データ経営時代”の先頭を走るマーケターを招き、最先端のトピックを取り上げる。

    Text by 岡上杏瑠


    【プロフィール】
    木村 洋太
    株式会社横浜DeNAベイスターズ
    執行役員 事業本部 本部長
    2012年米系戦略コンサルティングファーム Bain and Company東京支社 から株式会社横浜DeNAベイスターズに入社。事業本部チケット営業部長、経営・IT戦略部長、 執行役員 経営企画本部長を歴任し、マーケティング・中期事業計画立案に加え、球場改修計画(コミュニティボールパーク化構想)策定、横浜スポーツタウン構想や新規事業開発、IT戦略策定などを手掛ける。2018年1月より 執行役員 事業本部長。


    Marketer’s Compassでは、様々な業界のリーダーへの取材を通して、未来のCMOが知っておくべき情報をお届けしています。
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