前編ではコメ兵藤原さんが考える、顧客視点だけではなく経営視点でのオムニチャネルの本質的な経営メリットや、オムニチャネルを成功させる上で店舗とECの力を最大化させるKPIの設定方法についてお話いただきました。後編では、これからの時代において、主に小売業で求められるマーケティング、マーケターについてお話を伺います。

KPIの設定以外に、先程お話いただいた商品の取り寄せや在庫の管理という観点で、他社はなかなか真似しづらいようなコメ兵ならではの強みはあるのでしょうか。

実際の店舗で言うと、お客様の行動のデザイン、つまり接客のデザインには力を入れています。お客様に声をかけて、どの商品をオススメして、ダメだったら他の店舗のものをオススメして、というのは接客オペレーションの中に組み込んでいるほどです。ただオペレーションだけではもちろん限界があるので、スタッフの知識面での教育もしっかりと取り組んでいます。

他にも、デジタルの観点では、来店前から来店、再来店に至るまでのカスタマージャーニーは作成しています。完璧ではないですが、お客様とのタッチポイントはどこにあって、どんなことをすると嬉しいのか、というのは可視化しています。
そうすると、店舗のメンバーもECのメンバーと目線を共有することができます。そうすると、「今度メルマガでこんなことをやろう」とか、「LINE@でこんなことをやろう」という話を共通の視点で話すことが出来ます。

ですから、カスタマージャーニーに沿ったアプローチを実現する上では、小売業で店舗を持っている企業の場合、マーケターはもっと現場が何をやっているか知るべきですし、逆に一定以上の役職がある方はデジタルについての最低限の知識は持っておく必要があると思います。
小売業ってどうしても営業の意識がとても強いんですよ。マーケティングの視点はこれまでほとんどなかったので、店舗はマーケティングの知見を、マーケティングはリアルなオペレーションの知見を学ぶことが重要だと思います。

カスタマージャーニーのお話がありましたが、コメ兵の場合商品の種類もとても多いですし、今後年齢層も拡大していく中で、どのようにペルソナを定義し、カスタマージャーニーを描くのかあまりイメージできないのですが。

流石に商品別にすべてのカスタマージャーニーを作ることはできないですし、すべてのお客様に目当ての商品があるわけではないですから、まずはECの担当と店舗担当で集まって、「こんな人がうちに来てくれたら嬉しい」「このようなタイプのお客様は一定いる」というような、パターン出しからスタートします。

ただ、パターンを作ること自体は手段であって、このパターン出しを通して、スタッフ同士でイメージがすり合い、お互いに会話が噛み合うようになることが重要ですね。 店舗側からすると、“カスタマージャーニー”に始まり、デジタルの用語を何回も言われてもよくわからないと思うので、お客様の像や動きを起点にすり合わせを入念に行います。

そのEC担当者と店舗の担当者を結び付ける会議体はどのようにやっているのでしょうか。

弊社の場合、オムニチャネルの担当者が店舗に必ず一人います。プロジェクトマネージャーはECのトップの人間がやっていますが、店舗もエリア毎にマネージャーがいるので、定期的にそのスタッフと話しながら、オムニチャネルをどうやって現場で展開するのかを議論しています。

藤原さんが考える、オムニチャネルを実現する上で重要なポイントはなにかあるのでしょうか。

一番は、ECの担当者とどうやって仲良くするかですね(笑)。店舗の担当がいかにEC担当と仲良くするか。ただそれは経営マターなので、店舗側の工夫ではおそらく不可能です。経営サイドからこういう風にやりなさいと落とすしか方法は無いですね。
なので、経営者もそれを理解する必要があります。なかなかそれが難しいですが。ただ、他に何かできるとすれば、KPIをどうやって設定するかでしょうね。ECと店舗が、お互いにどうやったら一緒に評価されるかを考えるべきだと思います。

コメ兵の場合、昔からECをやってきているので、店舗とECの協力含めて自然とオムニチャネルにシフトできたと思うんですがこれからオムニチャネルを強化する企業に向けて何かアドバイス等ありますでしょうか。

やはり“言い続けること”でしょうね。空気感を作ることが大事です。なんだかんだ言ってECのマーケターが一番情報を持っているので、経営に対しても、現場に対しても伝え続けることが重要です。僕もよく部下に話すのですが、“上司にNOと言われるのはおはようございますと一緒”なんです。大体みんなNOって言うんですよ(笑)。

なので、明日からやりましょう!というのは基本的にありえないので、1年や2年かけてこういう風になったらいいなという状態をマーケターがちゃんと描いて、それを実現するための空気感を作っていくしか無いのではないでしょうか。

お話をお伺いしている限り、KPIの設計や、店舗とECの協力関係の構築の話等、オムニチャネルに必要なことを着実にやってきているイメージですが、中でも一番難しかったことや、出来なかったことはどのようなことでしょうか。

そうですね、今でも出来ていないことは、やはり予算の限りもあるので、どこまでデータベースをマージしましょうとか、どこまでデータを繋げようとか、本来あるべきはここだけど現状はこうだからこのギャップをどうやって埋めようというのは未だに悩んでいますね。当たり前ですが、少ない予算で大きな成果を出したいので、ここのジレンマは尽きないです。

また、オムニチャネルに関して言えば、顧客との接点においてコミュニケーションを取るためには一定数のマーケターがいないと実現できないという側面もあります。なので、上手くツールベンダーを活用するという手もあると思います。ただ正直に言うと、出来なかったことってあんまりないんですよね。過去を振り返ってみると多分、自然と手順を踏んできているんです。だからこそ今があるので。

なるほど。では先程お話にあった、接客のデザインや店舗スタッフの知識はどのように教育されているのでしょうか。

もちろん完璧に出来る人はいないので日々トレーニングするしか無いと思います。後は、企業文化にもよるのですが、弊社は9つのクレドがあり、毎日全社員で唱和して浸透させているので、社員はみんな一生懸命ですし、素直な方がとても多いです。何か施策をする際に「わかりました、頑張ります!」と言ってくれる人がどれくらい居るかが重要なので、その辺りの視点は非常に重要視しています。

例えば今リーダークラスにいて、今後視界を上げていく必要があるときに、どんな情報をインプットしたり、どんな視点で物事を見たりしたほうがいい、というようなアドバイスはありますでしょうか。

やっぱりまずは量ですね。マーケティング領域って多分他の領域よりも移り変わりが激しいですし、色々なものが生まれては無くなっていくので、本でもセミナーでもメディアでもなんでも良いのですが、とにかく量をインプットすることが重要だと思います。量を浴び続けていると、ある時、質に転換するんです。ただ、一生懸命1つの本を「300ページあるから全部吸収しなきゃ」と思うと、恐らく遅くなってしまうので、僕がお勧めしているのは、例えば「カスタマージャーニー」について勉強したいのであれば、5,6冊読めばセミプロになるんじゃないかと思います。大体同じことが書いてあるので。ただインプットだけでもダメで、当たり前ですがアウトプットすることも大事です。本で読んだことやセミナーで聞いたことをすぐに会社でやってみる。インプットとアウトプットの“量”と、そのやり方が重要ではないでしょうか。

あとは情報のインプットという観点ではないですが、より上を目指していくのであれば、インプット云々ではなく、とにかく行動することが重要だと思います。例えそれが無駄だったとしても、ただ考えているよりも行動したほうが良いに決まっています。経験することが一番ですね。若いうちほど無駄なことをやっておかないと、歳を重ねた時に無駄なことは出来ませんから。

では最後に、藤原さんが考える“未来のCMOに必要なもの”を教えてください!

“全てにおいて60点を取ること”だと思います。マーケターはマーケティングだけに詳しいだけではダメで、財務会計だったり、店舗のオペレーションだったり、全てにおいて60点くらいの知識は持つべきだということです。各部門とある程度の会話ができて、ベンダーや代理店から提案を受けたときに“Yes or No”をちゃんと判断出来ることが重要です。また、データアナリストならデータアナリストのスキルだけ身につけているようでは差別化が出来ないので、店舗のオペレーションを知っているとか、財務会計にも詳しいとか、様々なスキルを掛け算することで価値は高まるので、幅広い知見を持っておくことが重要ではないでしょうか。残りの40点はベンダーやパートナーに聞けば補完できますからね。よく言う話ですが、マーケティングって経営そのものなので、色々なことを網羅的に知っておく必要があると思います。やっぱり上に行けば行くほど、皆さんちゃんと勉強されてますからね。

ちなみに、藤原さん自身の今後の展望は何かあるのでしょうか。

そうですね、会社に関して言うと、我々は高単価商材を扱っているので、お客さんと1対1の関係性をどれだけ突き詰められるかにとても興味があります。やはり市場浸透率は重要なのでシェアは獲っていきたいですが、それって結局個人の積み上げです。企業と個人がどれだけOne to Oneの関係を構築できるかが重要だと思うので、データをどう取得して活用するか、営業オペレーションをどう組むのか、というところにとても興味があります。それこそ我々の場合、インバウンドのお客様も多いので、例えば中国の方がコメ兵で商品を買ってもらって、中国に帰った後もそのお客様と海を超えて、どうやってOne to Oneで繋がるか、というのがこれからは重要になると思います。これをどこまで実現できるかが小売業の明暗を分けるのではないでしょうか。

弊社が提供している マーケティングツール『b→dash』 は、マーケティングプロセス上に 存在する全てのビジネスデータを、ノーコードで、一元的に取得・統合・活用・分析することが可能なSaaS型データマーケティングプラットフォームであり、BtoC業界を中心に、様々な業種・業態のお客様にご導入頂いております。

Editor Profile

  • 福井 和典

    株式会社データX マーケティング管掌執行役員

    日本IBMにてシステムエンジニア、GREEにてCRM領域のオペレーション企画、PwCでの業務コンサルタントとしての経験を経て、2016年よりデータXに入社。データX入社後は、カスタマーサクセス部門に在籍し、小売/金融/アパレル/ECなど幅広い業種に対するb→dash導入支援を統括。
    その後は、主にb→dashのマーケティング/広報/PR活動や事業企画に従事。

Speaker Profile

  • 藤原 義昭

    コメ兵

    執行役員

    マーケティング統括部長

    1999年コメ兵入社。2000年に同事業部のEC立上げに携わり、2010年現在のIT事業部の前身であるWEB事業部を新部門として設立同部長に就任。2014年基幹システムを含む社内システム全般を統括するIT事業部に業務範囲を拡大し、現在WEB事業(EC、買取)ならびに全社WEBマーケティング、全社内システムを統括している。

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