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2019.03.19

オムニチャネルに必須な”顧客体験を構想・設計する力”とは
組織とスキルの観点から紐解く、オムニチャネルの成功法則

前編では、ベンチャー企業への新卒入社からトイザらス、ジュピターショップチャンネルでのご経験、コンサルティング事業を始めるまでのキャリアについてお話を伺った。後編では三越伊勢丹でのEC事業についてのお話からスタートし、オムニチャネル、組織作りといった、中島氏の強みである領域を深掘っていく。

ーー三越伊勢丹に入社された経緯はどのようなものだったのでしょうか。

 最初の関わりは、コンサルティングのお客様としてでした。プラットフォームビジネスと新規事業立ち上げのコンサルを半年ほど行った後、そのまま事業責任者の役員に就任して欲しいという打診をいただきました。正直、これまでの私のキャリアを振り返ると、三越伊勢丹のような老舗には向いていないと思っていました。しかし、これまで三越伊勢丹では、外部から役員や事業部長を入れることはなかったのですが、私のために制度まで作り打診いただいたこともあり、そこまで言っていただけるなら、ということで入社を決めました。それまで各部門に散らばっていたWEBの機能を一つの部署にまとめて事業部にした、WEB事業の事業部長 兼 役員としてお世話になることにしました。

ーー具体的にどのような取り組みをされたのでしょうか。

 入社時は非常に驚きましたが、当時のECサイトはほとんどギフトとその他一部の機能的な商品しか扱っていなかったんです。新宿の伊勢丹をイメージしてサイトにアクセスしたのに、ギフトと肌着しかなかったらがっかりしますよね?なので、まずは「お客様が三越・伊勢丹というブランドに期待していることは何か」、「リアルの強みをどうECで実現するか」、ということを起点に戦略を立て直しました。そこで、新宿、銀座、日本橋の「店舗の品ぞろえをイメージ」できるような商品構成のECサイトにすることを目指して、まず、EC上の商品の充実度を高めることを進めました。並行して、それぞれ売上が数十億円あった三越と伊勢丹の大型ECサイトをシステムから統合しました。そして、店舗の力を使った集客や商品調達などに力をいれました。また、新しい取り組みを続けていきたいという社風を実現するために、百貨店ECの成長を考えると少し早いと思いながら、ラグジュアリーECや越境EC、オウンドメディアもスタートさせていきました。

 コストをどう考えるかを別にすると、ECにすべての商品を掲載することは、リアル店舗においてもメリットがあると思います。大規模小売店舗で、お客様と接する販売員は、他の売場のことをお客様に聞かれてもわからない状態でしたが、催事情報や商品情報がすべてデジタル化されれば、販売員がタブレットを使い、すべての売場の情報を引き出すことができ、接客においてお客様により高い価値を提供し、お客様満足度の向上につなげることができます。

 ここでも、いかにお客様から見たときに店舗もECも違和感なく同じ顧客体験をしてもらう、という点は常に考えていました。

ーーまさにこれもオムニチャネルということですね!改めてではありますが、中島さんが定義する「オムニチャネル」とはどのようなものになるのでしょうか。

 「顧客と自社商品を起点に考え、その間にあるタッチポイント・チャネルを融合し、統合的な顧客体験を提供すること」ではないでしょうか。オムニチャネルとは顧客体験とイコールなのです。

 オムニチャネルという言葉自体は2011年にスマホなどモバイル領域をきっかけにした言葉として登場しました。でも実際は、それ以前からクリック&モルタルなどの近しい言葉は存在していましたよね。先程お話したとおり、2011年以前から私もオムニチャネルのようなことを考え、実行していたのです。トイザらスのときには「いつでもどこでもトイザらス」、ショップチャンネルのときにも「いつでもどこでもショップチャンネル」と社内向けに同じ言葉を使っていましたしね(笑)。それにテクノロジーが追い付いてきたということです。いつでもどこでも同じような環境で商品を購入できる、ということが非常に重要です。

ーーオムニチャネルを実現するうえで必要なものや考え方はあるのでしょうか?

 「”自社に”意味のある顧客体験の構想」ではないでしょうか。顧客データベースと商品データベースの統合ができていなければ不可能ですが、顧客体験の構想がなければ、そもそもオムニチャネルをやっても意味がありません。ECや世間で言われているオムニチャネルの取組みがうまくいっていない会社は、よく「うちの会社(商品)は、ECやオムニチャネルに向いていない」といっていることがあります。そして、この顧客体験の構想を考える前の段階で止まっていて、やる・やらないの議論をしていてなかなか先に進まないので、そういう方には、よくこういう話をします。「まず、今の商品とお客様だけを頭に残して、これまでのやり方、業態はすべて忘れてください。次に、今から商売を始めることを想像してください。どう始めますか?とりあえず店舗は出すとしましょう。時代なのでECは必須ですね。DMやチラシ配布、いろいろやるかもしれないですね。そのときに、在庫や顧客データを店舗とECでわざわざ分けて管理しますか?最初からECとリアル店舗のデータを統合して管理しますよね。だとすると、これから小売を始める会社は全て最初からオムニチャネルをやることになりますよね。ということは、既存小売業にとって、オムニチャネルはやるやらないではなく、どうやるかですよね。」というような話です。既存のビジネスにECをどうくっつけるとか、オムニチャネルをどう乗っけていこうとか考えるので、難しくなってしまうのです。小売がECと店舗を統合する前提があると考えれば、やるかやらないかで悩むのではなくて、どうやってオムニチャネルを実現するのかを考える必然があることに気が付くと。もちろん、自社に意味のある顧客体験の構想は時間がかかります。でも、並行して、準備していけることもたくさんあるとお伝えしています。

ーーとはいえ、組織の観点でなかなかオムニチャネルを推進できない企業も多いと思います。多くの企業で組織づくりやコンサルティングをやってきた中島さんだからこそわかる、成果が出る組織作りのポイントは何なのでしょうか。

 これは皆さんおっしゃることだと思いますが、トップとチームのリーダーが本気にならなければ絶対に不可能です。本気だからと言ってトップが全部やるという話ではなく、本質はトップが常にぶれないこと、言い続けることです。現場に任せたのなら、最後まで任せて、やらせきらないとダメです。

 組織というのは、何か新しいことをやろうとすると、変えなければならない部分に対して、必ず抵抗がおこります。基本的に人間は変化することを拒む生き物ですので。しかし、リーダーにアサインされた人は、周りを巻き込みながら様々なことを変えていかなければなりません。リーダーにとっては必要な変化ですが、関連する既存の部署にいるメンバーや先輩、元上司にとっては、言い方は悪いですが迷惑でしかないんですよね。関わると仕事が増える。すると、仮にずっと社内で育ってきたような人がリーダーになった際に、何か新しいことをやろうとすると、各方面に変な忖度をしてしまってなかなか実行できません。だから、多少の軋轢があったとしても、何としてでもやってやる!という強い意思と、トップのバックアップが非常に重要です。

 また、社内の仕組みや制度は放っておけば少しずつは変化していくものなのですが、それでは社会が求めるスピードや危機感を持ったトップが求めるスピードには到底及びません。ECをやり始めたものの、思うように伸びない会社はよく「うちの会社と商品はECに向いていない」や「うちはシステムがわかる人間がいないから」と言い出しますが、ECに向いていない会社なんてありません。ただ、本気で取り組んでいないだけなのです。

 さらに言うと、新規に始めることは初速で大きく伸ばさないと社内で目立たなくなってしまい、やらなくてもいいか…という雰囲気になってしまうケースも多く見られます。例えば、3年後に30億円の規模にすることを目標にするのであれば、”1年目に10億円の売上予算を組み、様子を見ながらそれを達成するだけの予算と人員で行う”というように、既存事業と同じように積み上げ的に考え、運用していくと、新規ビジネスはうまく伸びないものです。極論、1年目に売上が10億円くらいの見込みでも、25億円分くらいの人員、リソースを配置し、まずは”構え”を作って、売上、顧客数、販売可能商品数などなんらかの規模を目指します。予算も投下して社内の体制ができればもう後に引けなくなっているので、あとは本気でやり続けるだけになります。

 そして、ある程度規模が大きくなると問題が顕在化してきて、担当者はもちろん社内の誰もがそれに気が付きます。すると、積み上げ式では、担当者が地道に社内を調整して解決しようとしていたことが、上層部や本業の関係者など、担当者以外の力も働いて、会社として問題を解決しようという動きが生まれます。なにか新しいことを始めるときは、精度の高いものを求めてゆっくりやっていたら、いつの間にか消えてしまいます。認識を変えてトップやリーダーの方が本気で推進する体制を作っていかなければいけませんね。

ーー先程のお話の中で挙がった、「顧客体験の提供」では、”現場経験”は非常に重要になると思いますが、中島さんはどのようにお考えでしょうか。

 もちろん現場での経験は大切です。これも組織の話に繋がりますが、私は常々、ECやWEBの担当者は、店舗の販売や商品、物流など本業の基幹部署から人を異動させてくださいと言っています。例えば、現場を経験したことがないネットやIT業界だけの経験者が、商品や販売を分かろうとすると、ずっと分からないままか、早くても何年かはかかってしまいます。一方で、長く販売やMDなどにいるスタッフはお客様の気持ちや売り方、商品がわかります。ネットやECに関しては、最初は分からないかもしれませんが、歴史の浅い業界なので半年から1年かけて努力すれば、業界スタンダードの知識は身につきます。そこにプラスして彼らの経験を生かしてもらうことが、お客様にとって価値の高い顧客体験を提供することができると考えています。

ーーありがとうございます!長年の間、ECや新規事業立ち上げに携わってこられた中島さんとしては、今後のECやオンライン・オフラインはどのように変化していくとお考えでしょうか。

 近い将来であれば、リアル店舗へのIT投資が広がり、より便利な「場」となっていくでしょうし、オンラインはよりリアルとの関係がシームレスになっていくと思います。どちらも融合されながらより良い顧客体験を提供できる、「変化し続ける場」になっていくのではないでしょうか。

 また私個人の希望としては、小売やサービスの場が、現在のリアルでの面白さ、スタッフとの交流から生まれる価値を残しながら、画一ではなく、「それぞれの会社がそれぞれの強み、特徴」を出して、ユーザーはその違いをそれぞれで楽しむことができる場が、創出されていくようになればいいと思っています。「リアル」や「オンライン」などと、わざわざ語られることのない場ができていくこと、それが本来のコンシューマーサービスなのかなと思いますね。

ーー中島さんご自身としては、今後どのような展望をお持ちなのでしょうか

 今まで自分が蓄積したノウハウを生かして、新規事業を起こしやすい環境を作っていくことであったり、ECやオムニチャネルだけでなく小売やサービスの発展やマーケットの拡大や理解を深めることのお手伝いができればと考えています。また、ビジネスというわけではないのですが、起業希望者への支援ですね。現在、ベンチャーカフェ東京というイベントのメンターとして、無料で起業希望の方の相談に乗っています。面白い考え方がたくさんあって非常に刺激になります。この取り組みは、おそらくずっと続けていくと思います。

 ただ、やりたいことができたら、コンサルではなく事業を始めます。知り合いや世の中の社長さんを見ていると、70歳過ぎてもとても元気です。昔、青年実業家と呼ばれたくて(笑)、若いうちの起業に憧れていた時期もありましたが、今でも面白い事業で起業したいという思いは変わりません。

ーーありがとうございます!それでは最後に、中島さんが考える”未来のCMOに必要なもの”を一言でお願いします!

 “C”ポジションですので、トップに近い経営能力は必須ですが、 CMOに限って言うと“顧客体験を設計できる能力”だと思います。マーケティングにこだわらず、メディアを超えて、物流、支払いなどの全てのタッチポイントが関わる顧客体験をいかに設計できるか、トップに理解させるかです。それをやるためにはITも含めた幅広い知識が必要です。また、ベースとしては、知らない分野でも提案されたときに、ロジカルに判断する能力は必須ですね。

Text by Kazuumi Noda


【プロフィール】
中島 郁
ネクトラス株式会社 代表取締役
ベンチャー、外資、老舗でマーケティング、事業立上げ、経営企画、代表を経験した実務ベースの経営コンサルタント。IT、小売、メディア、サービス等広い分野に関与。ECは1995年から。トイザらスでマーケティング部門及び米国直轄EC専業法人を設立。ジュピターショップチャンネル執行役員本部長(EC、マーケティング)、世界最大のEC支援企業GSI Commerce(eBay Enterprise)APAC代表兼日本法人社長。コンサル関与後入社の三越伊勢丹では役員兼事業部長として、EC・メディア構築、オムニチャンネルを推進。3社で大規模EC責任者を経験したのは国内唯一。
現在、ベンチャー~大企業の経営・マーケティング・EC・オムニチャネル、新事業支援に携わる。米国バブソン大学MBA。www.nectoras.com


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