こどもちゃれんじや進研ゼミといった通信教育をはじめとして、子供から大人まで幅広い世代にサービスを提供するベネッセ。国内で最大規模の顧客データを保有する同社は、創業当初から“DM”を基軸にしたOne to Oneマーケティングを実現し、入会者数を伸ばしている。その裏側には何があるのか、そしてデジタル時代における今後の展望は。幼児デジタル推進課課長の清水氏にお話を伺った。

まずは簡単に、清水さんのこれまでのご経歴を教えてください。

ベネッセには2013年に入社したので今年で4年目です。それまでは広告会社や広告代理店にいました。当初は、コピーライターやクリエイティブディレクターといった肩書でしたが、徐々にダイレクトマーケティングに軸足を移していき、最終的にはWebマーケティングを中心としたマーケティングプランナーを担当するようになりました。その後、ベネッセに入社してWeb広告やサイト構築、システムなど、主にデジタルマーケティング全般を担当しています。

当初、なぜクリエイティブをやろうと思ったのですか。

もともとコピーライターになって名をはせたかったんです(笑)。コピーライターだった時は、CMプランナー等、色々と方向性を模索していました。しかし、クライアントに常駐してマーケティングを支援する中で気づいたのが、クライアントが求めているのはあくまで“ビジネス課題の解決”で、コピーライターとして自分がこだわってきた部分とズレがあったんです。自分の周りにはクリエイティブでビジネス課題を解決し続けるスゴイ方もいましたが、自分はクリエイティブとビジネス課題解決、この両者をシンクロさせたいと考えていく中で、より課題解決に直結する仕事にコミットするようになっていきました。

システム領域に関しては、ベネッセに入社してから本格的に取り組むようになったのでしょうか。

そうですね。ベネッセ入社以前に、通販の化粧品会社に1年半ほど出向していた際に、いまでいうMA的な施策を手づくりでやっていました。自分たちでデータを取得・統合・類型化して、手作業で送付物やメール、サイトを個別化する、というようなことです。その会社ではマス広告と電話が主な販売チャネルでしたが、マス広告に投下した費用がダイレクトに電話に跳ね返ってくるわけではなく、マス広告を見て、Webを見てから電話する方が増えてきていました。また、無料サンプル請求とその後の検討、購入チャネルの組み合わせもどんどん多様化していました。それらが非常に複雑化してきていたので、検証設計をつくりなおす必要にせまられました。

そこで、一部のエリアではCMやインフォマーシャルを流し、その他のエリアでは何も実施しない、といった形でテストマーケティング用の母集団を準備し、放送されてから何分後という形で時間を区切り、電話やサイト訪問があった人にはフラグをつけて、そのデータを全て統合・分析し、送付物の中身をカスタマイズして、レスポンスを見るということを手作業でやりました。前日までのデータを翌朝までに突合しておき、それを出社後すぐに集計してクラスタごとの打ち手を関連部署にお願いしていましたね(笑)

ちょうど施策の効果を可視化するニーズが高まっていきていた時期だったんですね。

そうですね。2011〜2013年頃はそういった引き合いが多かったです。ちょうどデジタル広告が盛り上がってきた時期で、ヤフーがターゲティングメニューを拡充させて様々な行動ターゲティングメニューが出てきたりしたので、みなさん成長性を見込んでいたんだと思います。

当時、何か上手くいったことがあれば教えてください。

広告代理店時代に、レポート業務をアナリストチームに任せきりにせず、営業チームが自分たちでデータを触って、それをもとにした企画を提案するという取り組みはかなり成功しました。基礎データを集計してPowerPointに貼り、考察をつける形のレポートを作るのも読むのも大嫌いだったので(笑)、同じレポート業務でも、私たちは仮説をアナリティクスツールで再現し、「ここを改善したらこれだけ売り上げが伸びますよね?一緒に取り組みませんか?」という提案をしていました。ときにはExcelシートだけで提案していたぐらいです。

その営業スタイルは上手くいきましたし、実際にいいビジネス課題の解決にもつながりました。とあるマルウェアの会社は私たちの提案にのって、過去最高のKPI達成率を2ヶ月連続で叩き出したこともあります。

逆に失敗したことはなにかありますか?

セグメントを細分化して打ち手に繋げること自体は上手くいきましたが、ビジネス全体として見るとごく一部でしかないので、私が関わった部分で結果が出ていたとしても、会社の売上利益という最終的なゴールに繋がらなかったことは多々ありました。これは大きな失敗でしたね。

今でもこの部分は重視していて、広告代理店やパートナーと話をする際には、部分的な視点ではなく、最終的なゴールである売上に何%寄与するのか、というロールアウトモデルも含んだ上でのプランを提示してもらうようにしています。小さくトライするのはいいですが、小さくロールアウトされても仕方がないですから。

ベネッセに入社されてからは具体的にどのようなことに取り組まれてきたのでしょうか。

入社後は「こどもちゃれんじ」と「進研ゼミ小学講座」のWeb広告を担当していました。ベネッセはWeb広告の半分以上をインハウスでやっているので、ローデータを自分たちで分析したうえで、こんな施策がやりたいとメディアレップに依頼する形です。
また、当時はGoogleAnalyticsとWebAntennaを使っていて、WebAntennaで落としたローデータをつなぎ合わせ、どこで接点を持った人が、その後どう動いているかというデータを作って、広告を打ち分けたりしていました。手作業でコホート分析をしていたイメージですね。

インハウスでやられているのは、何か理由があるのですか?

私の入社前からだったので詳しくはわかりませんが、入社当時のベネッセでは、WebはDMでニーズを喚起された方が申し込むためのツールという考え方が強く、Web広告で積極的にお客様を拡大するという方針ではありませんでした。なので、CPO基準が他施策より厳しかったんです。代理店主導の運用だと少しざっくりしてしまうのでCPOが見合いづらく、そうなると予算がどんどん縮小してしまうので、代理店は使わずに自分たちでCPOを合わせながら細かく運用してきた背景があるのではないかと思います。私自身も入社時点ではWeb広告の知見はあまりなかったのですが、データは前職でさんざん触っていたのでスムーズにジョインできました。

なるほど。オフラインでセグメントを細かく分けて施策に繋げてきたナレッジが活きているんですね。

活きていますね。DMだと封入するコンテンツ次第でCVRが変わるので、Webサイトでもコンテンツを100本作って1本の鉄板コンテンツを見つける、という方法論がとられていました。でもWebの場合、お客さんはより多様ですし、常に動きます。時期によっても動きは変動しますし、何度も動きます。その動線を分析しながらチューニングしていかないとCPOは合いません。鉄板コンテンツをつくれたとしても、リマケを全てそこに集中させて誰が何回きてもそのページに誘導しているようだと興味は深まりませんよね。そういった考え方は、わりとすんなり受け入れられたように思います。

そして、その直後に起こった個人情報流出問題をきっかけに、ブランドイメージを回復しようと、コーポレートサイトのリニューアルと、ベネッセホールディングスが持つ約270のサイトに共通のアナリティクスツールを導入し、全サイト訪問者をcookie IDで繋ぎました。

その後は進研ゼミが「進研ゼミプラス」という形でリニューアルするにあたり、Webマーケティングや各種イベントなどを担当しました。当時、ベネッセはグループで塾も展開していたので、塾に通っている人を進研ゼミにどう流すか、進研ゼミを受けていない層をどうやって塾に流すかというマーケティングにも取り組みました。2016年からはこどもちゃれんじのWebマーケティング責任者になり、「こどもちゃれんじ」と「こどもEnglish」の販売促進、およびブランドPR活動に注力しています。

以前はWebがあまり重視されていなかったとのことですが、オフラインが強すぎたが故にWebには踏み込まずにいたのでしょうか。

いわゆる「イノベーションのジレンマ」ということが近いのかなと思います。オフラインで勝ちパターンを見出してこの規模まで成長してきたので、戦略も組織もある程度そこに特化してしまうのは仕方がないことかと思います。施策の評価の方法一つとっても、DMとその他のチャネルは係数が違ってきたりもします。ただ、今あるリストの中で効果を最大化するのはDMの役割とした場合に、リストにないお客さんと接点を取りにいくのはWebを含めた新しいメディア、という形で新たな成長を模索する流れが始まっているので、ここからさらなる成長を描ければと思っています。

 

昔からDMでも細かくセグメントを分けて配信していたので、データに関するナレッジがある社員の方が多いのでしょうか。

とても多いですね。ひとりひとりのナレッジは割りとレベルが高いと身内事ながら感じます。DM制作担当が複雑なクロス集計や貢献度分析をしたりもします。教育関連の営業は、地域や学校ごとの進度などへの対応が非常に重要で、個々人にあわせたアプローチが必要になるので、自然とそういう素養が身についてくるのかなと思います。

ベネッセ入社後は各サイトをcookie IDで繋ぐなど、Web領域に幅広く携わってきたと思いますが、元々そのような知見は持っていらっしゃったのでしょうか。

Web領域はそこまで詳しいほうではなかったのですが“データ”に関する知見は最低限あったので、ターゲットの理解でも、Webというアウトプットでも、システムでも、すべてデータ的に考えて捉えられる部分ではやりやすさは感じています。どんな行動をとった人を、その心理も含めて考察してどう類型化し、いつどこでどんなアプローチをするとどんな反応が起こるかを計画し、それをサイト・システムのかたちでアウトプットしている感覚です。

ベネッセさんのように、DMでもセグメントを細かく切って成果を上げている企業は他にもいるのでしょうか。

DMでここまでやっている企業はあまり多くは聞かないですね。個人情報流出問題が起こった以降は、国内でも類を見ないセキュリティレベルで個人情報を管理していますので、その観点でも特異だと思います。

そんな中でもベネッセがWebマーケティングを重視し始めたきっかけは何だったのでしょうか。

個人的な考えですが、私は大きく2つあると考えています。1つはDMというひとつの勝ちパターンだけでは限界がきていること。個人情報流出問題もひとつのきっかけではありましたが、勝ちパターンが未来永劫続くわけではなく、サイクルとして新しい成長の芽が必要で、ちょうどそれがWebだったのではないかと。

ではなぜ数ある領域のなかでWebだったかというと、それがもう1つの理由なのですが、お客さまのほうが先に変わり、そこに対応したということだと思います。いまのご時世で、申込の半分以上がWebという状況を単なる受注ツールとして支持されていると捉えるのは、ちょっと無理がありますよね(笑)お客さまが、情報収集・検討手段としてWebを使っているので対応する必要があったということだと思います。

申込の半分がWebというのは、意外でしたか?

これはもう立派にECですよね(笑)。ただ、だからといってWebはWebだけで完結するべきとは考えていません。Webで興味をもって資料請求をして、資料が届いて、中の体験見本を子供に触らせたらいい反応がかえってきた、今月申し込むと届く教材を詳しく知りたかったのでまたWebをみる。
このように、お子さまのリアルな反応を引き出すという点においては、DMは相当有効な手段です。このDMによる“体験”を軸にして、Webをどのように活用していくかという考え方がベネッセらしさであり、強みだと思います。

我々が提供しているのは“学びや成長を支援するサービス”で、お子さまにとってできるだけ最適なものを選びたい。ポチる感覚で決めるものではないんです。お客さまがしっかり確かめてご納得いただいた上で入会してもらいたいという思いがベネッセのマーケティングの根底にあります。

弊社が提供している マーケティングツール『b→dash』 は、マーケティングプロセス上に 存在する全てのビジネスデータを、ノーコードで、一元的に取得・統合・活用・分析することが可能なSaaS型データマーケティングプラットフォームであり、BtoC業界を中心に、様々な業種・業態のお客様にご導入頂いております。

Editor Profile

  • 福井 和典

    株式会社データX マーケティング管掌執行役員

    日本IBMにてシステムエンジニア、GREEにてCRM領域のオペレーション企画、PwCでの業務コンサルタントとしての経験を経て、2016年よりデータXに入社。データX入社後は、カスタマーサクセス部門に在籍し、小売/金融/アパレル/ECなど幅広い業種に対するb→dash導入支援を統括。
    その後は、主にb→dashのマーケティング/広報/PR活動や事業企画に従事。

Speaker Profile

  • 清水 耕太郎

    ベネッセコーポレーション

    チャネル開発部 幼児デジタル推進課

    「こどもちゃれんじ」のWeb販売責任者。広告制作会社コピーライター、広告代理店マーケティングプランナーを経て現職。入社以来、ベネッセホールディングス全体Webログ解析環境構築、コーポレートサイトリニューアル、「進研ゼミプラス」Webプロモーション企画等を歴任。

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