後編ではマーケティングにおける効果測定の方法やデータの活用、各企業がマーケティングを推進するうえで意識するべきポイントをお話いただく。
データを活用した効果測定について
裏側の部分についても教えてください。C CHANNELにおいてコンテンツの効果測定はどのようにされているのでしょうか?
C CHANNELでは動画のネイティブアドを提供していますが、テレビCMと比較すると再生完了率が全然違います。動画の場合、再生数、再生完了率、エンゲージメント率が最初のKPIになります。どちらかと言うとブランディングに近い領域なので、クリエイティブがとても重要になります。いかに繰り返し見たくなるか、ですね。
また、認知、理解、行動という購買プロセスの流れの中で、順序よく動画の中身の最適化もしています。
最近動画のEコマースを始めたんですが、これは視聴者が動画を見て、欲しいと思って、購入という行動をうまく設計しています。これってまさに企業が求めることだと思うんです。いきなり「この商品が安い」とか「今すぐ買わないとなくなる」とか訴求すると、CVRは高いかもしれないですが、ブランドイメージは悪くなります。いかにメッセージを購買行動に落とし込んでいく設計であるかが重要になります。認知フェーズから一気に買わせるコミュニケーションでは駄目で、購買プロセスにおける気持ちの醸成や、購買につなげていく設計が重要です。そういう部分もシステム化できると良いと思っています。
顧客のデータをどう繋げていくか、購買までのプロセスをどこまで可視化できるかが重要ですね。今後、コミュニケーションにおいてデータは大きな判断材料になっていきますね。
いきなり刈り取りに向かうと、短期的には結果が出るかもしれない。しかしながらその1回で終わってしまうケースが多い。まずは認知をしてもらって、順に理解してもらう、という順番で進める方が、その人の継続的なエンゲージメントという観点からは良かったりする。刈り取りの部分が数値化しやすいですが、そこしか数値化されていないと、単純な獲得単価のみがフォーカスされてしまいます。
エンゲージメントの高いコンテンツ制作はデータを可視化しているからこそ見える部分だと思います。それはPDCAサイクルを高速で回してトライ&エラーを繰り返すことで見えてきたのでしょうか?
データとして出てくる部分はもちろん目を通していますし、データとして出てこない部分はインタビューを実施したり、日常的にコメントを読んだりして情報をアップデートしています。例えばエンゲージメントが高くても、出ているクリッパーとコンテンツの相性が良いものもあれば悪いものもあるんです。そこを見定めるのがとても難しいです。数字だけでなく、肌感覚の部分もとても重要な要素です。
これまで様々なトライ&エラーを繰り返して来たと思いますが、これからも「数をこなして調整していく」ものなのか、それとももうすでに森川さんの中ではある程度洗練されて来ていて「勝ち筋は見えてきている」のでしょうか?
どちらとも言えないですね。今は変化が激しい時代なので、常にデータを見続けていないと取り残されてしまいます。また、単にデータを眺めているだけでも駄目で、そのデータから何かを汲み取っていくことが重要ですね。仮説が常に変わっていくようなイメージで、ある意味ハックに近い領域なんだと思います。今までのような広告代理店に丸投げ、という時代ではなくなってきていますね。
マーケティングにおけるPDCAサイクルはLINE時代と比べてC CHANNELになってから早くなっているのですか?
LINEは世界中で利用されているので、24時間変化があります。夜も寝ながらダッシュボードを見ているほどでした。一方、C CHANNELはまだアジアでしか展開していないので、そこまでではありません。とはいえ、データの確認はリアルタイムで実施しています。C CHANNELのようなコンテンツを軸としているサービスでは、コンテンツを出した瞬間に再生数がどれだけ伸びて、どんなコメントがつくかが非常に重要です。結果がわかるまでのリードタイムはとても短いですね。
「タイムライン時代」とでも言うのでしょうか。昔は検索してコンテンツに辿り着くケースがほとんどだったので、コンテンツの新しい古いはそんなに関係がありませんでした。しかし今はタイムラインで流れていってしまうので、アップされた瞬間が勝負です。最近ではよくユーザーとのファーストコンタクトの1.5秒が肝だと言われています。直感的にみなさん判断するので、1.5秒以内に感動させないといけないんです。
他のSNSだと、Instagramではサムネイルが非常に重要です。ご存知の通り、若い女性って1000枚写真を取って、一番いい1枚をアップするという世界ですけれど、企業はそこまではやっていない。それくらいこだわっていかないと、スルーされてしまうんです。
いかにタイムリーなデータを拾って次の施策につなげていくかが重要なんですね。中長期的な視点では、ユーザーの詳細な情報のデータなどに基づいた設計をされているのでしょうか?
まだデータ化はしていませんが、今後はデータを参照しながらコンテンツの出し分けをすることも考えています。髪の長さや、肌の強い弱いなどの細かい部分に関してはデータを取るのが難しいので、ユーザーの視聴動向を見ながらコンテンツを出し分けする形にはなりますが。誰がどんなコンテンツを見ているのかは、今後データとして蓄積していきたいですね。
データの時代といえども、定量・定性両軸で判断していくことが重要だと思います。コミュニケーションにおいて何か意識されていることはありますか?
最近各企業からいただく一番多い相談は、CVばかりを意識した結果、ユーザーがシニア層ばかりになってしまい、その結果若い人がモノを買ってくれなくなったというものです。
よく聞く話ですが、店員がガツガツしてる店は潰れていき、むしろカフェみたいな雰囲気で店員さんがなかなか売ろうとしない店のほうが売れるんです。企業のコミュニケーションの象徴的な事例ですよね。特に若い人は肌感覚が優れているので、ギラギラしてるとすぐにバレてしまいます。
マスにおいてもデジタルにおいても言えることですが、欲を出さないことが最高のコミュニケーションなんです。欲を出して刈り取っても結果的に焼け野原になってしまいますから。
消費者との様々な接点においてプッシュしすぎるなということですね。その場は売れるかも知れませんが、中長期的なブランド価値を考えるとどうプル型に持っていくかが重要だと感じました。
人間のコミュニケーションに置き換えてみると、会って早々「あなたは私にとって意味がある人間ですか?」なんて聞かないじゃないですか。企業はそういうコミュニケーションを平気でやってるんです。せめて3回くらいは普通の会話をしないと駄目なんです。
もう一つの視点として、万人に同じコンテンツを出し続けることの限界を感じています。その点ではC CHANNELも万人に好かれる動画を取り扱うメディアではないと思います。今後インフルエンサーがマーケティングの一つの鍵となってくる中で、価値観の多様化には必ず対応しないといけなくなると思います。
そうですね。その通りです。例えば、あるユーザーがスイーツのコンテンツをよく見ているから毎日スイーツのコンテンツをオススメしているとスイーツを嫌いになってしまいます。たまにはラーメンを挟んでみたり中華を挟んでみたりしないと駄目なんです。みんなわがままですから(笑)。
森川氏が見据える未来
今後はC CHANNELではどのような領域に注力していく予定なのでしょうか?
先程も少しお話しましたが、Eコマースには注力していきます。今までのEコマースは、すでに何かを買うことを決めている人が検索して購入するというスタイルでしたが、今C CHANNELがやっているのは、最初は買いたいとは思っていないけど、コンテンツを見ると買いたくなってしまうような、そんな世界です。いわばテレビショッピングの置き換えですね。面白いコンテンツだと思って見ていたら商品が欲しくなるような感覚。その部分にこだわってやっています。
実際にテレビショッピング関連の方々と話をすると、出演している人が本当に欲しいと思っていないと商品は売れないらしいんです。LIVEなので、本音が垣間見えた瞬間に数字が上がる。なので演技だとばれてしまうので共感されず、購買まで結びつかない。
いかに共感を生ませるかが重要だと。私たちは企業のデータを統合してOne to Oneマーケティングを実現するサービスを提供していますが、その先にあるのはその人にとってのOne to Oneの変化をどう予測するか、になっていくのかもしれません。企業の「データ活用」に関してはどのようにお考えですか?
最近、ビッグデータがトレンドワードになっていることもあり、各社大量にデータを集めていますが、集めたデータをどう使うのかがわからなかったり、そうこうしてる間にデータが古くなってしまったりしている企業がとても多いように感じます。データを統合して使える状態にしていったり、そのデータを活用することは今後ますます重要になっていきます。
データの活用の部分においても、やはり仮説がないと使えないんです。とはいえ仮説を作る時間と、その仮説を検証する時間がないため、結局はデータを有効活用できていないケースがほとんどです。
森川さんが今後、日本企業が海外に進出するにあたってマーケティング視点で重要だと感じることは何でしょうか?
まずはデジタルを理解すること、特にSNSの活用です。あとはインフルエンサーの活用。この2つの組み合わせが非常に重要です。未だに海外でも雑誌広告やテレビCMをやっている企業が多いですが、それでは若い世代にリーチしません。マーケティング活動そもそもがダサい、となってしまうと、憧れてモノを買うことからは程遠くなってしまいます。
SNSの重要性についてお話いただきましたが、森川さん自身SNSについてはどのように捉えていますか?
最近色々なSNSが登場してきているので、幅広くウォッチするようにしています。最近ではFacebook vs Snapchatにはとても興味がありますね。
日本で馴染みのあるSNSというとFacebookとInstagramとLINEが挙げられますが、それぞれ全く異なります。Facebookは比較的地方の人が多いように感じますね。地方の人は車移動なため普段から知人や友人に簡単には会えないのでFacebookが地域のコミュニティになっています。
一方、都会では簡単に知人や友人に会えるのでコミュニケーションの仕方が全然違っていて、もう少し距離間を保ちたいとか、匿名性が重要とか、直接繋がりたいとうようなニーズが強いのでLINEのようなサービスが適しています。Instagramにおいては非日常的な空間というイメージですね。現実的なものをアップすると興ざめしてしまうので、いかに夢の世界をつくるかが大事です。
また、そもそもSNSは普及していくとおしゃれな人が去っていくという特性があります。例えばFacebookでは親や上司が使い始めたから使わなくなったという方もいるのではないでしょうか。あとは、テキストと写真と動画の何を求めるのかによっても変わってきます。写真や動画になってくると、情報性よりも見た目が重要です。もちろん今後変わっていく可能性もありますが。
SNSや動画などを活用した企業のコンテンツマーケティングについては今後どう変化していくとお考えでしょうか。
昔のテキスト中心の時代ってクリエイティブの要素はほとんど存在しなかったんですよね。それが写真、動画となって徐々にクリエイティブが重要になってきた。そうなるともうその先は、良い商品じゃないと売れない時代になっていくのではないかと思います。どんなにマーケティング予算をかけてどんなに良いクリエイティブを用意しても、最終的に商品力が高くないと売れなくなる。いまはその直前にあるんだと思います。
マーケティングを推進する上でのポイント
これからの企業のマーケティングの未来を予測するのは難しそうですね。最後に、マーケティングにおける体制面やスキルの面についてお話をお伺いできればと思います。C CHANNELにおいて、マーケティングを推進する上で予算の使い方や体制面で注意していることはありますでしょうか?
一番重要なのは継続性です。どうしても獲得単価を下げることに意識がいってしまい、近視眼的なマーケティングになってしまうので、そこは一番注意しているポイントです。
あとはF1層を獲得できるかどうか。日本ではシニア女性や子供のほうが獲得単価が下がりやすい傾向にあります。単純にユーザー数を増やそうと思うと、その層を持ってくるとか、最近だと海外の人をもってきて足し合わせる会社もあるほどです。でもそれでは意味がない。単価が高くてもメインのターゲットであるF1層を取りにいき、かつ継続率が高いことが重要です。
マーケティング施策を実施判断する上での軸は何かあるのでしょうか?
何度も言いますが、まずはターゲットです。あとは、毎日使いたくなるような設計をどう作るか、本当にその施策をやると毎日お客さんが来るんだっけ?という部分です。C CHANNELが今まで作ってきたコンテンツって今までは毎日見る必要がなかったものなんですよね。毎日料理も作らないし、ヘアアレンジもしない。それをどうやって毎日使いたくなるようなものにしていくのか、ライフスタイルの提案にとても近いと思います。
人の部分ではどうでしょうか。こういう人がマーケターに向いているとか、こういう人がいると今後マーケティング領域において戦いやすくなるとか。
一つは、徹底的に細かい人が望ましいです。大雑把な人だと細かい変化に気が付かないので。もう一つは感性が豊かな人です。クリエイティブの部分でちょっとした違いを判断できる人がいいですね。
Instagramの世界でいえば、流行っている色や流行っている風景を肌で感じられるかどうかも重要です。一見地味ですけど、とても重要なスキルです。
では最後に、森川さんが考える未来のCMOに必要なものを教えてください!
「感性」ですかね。それ以外はAIがやってくれる時代になっていくのではないでしょうか。
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森川 亮
C Channel
代表取締役社長
1967年生まれ。筑波大学卒業後、日本テレビ放送網に入社。コンピュータシステム部門に配属される。インターネットの登場に刺激を受け、ネット・ビジネスに傾倒。多数の新規事業立ち上げに携わる。2000年にソニー入社。ブロードバンド事業を展開するジョイントベンチャーを成功に導く。03年にハンゲーム・ジャパン㈱(現LINE㈱)入社。オンライン・ゲーム市場でNo.1となる。07年に同社の代表取締役社長に就任。15年3月にLINE㈱代表取締役社長を退任し、顧問に就任。同年4月、動画メディアを運営するC Channel㈱を設立、代表取締役に就任。