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2017.05.23

「顧客情報は命である」
EC成長請負人メガネスーパー川添氏が語る、
3年で売上を5倍にした“真のオムニチャネル戦略”の全貌

 アイケアカンパニーとして、メガネ・コンタクトレンズの販売だけにとどまらず、「眼の健康寿命」を延ばすためのあらゆる解決策を商品やサービス、アドバイスを通じて提供し、全国で約330の店舗を展開するメガネスーパー。デジタル・コマースグループ ジェネラルマネジャーの川添隆氏は、アパレル業界時代の経験から「ECの成功可否は経営判断に委ねられる」と感じる。自身も経営視点を欠かすことなく、ユーザーにとって当たり前のことを当たり前に取り組むことで、自社ECの売上を3年間で5倍に成長させた。その裏側には何があったのか。お話を伺った。

◎インタビューを読む前にマーケティング戦略について詳しく理解したい方はこちら

――メガネスーパーに入社するまでの経歴を教えてください。

 大学時代は建築を学んでいましたが、建築の世界は活躍できるまでの期間が長く、もっと早く成長したいとい思っていました。そこで昔から好きだったアパレルの仕事に携わりたいと思い、サンエー・インターナショナルに入社しました。建築を学んでいるときからものづくりに興味があり、将来は自分でブランドを作りたいという思いがあったので仕事はとても楽しかったです。

――ものづくりへの興味や自分のブランドを作りたいというルーツはどこから来ているのですか?

 大学で建築を学んでいたときは、単純に自分が設計した建築ができたら、自分が死んでもそれが残ることって素敵だなと思っていました。また、私の好きな日本のブランドの一つにコムデギャルソンがあるのですが、世界でトップ10に入るような日本を代表するブランドにも関わらず、そのことを日本人は知らないですよね。ブランドの思想、毎シーズンのコレクション、生産工場の選定、ビジネス展開など、こだわって作り出した「単なる服」が、アートとしても、ビジネスとしても注目され、顧客や業界に影響を与えていくことがスゴイなと感じていました。

 その後、ECにどっぷり入っていく直前で、アパレル業界で働いていると、世の中のイメージの偏りを強く感じていました。アパレルというと世間は”販売”のイメージが強く、アパレルにも色んな職種があることに気づいていないんですね。そんな状況を変えてやろう、アパレルを最先端な業種にしてやろう。そのためには、今伸びてきているECの領域なら何かしらのインパクトをだせるのではと思ったのが、ものづくりからECに絞ったきっかけです。

――確かにアパレルといえどもいろいろな職種がありますよね。その後はどうされたんですか?

 その後はクラウンジュエルというB2Cでブランド古着のリユース事業を運営する会社に転職しました。創業2年目のタイミングということもあり社員数も少なかったので、いわゆるECの“ささげ”(撮影・採寸・原稿)を始めとして、徐々になんでもやっていました。ベンチャー企業なのでいろいろなことに携わるのも楽しかったのですが、もう少し規模の大きい会社で専門的な仕事がしたいと思うようになり、クレッジというマルキュー系のレディースアパレル企業のECチームのスタッフとして入社しました。

 当時の会社では、経営陣はECを延ばしたいと考えていたものの、ブランド事業部の責任者は「店舗の客が取られるからECは頑張って売らなくていい」というスタンスでした。それでも、「店舗だけでなくECで買いたいお客様がいる」ということを信じて、過去の経験を活かしてメルマガの改善を行ったり、初めてながらもリスティングを開始したり、メルマガやオウンドメディア等のどのリンクからいくら売れているかといったような、自分でできることを徐々に増やしていきました。

 実際に色々やってみると自社の強みを再認識させられます。前職では苦労してモバイルの売上を引き上げたにもかかわらず、クレッジでは入社時にすでに85%の売上があったんです。特に何もしていないのに(笑)。また、新作の販売日を間違ったり、メルマガが届いていなかったりするとクレームをいただき、「情報を待っているお客様がいること」を知りました。そんな状況が1年半ほど続き、試行錯誤を繰り返しながら、ECにおける知見をためていきました。その後、経営者が変わったタイミングで、ECの責任者に抜擢されて、貯めてきた知見を活かしながら、チームの拡大、自社ECの内製、LINE@の早期着手などに取り組みました。結果としても1年半でEC事業の売上も2倍に成長させることができました。

――そんな状況でどのような経緯でメガネスーパーに転職したのですか?

 実は転職意欲があったわけではありませんでした。色々と自由にやらせてもらっていたこともあり、クレッジで成果をあげられたのも環境が全てだという思いがありました。商材は武器にすぎず、どの企業に行くかではなく、どんな経営者のもとでやるかが重要だと。そんななか、クレッジの社長がメガネスーパーの再生に関わることが決まったので、まだその社長のもとで働きたいと思い転職を決意しました。

――メガネスーパーに転職してから何をされてきたんですか?

 いまではオムニチャネルの推進できるまでになりましたが、入社当時はオムニチャネルをやりたいという考えも持っていなかったですし、WEBを通じたコミュニケーションができている状態ではありませんでした。メルマガの保有数は2万件、サイトのPV数も数十万の後半くらいで、他にWEB関連でお客様とコミュニケーションをとるのに相性がよさそうなチャネルもない。リアル店舗でお買い物いただいた顧客データは、700万件くらいありましたが、果たしてそれはデジタルマーケティングで活かせるのか?という状況でした。

 そこで、まずはECの売上アップのみにフォーカスしました。最初に着手したのはECサイトのクリエイティブ改善です。サイト上で実施している施策の良さが全く伝わらない状況だったので、「送料無料」や「返品交換可能」などのユーザーメリットのあるバナーをページのトップにわかりやすく配置しました。それだけでも売上が1.3倍に上がりましたね。

 そういったサービスの基本となる部分の改善をしながら、コスト投下量や精度改善なども並行して行いました。具体的には、メルマガの配信数を増やしたり、リスティングの配信方法を絞り込んで精度を上げたり、セールを増やしたり。メルマガに関しては週に14回配信しています。

――メルマガを週に14回はすごいですね!ある程度配信していくと開封率は低減されていくと思うんですが、どのような工夫をされているんですか?

 ベストプラクティスは今も模索中ですが、メルマガの役割を「読んでもらうもの」から「注文する導線」に変えたのがポイントです。コンタクトレンズは「うっかり買い忘れる」方が多いので、いかに導線を増やすかが重要です。工夫としては、配信回数を増やすために内容をシンプルにするように心がけました。
 お客様側が便利になることに対して、忠実におさえていれば、売上はどんどん上がっていきました。会社としても、足元で成果が出ているものに投資を拒む理由がないので、ECサイトもリニューアルができ、さらに良いサイクルが回っていきました。今考えれば会社としても個人としても大きなターニングポイントだったと思います。

――ユーザーにとって当たり前のことを当たり前にやったんですね。ECを推進する上でのポイントはありましたか?

 メガネスーパーでは「価格だけでは戦わない」という共通の考え方があります。実際にお客様が、店舗とECを併用する理由は、「価格」ではなく、メガネスーパーの信頼感があった上での、時間や場所を選ばすに注文できるという「便利さ」だということが自社ECサイト会員向けアンケートでわかりました。とはいえ、当社のECサイトの主力商材であるコンタクトレンズの購買行動を考えたときに、他のECサイトと比較して圧倒的に便利であったり、どうしてもこのサイトで買いたい!というような熱狂が生まれたりすることは難しいと捉えています。
 だからこそ、「ちょっとした差」に徹底的にこだわっています。大々的に便利さを打ち出すのではなく、先程のクリエイティブ改善のような細かいディテールの部分にこだわります。そこが勝負の分かれ目だと思うんです。
 例えば、もし私がECを利用する立場なら、入力項目が多いだけで、めんどくさいなと感じます。リピート性が高い商材なだけに、毎回めんどくさい体験をしなくてはなりません。しかし、それが当たり前なんだと。でも逆に、少なくとも当社のサイトや店舗でご購入いただいたことがあれば、前回の度数と同じものをカンタンに購入できるとか、後払いが可能とか、ちょっとの便利さがお客様にとって大きな差を生み出すんじゃないかと考えています。
 
 価格面に関しても絶対額で競争することはありませんが、クーポンを配布するなど見せ方を工夫することは意識しています。メガネスーパーのEC事業の過去最高売上は今の倍くらいあったようですが、当時はEC事業単独で赤字でした。
 ところが、今のEC事業の売上は年間で約3億円くらいですが、営業利益はしっかりとでています。そうすることで、利便性を追求するためのサービス導入・開発に投資ができます。薄利多売で、広告費に投資するのではなく、利益を出すことで次の投資をして独自性を出していくことを意識していて、それは全社としても同様のスタンスです。メガネスーパーとしては、競合を意識した戦略を立てるというよりかは、会社としてどうお客様に向き合っていくかを意識しています。

――なるほど、ユーザーの視点も取り入れながら自社としての戦い方を貫けることがすごいですね。対社内の観点ではどうでしょうか?

 社内外含めて、自分たちの”存在意義”をいかに発揮するかはビジネスパーソンとして重要です。前職でも明確に感じたことですが、特にECの場合は、自分たちの存在意義を示さないと周りは無関心です。とはいえ、売れているブランドであれば、何もしなくてもECの売上は上がっていきます。そんな状況でも意思を持ち、工夫を重ねて”売れるお店”を作っていくことが存在意義につながりますし、そのほうがやる側も楽しいはずです。

――ECが軌道に乗ってからはどのようなことをされたんですか?

 スマートフォンアプリの導入です。工夫をし続ければEC事業は成長しますが、必ずどこかで成長曲線が鈍化していく確信がありました。やはり、社内外に向けて、自分たちの存在意義を示していくためにも、これまで強化してきたECのプラットフォームを使い倒して店舗営業を効率化していくためにも、携わる領域を広げなければいけません。
 ECでのメイン商材はコンタクトレンズで、店舗でも定期便をおすすめしています。店舗の事業でもサブスクリプション型の通販をやっているようなイメージです。頻繁に使うコンタクトレンズ用品をまとめて定期的にご自宅にお届けするのが定期便ですが、加入しないお客様は必ず存在します。自身のタイミングで注文したい、要は企業側に主導権を持たれたくないんです。この顧客ニーズに対して、何か手を打たなければならないと考えました。
 一方、メガネはお客様の視力や見え方だけでなく、生活環境に合わせたオーダーメイドの1本をご提供するために、複数の検査をして、生活環境やご希望のヒアリングに時間をかけます。もし、メガネの検査をしている間に、コンタクトレンズをお求めのお客様がいらっしゃった場合どうなるでしょうか。特に少人数のスタッフの店舗の場合は、コンタクトレンズのお客様をご対応できない可能性があり、他社でも同じ商品が手に入るため、顧客の流出につながってしまいます。いつも同じ商品をお求めのリピーターのお客様であればなおさら機会損失です。

 今思えば、会社としてもその課題にすぐに気が付けたことが良かったと思います。わざわざ来店しなくても良いお客様は配送を、アドバイスが欲しいお客様はには店舗で接客するようにして、店舗運営の効率化を図りました。当初はブラウザ経由でECをオススメしようとしていたのですが、ご案内の手順が多くなってしまったり、商品にまでたどり着く遷移が増えたり、さらにそれを店舗スタッフがオススメするのは困難だと気づきました。そこでアプリの活用に行き着きました。また、アプリの機能をシンプルにすることで、店舗での接客の流れでダウンロード・登録までをご案内できるということも採用したポイントの一つです。
 実際にリピート購入が全体の大半を占めており、前回買ったものと同じものが欲しいというニーズが多いということがわかっています。そのため、Amazonダッシュボタンや1click注文のように、注文導線を極端に短縮して注文ができることが利便性につながると考え、登録さえ終わればそれ以降は1タップで注文できる機能のみに徹しました。

――オムニチャネルは決してO2Oではなく、ユーザーが買いたい場所で買ってもらうことが一番重要ですよね。KGIやKPIはどのように設定しているのですか?

 KGIはアプリを利用することで年間の購買金額が増えることですが、これを検証するにはまだ1年くらいかかるだろうと考えています。KPIに関しては、アプリダウンロード数ではなく、店舗でアプリをダウンロードして、初回登録まで完了する割合を追っています。店舗のスタッフは、様々な営業施策のKPIを抱えていますし、アプリを運営する側も指標が複数あると管理が大変なので敢えてひとつに絞っています。
 アラートの設定も買い忘れ防止のプッシュ通知が可能になるので、できれば店頭で設定してもらうようにしています。アプリ経由の売上は、各店舗に戻し、店舗のPLにつけるようにしていて、店舗毎に対面売上と非対面売上は分けて管理しています。ECの貢献はEC関与売上として追うようにしていく予定です。

――KPIを引き上げるポイントはありますか?

 力点としては属人的な側面と仕組み化の側面があると思います。社内的にはたくさんの店舗施策がある中で、いかに店舗のスタッフが納得して取り組めるかが重要です。いくら経営陣が決めたことでもスタッフが納得していなければ機能しない。仕組みとしては、インセンティブとして登録時の割引など様々な施策を考えています。

――お話を聞いていると全社で推進できる環境が整っているなと感じます。どのように考え方を浸透させているのですか?

 メガネスーパーは経営者の理解があることが大前提ですが、事業再生として赤字からの脱却をしてきたということもあり、全社員が一丸になって、利益を追求していくという根底の考え方があります。会社の憲法である「利益を追求せよ」「顧客情報は命である」という考え方が全社員に浸透しています。

 具体的に深掘りすると、「利益を追求せよ」とは短期的ではなく、中長期的な利益を指します。我々の強みは”検査”、”ヒアリング”、”提案力”だと捉えているので、全社としてはそこに投資することで、さらにお客様へのサービスの質を高められると考えています。また利益に対して、店舗とECなどのチャネルは関係ありません。意思決定において重要なのは会社として中長期的な利益につながるか。お客様のアイケアにつながるか。だからこそ利益が出ているというファクトがあれば積極的に投資判断をします。

 「顧客情報は命である」に関しては、当たり前のようで難しいことでもあります。例えば、レンズの度数に関するデータは、次回のご提案のベースとなる重要なデータです。また顧客情報を取得できればDMを送り集客につながることができます。メガネスーパーの場合はその重要性を経営陣が理解していますし、現場まで徹底的に浸透させる体制が整っていることが強みの一つではないかと思います。この顧客情報があるからこそ、スマートフォンアプリでの1タップ購入も実現できるのです。

――以前、とある眼鏡を販売している会社ではリードタイムが長いのでCRMは必要ないと言っていたマーケターもいましたが、御社ではその部分を徹底しているんですね。

 最近であればアプリをリリースした後にマーケティング部門と連携して、アプリDM(アプリがリリースされたことを告知するDM)を送付しました。そのような部署を横断する発想もどんどん生まれてくる。マーケティングとデジタル、情報システムなどの部門が一体となりデータを出し合っているからこそできることだと思います。

――オフラインもオンラインも関係なく、関わる全ての部門が連携しているということですね。素晴らしいです。個人としてはどのようなことを心がけているのですか?

 個人としては、社内でのプレゼンスをいかに高めるかを考えています。全社として自由を与えてもらっている分、どうアクションするかは自分次第。例えば、『キャラバン隊』という社長を隊長とし、店舗の売上アップの為に、役職・部署・地域を超越して活動・支援する有志の集団があります。毎週店舗を回って、「最新の店」に変えていく取り組みなのですが、積極的に参加するようにしています。私はポスティングを担当していますが、社内でトップランクに入っています。一見、効率的に楽をしてそうに見られてしまうECの部門だからこそ、積極的に店舗支援を行い、トップクラスの実績を出すことも重要だと考えています。

 また、経営者が考えていることにいかにシンクロするかも重要だと考えています。自分の存在意義を生み出すにはいかに先手を打つかが重要です。先手を打つには経営者の頭の中を最大限理解する必要があります。なので、会議などで発している言葉や文脈全てを理解するようにしますし、任意参加の会議にも極力参加しています。そうすると他の社員もそれに気づき、自然と評価されるようになることで、社内における自身の発言にも説得力がでてきます。

 一人で会社を動かすのは不可能です。社内のキーマンをおさえ、自分が携わっている”EC”をみんなに理解してもらおうとすることで、ECやオムニチャネルを推進していける体制が実現するのではないかと思います。

――いかに意見が通りやすい環境をつくるか、当たり前のことですがなかなか実現するのは難しそうですね。。それでは最後に「未来の日本のCMOに必要なもの」を教えてください!

 「経営者の右腕になること」だと思います。先程も少し話しましたが、ECのことだけわかる人では社内を巻き込むことはできません。様々な部門との連携や、小売業の場合ユーザーに耳を傾ける必要もあります。マーケターだからといってデスクに座ってパソコンをいじっているだけでは成立しないんです。

 そう考えるとほとんど経営者に近い資質が求められるのではないでしょうか。言い古されている言葉ですが、日常の業務に経営視点でどれだけ当たれるか、が重要なんだと思います。

Text by Yuuki Miyagawa


【プロフィール】
川添 隆
株式会社メガネスーパー 店舗営業本部 デジタル・コマースグループ ジェネラルマネジャー
千葉大学デザイン工学科卒。販売、営業アシスタントとしてサンエー・インターナショナルに従事後、ネットビジネスを志しクラウンジュエルでささげ業務から企画、PR、営業まで携わる。2010年にクレッジに転じ、EC事業の責任者としてEC事業を2年で2倍に拡大。その後2013年7月より現職。EC事業、オムニチャネル推進、デジタルマーケティング・コミュニケーション、デジタルを活用した店舗支援を統括し、他社のEC事業支援にも従事。3年間で、EC事業全体を2.7倍、注力する自社ECは5倍と拡大中。最新のマーケティングツール、LINEビジネスアカウントを積極的に活用し、現在はオムニチャネル施策としてスマートフォンアプリを展開。セミナー、取材、執筆、自身のブログなどを通じての情報発信についても精力的に活動。


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