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2019.03.04

ベンチャー企業、大規模EC3社の事業責任者を歴任した
中島氏のキャリアから紐解く“0から事業と組織を創る力”

トイザらス、ジュピターショップチャンネル、三越伊勢丹の3社において、日本でも有数の大規模EC・オムニチャネルの責任者として通販・EC業界の先頭を走り続けてきた中島 郁氏。現在はネクトラス株式会社の代表取締役として、新規事業立上げを中心に、企業内起業やマーケティング戦略、EC・オムニチャネルなどの支援を行っている。そんな中島氏のキャリアや経験を通し、オムニチャネルや新規事業立上げについての考えを伺った。

ーーまずはじめに、中島さんのこれまでのキャリアについてお聞かせください。

 学生の頃は編集関係の仕事に就きたいと思っていたんですが、当時、地方で面接をやってくれる出版社は数えるほどで、その中の1社が、新卒で入社した出版以外の事業も幅広くやっているベンチャー企業でした。もちろん編集希望でしたが、本業とは違う新規事業に配属されました。それでも、その後の様々なコンテンツ作りにすべての経験が役に立つだろう、と思い頑張ることに。具体的な業務は雑貨の輸入販売事業の立上げでした。そして、更に小規模ですが海外生産や輸出を、コンサルや商社を使わずに3か月で立ち上げろという無茶ぶりを受けました(笑)。当時はインターネットもない時代だったので、すべて電話や足を使うしかなく大変でしたが、後から考えると、何でも自分で0から調べてやっていくスタンスはこの経験のおかげで培われたのだと思います。新卒で新規事業の立上げに関わる経験はなかなかできないので、今思えば良かったと思っています。

 その後、アメリカのバブソン大学の大学院に留学をして、起業学とマーケティング、マネジメントを学びました。新卒で入社したベンチャー企業では、右も左もわからない状況の中で、0から組織と事業を創り上げていきましたが、それを体系的に勉強し直したという感じです。その両方の経験が今の事業作りにとても役立っています。

 帰国後は、漠然とデータベースマーケティングなど「古いビジネスと新しいテクノロジーを融合させる」というテーマで起業したいと考えていたので、ベースとなる知識を身に着けようとITベンチャーに入社しました。マーケティングマネジャー 兼 新製品担当として元々別のプロダクトの立上げが役割でしたが、インターネットショッピングのシステムの提案もやってみようということになり、ECに関わるきっかけとなりました。その後は数社のベンチャーや中堅企業でITサービス、ECやコンテンツ、テレマーケティング等の新規事業やマーケティング、経営企画を担当したり、社長補佐などをしました。マーケティングの役割も多かったのですが、マーケティングという機能のためというよりも、自分で行う事業のためにマーケティングを活用していったという経験でした。

ーー0から組織や事業を創る実務経験と、それを体系的に学んだ経験が中島さんのキャリアの根底にあるんですね。続いて、トイザらスでのご経験について教えていただけますでしょうか。

 様々なベンチャーでの事業に関わるようになって数年経った頃、トイザらスがマーケティングの部署を新設するということで、責任者として入社しました。当時、全体の売上は順調でしたが、店舗数拡大に伴い、店舗間の距離が近づくにつれて、出店数に比例して伸びるということはなくなってきていました。一方、チラシをはじめとした既存の広告宣伝費は店舗数に比例して増え、コスト構造が変わりつつありました。そこで、既存広告の改善やその他の手法を開始するために、大規模調査や当時大成功していた「トイザらスカード」から得られるデータを活用することにしました。

 ベンチャーの勢いで、それまで塩漬けになっていた調査や戦略、手法見直し等を一気に実施して、大規模チラシの配布を効率化したり、データベースを作ってDMを打ち始めたりしました。それが目に留まったのか、ある日社長に呼ばれて、「(これもですが)塩漬けになっているECのビジネスプランを作って欲しい」と言われ、EC事業のプランを策定し、来日した本国のCEOにプレゼンすることに。すると、GOサインが出たので、2000年にトイザらス・ドット・コム ジャパンを本国直轄のEC専業法人として立ち上げました。2000年というとAmazonがやっと日本にできた年で、当時のECサイトは、TSUTAYAオンラインや同年にオープンしたユニクロなどが話題でしたね。

ーー実際にどのような取り組みをされたのでしょうか。

 店舗での売上は店舗運用会社のP/Lに、ECでの売上はEC専業法人のP/Lに、というように、店舗とECで売上の計上先が別だったので、運用や人気商品の獲得など大変苦労したものです。しかし、世間のトイザらスに対するイメージは、大きくて楽しい「店舗」というものが強いので、店舗と同じテイストのECサイトを構築することを目指しました。一般によくある失敗例としては、ECの顧客は実店舗と違うと勝手に解釈して、独自のサイト名やテイスト、品ぞろえをしてしまうことがあります。そうではなく、まずは既存のブランドのイメージやリソースをサイト上で実現し、そこからプラスアルファしていくという方針で進めました。”お客さんが自社に期待するのは何か”を考えてECを構築したということです。

ーー当然ですが「顧客ファーストで考えること」が重要ですよね。トイザらス時代、特に苦労したことはありますか?

 店舗側との調整には苦労しました。ECにとって、リアル店舗があることや大量に配布されるチラシなど既存媒体があることは大変な強みになります。なぜなら、お店を使うこと、例えば、ECに関するポスターやポップで認知を高めた集客や、店舗での返品対応、店舗施策に便乗した集客が可能になるからです。ただ、店舗の売上のためのプロモーションの枠を、計上先が別であるECの売上に割くことになるので、調整にはものすごく時間がかかりました。最終的には、店舗での返品も、チラシへのECのURLなどの掲載も実現できました。また、すべての商品の商品番号をチラシに載せられたので、商品番号をECサイトで検索すれば、そのまま購入できる仕組みも実現しました。その結果、チラシを配布した瞬間にサイトへのアクセスと売上が大幅に伸びるようになりましたね。ネットで商品の詳細を確認して店舗へ行くというお客様も多かったようです。当時はオムニチャネルという言葉はありませんでしたが、今思えば当時からできるだけオムニチャネルの実現を目指していたということです。

 その後、2002年にテレビショッピングの最大手のジュピターショップチャンネルに移り、最初はEC事業を、次第に新規案件やマーケティング、番組編成もあわせて所管することになりました。テレビもECも完全に連動するという構想のもと、2003年にECサイトを立ち上げ、かなり大変でしたが、最初からコールセンターでの会員データも在庫データもECシステムとリアルタイムに連携するようにしました。結果として、テレビ放送、コールセンターとECとで、一種のオムニチャネルを実現する形になりました。

ーー具体的にはどのような取り組みをされたのでしょうか。

 日本で初めての24時間生放送のテレビショッピングとの連動型ECサイトとして、まずは、テレビを見ている多くのお客様に利用していただき、ECの売上も順調に伸ばすことができました。これはかなり特殊な事例だと思いますが、ECサイトを立ち上げた年に生放送のネット配信を開始し、翌年はアーカイブ配信、つまり録画も見られるようにしました。はじめは「通販の録画なんて見る人がいるのだろうか」と考えていたのですが、意外なことにアーカイブ配信のほうが見る人が多いのです。きちんと商品紹介を見てから買いたいという人もいますが、買った後に取扱説明書のような位置づけで視聴するお客様が非常に多いというのは驚きでしたね。商品説明も買ってから見る方が多かったのですが、動画もアフターマーケット的に見る方が多く、新たな発見でした。

 24時間ライブ配信とアーカイブ配信の開始には、お客様との双方向テレビとしてのコミュニケーションを目指していた、という背景がありました。実際、お客様はテレビとパソコンを両方使いながら、双方向テレビのような使い方をされています。具体的には、テレビを見ていて良い商品があると、パソコンでECサイトにアクセスして商品を注文したり、逆に、パソコンでショップチャンネルのサイトで放送に合わせて切り替わっていく商品をざっと見ていて、気に入った商品があると、テレビのチャンネルをかえて放送をじっくり見ながら商品を注文するといった形です。ECサイトを見ながら電話で注文する人もたくさんいましたね。

 何が言いたいかというと、それぞれのお客様にとって使いやすい形はバラバラなので、オムニチャネル的な使い方のほうがお客様にとって価値が高いに決まっているんです。お客様がどのチャネル、メディアでも、意識せずに同じような体験ができることが一番大事です。ショップチャンネルでの経験からそれを更に強く実感しました。

ーーブランド都合ではなく、顧客起点で考えるということですね。ショップチャンネルで成功を収められた後はいかがでしょうか。

 ショップチャンネルはとても居心地が良かったですが、あるとき、GSIコマースという、当時米国最大手のEコマースプラットフォームサービス企業から日本とアジア太平洋地域全体の拠点を立上げて代表を任せるというお話をいただきました。GSIコマースは外資企業としては珍しく、日本に営業拠点だけではなく、コンサルティング、開発部隊、物流、CS、WEBマーケティングのリソースを全部持ち、グローバル企業のECのアジア進出を支援するということで面白そうだなと思いジョインしました。ところが、しばらくして、eBayに買収され、それに伴って役割も変わってしまい、さらに2年でアジアの拠点を撤退することになったので、今の会社を創業してコンサルティングを始めました。そして、小売企業をはじめとして、様々な会社にヒアリングを行っていくうちに、問題を抱える多くの企業は、「ECを立ち上げる際の位置づけや構想が不十分」なのと、「現場と経営にギャップが存在している」ことに気がつき、そこをコンサルとして事業立上げの手法を使いながら解決しようと思うようになりました。

ーー構想が不十分ということと、現場と経営のギャップというのは、事業会社に勤められていた際に中島さん自身が課題感を抱えられていたポイントだったのですか?

 それもあるとは思いますが、事業会社にいたときは、構想は私が作り社内を調整して回っていましたが、ギャップの存在と自分がそれを埋めていることは認識していませんでした。私は0から立ち上げることをやってきたので、結果として現場でも経営でも「自分が1番分かる人間」になりますからね。小売さんやブランドさん、メーカーさんのトップの方と現場の双方に話を聞くと、トップの方は「危機感をもってECを始めたのだけど、売上は伸びないし、全くうまくいかない」と言います。続いて現場の方の話を聞くと「他社はシステムやマーケティングにもっと投資している。しかし自社はお金をかけないからダメだ」ということを言っていました。

 実際、トップの方々は現場がやっていることをあまり理解していないので、現場がやりたいことが適切なのかわかりません。そして、現場サイドはトップに納得させるだけの材料も説得力も持っていません。そういうときにギャップが生まれてしまうんですね。そこで私の役割としては、構想をいったん整理して、その実現のためには御社はこうするべき、というのをトップにも現場の方々にも示していくようにしています。それには、組織、人材、教育から、運用、システム、マーケティング、サイトなども入っています。構想自体は会社毎に大きく違うのですが、実現の方法として、他社事例を知りたがる人はたくさんいます。手前味噌ではありますが、3社で大規模なEC事業の責任者を経験したのは日本で私くらいではないかと思うので、その構築のプロセスなど、他社事例などをお話しながら、その会社に必要と思われることを伝えていくと皆さん納得感をもって聞いてくださります。今も、様々な会社に情報交換にうかがっていますが、どこの会社も構想さえできてしまえば、やるべき方法や問題点が本当に似通っています。「中島さん、何でうちの会社のことそんなに詳しいんですか?」なんて言われることもよくありますね。

――後編に続く

Text by Kazuumi Noda


【プロフィール】
中島 郁
ネクトラス株式会社 代表取締役
ベンチャー、外資、老舗でマーケティング、事業立上げ、経営企画、代表を経験した実務ベースの経営コンサルタント。IT、小売、メディア、サービス等広い分野に関与。ECは1995年から。トイザらスでマーケティング部門及び米国直轄EC専業法人を設立。ジュピターショップチャンネル執行役員本部長(EC、マーケティング)、世界最大のEC支援企業GSI Commerce(eBay Enterprise)APAC代表兼日本法人社長。コンサル関与後入社の三越伊勢丹では役員兼事業部長として、EC・メディア構築、オムニチャンネルを推進。3社で大規模EC責任者を経験したのは国内唯一。
現在、ベンチャー~大企業の経営・マーケティング・EC・オムニチャネル、新事業支援に携わる。米国バブソン大学MBA。www.nectoras.com


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