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2019.02.05

オムニチャネルは目的ではなく、「顧客満足を上げる」手段である
全社横断×顧客ファーストで実現するオムニチャネルに迫る

前編では、ココカラファインのEC事業部を黒字化させるために実施した7つの施策をご紹介しました。後編では、各施策を深堀りしながら、郡司さんが定義する”オムニチャネル”についてお話しいただきます。

ーー③の顧客データやIDの統合に関して、アプリやECのID統合で苦労している企業は多く、ココカラファインでも例外ではなかったと思うのですが、多くの企業が特に苦労されている社内の説得はどのように行われていったのでしょうか?

 長期的な戦略を作りましたが、実際ここには結構苦労しました。会員統合やシステム連携って結構手間がかかるんですよね。それこそ、そもそもの顧客基盤をリプレイスしなければならなかったり、EC基幹システムの要件定義を新たに行わなければならなかったり…。また、その分、投資額も大きくなるので、会社全体が足並みを揃えなければうまくいきません。なので、多くの企業が上の理解が得られずに苦労しているという話を良く聞きます。

 ココカラファイン時代、オムニチャネル計画を本格的に進めていくタイミングで、グローバルでマーケティング・経営をやってきた柴田氏がグループの副社長としてジョインされたので、話がスムーズにいきました。中期経営計画から作り直して抜本的に変えよう、ということになり、収益を伸ばすためには新店舗をいつまでにいくつ出して、いつまでに売上をどれくらい伸ばして、顧客戦略はどうするのか、マーケティング戦略は…、と全て考えました。その際、オムニチャネル化は顧客戦略のうちの一つとして組み込み、売上をいつまでにこれくらい上げるには、どれくらいの投資が必要なのか、ということも設計しました。新しくジョインされた副社長はこのような大規模プロジェクトの経験があったので、すぐに理解していただき話はまとまりました。改めて、業界の最先端を行くようなことをやるには、トップマネジメントの理解が重要だと感じましたね。

ーーなるほど…確かにトップの方の理解は重要ですよね。因みにですが、トップがなかなか意思決定しない場合でも、担当者として推進していく上で大事なことはあるのでしょうか?

 とにかくいろいろな部署の方とコミュニケーションを取ることがカギを握っていると思います。私の場合、EC事業以前は本社および各販社の各部署・各事業をつなぐ仕事をしていましたので、ほぼ課長・部長職以上の人は知っている状態でした。また、店舗基幹システムをはじめとした各システム、物流、マニュアルといった販社統合プロジェクトのほとんどに参加してグループの全体設計を把握していました。それがIDの統合やシステムの改善といった大きなプロジェクトを進めやすかった要因だと思います。どの部署がどんなことをしていて、どんなことに困っているのかだいたい把握していたので、プロジェクトを進める際に、部署間のメリット・デメリットを調整することができました。些細なことかもしれませんが、日頃からコミュニケーションを取っていれば、何かあった際に頼みやすかったりしますよね。それと同じことで、ふつうは部署間の距離があるので、お互いのことを知り、気軽に相談・お願いできるようにしておくことが大事だと思います。そうしておけば、”あらかじめ伝えておけばよかったことを伝えるタイミングを逃した”、”それにより関係悪化してなかなかプロジェクトが進まない”、なんてことにはなりませんので。

ーーありがとうございます。⑦の差別化という観点では他にもどのような取り組みをされたのでしょうか。

 中期経営計画を策定するにあたり、様々なリサーチをしました。正直な話、お客様から見て大手ドラッグストアってどれもみんな一緒なんですよね。多少きれいとか安いとかありますが、どこのドラッグストアを使っているかの決定要因が「家から近い」が1位なんです。専門性をうたう企業も多くありますが、お客様に「相談相手になれるドラッグストアはどこですか?」と聞くと特定の企業名は出てこない。

 一方で、ちょっとした体調の悪さを相談する相手として、医者にかかるより気軽に相談できて、友達・家族よりも健康に正しい知識を持っている専門家がいるドラッグストアに期待していることもわかりました。ではそのニーズを自社が満たせることをどう認知してもらうかとなった時に、手法の1つとして重要なのはオウンドメディアだと考えました。ココカラファインの場合、「ココカラクラブ」という、ECで買い物もできるし、悩みに対して役に立つ情報を集めたサイトを持っています。ここで重要なのは、店舗で言っていることと内容が違ってはダメで、例えば害虫を駆除するのに、店舗ではくん煙剤をオススメしているのに、ネットではスプレーをオススメするようなことが起きてはダメなんです。このような齟齬がないように、コンテンツを作る際には教育部門ともコミュニケーションを取りながら、実際に研修で店舗スタッフに行っている内容をコンテンツに合わせていきます。

 サイト統合時に、KPIとして置いていたのはセッション数です。ココカラクラブの前身であるカード会員向けのココカラクラブサイト、ECサイト、店舗・販促情報メインのカスタマーサイトの3サイトを合計したセッションが月間で約50万くらいでした。実はこれって当時、業界2位だったんですね。M社さんが1位で100万くらい。他は40万くらいでみんな僅差だったので、すぐにM社さんは抜けないですが、2020年で100万セッションを目標にしました。実際、順調に伸ばすことができて、2017年後半で98万くらいまで伸ばすことができましたが、その間にM社さんは200万くらいになっていました。

 しかし、2016年の某医療情報メディアの問題をきっかけに、2017年末にGoogleのアップデートがあり、胡散臭い健康医療情報が排除されるようになって、信頼できる会社、信頼できる情報が上位表示されるようになりました。良質なコンテンツを地道に作っていたのが評価され、急にセッション数が300万に到達しました。世の中的も素人の個人ブログや信憑性の低いメディアの記事が上位に表示されていたのが改善されたので、基本的に良いことだと思います。あとは、KPIを達成させる上ではコンテンツの投下量は一番重要でしたね。社内に薬剤師がいるので、彼らにコンテンツを作ってもらったり、教育部署が作ったコンテンツを2次活用してみたりと、社内で量産できる体制を整えました。

ーーやはりやるべきことが多いですね…ちなみに、施策を推進する上で何か組織における壁となるものはあったのでしょうか。

 先程お話した機会ロスの話にも繋がりますが、以前は商品登録したものは全部掲載していました。手が足りないというのもありますが、運用体制が構築できていなかったので、廃盤になった商品も落とさずにずっと掲載したままになっていました。一方で、お客様の立場に立つと、皆さんもご経験があるかもしれませんが、自分が欲しいと思った商品がないか色々なECサイトで調べるわけです。他社さんは更新しているので、廃盤になったその商品は掲載されていないですが、メンテナンスできていないサイトには載っているわけです。そうするとお客様は注文するんですが、もちろん出荷できないという状態になり、クレームに繋がって、二度と注文してくれなくなります。

 コールセンターやシステム担当からすると、「在庫が無いのに掲載するのは勘弁してくれ!」となりますが、営業や商品担当からすると、「売り上げを上げるためには集客を増やすためにも、とにかく一品でも多く掲載したい!(でもメンテナンスは追い付かない…)」というような状況になっていました。このコンフリクトは大きな問題だったので、解消すべく動きました。要は、「お客様の満足度をあげて、売り上げを上げる」というのが双方の共通の目的なわけです。ただ、「在庫なし販売をするかしないか」という手段が対立してしまっていたので、手段を整理しました。やったことは大きく2つです。

 1つは、「掲載商品の選別」です。売れ筋商品に関しては、もちろん在庫を確保して掲載もします。中間層の商品に関しては、在庫は持たないけど、ちゃんとメンテナンスはしてベンダーさんから手配が出来るものを掲載はしている状態にする。売れ筋じゃない商品に関しては、掲載もせず、そもそも受注できない状態にしました。

 2つは、1つ目の売れ筋商品の在庫を持つための「受注予測」です。それまでは、注文が入るたびに欠品しているものもあれば、3年分くらい在庫がある商品も存在するような状況でしたが、売れ行きに合わせて、1週間なら1週間分、倉庫に商品がある状態にしました。

 EC周りに関しては、大体こんなところでしょうか。ラッキー・アンラッキーいろいろありましたが、3年間で黒字化したので、予定通りでした。売上が294%成長、販管費率は16%くらい下がったので、黒字化させることができました。ただ、やってみて分かりますが、ドラッグストアECで粗利率を上げるのはかなり難しいと感じました。100億売れって言われれば100億売ることは難しくないんですが、100億売って5億赤字出していたら意味がないので。

ーーこれまで様々なオムニチャネルに関する取り組みについてお話しいただきましたが、改めて郡司さんは「オムニチャネル」をどのように定義されているのでしょうか。

 ビジネス誌を読んでいると、オムニチャネル化の目的が「店舗とネットを連動させ、顧客を囲い込んで、他社に逃がさない。」という企業コメントを見ます。でも、自分のこととして考えてみると、どこか特定企業の商品・サービスに囲い込まれたいとか、何とかグループの店舗だけ使うというのはやらないし、嫌ですよね。

 なので、私の中でオムニチャネルは買い物を便利に楽しくして「顧客満足を上げる仕組み」ことだと定義しています。お客様が家で商品を受け取りたいのであれば家で受け取ればいいし、店舗で受け取りたいのであれば店舗で受け取れば良いし。なんでもそうだと思うんですが、例えば店舗に行った時に、薬に関することや化粧品の塗り方が分からない時には、みなさんWebで調べますよね。これもある意味チャネルの融合なので、オムニチャネル的な考え方だと思います。ただ、これって自分たちのお客様は何が嬉しいのかを理解しないとできないんですよね。だから「マーケティング」が重要なんです。相手が欲しくないものを売りつけるのはマーケティングではなくてセリングなので。

 顧客満足を上げるためには、MEO(Map Engine Optimization)なんかも取り組みましたね。要は、Google Mapの店舗情報を正しく豊富にするんです。通常Googleが様々なサイトをクローリングしてそのまま付けているので、保険調剤機能の無いドラッグストア店舗なのに調剤薬局と書いてあるとか、逆に市販薬や化粧品のほとんどない調剤薬局なのにドラッグストアと書いてたりという状態なんですね。出先でドラッグストアに行きたくなった多くのお客様がGoogle Mapで調べてから来店されるので、店舗ビジネスの場合は意外と重要な施策ではないでしょうか。行ってみてガッカリということがなくなりますし、売上にも繋がります。

――ありがとうございます。最後に、未来のCMOに向けて一言お願いします!

 “事業全体を見ること”ではないでしょうか。SNS担当だとSNSしか見ないという方が結構多くいらっしゃって、興味のあることばかりしているという方をよく見かけるのですが、それではマーケティング担当とは言えません。そうではなく、例えばデジタルマーケティングであれば、せめてデジマ全体を見る、もう少し見られるのであれば、デジマと連動するリアルな販促部門も見るということが大事だと思います。それから、更にそのマーケティング・販促の結果がどうなったのか事業インパクトがあったのか、店舗の売上に影響しているのか、店の送客に繋がったのか、そもそも店のイメージがどれだけ変わったのか、そういったところまで見た方が良いです。そして、そこまで見られるようになったら、今度は経営視点で、それぞれの効率を考え、更に物流はどうなっているのか、まで見た方が良いです。ここまで見ると全体を把握でき、あらゆる部署が繋がっていることがわかります。そうすると、どこが課題でどこを改善すべきなのかが見えてきます。全体が見えてないと、逆に細部にある本当の“負”は見えてきません。

 よく、部署を異動させられたので辞めちゃう人がいるのですが、そうじゃなくって、異動したらそこで吸収できることは全部吸収して、自分のやりたいことにどう生かせるのかを考えてほしいです。そうやって事業全体を見て考えるようになると、見えてくるものも変わってきますし、自ずと幅が広がり、より自分のやりたいことに近づけると思います。

Text by Mei Kajiya


【プロフィール】
郡司 昇
店舗のICT活用研究所 代表
1999年 株式会社ランド設立、代表取締役社長。2007年セイジョー入社、調剤事業部課長。2010年ココカラファイン事業管理室課長に転籍、グループの業務効率化・アライアンス・システムリプレース・販社統合等に携わる。2013年株式会社ココカラファインOEC設立、代表取締役社長就任。2016年ココカラファイン統合マーケティング部長兼任。2018年4月〜現職において①ITベンダーの持つ最新技術を小売業において価値を持たせるお手伝い②小売業がどのようにIT活用するか、データマネジメントを通じて情報を知恵に昇華させるかの相談相手という双方向からお手伝いをしてITベンダー・小売業・生活者の三方良しを目指しています。


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