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2019.01.23

「ECとリアル店舗は違う収益構造の事業である」
ドラッグストアのEC事業を黒字化させたECに特化した”7つの施策”とは

大手ドラッグストアのココカラファイン。同社は、業界でも早くからEC事業をはじめ、低単価・低粗利商品ならではのECでの販売最適化を実現し、今やドラッグストア業界のデジタル化を推進している。また、ECだけではなく、アプリを活用することでリアルとオンラインを掛け合わせたオムニチャネルを実現し、ドラッグストアにおける顧客体験の再定義を図っている。そんなココカラファインで長年EC事業及びマーケティングを行ってきた郡司氏に、ココカラファインのEC戦略やオムニチャネル実現のポイントを伺った。

ーーまずは簡単に郡司さんのご経歴を教えて下さい。

 薬科大学を卒業後、ドラッグストアのチェーンである「セイジョー」に入社しました。ここでは、店舗の販売員、そして店長として6年ほど働いた後、自分でも会社を経営したいと思い、株式会社を作りドラッグストアを3年ほど経営していましたが、徐々にうまく回らなくなってしまったので、事業譲渡して、調剤部門を強化しているドラッグストアに移りました。そこでは3年ほど調剤で働きながらドラッグストアの物件を探し、また新しく自分のドラッグストアを始めました。ここも初めはうまくいっていましたが隣に大型店が出店し経営が上手くいかなくなってしまったので店を閉めることにしました。

 その時、セイジョー時代の上司で当時社長になられていた塚本氏から、調剤のマネジメントをして欲しいという話を頂いたので戻ることを決めました。その後セイジョーがセガミ薬局というドラッグストアと合併し、ココカラファインホールディングスができたタイミングで、調剤の仕事から両販社を繋ぐ全体管理のような仕事をする部署に移ります。その後更に、他のドラッグストアとも合併して、ココカラファインホールディングスではなく、ココカラファインという会社に生まれ変わりました。

 この時、EC事業がセイジョー時代の2006年からずっと赤字だったので、撤退すべきなのか白黒つけるためにココカラファインEC事業部を子会社化して注力しようということになり、社長候補のコンペが開催されました。私としては、明確に社長をやりたいという思いは強くなかったのですが、事業計画を作ったりするのは好きだったので、ECについても色々調べて応募したら通って、その子会社の社長をする事になりました。なので、実はECに関わり始めたのも2013年からなのです。

ーー郡司さん自身はどのようなミッションを持たれていたのでしょうか?

 EC事業部がずっと赤字なので分社化したため、とにかく黒字化するのが子会社のミッションでした。経常利益を黒にするためには、もう全てのことをやる訳です。まず事業計画を書いて、コスト構造を全部習って、このサイズの段ボールはいくらなのか、家賃はどうなっているのか、コールセンターのオペレーションはどうなのか、という粒度でヒアリングしました。そこでわかったのは、当たり前ですがECは実店舗の事業とは全く違う収益構造の事業である、ということです。

 大きく2つあって、1つはコスト構造に関して。店舗にかかるコストで一番高いのは人件費です。次に不動産費ですね。労働分配率と言って粗利益高のうち人件費が何%占めるのかという指標があるのですが、一般的に約4割が人件費で、残りの6割の中から家賃や光熱費を払うと、ドラッグストアの場合、残る利益がだいたい売上高の5%前後という業界です。

 EC事業だと宅配という要素が入ってくるため、宅配料を1件400~500円くらい宅配業者にお支払いするので、店舗と同じ値段で売ってしまうと赤字なんですよね。そうすると、送料はお客様からいただくか、別のやり方をするしかない。でも世の中的に送料無料は当たり前なので、売り方を変えるしか無いわけです。

 また、倉庫に卸した商品が壊れていないか検品して特定の棚に納めるだけで、だいたいコストとして10円くらいかかります。そして、注文が入ってその商品を倉庫からピックアップするのに、1ピース5, 6円かかってしまいます。要は、仕入れてから売るまでのプロセスにおける、ダンボールの近くに持っていくという作業だけで1ピース15~20円ぐらいお金がかかるので、粗利益が20円無い商品は売れば売るほど赤字になるわけです。

 もう1つは機会ロスの大きさです。実店舗の場合、棚に商品が並んでないと絶対に売れないですが、ECの場合、実際の商品がなくても注文が入ってから仕入れて出荷することができます。これは非常に大きいメリットなので、もっと最適化しようと思いました。具体的にやった施策としては、特徴的なものだと次の7つです。

①倉庫内作業効率の改善
②チームビルディング
③実店舗会員サイトとECサイトのID統合
④サイトのUI/UX改善
⑤商品の売り方の改善
⑥モール販管費のコントロール 
⑦ドラッグストアとしての”専門性”強化

 ①の倉庫内作業効率の改善は出荷倉庫の作業は基本的に外注していましたが、丸投げにはせずに、担当者を通してマネジメントするようにしました。

 ②のチームビルディングはかなり重要で、人を揃えるというのももちろんそうですが、人を揃えると同時に、やるべきことを明確にして、専任担当をつけることが非常に重要です。それまでは、なんとなく始めて、なんとなく走ってきたものばかりだったので、例えばコールセンターであれば日によって出勤している人が違うので、対応も変わるような状況でした。なので、まずはコールセンターの対応を標準化するような小さいことをコツコツことやっていきました。

 運用が軌道に乗ってきたので、今度は販促をかけようとしましたが、ここでも色々な改善ポイントがあるわけです。当時はアフィリエイトをやっていたのですが、アフィリエイトってだいたい少なくとも金額の5%くらいをお支払いするので、もともと利益の無いところに5%も払ったら、仮に粗利が25%で配送料が18%だとすると残りが7%です。7%のうち5%をアフィリエイトに払うので、残りの2%で人件費をまかなったり、倉庫を回す必要があります。普通に考えて絶対に無理ですよね。なので、一時的に売上は減りますが、アフィリエイトはやめました。ただ、リスティングは新規顧客の獲得に有効なので、なんとなく兼任でやっていたリスティングに専任担当をつけて、あなたの仕事の7割はリスティングです、というような形にしていきました。

 ③のサイトIDの統合に関しては、ECサイトと実店舗のクラブカードサイトとカスタマーサイトの3つのサイトを1つに統合し、ECと実店舗のクラブカードID統合を行いました。これについてもECを始めるころから構想としては持っていました。お客様の利便性を考えたら、絶対1IDにした方が便利ですからね。我々がやりたかったマーケティングの最終形態はOne to Oneマーケティングで、一人一人に対して適切な情報を届けることです。ほかの業界でもそうですが、ドラッグストアも同様に、お客様によって求めているものはまちまちです。例えば赤ちゃんがいらっしゃるご家族は赤ちゃんが使うおむつや鼻吸い器が欲しかったり、独身の40代男性は尿酸値が気になるので健康食品が欲しかったり、若い女性は健康不安はまだないが、化粧品が好きなので化粧品を買っていたり…みんな興味のあるもの・欲しいものが違うのです。 

 それなのに、例えば資生堂さんの新商品が出たので全会員に新商品のお知らせを送っていたら、興味の無いお客様にとっては鬱陶しいですし、尿酸値に良い健康食品のお知らせが来ても同様です。お客様が欲しい情報をOne to Oneで届けるためには、アプリが適しているということで、アプリの導入を考えました。その際に、IDも統合した方がお客様にとって便利だということでIDも統合することにしました。2016年にはアプリもサイトも1IDでログインできるようになっています。

 ④サイトのUI/UX改善に関しては、例えば、昔のWebサイトには必ず右上に大・中・小ボタンがあったんですよ。ご存知の方も多いと思いますが、デフォルトは中で、見にくい人は大のボタンを押して文字サイズを大きくするといった具合です。当時はバリアフリーデザインとして、多くの企業が大・中・小ボタンをサイトに実装させていましたが、実際は誰も使っていないんです。そんな誰も使っていない要素は意味がないので、大・中・小ボタンを取り外しました。

 他にも、例えばエントリーフォームの改善だと、よくあるもので、誕生日を入力する欄が1900年1月1日から始まるサイトがありますが、実際1900年生まれの人ってほとんどECなんて使わないですよね。EC使うメインターゲットが20代なのであれば20代に、30代なら30代に合わせるべきだと思います。また、エントリーフォームの必須項目に職業を載せているサイトも見かけますが、その欄って本当に必要?そのデータは何に使うの?と言う具合に、本当に細かいことですが、このような一つ一つのデザインを拘り、ユーザーにとって使いやすいUI/UXになるよう改善していきました。

 ⑤の商品の売り方改善に関しては、低単価・低粗利商品だけを売っていてもダメなので、大サイズ商品を揃えていったり、バラ売りはせずケース売りのみにしたりしました。他にも「●個パック」みたいなものを作って、束ねて売ることで利益を確保するようにしました。

 ⑥のモール販管費コントロールに関しては、当時楽天で経費率が約13%だったので、2,000万円売れたとすると260万お支払いすることになります。先程コストに関してお話しましたが、13%じゃ全く利益が残らないわけです。当時は、高粗利益率なアバレルと同じような売り方を漠然としていましたが、アバレルと比べると粗利率が全然違うので。なので、粗利率を25%くらいから30%に引き上げつつ、ポイント10倍等の施策を全部やめて、経費率を8%くらいまで抑えました。

 ⑦のドラッグストアとしての”専門性”強化は、実は一番強化したところです。他とは次元の違うものにしようと思いました。例えば、薬を買うと、薬についての情報が書いてある”添付文書”というものがあります。皆さんはあまりご存知無いかもしれないですが、添付文書って結構な頻度で更新されるんですよ。細かいところで言うと、添加物が変わったとか、使っていたカルシウムが牛乳由来のものに変わったとか。そうすると、牛乳アレルギーの人は飲めなくなるわけです。ただ、意外と薬を販売している多くのサイトは一度添付文書を貼ったら、その後メンテナンスをしないので古い情報のままになっているんです。そのような状態だったので、医薬品 のデータベースを持っている会社と連携して、1ヶ月に1回添付文書の更新をするようにしました。

 amazonとの比較で言うと、皆さん薬って目的とか症状で選ぶと思うんですが、それをEC上で出来る仕組みを開発しました。例えば、胃薬1つとっても、食べ過ぎの胃薬と胸焼けがする時の胃薬と差し込むような痛みの胃薬って全然違いますよね。でもこれって単純に「胃薬」って検索しただけじゃ何が良いのかわかりません。なので、それを使い分けられるようなページを作りました。

ーー後編に続く

Text by Mei Kajiya


【プロフィール】
郡司 昇
店舗のICT活用研究所 代表
1999年 株式会社ランド設立、代表取締役社長。2007年セイジョー入社、調剤事業部課長。2010年ココカラファイン事業管理室課長に転籍、グループの業務効率化・アライアンス・システムリプレース・販社統合等に携わる。2013年株式会社ココカラファインOEC設立、代表取締役社長就任。2016年ココカラファイン統合マーケティング部長兼任。2018年4月〜現職において①ITベンダーの持つ最新技術を小売業において価値を持たせるお手伝い②小売業がどのようにIT活用するか、データマネジメントを通じて情報を知恵に昇華させるかの相談相手という双方向からお手伝いをしてITベンダー・小売業・生活者の三方良しを目指しています。


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