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2018.10.12

”行動データ”がもたらす顧客体験のデザイン
店舗×ECの強みを最大化する藤原流オムニチャネルとは

2017年に70周年を迎えた、日本最大級のリユースデパート、コメ兵。オムニチャネルの先進企業として知られる同社の藤原氏は、オムニチャネルを顧客視点と経営視点で捉える必要があると話す。オムニチャネルの先進企業として認知されるに至るまで、どのような軌跡を辿ってきたのか、そして今後の小売業界をどのように見ているのか。入社以来、コメ兵一筋で同社のオムニチャネルに関わってきた藤原氏に話を伺った。

――まずは簡単に藤原さんのご経歴についてお伺いできますでしょうか。

 1999年にコメ兵に新卒で入社してから、19年間コメ兵一筋でやってきました。コメ兵は事業部制で、ジュエリー、時計、ブランド衣類、カメラの4つが主な事業部ですが、私は最初ジュエリーの事業部に配属されました。ちょうど、2000年に全社としてECを始めたタイミングだったので、ジュエリー事業のEC担当に配属になりました。事業部ごとにECサイトが立ち上がっていきましたが、2010年頃にジュエリーのECサイトでそれなりの成果が出てきており、他の事業部のECサイトも一部私が見るようになり始めた頃に組織改編があり、事業部制から機能的組織に変わりました。そこでWebに関する事業部が立ち上がったので、Web事業部に異動になりました。最近ではデジタルマーケティングのお話をさせていただくことが多いですが、実はもともとEC畑の人間です。

 ちょうどその頃デジタルマーケティングが潮流になり始めていたのですが、それまでコメ兵にはDMやテレビCM等のいわゆる伝統的な広告宣伝をするような部署しかなかったので、デジタルマーケティングの領域も兼任していました。その後、2016年に執行役員になり広告宣伝部署も管轄することになったので、全社のマーケティングをリアルもデジタルも一気通貫してやるようになり、今に至るという形です。現在は情報システム部門も統括し全社マーケティングに従事しています。

 

――コメ兵はオムニチャネルで成果を上げている企業として認知されていると思いますが、なにかきっかけはあったのでしょうか。

 オムニチャネルに注力をしようと考えたのは、2007年頃から店舗で、お客様から「ECサイトで見た商品を実際に見たい」という声が増え始めたことがきっかけです。多くの企業が店舗とECの在庫をバラバラに管理していますが、弊社はリユースビジネスですので、一物一価、つまり同じ種類のものでも商品が違えば、価格も違います。その為、ECの運営を“EC用の在庫は持たない”という思想で2000年から始めているため、在庫が統一されています。お客様からするとECの在庫を知りたいのではなく、ECで見つけた商品がどこにあるのか、銀座店なのか、新宿店なのかを知りたいのです。例えば新宿の店舗で福岡にある商品を見たいという声があり、当時は裏側で店舗のスタッフが電話でやり取りして取り寄せていたのですが、それをそのままECに実装し、例えば福岡店の在庫をオンライン上で新宿店に取り寄せられるようにしました。これがおそらくオムニチャネルの始まりです。なので、他社さんと違うのは、初めから「オムニチャネルをやりましょう」といって構築していない点です。お客様の要望を実装していったらバックヤードも含めて自然とオムニチャネルになっていったという流れですね。

――オムニチャネルを実現する場合、ECと店舗での情報が統一されていることがマストだと思いますが、リユースという業態だからこそ、自然とそうする必要があったということですね。

 そうですね。重要な視点が2つあって、1つはお客さんから見た顧客視点と、もう1つは経営サイドから見た経営視点です。顧客視点というのは、「あの店舗の商品が欲しい」、「同じ情報が欲しい」、「価格が違うのが嫌」というようなものです。一方で、経営視点で見た時に重要なのが”在庫”です。商品を高回転させるためには、在庫を少なくして、その少ない商品をいかに早く売るかが重要なので、オムニチャネルの経営的な本質的価値はキャッシュフローの最適化にあります。多くのマーケターが経営者に対してオムニチャネルの推進を説得されていると思いますが、皆さん顧客視点はおさえているものの、この経営視点が抜け落ちていることが非常に多いです。早く売れる、少ない在庫で売れる、というのがオムニチャネルの本質的な経営メリットではないでしょうか。

 そして、これは私が個人的に考えていることですが、店舗があるビジネスにおいて立地はとても重要です。都内のいい場所にお店を出すと、当たり前ですがお客さんがたくさん集まります。これから日本は人口減少が進むと言われていますが、それに伴って、集積地は家賃が高くなっていくでしょう。そうなると、家賃という固定費が上がるので、例えば、今まで1,000平米の店舗を出していたが、数年後になると同じ金額で出店しようとすると500平米しか出せない、なんてことが起こるかもしれません。坪効率を考えると、必然的により少ない面積で同じ売上を維持する必要があるので、結局オムニチャネルを推進していかないと立ち行かなくなってきます。デジタルだけ、リアルだけ、ではなく、両方を最適化する以外に解はないのではないでしょうか。

――なるほど。つまり、藤原さんが定義するオムニチャネルとは、経営者視点で、P/LやB/S、要はキャッシュフローを効率的な状態に維持する上で、オムニチャネルが重要かつ、お客さんの満足度を上げるためには、情報がリアルタイムかつ統一されている必要がある、ということですね

 そうですね。ただ、初めにオムニチャネルという言葉が出てきた時って、商品をお客様にどうやって提供するのか、という商品情報軸だったと思いますが、商品の価格だとか、どこにあるとか、どんな商品だとか、もうそれって一部分でしかないですよね。企業は色々な情報を発信していますが、お客様からすれば、その情報がどこで見ても同じになっていることが重要です。

――なるほど。顧客から見た時の情報の一貫性を維持する上で、意識すべきポイント等はあるのでしょうか。

 デジタルでも店舗でも同じ情報を発信していますが、実際にお客様とのタッチポイントにおける”顧客体験”が一番重要ではないでしょうか。そして、その最良な顧客体験を実現するためのデータベースの構築が重要です。データベースと言っても、簡単に入手可能な、年齢や、居住地、家族構成などのデモグラフィックデータではなく、何月何日に店舗に来て、どこのフロアを歩いて、どの店員と何を話したのかというようなデータや、ECでは、チャットでどんな問い合わせをして、どの商品ページを見ている、というようなお客様の行動データがこれからの時代は重要になってきます。お客様からすれば個人情報が取られているようで怖いと思う部分もありますが、我々としてはお客様を知ることが大切ですし、お客様にとっても最適な体験ができるようになるはずです。

 一方で、小売業において一番の課題として挙げられるのは、店舗で商品を購入した方のデータはわかりますが、店舗に足を踏み入れただけではその人のデータが取得出来ないということです。最近はデータを取る方法も徐々に増えてきていますが、アプリをダウンロードする必要があったり、Wi-fiをオンにする必要があったりするので、まだまだ普及していません。Web上での行動データはすでに取得可能ですが、店舗での回遊データはこれから絶対に重要になるのでいかにIoTを始めとするテクノロジーを活用できるかにかかっていると思います。

 そして、もう一つ重要なのは、先程もお話したお客様と店員が接した際のデータです。どのように接客したとか、この商品をいらないと言ったとか、ジュエリーであればどの商品を手にとったとか、このような行動データまで取得できれば更に顧客体験を最大化できると思います。

――最近であればAmazon GOが話題になったり、ナノユニバースさんがビーコンで来店時のデータを取得して、店員がiPadで顧客のデータを見ながら接客するケースも増えていますよね。

 それこそ、iPadではなく店員がGoogle Glassのようなものをかけて、お客様の情報を表示することもできると思いますが、とは言っても店員が持っている知識やケイパビリティが全てではなく、ホスピタリティ、要は感情面も接客においてはとても重要なので、AIやロボットでできることには限界があるようにも感じます。そこをおざなりにしてしまうと、お客様にとってベストな顧客体験を感じていただけないのではないでしょうか。

 顧客体験と言っても決して大それたものではなくて、実は日本の小売業においては江戸時代から続いているものだと思うのです。要は”おもてなし”ですよね。ここが欠けてしまうと、弊社のような高単価商材を扱う企業では、絶対に購入してもらえません。

 したがって、顧客体験を最大化するには弊社も含めて自社の強みを何かしら持っていないと生き残っていけなません。弊社の場合は、ブランドを幅広く扱っているので幅広く深い知識がそれにあたります。お客様に商品をご提案する際も、「AブランドとBブランドがありますが、どちらが良いですか?」となりますよね。一方でブランドさんの場合、「Aブランドの中のA商品とB商品がありますが、どちらの方が良いですか?」となります。ブランドも商品も多岐に渡るので、お客様の行動から深いインサイトを探り当てることがとても重要になります。

――では、より一層オンラインや店舗でのお客様に関するデータを取得して、どのような趣味嗜好を持っているかというインサイトを把握することが重要になってくるのですね。

 そうですね。今って店舗スタッフがやることってたくさんあるのです。昔であれば接客だけやっていればよかったのが、バックヤードの仕事やInstagramやブログの投稿、LINE@の登録を促したり、配信も自分たちでやるというケースも耳にします。また、日本もクーポン文化になってきたので、様々なクーポンを発行しています。そのため、使えるクーポンの組み合わせ等も把握しておく必要があります。本当はお客様と向き合って、お客様のために一生懸命やらなければいけないにも関わらず、内側の業務オペレーションに忙殺されてしまっています。これらの煩雑な業務を無くしてあげて、店員は接客にのみ注力できるような環境を作れるかがとても重要ではないでしょうか。

――そのような環境作りを推進する上で、例えば、よくある店舗とEC間のコンフリクト等、課題も生じると思うのですが、コメ兵の場合どのように乗り越えたのでしょうか。

 弊社の場合、2010年にECを統合しましたが、その際にECのチームと店舗のチームで予算を分けてKPIを設定するのですが、両者で同じ予算も持つという2つの予算を設定しました。店舗のチームは基本的に店舗の商品をお客様に売りますが、店舗のP/Lを見たときにECで売れたものを店舗から発送するので、ECでの売上も店舗予算の一部として持ちます。店舗がECの業務をやっているわけではないですが、ECがPRをちゃんとやらないと、在庫が減っていかないので、このような予算の持ち方をしています。

 このKPIを達成する為の仕組みとして個人の評価にもECの予算を組み込み、個人の評価が合わさって店舗の評価になってきます。そうやって協力するような仕組みを作っておかないと、ECと店舗がお互いに評価されないですからね。

――では従業員の評価制度はどれくらいのタームで目標設定がされているのですか?

 そこは1期毎ですね。給与の査定も入ってきますし、店長としては店舗のP/Lを見ているので、店舗もECの売上を含めたもので予算を持っています。

 従業員一人ひとりのKPIとしては取り寄せをしてお客様にどれだけ喜んでもらえたかという取り寄せの回数と、取り寄せた商品をどれだけ成約させたかを設定しています。もっとブレイクダウンすると、どれだけお客様に声をかけたかも評価に入れていますね。

――どれだけお客さんに声をかけたかを評価指標にするのは面白いですね。コメ兵の場合、店舗が強く、お客さんは店舗で商品を見て購入するモデルがメインだと思いますが、ECで購入を済ませるお客さんが多いモデルとKPIの立て方は変わるのでしょうか。

 そこは変わらないのではないでしょうか。経営視点で見た時に、最終的に粗利率が変わらないのであればグロスで売上が上がることが大事で、その際、店舗のスタッフがどうやって評価されれば頑張るかという話です。仮に店舗とECが喧嘩しても、売上が上がればそれでいいとは思いますが、ちゃんと協力したほうが売上が上がるのであれば、双方が協力するようなKPIを設定することが重要だと思います。だってみんな評価されたいじゃないですか。その欲求を満たしてあげることが経営としては重要だと思います。かつ、それがお客様の満足につながることが一番重要なので、そのKPIの達成を通してお客様に喜んでもらう、リピートしてもらうというデザインがとても重要ではないでしょうか。

(ーー後編に続く)

Text by Yuuki Miyagawa


【プロフィール】
藤原 義昭
株式会社コメ兵 執行役員 マーケティング統括部長
1999年株式会社コメ兵入社。ジュエリー部門の鑑定査定業務、商品仕入を担当。2000年にECサイトの立ち上げに携わり、2010年にはデジタルマーケティング、Eコマース事業を行う、WEB事業部の新設立部長に就任。2016年に全社のマーケティング(リアル・WEB・システム)を統括する執行役員へ就任。リアル店舗とEC双方をつなげる「オムニチャネル戦略」を推進しながら、スピーディな全社の事業推進を行っている。


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