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2018.07.09

“創らない”チームビルディング
激変するテクノロジー時代のマーケティングチーム哲学

40-50代女性をメインターゲットとした、ファッションアパレルメーカー「DoCLASSE(ドゥクラッセ)」。約50の店舗と通販ECを運営している同社でCMO兼Web事業長を務める藤原氏はこれからの変化が激しい時代においては「”創らない”チームビルディング」が重要だと話す。CCC、ガシーレンカージャパン(現:ザ・プロアクティブカンパニー)で一貫してマーケティングに携わってきた藤原氏に、急激に変化するデジタルマーケティング領域における組織創りについて話を伺った。

――まずは、藤原さんのご経歴を教えてください。

 これからお話する内容の背景となるので、長くなりますが少し丁寧にお話します。
 新卒でCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)へ入社しました。当時はまだインターネットが主流ではない時代で、最初はTSUTAYAの店舗運営に携わりました。担当していたのは「店舗の売り場作り」と、顧客データを元にどの商圏にチラシを送るか、という「エリアマーケティング」の大きく2つですね。

 その後は、経営企画に移り、上場準備やグループ会社の会社統合に携わっていました。ちょうどその時期にインターネットの時代が来て、「ネットの店長をやってほしい」と当時の社長から言われ、TSUTAYAオンラインの立ち上げに参画しました。当時はamazonも日本では有名ではなく、eコマースのモデルと言えるものはありませんでしたが、チラシがメールに変わり、店舗作りがサイト作りへと変わっただけという、考え方で店舗の時代の知見を活かしながらeコマースのベースを0から作っていきました。

 その後は、Tポイント事業に携わり、Tカードの全国共通化や、コンビニや様々な小売店でのTポイント導入により蓄積されたデータベースをマネタイズする新規事業の立上げの中で、Tポイントサイトの構築やレシートクーポンの仕組み化など戦略から施策実行まで全般的に携わっていました。

 CCCの後は、ガシー・レンカー・ジャパン(現ザ・プロアクティブカンパニー)へ転職し、売上に占めるデジタル比率の向上をミッションとして、まだ日本では普及していなかったデジタルマーケティングをアメリカで学びながら、コンテンツマーケティングなどの施策を打ち、いかにマネタイズしていくかを経験しました。

 現在はドゥクラッセでCMOという立場でマーケティング全般を見ながら、ECの売り場を再構築しながら、オムニチャル戦略としての店舗やカタログ事業拡大とそれらを推進する組織の両方をどう成長させていくか、というところをミッションとしています。

――キャリアのスタートから一貫してマーケティングに携わられているんですね。

 そうですね。ありがたいことに、インターネットを介したマーケティングがまだ主流ではなかった時代から企業のマーケティング活動の変化の中心で仕事をさせてもらいました。自身のキャリアを俯瞰して思うことは、ありきたりな表現かもしれませんが、マーケティング領域の変化はとても速いということです。つい数か月前に通用していたことがすぐに通用しなくなる。そのため、組織や個人の知識や経験の陳腐化が速い、ということを身をもって感じてきました。

 企業は、テクノロジーの進展に伴う「顧客行動の変化」やそれに伴う「商品やサービスの売り方に求められる変化」のスピードについていく必要があります。このスピードについていく事ができなければ、間違いなく淘汰されてしまいます。その為には、商品やサービスを市場にアジャストさせることは勿論ですが、そのアジャストをフレキシブルに遂行できる“組織を創っていけるかどうか”が、これからのマーケティングをリードする人にとって重要だと考えています。

――“環境変化へのアジャストをフレキシブルに遂行できる組織”とはどのような組織なのでしょうか。

 これは私の持論ですが、“社内で組織を創る”というよりも“社外の人も含めた組織”を創らないと絶対に上手くいかないと考えています。
 大抵の会社は、社内にデジタルがバリバリできる人なんてまずいない。じゃあ採用しようと言っても時間がかかります。仮に優秀な人材がいたとしても、一部分の領域しか出来ないというケースが多い。戦略を考えることが出来て施策や分析のこともわかる、なんて人材はいないんです。さらに、我々のようなアパレル企業の場合、デジタルだけではなくて店舗のことも考える必要があるので、デジタル領域だけでチームを創るのでは機能が足りません。組織で必要な機能が多岐に渡っているんです。

 それも踏まえて、社内で重要な人材は「マーケティング全体を俯瞰するディレクター」、「社内外の情報を集めてくるリサーチャー」、「数字を分析するアナリスト」、「育成候補生としての最低限のオペレーター」この4つが必要と思っていて、最悪、それ以外は社外で補う形で問題ないと思っています。社外の代理店さんやベンダーさんも含めて、どう新しい売上を作っていくのか、その為にどうやって課題解決していくのか、というのを一緒に考える。だから僕はいつも組織図を書くときは 自分の部署だけじゃなくて 代理店さんやベンダーさんも一緒に書くようにしています。

 「この課題についてはここのベンダーと組んでチームで動かす」「このベンダーとこの代理店間で横断的にやる会議体を1個作る」、このような視点で組織を創れるようにならないと、マーケティングのマネジメントは難しいと思います。「人数が足りない」とか「○○を出来る人がいない」という様に、ずっと悩み続けることになってしまいます。環境変化のスピードが減速することはないので、常に新しい領域に対応した人を採用・育成するというのは現実的ではありません。この様にノウハウやナレッジを社外から得ながら、パートナーと共生していく組織を私は個人的に“エコシステム的組織”と呼んでいます。

――自社で必要な人材を育てるという選択はないのでしょうか。

 勿論、デジタルマーケティングを推進できる人材を社内で育成する必要はあります。しかし、当たり前ですが、現場社員が急激に明日からスキルが身につくなんてことはありえません。育成に3年かかるようなスキルも、社外も含めた色々な人たちとチームを組成することで成長のスピードを速めて、1年で育成できると思うんです。ある分野の専門性がめちゃくちゃ高い外部のパートナーと部下を直接繋ぎ合わせてしまうほうが、部下は成長すると思います。ここが正にエコシステム的組織の“共生”にあたる部分です。そして、その部下がある程度インプットが進んだら、次の分野に行かせてあげれば良いし、その分野を突き詰めたいならそれでも良いと考えています。

 弊社の例を挙げると、新たにWeb事業部門に配属されたメンバーには、必ずGoogleAnalyticsでレポートを作ってもらいながら、基本的な数字の見方を覚えてもらいます。その後、ベンダー/代理店さんとの会議に出席させて、数字がどのように議論のテーブルに乗せられているかを自身の目で確認させます。やはり、マーケティングに関わる数字の分析的な見方や広告の運用方法などは、社外の専門家から得た方が深い知識が得られますからね。

――では、代理店やベンダーとうまく関係性を構築し、パフォーマンスを最大化させる為に気を付けていることは何かあるのでしょうか?

 大事にしているのは、「情報を必ずオープンにする」ということですね。もうこれに尽きると思います。多くの企業で社内のメンバーの方が情報量が多い状況になっていて、パートナーとの情報の非対称性があるケースが散見されます。同じレベルの情報を共有しておかないと、同じような優先順位と危機感を感じてもらえないですし、無駄なコミュニケーションコストが発生してしまいます。いちいち社内の情報を全パートナーに共有している時間はないですし、パートナーのアクションも遅れていく一方ですから。

 パートナーと同じ情報量と同じ理解があれば、「優先順位が高いこちらの施策からやりましょう」という話がスムーズにできますし、会社の売上がしんどい時にはデジタルに予算を投下できないので、「予算を抑えながらどう動くか?」という前提のもとで動くこともできます。

 社内の情報をタイムリーに共有している方がパートナーからも必ず信用されます。また、パートナーも今まで仮に毎月1,000万円の予算を貰っていたのが500万円になったら、その担当者は何故か?悩むと思います。でも、そこに信頼関係があれば、「背景は理解しました。一時的な減額なので、500万円の提案をしますね。」とパートナー側もスムーズに動きを切り替えられます。クライアント側の「予算がなくても効果を出したい」という要望に応えなければいけないので、きっと彼らにとってもノウハウになると思うんですよね。

 こうやって、相互に助け合い、必要な情報を必要な時に供給する“エコシステム”的な組織が出来上がっていきます。この様な体制にすることが、これからマーケティングの領域では重要だと思いますね。

――パートナーと同じ情報の量や質を担保する為に意識されていることはあるのでしょうか。

 細かい話になりますが、2つご紹介します。
 1つ目はパートナーとの定例MTGで使うフォーマットをこちらの“理想ベース”で作ること。もちろんパートナーによっても異なりますが、共通のフォーマットをベースにして週一の定例MTGを実施します。パートナーが持ってきた数字やレポートをそのまま聞いていてはダメです。こちらが知りたい理想の情報を描いて、フォーマットに落としてもらう。レポートのフォーマットもこちらが指定する。パートナーが必要とする自社の情報については、こちらもフォーマット化して提出します。出せる情報はすべて議論のテーブルに出すようにすることです。例えば、「どんなTVCMがいつからいつまで流れるのか」であったり、「どの雑誌のどの紙面でどんなタイアップ広告が出るのか」など、直接パートナーに関係のない情報も徹底します。このような作業は意外と面倒なのですが、めんどくさがってはだめです。また、普通は「代理店にフィーを払っているのに、こちらが稼働するの?」という思考にもなってしまいがちですが、手間をかけて社外も巻き込んでチームビルディングする必要があるんです。これをやり続けていくと、“パートナー側の引き出しが増えていく”んです。

 例えばパートナー側から「雑誌のタイアップにあわせてこんな施策やりますか?リスティング強めていきますか?」というような発言が出てくるようにもなってきます。軌道修正も細かく出来るようになるので、一回の定例MTGで論点がでて、その回答がまた次の定例になってしまう等の“無駄なタイムラグ”を無くすことができます。より情報連携をリアルタイムにする為に、Google AnalyticsとGoogle Consoleも常にオープンにしていますね。

 2つ目は、年に一回のパーティーの開催です。必ず年に一回、全パートナー100人位集めてクリスマスパーティーを開催します。今年1年間やってきたことの振り返りと、次の1年間の方針や課題を話して、「皆さんの力をお貸しください」というメッセージを発信します。

 そうすると、パートナーさんからは「クライアントがどういう状態にあり、どこに困っているのか明確になった」「自分たちはここにチャンスがあるな」「よし、この領域でリプレイスしてやるぞ」という様な反応が出てきます。良い提案があればやってみたいし、テストしてみたいし、結構評判も良いですね。皆さんのネットワーキングの場にもなっているんでしょう。

――社外へ情報が出せない会社もあると思いますが、どうすればよいのでしょうか?

 社外に情報が出せないというポリシーのようなものは一定あると思いますが、「実務者側がどの情報を出せばいいか、が分かっていない」「言われないと、どの情報を出せばいいか分からない」という点が真因であり、事業者側の課題なのだと思います。情報は簡単にマスキング出来るし、サンプリングだって出来るので、何も出せない、という状況って実はほとんどないのではないでしょうか。

 要は、パートナーとうまくコミュニケーションできる人が少ないですよね。ある程度付き合いがうまい経験者がいればいいですが、そういう人が社内にいないと、“昔ながらの”付き合い方が文化になってしまって、固定化してしまう。外部パートナーとチームを創る、という発想がそもそもその組織になく、上司のやり方に従ってしまう、というのが現実だと思います。

 そういった固定化した文化を壊すには、考え方の違う人を中途で入れるか、外の世界の情報を入れるべきですね。社外のカンファレンスとか、社内/社外の垣根をこえて情報を取得しに行くべきだと思います。

――“エコシステム的”チーム創りをすべき会社とは?

 個人的には、リソースの少ない中小企業ほど、このエコシステム的組織の考え方が当てはまると考えています。大きな会社でも余程採用力がある会社でない限り内製化は勧めません。求める人材を獲得するまでに膨大な時間がかかりますし、速い環境変化に晒されているのは、どんな企業規模でも一緒ですからね。

 そしてこのような組織の創り方をする為には社外からのインプットに寛容で、かつ得た情報を組織内にナレッジとして昇華できるような環境であることも必要です。外部セミナーやカンファレンス等で社外の情報を積極的に獲りにいくべきと思います。そこで新しく生まれる人脈もとても重要だと思います。

――最後に藤原さんの考える「未来のCMOに必要なもの」を一言でお願いします!

 「サービスやプロダクトの未来像、世界観を語れる力」ですね。
 社内だけでなく、社外のパートナーも含めて、どのようにマーケティング活動を推進していくべきなのか、ビジョンを示し、エコシステム的な組織を牽引出来ることが、これからのCMOには必要だと思います。

Text by Kento Mineoka


【プロフィール】
藤原 尚也
株式会社ドゥクラッセ 
グループCMO 兼 Web事業部長
これまで、カルチュア・コンビニエンス・クラブ、ガシー・レンカー・ジャパンのデジタルマーケティング責任者や、マードゥレクス社の取締役社長を経験。2016年に起業し、デジタルマーケティングコンサル事業の『アクティブ合同会社』を設立。各企業のデジタルマーケティング支援及び人材育成を行いながら、2018年より、ドゥクラッセのCMO兼Web事業長に就任。(https://www.doclasse.com/


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