前編では無印良品の徹底的な“顧客視点”への取り組みについて伺った。
後編では、これからの無印良品が目指す“新しい購買体験”や“データとの関わり方”についてお話を伺います。

顧客接点の量の観点はどうでしょうか。今顧客との接点の数はどれくらいあるのでしょうか。

無印良品はグローバルで展開しているので、現状全体で2,500万から2,800万ぐらいの接点になってきています。ただ、これらはあくまで自社アプリや自社アカウントでのネット上のつながりでしかなく、我々として、一番大切な顧客接点は店舗だと考えています。店舗での体験に一番の共感が生まれると考えています。

無印良品のブランディングは「良い商品、良い環境、良い情報」が重要とよく言っていますが、この3要素が一番詰まっているのが店舗ではないでしょうか。これはディズニーランドとよく似ていて、ディズニーも顧客との接点はたくさんありますが、最高の体験は実際にディズニーランドに行くことですよね。完璧なキャストの完璧なおもてなしも含めて、実際に行って体験することが中核にあります。そのうえで、コンテンツや商品が売れるんです。

無印良品の強みである店舗起点の考え方は、これからも変わりないと思います。一方でお客様のデータを使っていくという観点では、どのようなことを考えていらっしゃいますか?

お客様を理解する上でデータはもちろん重要ですが、行き過ぎてしまうと追いかけ回されて気持ち悪いと感じてしまうと思うので、適切に活用していきたいと考えています。また、他にも過度なPOPや店舗スタッフの執拗な売り込みや声掛けも、無印良品の考え方には合わないと考えています。

いま、世の中には購買を誘うテクニックがあふれていますが、無印良品には、「落ち着いた店舗環境の中で、商品タグに書かれた無印良品の理由(わけ)を読んでいただき、お客様に納得して買い物をして欲しい」という思いがあります。お客様が家に帰ってから「これって本当に必要だったのかな」とか「やっぱりちょっと違う」と思ってほしくないのです。これが、過度なPOPや執拗な売り込みをしない大きな理由ですね。

他にも、目には見えない机の上の菌をCGで再現するようなテレビCMがありますよね。お客様に恐怖を与えて購買をさせるマーケティングです。もちろん細かく見たらそうなのでしょうが、普通に生活していて影響があったことはほとんどありませんよね。そういうマーケティングが今も昔も横行しています。このようなマーケティングは資本の論理で考えると正しいのかもしれませんが、人間の論理で考えるのであれば間違っているのではないかと考えています。

話は変わりますが、これからマーケティング領域で注力されていくことはあるのでしょうか?

紋切り型のコミュニケーションから脱却したいと考えています。今までのマーケティングは、チェーンオペレーションという企業側の資本の論理を極めていった形だと思っています。

私の実家は肉屋なんですが、同じ小売りでも、無印良品と個店の肉屋では全く違います。個店では、店員はお客様一人ひとりの顔が大体わかります。無印良品でもお客様とこのような関係性を構築できればと思っています。お客様とのコミュニケーションも含めて、新しい小売りの形態を模索して行きたいと考えています。

例えばコミュニケーションの領域では、いわゆるチェーンストアの本部がコンテンツやメッセージを開発してお客様に発信するという売り手と買い手の関係ではなく、同じ価値観を持った人々が店舗に集まり、店舗を中心とした「個店と個客」のコミュニティを創っていきたい。これが、これからのテーマだと考えています。

ここに、デジタルやテクノロジーを活用していくのでしょうか。

そうですね。デジタルやテクノロジーはあくまで「売るため」というより、「コミュニケーションを生むため」のものという発想が基本となっています。上手く活用することでお客様との関係性の下地を作っていきたいと思っています。やはり一番重要なのはお客様との「フィジカルな関係性」です。

昔、有楽町の店舗にキオスク端末を導入したことがありました。本屋のように、商品の取り扱いがあるかどうかを調べられたんですが、全く根付きませんでした。そのような端末があってもお客様は「すみません!」と、店舗スタッフを呼ぶんですよね。ただ、昔は「少々お待ちくださいませ」と言って、バックヤードまで調べに行く必要がありましたが、今はタブレット端末があれば、その場ですぐに調べる事ができます。

今の店舗スタッフは昔と比べると非常に忙しくなっているので、ITを活用して仕事を簡単にすることで、店舗とお客様とのコミュニケーションを増やしていきたいと考えています。そこをきっかけに、今はチェーン店と認識されている店舗を自分自身の店舗とお客様に認知してもらったり、その店舗を中心としたお客様とのコミュニティを構築していきたいと考えています。

ありがとうございます。それでは最後に、川名さんが考える「未来のCMOに必要なもの」を一言でお願いします!

“何事も自分ごととして考え、実行すること”が大切だと思います。私はよく「それを自分の財布から出すと考えたらどう?」とメンバーに質問します。そうすると、使ったお金とリターンを考えるようになりますよね。そういった視点で、そのサービスにリアリティがあるかどうかを考えるようになります。

また、会社における効率化が進むと分業化が進み、提供している商品やサービスが部分的にしか見えなくなりがちですが、顧客視点で、自分ごととして、顧客体験全体を考えることが大切だと思います。

弊社が提供している マーケティングツール『b→dash』 は、マーケティングプロセス上に 存在する全てのビジネスデータを、ノーコードで、一元的に取得・統合・活用・分析することが可能なSaaS型データマーケティングプラットフォームであり、BtoC業界を中心に、様々な業種・業態のお客様にご導入頂いております。

Editor Profile

  • 福井 和典

    株式会社データX マーケティング管掌執行役員

    日本IBMにてシステムエンジニア、GREEにてCRM領域のオペレーション企画、PwCでの業務コンサルタントとしての経験を経て、2016年よりデータXに入社。データX入社後は、カスタマーサクセス部門に在籍し、小売/金融/アパレル/ECなど幅広い業種に対するb→dash導入支援を統括。
    その後は、主にb→dashのマーケティング/広報/PR活動や事業企画に従事。

Speaker Profile

  • 川名 常海

    良品計画

    WEB事業部 部長

    1992年良品計画入社し宣伝販促業務を担当。2004年より現在のWEB事業部に所属。ECサイト「無印良品ネットストア」、顧客との共創を目的としたコミュニティサイト「くらしの良品研究所」、モバイルアプリ「MUJI passport」など無印良品のデジタルマーケティング全体を統括。

Category
Tag