前編では、 “顧客オリエンテッド”の1to1マーケティングの取組みについてお話頂いた。
後編ではそれを実現するためにどのような組織作りをしているのか、マーケターのスキルやチームマネジメントにフォーカスしてお伺いする。

JALでは非常にデータドリブンにお客さまごとのマーケティングを実現されていますよね。データ活用を組織として推進するために必要なことはありますか。

データドリブンな組織を作るために3つのポイントが必要だと考えています。
1つはDWHが整えられていることです。

DWHはすごく重要で、所謂“高速道路”であるべきです。しっかりと舗装された道路を作れば、その上を走っている車はスポーツカーであっても軽自動車であっても、誰もが使いやすいものになります。

ただ、多くの企業がどちらかと言うとツール(自動車)の方が気になってしまい、「いいツール(自動車)を入れたら成果が上がるのではないか」と思ってしまう傾向があります。どんなにいいスポーツカーを買ってきても、舗装されていない道ではスピード出せないのと同じように、まずはいい道路、つまりデータウェアハウスを作らなければなりません。そのためにはユーザーを理解しているマーケティング部門の意見を取り入れながらデータウェアハウスを構築することが必要で、JALでは、私たちマーケターが必要な環境をIT部門が理解して作ってくれています。

2つ目は今お話したようなことを実現するためにもIT部門との強固な連携は必須です。

一般的にIT部門とマーケティング部門は考え方(アプローチ方法)に違いがあることが多いです。IT部門はまず要件定義をしっかりしたいと考えていますが、実際に分析をするときは、最初に要件定義しても、上手くいかないことが往々にしてあります。一度データ分析を行って、こういうデータが追加で必要だと分かってから、改めて要件定義することで初めてデータに意味付けができることが多いと考えています。

海外では比較的協力体制が築かれていることが多いように思います。例えばマーケティング事例を社外のセミナーなどで発表するときに、海外ではユーザー部門とIT部門の担当がペアで登壇します。そこでは、まずマーケティング部門の担当が事業概要や課題説明をし、次にITの担当者がそのソリューションの説明をします。その後再びマーケティング部門が効果の説明をして、最後にIT部門がシステム上の問題を発表してまとめます。

このように二人三脚でプレゼンを行うとセミナーを聞きに来ているIT担当者マーケターも両方の分野についてわかりますし、質問などもすぐに回答できます。私が目指しているのはこういう姿で、強固な連携のために相互理解は不可欠です。

IT部門との連携を深めるためにJALで行われていることはありますか?

シンプルですが、「自分はこのようなことを考えている」というようなコミュニケーションを、IT部門と日頃から積極的にとることだと思います。今困っていることや、目指している目標をIT部門と共有するようにしています。その際、いくらお金がかかるかわからない夢物語でも良いので、まずは「語る」必要があると思います。そして、一緒に作り上げるという仲間意識も重要で、その鍵となるのはやはり「結果の共有」です。

これまで私は、IT部門の担当者は依頼を受けたシステムを作るまでが仕事だと思っていました。しかしそれは誤解で、IT部門の担当者も自分たちの作ったシステムがどのように動いているのかやはり知りたいのです。

以前、ある化粧品会社のIT部長さんに「システムを作った後の結果には興味がないのですか?」ということを聞いたことがありました。すると、その部長さんに「そんなわけないじゃないですか。そもそも化粧品会社に入る人でITをもとからやりたい人は多くはいません。本当はマーケティングをやりたい人も多いのです。
だから、最終的な結果に興味があるのは当然です。」と言われました。それを聞いて純粋にその通りだと思いました。だからこそ情報をしっかりと共有して、良い協力体制を築くようにしています。

最近その甲斐があり、IT部門の担当者がDWHを変えるときには「変えるのであればマーケティング部門のデータを使う人の意見を取り入れてもっといいものにしたい」ということで、データ分析のユーザーも含めたプロジェクトが立ち上がりました。

IT部門と非常に良い協力関係が築けているのですね!データドリブン組織を作るための3つ目のポイントは何でしょうか?

3つ目はマーケターのスキルセットです。マーケティングにおいてデータ活用が欠かせない今、マーケターには3つの能力が必要だと考えています。それが「ビジネスの知識」「統計解析」「IT」です。しかし、これら3つを兼ねそろえているマーケターはほとんどいないのが現状です。だからこそ、チームワークで乗り越えていくしかないと考えています。

チームとして動く場合にポイントとなるのが、誰を中心にするのかということです。今までは、分析やITなどのハードスキルを持っている人を中心に行っていくのが当たり前でした。しかし私の考えは違って、“ビジネスをわかっている人間”がある程度主導権を持つべきだと思っています。
なぜかというと、私の経験上、ビジネスをわかっている人が主導しない場合、マーケティングが間違った方向に進むリスクがあるからです。ビジネスの流れをしっかりと掴み、“コンセプトを持った人”がチームの中心にいるべきだと考えています。

とは言え、ビジネスの知識を持つマーケターが、このチームを指揮するために、最低限の統計解析やITを理解する必要はあります。まずは何と言っても“習うより慣れよ”です。私のチームもそうなのですが、能力があるにもかかわらず「データサイエンティストをやりなさい」とか「データ分析やりなさい」と言っても、「私は文系出身なので無理です」と言って、腰が引けてしまう人が多くいます。だからこそ、ここを克服することが大切だと考えています。

では、どうすれば解決できるかというと、よくお勧めしているのは“ヘリコプター理論”です。

どのような理論かを簡単にお話しします。まず、そもそもマーケティングの分析手法を勉強することは山登りに似ています。最近統計学がブームなので、多くのマーケターの方が勉強しています。この時、1つずつ基礎から勉強し、山を登っていこうとするのですが、途中で内容が難しくなると挫折してしまう人が多いです。そこで気づいたことが、“途中で止まるくらいなら一気にヘリコプターで頂上まで上がってしまう”ということです。それを可能にするのがツールだと思っています。

ここで「統計の基礎をとばしてしまって良いのか?」と疑問に思う方もいます。普通に考えると、もちろん全部行ったほうが、良いに越したことはありません。しかし、統計学を長く勉強してきて、このつまずく分野を一生懸命頑張っても、実務ではあまり役に立たないことが経験値からわかりました。

例えば、仮説検定についてです。東京と大阪の売り上げを検定した結果、5%という水準で東京の売り上げのほうが大きいと仮説検定できたとします。しかし、これはビジネスの世界では、検定を実施しなくてもわかる話です。そもそもビジネスで使うデータは統計的な仮説検定をしなくても、いまの技術では容易に集計することができてしまいます。

また最近はデータのサイズが大きい(ビッグデータ)ので、統計的な仮説検定をしても、わずかな差であってもほとんどが有意になってしまい、本質的に意味がありません。だからこそ「習うより慣れよ」で、まずはやり始めて欲しいなと考えています。

それでは最後に渋谷さんが考える「未来のマーケターに必要なもの」についてアドバイスお願いします!

これからのマーケターはデータから逃げていてはいけません。習うより慣れろの精神を常に持ち続けてほしいです。そして、活用のイメージ、つまり目的をもって自社のデータと向き合い続けてください。そのイメージが無ければ当たり前ですが“分析のための分析”になってしまいます。統計解析はただの手段にすぎません。ビジネスに貢献してこそ真のマーケターなのです。

弊社が提供している マーケティングツール『b→dash』 は、マーケティングプロセス上に 存在する全てのビジネスデータを、ノーコードで、一元的に取得・統合・活用・分析することが可能なSaaS型データマーケティングプラットフォームであり、BtoC業界を中心に、様々な業種・業態のお客様にご導入頂いております。

Editor Profile

  • 福井 和典

    株式会社データX マーケティング管掌執行役員

    日本IBMにてシステムエンジニア、GREEにてCRM領域のオペレーション企画、PwCでの業務コンサルタントとしての経験を経て、2016年よりデータXに入社。データX入社後は、カスタマーサクセス部門に在籍し、小売/金融/アパレル/ECなど幅広い業種に対するb→dash導入支援を統括。
    その後は、主にb→dashのマーケティング/広報/PR活動や事業企画に従事。

Speaker Profile

  • 渋谷 直正

    日本航空

    Web販売部 1to1マーケティンググループ アシスタントマネージャー

    2002年に日本航空(JAL)に入社し、2009年Web販売部に異動。月間2億ページビューに上るJALホームページのログ解析や顧客情報分析を担当。航空券などのレコメンド施策の立案・企画・実施に当たる。顧客の閲覧傾向に応じてお薦めするコンテンツを使い分け、購入率をアップするなどの成果を上げている。2014年、日経情報ストラテジー誌による「データサイエンティスト・オブ・ザ・イヤー」受賞。

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