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2018.02.28

サンリオのデジタルシフトがもたらしたエンゲージメントの向上とブランド体験の変化とは?

ハローキティやポムポムプリンなど、愛されるキャラクターを数多く生み出してきた株式会社サンリオですが、万人に愛されるキャラクターを生み出すことはそう簡単なことではありません。サンリオのデジタルシフトを牽引してきたメディア部ジェネラルマネージャーの田口歩さんに、デジタルシフトのポイントや、デジタルを活用した愛されるキャラクター作りの秘訣を伺いました。

――まず最初に、田口さんのご経歴をお伺いしてもよろしいでしょうか。

 新卒ではデータ通信事業の会社に入社しました。僕は文系学部の出身でしたが、システムエンジニアとして入社し、総合商社の国際総合物流システムの開発などを経験し、その後インターネットプロバイダー事業の立ち上げに関わりました。
 2社目は、動画配信サービス事業を行うリアルネットワークス(当時、プログレッシブネットワークス)、3社目は音楽配信サービスの事業を行うリッスンジャパンにジョインしました。どちらも先進的な技術を持ったベンチャー企業でしたが、市場が全く立ち上がっていない状態でビジネスを拡大させるのに苦労しました。
 その後、企業のデジタルマーケティング活動の支援を行っているIMJグループのイグジスト・インタラクティブに移りました。SIPS (Strategic Internet Professional Service)という、コンサルティング目線で企業のビジネス課題をヒアリングし、課題解決のためにどのようなサイトが必要なのかを分析して、サイトの開発から運用までをワンストップで提供するビジネスモデルです。2011年にはIMJグループ全体の再編があり、イグジスト・インタラクティブと親会社のIMJが合併、それに伴いIMJの事業部門と経営企画の執行役員とを兼務することになりました。
 サンリオにはIMJの執行役員を退任したときに、デジタルマーケティングを立ち上げたいというお誘いをうけてジョインしました。現在の会社は7社目ということになりますね。

――サンリオで実施してきたことを詳しくお伺いしてもよろしいでしょうか。

 大きく2つあります。

 1つ目は、サンリオのコーポレートサイトのリニューアルとアクセスログ分析です。
 私の入社前からサンリオはコーポレートサイト、ECサイト、ピューロランドなどのサイトを運営していましたが、それぞれのサイトが別々の部署によってバラバラに管理・運営されており、アクセスログの分析なども出来ていませんでした。ピューロランドもサンリオが運営しているとよく勘違いされるのですが、実はサンリオの子会社であるサンリオエンターテインメントが運営しています。サンリオは、キャラクターのプロパティを活用して商品の開発や卸・小売り、ライセンシングなどのビジネスを行っていますが、サンリオエンターテインメントはサンリオからライセンスを受けてエンターテインメントビジネスをやっている子会社です。

 また、デジタルの領域でサンリオは中途採用をほとんど行っておらず、私が入社した当時、チームにはデジタルマーケティングに携わったことがある人がほとんどいませんでした。そのような背景もあり、チームメンバーの教育も含めたコーポレートサイトのリニューアルプロジェクトを最初に行いました。このプロジェクトはネットイヤーグループさんのご協力をいただいてほぼ1年がかりで実施しました。デジタルマーケティングは用語や概念だけを学んでもなかなか身に付かないところがあり、実際に業務を通じて学ぶほうが効率的だと思ったからです。
 ネットイヤーグループさんとは 1年間に50回を超える会議を行い、わからない部分などを1つ1つ丁寧につめていったので、リニューアルされたコーポレートサイトもすばらしいものになりましたし、プロジェクトに携わったメンバーたちも大きく成長したと思います。そこで培ったノウハウが後にリニューアルされたECサイトやピューロランドサイトのリニューアルにも活かされた結果、各サイトを横串にした共通のタグ設定をすることで、今まで分断されていたお客様の行動データが可視化できるようになりました。これは大きな成果でした。

 というのも、サンリオはキャラクターとお客様との関係をなにより大切にしている会社であり、いかにお客様にサンリオのキャラクターを愛していただくかが最も重要だからです。リニューアルされた各サイトはキャラクター達とサイトを訪れたお客様の出会いを最適なものにしたいと考えて作られていますし、お客様の行動データの可視化はその体験を最適化するために必要不可欠なものだったのです。
 サンリオは BtoC向け商品の開発・販売や BtoB向けのライセンスビジネスを行っていますが、「サンリオキャラクターの商品が欲しい」「サンリオキャラクターを使って商品を企画・販促したい」という状況は、そのキャラクターが多くのファンから愛されていなければ実現不可能なことです。そういった意味でもキャラクターとお客様のエンゲージメントを強化し続けることが重要なのです。私はこの考え方を「エンゲージメントファースト」と呼んでマーケティング目標にも設定しています。

――なるほど、エンゲージメントファーストはサンリオならではの考え方ですね。2つ目はどのようなことでしょうか。

 2つ目はFacebookやTwitterなどのソーシャルメディアへの注力ですね。
 私が入社する前にもいくつかのソーシャルメディアアカウントは運営されていましたが、今のような強力なコミュニケーションプラットフォームではありませんでした。現在、「エンゲージメント構築」のための手段というと、ソーシャルメディアを思い浮かべる人が多いですよね。私が入社する前のサンリオも同じで、ソーシャルメディアを通じてキャラクターからの情報発信に取り組み始めてはいたのですが、全社的な取り組みではなく、様々な部署で担当者が片手間にやっているというような残念な状況がいくつもありました。投稿した後の分析も十分に行われているとは言えない状況でしたので、全社で使える投稿管理プラットフォームツールを導入して、ワークフローを設定、担当者と承認責任者を明確に定義して予約投稿などの安定運用が出来るようにしました。

 現在では23ものソーシャルメディアアカウントを管理しており、各担当者も投稿結果の分析を自身で行うなど、様々なノウハウが広まったことでソーシャルメディアのキャラクターアカウント数は今もどんどん増えています。

――ソーシャルメディアの運用に関しては苦労されている企業も多いと思うのですが、サンリオの場合いかがでしょうか。

 アカウントのコミュニケーションスタイルに関していうと、サンリオのキャラクターアカウントはユニークなスタイルをとっていると思います。というのも、同じようなキャラクターを持つ企業であっても他社の場合は、企業視点で投稿しているものが多いのではないでしょうか。一方、サンリオの場合は、キャラクターが一人称で自ら直接ユーザーに”話しかける”というコミュニケーションスタイルで運営しています。

 このコミュニケーションスタイルの強みはエンゲージメントが非常に強固になることです。キャラクターに直接話しかけられることで、お客様はキャラクターをより身近に感じ、キャラクターとお客様との間に絆が生まれやすくなります。私自身もデータを見た際に驚きましたが、マイメロディーが朝、「おはよう」と投稿しただけで、エンゲージメント率が9%を超え、お客様からたくさんのリプライが返ってきたんです。

 また、今年5周年のぐでたまのアカウントは最近フォロワー数が100万フォロワーを超えました。こういったデータを見ているとやはり、キャラクターとお客様との間に行きかう想いを垣間見ることができます。サンリオのキャラクターを販促に使ってくださる企業様も、「サンリオキャラクターと生活者の間の“絆”」が感じられるからこそ使ってみようと思っていただけるのではないでしょうか。お客様との絆作りと企業からの信頼獲得の2つの目的を達成するために、私たちは日々ソーシャルメディアに対しても全力で取り組んでいます。

――エンゲージメントや顧客との絆作りに関しては田口さんがサンリオに入社した当初から注力されていたのでしょうか。

 お客様との絆作りはもともとサンリオのコンセプトとして重視されてきたポイントでしたが、ソーシャルメディアの爆発的普及にしたがってより重要性が増していると思います。商品や情報が溢れかえる現代において、キャラクターとお客様(ファン)との関係を長く維持していくことは非常に大事だと思います。そういう意味で、お客様との絆をしっかりと構築し、キャラクターがお客様に寄り添えるような関係値作りが大事だと思っています。かつてのサンリオは店頭で商品を売る、というリアルの活動を通してお客様との絆作りに注力していました。多い時には300を超える直営委託店舗を運営し、今なお年間5,000SKUもの新商品を市場に投入していることがその取り組みを象徴しています。

 実は、サンリオは元々キャラクタービジネスの会社ではなく、ギフト商品の企画、販売を行う卸売事業を行う会社として創業しました。当社ではこれをソーシャルコミュニケーションギフトビジネスと呼んでいます。しかし、あるときパッケージにキャラクターを登場させて商品を販売したところ他の商品に比べて売上が飛躍的に伸びたんです。それをきっかけにキャラクターの自社開発と商品企画に注力しはじめ、現在のようなキャラクターの会社というイメージが定着しました。このような背景もあって、店頭で商品を直接お客様に販売する文化が現在でもとても大切にされています。

 また、こうした店頭におけるお客様との絆作りの取り組みの一つとして、当時はプレイスクールという活動も行っていました。プレイスクールとは、店舗の前で店員さんが地域の子供たちと交流するイベント活動です。このように、店頭での商品の販売やサービスを通じたお客様との絆作りがもともとのサンリオの強みなんです。

 しかし、ものが売れない時代に入ると、店舗でイベント活動の企画、運営を行う余裕が徐々になくなってしまい、そのような取り組みを行うことが厳しくなりました。そこで、現在はオンラインでのお客様との絆作りに注力し、いかにお客様に喜んでもらうサービスを提供できるかを模索しています。コミュニケーションのとり方も時代によって変わってきますから、時代に合わせた取り組みをしなければならないと思っています。

 リアルにもオンラインにもメリット・デメリットがあります。リアルにはオンラインにはない触れ合いや温かみがあります。一方で、商品や場所、コストといった制限もあります。オンラインはこれらの制限なく誰でもが簡単にコミュニケーションを取ることができ、また商品が少ないキャラクターでもつながり続けることが出来ます。少数でもキャラクターを愛してくださるお客様が必ず存在していている以上、そこには絆があります。私たちはキャラクターとお客様との幸せなつながりを一つでも増やしていけるよう、日々誠実さを忘れずに精一杯取り組んでいます。

(ーー後編に続く)

Text by Yuuki Miyagawa


【プロフィール】
田口 歩
株式会社サンリオ
メディア部 ジェネラルマネージャー
国際データ通信事業者のエンジニアとしてキャリアをスタート。インターネット黎明期にISP事業立ち上げに参画した後、外資系スタートアップ企業に転じて動画配信、音楽配信事業を経験。その後Webコンサルティング企業(SIPS)の経営を経て、大手Webインテグレーターの執行役員に就任。 2012年10月よりサンリオにてデジタルマーケティングを統括。インフラからコンテンツまでの幅広い経験を活かしてサンリオの顧客経験価値の最大化を目指す。
https://www.sanrio.co.jp/


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