ガリバーをはじめとして、クルマの買取・販売を手がけるIDOM (旧 ガリバーインターナショナル)。対面販売とネット販売を組み合わせた革新的な業態を展開し、国内トップシェアを誇る同社。最先端のテクノロジーなどを率先して取り込み、データドリブンなマーケティングで注目を集めている。そんな同社のデジタルマーケティングセクションを率いる中澤氏に、これまでの取り組みと、IDOMでのこれからについて話を伺った。

早速ですが、中澤さんのこれまでのキャリアについて教えていただけますでしょうか。

ファーストキャリアは家電量販店であるソフマップでのアルバイト店員です。そのままフロア長になったので就職活動はせずに社員になりました(笑)。7年くらい店頭の現場で経験を積みましたね。

2000年当時、ソフマップと他社との共同プロジェクトで、日本最大のECサイトを立ち上げるというプロジェクトがあり、そのプロジェクトメンバーに抜擢されてECサイトの立ち上げを担当したのが、ウェブマーケティングとの関わりのスタートです。プロジェクトではEC企画の中核を担っており、2001年には当時の日本で最大の売上を誇るサイトにまで成長しました。その後は、データマイニングやCRMがポイントになるだろうという流れもあったのでデータマイニングの部署の立ち上げにも関わりました。

ソフマップは非常に面白い会社でして、2001年当時にも関わらず360万人が既にカード会員でした。実は某大手家電量販店よりも早くカード会員制度を始めているんです。クリック&モルタル、今で言うO2Oを実現している会社は世の中にまだないということで、それを実現するという大きな目標のもとで立ち上げられたプロジェクトなんです。

なので、本プロジェクトは単純にECで日本最大の売上を作るだけではなく、もともと360万人いるリアルのカードホルダーとネット会員を有機的に連動させて、O2Oを実現するというプロジェクトでした。実は2001年の時点でソフマップのカード会員360万人とインターネット会員のポイント連携を実現していたんです。

その結果、インターネットや店舗で買い物をすると、購買履歴が全部統合されるようになりました。例えば、お客さんがリアル店舗で買い物をしてカードにポイントを付けると、購買履歴が残ると同時に、現状の総購入金額がいくらで、それを今売るとこれだけの金額になるのかもインターネット上でわかるようにもなっていました。インターネットの情報とリアルの情報がデータ連携されていて、今で言うDMPを既に保有していたんです。

そのため、オンラインデータとオフラインデータを使って分析をする必要があったので、データマイニングの部署が立ち上がり、その部署のリーダーとして解析を担当しました。その後はマーケティングと経営を有機的にリンクしていかなければならないというミッションが与えられて、経営管理室というあまりマーケターにとっては馴染みのない部署で、いわゆる全社の予算を編成して予実管理をしながら、経営者に数字で状況を報告するようなことをしていました。

その後はゴルフダイジェストオンライン(GDO)に入社して、データ分析チームを立ち上げたり、マーケティングの責任者にもなり、約8年間マーケティングに携わってきました。これまでやってきたことを振りかえって思うこととしては、マーケティングって突き詰めていくと最終的に経営活動と非常に密接に結びついているのですが、実はKPIや数字の視点だとリンクしていないことが多いんですよね。マーケティングの指標って経営者からは非常に見えづらい状態になっているので、GDOの時にも最終的には経営管理室を立ち上げて、経営管理室の室長とマーケティングの責任者を兼任していました。

このような感じでずっとBtoCの世界にいたので、BtoBも見てみたいという思いがあり、エクスペリアンジャパンでBtoBの世界を見させてもらって、約2年前にIDOMに来たというキャリアです。

ソフマップ時代の取り組みに関して、当時他の会社で同じようなことをしている企業はいなかったんですか?

世界的に見ても多分いないと思います。なので当時としてはとても野心的なプロジェクトでした。

当時ソフマップは何故そこに目をつけたのでしょうか?

当時はポイントを付けるためのポイントカードは存在しましたが、顧客情報を取得するという観点でやっている会社はまだほどんどいませんでした。そもそもソフマップがポイントカードを始めたのは顧客情報を収集するという目的だったので、360万人のユニークな顧客情報というデータ資産がすでにあったんです。このような背景からクリック&モルタルを実現できるのではないかという視点があったんだと思います。

では中澤さん自身、キャリアのスタートである現場でのご経験がかなり活きているんですね。

間違いないですね。マーケティングにおいて一番役に立った経験は、7年間実際に売り場にいたことだと思います。特にデータを分析する視点では、この現場経験なしには不可能だと思います。

具体的にはどのような形で活きているのでしょうか?

分析というと数字を見ているだけだと思われがちですが、その数字からお客さんの動きや現場で何が起きているのかを想像する必要があるんです。なので、お客さんの行動を予測したり、そこから仮説を生み出すのも、全て現場での経験があるからこそだと思っています。

先程マーケティングのKPIと経営活動を結びつけるのは非常に難しいとのお話がありましたが、中澤さんは具体的にどのようなことをされたんでしょうか。

端的に言うと、経営者が主に見ている数字はP/LとB/Sとキャッシュフロー計算書です。これらが経営活動の成果指標になるんですが、特にP/Lに関しては予算編成を考えてもらえばわかりやすいですが、来期の予算を作る時に、「P」がProfitで「L」がLossになるので、Lossの方が計画を立てやすいんです。

一方で「P」の計画をたてるのは非常に難しくて、若干話がそれますが、一般的に計画をたてる場合、ボトムアップ型とトップダウン型の2つがあります。

トップダウン型の場合は非常に単純で、これまでの5年間の平均売上の動きから来期はこれくらいになるだろうという売上予測をたてて、そこに10%上乗せした成長率にしようというような立て方をします。

一方でボトムアップ型の場合は全く逆で、それぞれの事業部から、「これくらいの売上をたてるから、これだけ予算が欲しい」という要望を集めて売上を予測します。

これにはどちらも課題があって、トップダウン型の場合、売上の予測に根拠がないんです。さらに、10%成長させるといえども、どう成長させるのかという戦略や計画がワンセットになっていないことが多い。10%成長ありきの売上予算になるので、「なんとか達成しなさい」と、いきなり事業部にブレイクダウンされてしまうため、全社的に整合性がある戦略になりにくいんです。

一方でボトムアップ型の場合、事業部毎の思いや考えが入ってくるので、どちらにせよ予算を編成する段階では全社的な戦略や計画とリンクしなくなってしまいます。そうすると、この売上を達成するためにはこんな活動をする、その活動をするためにはこんな人材が必要で、マーケティング予算はこれだけ必要、という具合に最終的なコストであるP/Lの「L」の部分が積み上がってこないんです。

では何故P/Lの「P」が計画できないのかというと、このどちらの型にも「P」を分解する機能がないからなんです。Profitを分解できない理由をBtoCの世界で考えると、BtoCの売上は顧客から成り立っているので、対顧客の活動、いわゆるマーケティング活動がそのProfitの根拠である必要があるんです。

そうすると、マーケティング活動が結果的にProfitの活動になり、それとコストが紐付くことでP/Lが構成されなければいけない、つまりProfitのKPIと戦略がワンセットになっていないといけないんですね。これを予算編成の初期段階でできる人がほとんどいないのが現状なんです。

そこで私はこのProfitを“顧客”の観点でKPI分解して、それをもとに予算を編成しました。カスタマーエクイティマネジメントという概念があるんですが、この概念に基づいて顧客を“資産”と見なしてProfitをKPI分解することで、約7〜8割くらいの精度で来期の売上を予測することができます。

すると、予測した売上と目指したい売上との間にギャップが生まれるので、このギャップを埋めるためにするべきことを顧客の視点で考えます。もう少し詳しく言うと、新規顧客を何%増やすのか、既存顧客のリピート率を何%あげるのか、顧客一人当たりのLTVをどれだけ伸ばすのか、というような顧客指標で分解して計画を立て直します。

そして、その活動に必要なコストがわかるので、予算が編成できるということです。この方法で予算を編成すれば、月次で見るとよりKPIが分解された形でモニタリングができるようになります。これがマーケティングと経営の融合で、私がソフマップやGDO時代にやろうとしていたことです。よく経営とマーケティングは非常に近いと言われますが、この2つを結びつけるキーワードは、“顧客視点でKPI分解をすること”だと思います。

GDOではどのようなことに取り組んでいたんですか?

一番上手くいったのは、ジャンルやカテゴリーという機能的な分類から、コト的な分類に変えたということですかね。これまでゴルフ用品を売る際は“クラブ”とか“ボール”のような切り口で、予約する際は“場所”とか“値段”、“プレースタイル”というような切り口で分類するのが当たり前でした。

そのような切り口ではなく、“ジャンルナビゲーション”という考え方のもと、「秋」や「旅行」、「温泉」というキーワードでの切り口や、「初心者ゴルフナビ」、「レディースゴルフナビ」など、従来の機能的なジャンルではなく、コト的な特集ページを作るんです。そしてこの特集ページが読み物でありながら同時に商品の陳列棚になっているんです。

この発想は店頭から来ていて、夏は海遊びのコーナーに、日焼け止めや浮き輪などいろんなジャンルの商品が並んでいますが、あれって機能的な分類ではないですよね。

このように、いわゆるコト的な特集の売り場を作ることはECでは当時あまりなかったんです。なので、このようなページを量産することで、通常とは違う切り口での集客を狙うことをしていました。ソフマップでも同じようなことをしていたので、過去の経験が非常に活きていると思います。

弊社が提供している マーケティングツール『b→dash』 は、マーケティングプロセス上に 存在する全てのビジネスデータを、ノーコードで、一元的に取得・統合・活用・分析することが可能なSaaS型データマーケティングプラットフォームであり、BtoC業界を中心に、様々な業種・業態のお客様にご導入頂いております。

Editor Profile

  • 福井 和典

    株式会社データX マーケティング管掌執行役員

    日本IBMにてシステムエンジニア、GREEにてCRM領域のオペレーション企画、PwCでの業務コンサルタントとしての経験を経て、2016年よりデータXに入社。データX入社後は、カスタマーサクセス部門に在籍し、小売/金融/アパレル/ECなど幅広い業種に対するb→dash導入支援を統括。
    その後は、主にb→dashのマーケティング/広報/PR活動や事業企画に従事。

Speaker Profile

  • 中澤 伸也

    IDOM

    デジタルマーケティングセクション セクションリーダー

    家電量販店ソフマップに入社後、現場経験を積んだ後に2000年にECリニューアルプロジェクトに参画、「日経EC大賞グランプリ」を獲得。2006年にゴルフダイジェスト・オンラインに入社、マーケティング部責任者として全体を統括。2013年にエクスぺリアンジャパンに入社しCMOの経験を経て、現在IDOM(旧:ガリバーインターナショナル)にてマーケティングチームを率いる。

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