BEAMS商業施設のトータルプロデュースを武器に全国に店舗展開しているパルコ。近年はオムニチャネルを推進し「24時間パルコ」という思想のもと、いつでもどこでもショッピング体験ができる環境構築を目指してきた。これまでのマーケティングの変遷や、これからパルコが目指す未来について、グループICT戦略室の野中健次さんにお話を伺った。

まずは、簡単に野中さんの今までのご経歴についてお聞かせください。

新卒でパルコに入社してからは、店舗での経理や営業、新規店舗立ち上げや宣伝領域を担当していました。その後、同じグループ会社の大丸松坂屋百貨店に2年間在籍し、ちょうど百貨店全体がオムニチャネル機運が高まっていたタイミングだったので、クリック&コレクト(ファッション通販サイト)の立ち上げや、ECとリアル店舗を連動する体制作りに携わっていました。デジタル領域に関わり始めたのは、ちょうどそのタイミングですね。

その後はパルコに戻り、Web/マーケティング部でアプリとハウスカードの連動推進や、パルコ各店舗の対象ショップの店頭商品をWeb上で取り置き予約や購入ができるサービス「カエルパルコ」などを担当し、昨年、本部署の責任者になりました。今年の春には組織改編があり、Web/マーケティング部のシステムメンバーが、情報システム部門であるIT推進室と合体して、グループ全体のシステムを統括するグループICT戦略室が生まれ、現職に至るという感じです。

なので、私はテクノロジー・技術出身ではなく、デベロッパーとして経理や営業などの店舗業務は一通り経験してきているので、デベロッパーがどういう業態でどのように収益を上げているかは理解しているつもりです。その背景を理解したうえで、それにデジタルをどう生かしていくかという部分でこれから貢献できればと思っています。

店舗での業務経験は現在の仕事に活かせているのでしょうか?

とても活きています。パルコの収益の源泉はテナント様からのテナント料がメインです。直にテナントさんと接触した経験や、店舗のスタッフさんとコミュニケーションを取ってきた経験から、彼らがどんなことを考えているのか、何を求めているのかは想定できます。そのインサイトを理解しているかどうかは、デジタル施策を実施するうえで大きな判断材料になります。経理にも5年ほど在籍して、経理の仕組みも比較的把握しているので、その辺りも今の業務にかなり活きていますね。

また、デジタルやマーケティングに携わる方は、スキルアップするために転職するケースが比較的多いと思うんですが、グループICT戦略室の担当執行役員も、私と同じくプロパーで入社し、店舗事業や経営企画、ECモールの立ち上げ等様々な経験をして現職に至っています。一部の特殊な業務を除いて、パルコの社員は比較的プロパーかつ店舗経験がある人間が多いです。デベロッパーの全体的なスキルを底上げしていくという考え方が強いですね。

マーケティング担当者とシステム担当者の衝突はよく聞く話だと思いますが、パルコでは社員が様々な経験をしているので衝突は起きづらいのでしょうか?

もちろん専門的にシステム領域に従事している社員もいます。基幹システムを担当している人には割りと専門家も多いですが、マーケティング領域を担当している人間は基本的には店舗を経験してから、この業務に携わるケースは多いですね。「パルコは店舗でどうやってどこから収益をあげているのか」が身に染みている人が比較的多いです。

その考えが浸透しているのは強みですね。社内で何か推進していく時も、共通認識を持ちやすくなる気がします。何か社内での共通言語や行動指針のようなものはあるのでしょうか。

全社員に共通していることは、テナントさんを発展・成長させることが我々の仕事だと捉えていることです。我々はデベロッパーなので、基本的に第一顧客はテナントさんです。社内では「テナントさんとパルコは『イコールパートナー』」という表現を使います。「どちらが上でも下でもなくて、双方が発展していく、デベロップしていくために業務をしている」という考え方です。

パルコのマーケティングの歴史についてお話をお伺いできればと思います。野中さんご自身も宣伝のご経験があると先ほどおっしゃっていましたが。

私が担当していたのは10年前から7年前までの3年間ですね。宣伝の場合、既存顧客のエンゲージメントを高めるというよりは、いかに新規顧客を取ってくるかがメインの領域になります。ファッションビルとして、いかにお客様を集客するか、いかに商品を買ってもらうか、という中での「お客様を集客する」部分がミッションです。例えば、イベントを開催したり、企画を立てて告知をしたりという部分ですね。

ロバート秋山さんの「クリエイターズ・ファイル」の展覧会のような?

そうですね。新規獲得となると大きく宣伝と販促に分かれるんですが、宣伝というのは、グランバザールのような企画や企業イメージを表現(ビジュアル)に落とし込み、CMや交通広告で広げていくような部分です。
一方で販促は、コンテンツを作って、そこに人が来るようなシチュエーションをつくる部分です。それこそクリエイターズ・ファイルの展覧会や、グランバザールや、パーティーセール等の中身の部分です。期間はどうするのか、どのタイミングで実施するのか、どんな企画にするのか、といったようなコンテンツの詳細を決めるのが販促です。私はどちらかというと後者の販促領域を担当していました。

私が入社する前までのマーケティングは、いかにパルコを表現しそれを伝えていくか、という考え方がメインでした。パルコの宣伝戦略や、イメージ戦略と呼ばれるものは、最先端かつ尖った表現を作ってパルコのイメージを作り上げ、それを消費者に投げかけることで来店を促し、その集客に対してテナントさんが販売するというのが、正攻法となっていました。

パルコはマーケティングリサーチに力を入れていまして、ACROSS(アクロス)というマーケティング誌を発刊しています。今もWeb ACROSSという形でWeb上で公開していますが、各時代での消費者の実態や、最先端の商業施設の取材記事を公開したりしています。その時々の時代を知ろうという姿勢も、パルコのマーケティングの一環だと思います。

またパルコは商業デベロッパーではありますがエンタテインメント事業部があるので、演劇(劇場の運営)とそのコンテンツプロデュース等もやっています。
他にも、音楽や書籍なんかもありますね。商業施設の場合、このようなコンテンツは外部組織に場所だけ貸しているパターンが多いんですが、パルコの場合、出版に関しても劇場に関しても、コンテンツから自分達でプロデュースしているのが特徴です。パルコ出版で編集している人間もいれば、演劇のキャスティング部分から組み立てるプロデューサーも何人かいます。パルコがそれを一事業として取り組んでいるのは、他社にはない要素だと思います。コンテンツにおいてもデジタルをうまく掛け合わせることで新しいパルコのイメージを作っていきたいと思っています。

何かデジタルシフトの転換点はあったのでしょうか?

明確なタイミングを定義するのは難しいですが、2013年くらいに、若いメンバー中心のプロジェクトチームが結成され、ショップの情報をお客様に伝える「ショップブログ」からスタートしました。その後「カエルパルコ」を14年に作って、14年の秋にはまず福岡新館オープンのタイミングでアプリ「POCKET PARCO」を立ちあげて、15春に全店リリースしたといった流れです。それらは、いつでもどこでもお客様とテナントさんがコミュニケーションをとれるような仕組みを作りましょう、という「24時間パルコ」の考え方にのっとって進行しています。

その当時は、アプリの導入やショップブログのような取り組みをしている同業他社は多かったんですか?

メーカーを中心にすでに取り組んでいる会社もありましたが、ショッピングセンターのような事業形態ではあまり多くなかったように思います。
当時、パルコが発信していた情報は、全店企画の情報が多く、テナントさんの個別の商品やサービスの情報はほとんどありませんでした。しかし今では、SNSやスマホの普及により、商業施設全体のイメージで判断する消費者は少なくなりました。そこで、テナントさんそれぞれの情報を伝えるべきだと思い、ショップブログの基盤をまず作りました。従来のn対nのアプローチから、テナントさんそれぞれの情報を、ひとりひとりのユーザーにカスタマイズすることで、最適化されたマッチングを実現させていった形です。

 

カエルパルコが生まれたのも、同じようなきっかけなのでしょうか?

ちょうど世の中でオムニチャネルがトレンド化してきた時に、「デベロッパーとして自分たちは在庫を持っておらず、直接販売もしていない状況で、お客様の購買体験における利便性を高めるにはどうしたら良いか」という議論になりました。

私の上司はスタッフによくこんな話をします。
「ある女性向けの鞄屋があって、来店した旅行客が接客を受けました。その時の接客がとても良かったらしく、旅行客はその販売員のファンになりました。その時商品は買わなかったものの、旅行から帰るとやっぱり商品が欲しくなったんですが、家から店はとても遠い。でもあの販売員から買いたいという思いが強かったので、電話で注文をし、現金書留でお金を送って、その店舗・販売員から商品を購入した」というものです。

この話を聞くと、やはりすぐれた接客は購買の大きなきっかけとなる事が分かりますが、そういった購買意欲のある遠方のお客様のニーズに答え、利便性を高める方法としては、みなさんまずECを思い浮かべると思います。ですが多くのテナントさんは、店舗事業とは別にEC事業部が存在して、店舗は店舗、ECはECといった形で分断されてしまっていて、店舗の売上は店舗の在庫を売って初めて成績になることがほとんどです。

「うちはECサイトがあるのでそっちで買ってください」と伝えたとしても、店舗・販売員から買いたいというお客様のニーズは満たせないですし、ECで購入してしまったらECの成績になってしまいます。やっぱり店舗としては自分達の売上になって、成績が上がった方がいいに決まっています。

その点、パルコは商業施設ということもあり、リアル店舗が基点となっているので、店舗の販売員の成績が上がる方が目指すべきゴールに近い。このような背景のもと、店舗に売上をつけることができるようにしたのが「カエルパルコ」です。カエルパルコ経由の注文が入ったら、お店から発送してレジ打ちをするというスタイルです。

お客様視点では、より購買体験における利便性を高めるために、「ブログからが商品が買える」というのが売りです。ページの右上に「通販OK」と書いてある商品は、カエルパルコに飛んで購入ができます。通常のECのようにクレジット決済で購入することもできますし、店舗でお取り置きをしておいて、店舗に行って試着してから購入することも可能です。

「店舗起点」というのがパルコにとって一番大きな軸だと感じます。店舗とECの食い合いに悩むブランドも多いと思いますが、カエルパルコであればこの問題も解消できそうですね。

そうですね。何度も言いますが、パルコはデベロッパーなので、出店していただいているテナントさんの店舗売上を上げることが第一のミッションです。一方で、消費者の利便性の向上も考えていかないといけません。パルコにとっての顧客、つまりテナントさんと消費者両方の顧客視点で利便性を考えていくのが我々のオムニチャネルなので、そこはとても大切にしています。

弊社が提供している マーケティングツール『b→dash』 は、マーケティングプロセス上に 存在する全てのビジネスデータを、ノーコードで、一元的に取得・統合・活用・分析することが可能なSaaS型データマーケティングプラットフォームであり、BtoC業界を中心に、様々な業種・業態のお客様にご導入頂いております。

Editor Profile

  • 福井 和典

    株式会社データX マーケティング管掌執行役員

    日本IBMにてシステムエンジニア、GREEにてCRM領域のオペレーション企画、PwCでの業務コンサルタントとしての経験を経て、2016年よりデータXに入社。データX入社後は、カスタマーサクセス部門に在籍し、小売/金融/アパレル/ECなど幅広い業種に対するb→dash導入支援を統括。
    その後は、主にb→dashのマーケティング/広報/PR活動や事業企画に従事。

Speaker Profile

  • 野中 健次

    パルコ

    グループICT戦略室 業務部長

    パルコ入社後、本部や全国の店舗でテナントリーシング、宣伝販促、経理業務等に携わった後、2013年にグループである百貨店に出向し、顧客、販促業務に加え、オムニチャネル構築等に従事。2015年度パルコに戻り、WEB/マーケティング部に着任。店舗のICT活用や、ハウスカードとスマホアプリを連携した個客マーケティング推進を担当。2017年度より、マーケティング関連のシステム開発担当が、情報システム部門と統合し現職。

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