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2017.07.05

「データマーケター」×「個客マーケティング」の時代
数々の大企業を支援してきたデータマーケター内野氏が語る、
データマーケティングを実現する前に知っておくべき
3つのポイントとは

 テクノロジーの発展により、あらゆるものがデジタル化・データ化されるようになった2017年。AI、IoTが実装される第四次産業革命に向けて、データの重要性がますます高まっている。社会的にもデータの利活用がトレンドになっている今、もはやデータを活用できない企業は生き残っていけないだろう。そんなデータ時代においてマーケターが持っておくべき考え方やデータマーケティングの未来について、数々の企業を支援してきたデータマーケター、内野明彦氏に話を聞いた。

――まずは簡単に、内野さんのこれまでのご経歴を教えてください。

 東京工業大学を卒業後、ISID、電通、ネットイヤーグループ、ネットエイジなどで、数多くのIT/マーケティングプロジェクトに関わりました。その後、ウォルト・ディズニー・ジャパンにてEコマース事業の立ち上げに関わり、外資系テックベンダーの日本支社の役員、アクセス解析ツールベンダーの創業を経て、2015年からは個人で活動を開始し、データ活用から具体的なマーケティング改善を支援する「データマーケター」として多くの企業に対して戦略・分析・実行支援をしています。
 最近ではゴルフダイジェスト・オンライン(GDO)さんやベネッセさん、アクサダイレクト生命保険さんなどの事業会社への直接的なデータマーケティング支援や、富士通さん、ディレクタスさん、などのテック/コンサルベンダーへのアドバイザーとしての参画など、いくつかのプロジェクトに並行して関わっています。これまでの多くの新規事業の立ち上げ経験や自身の二回の創業と失敗(笑)経験なども交えて、『新しいマーケティングのやり方や仕組みを、データを活用して試行錯誤しながら形にして成果を出していく』という領域・スタイルを専門にしています。

 また、最近は「カスタマージャーニー型PDCA」の重要性を提唱していまして、より時系列で生活者の行動を把握して、長期的な視点で顧客との関係性構築とライフタイムバリュー(LTV)を高める、という視点での支援を行っています。
 対象となるテーマとしてはBtoCであれば、プライベートDMP領域、CRM領域、広告予算最適化(アトリビューション)など。BtoBであれば、営業リードのスコアリングなど、データマーケティングに関する領域は幅広くご支援させていただいています。対象となるデータも「広告系」データ、「WEBサイト系」データ、「オフライン」データと幅広く、数千万~数百億件規模のカスタマージャーニー型データを活用して、データの前処理、分析、可視化を自分自身で行いつつ、クライアントさんとの対話をしながら、実際の施策設計やPDCAを一緒に回しながら、マーケティング課題の解決を行っています。

 もちろん、注目されているマーケティングオートメーション(MA)領域に関しては、今一番旬なテーマでして、MA導入の費用対効果の見極め、MA導入段階でのシナリオの策定、MA運用中のテコ入れ等々、複数のプロジェクトを進めているところです。

――内野さんはこれまで様々な企業のデータマーケティングを支援してきていると思いますが、各企業の取り組み状況など、市場はどのように変化しているのでしょうか?

 プライベートDMPやマーケティングオートメーション(MA)などの個客ベースのマーケティング手法が具体活用段階に移っている中、カスタマージャーニー分析(カスタマージャーニー視点での顧客の行動分析)をしたいという要望を持った方がとても増えてきています。実際に話を聞いてみると、ユーザーの行動を理解しないままツールやソリューションを導入したケースや、導入したものの効果を生み出せる施策化や運用が続かないといったケースが非常に多いようです。実際に導入数年後に違うツールに切り替えているようなケースも増えてきています。市場としては、成功・失敗含めてちょうど一巡目が終わってきている状況かなと感じています。

――これから個客マーケティングツールの導入を検討している企業はどんな点に注意するべきなのでしょうか?

 これからはじめて導入を検討している会社さんには、大きく3つの話をしています。

まず1つ目は、ツール等を導入する前に、ユーザー行動を時間軸に沿って、獲得、成長、離脱、そして顧客の収益性という観点を踏まえてある程度正確に捉えておくべきだということをお伝えしています。それをしっかりやれば、そのようなマーケティングツールが本当に必要なのかどうか、どれくらいの機能が必要なのかがある程度わかってきますので。
 また、このような、いわゆるカスタマージャーニー分析を私のような専門家がやるべきだという意見もありますが、本音を言うと自社のマーケターご自身がやるべきだと思います。自分でデータを集めて、組み合わせて、可視化して、悩んで、個客の姿をきちんと捉えるということがあるべき姿ではないでしょうか。最近AIや機械学習のような高度な分析が流行っていますが、私はいま時点ではほとんどのプロジェクトでEXCELのクロス集計(PowerPivot)のみを用いて分析をしています。
 もちろんケースバイケースでスコアリングをする際に統計やアルゴリズムを使うようなことはありますが、マーケティングの予測や、的確にセグメントを切るといった観点では、7~8割くらいの精度はクロス集計で実現できると思っています。
 つまり、極端な言い方ですが、EXCELだけで8割の精度を出せるということは、そこまでお金をかけなくてもユーザー行動把握のための分析はできるということなんです。もちろんこのやり方が一番良いかどうかはケースバイケースですが、ちょっとした工夫と気持ち次第でマーケター自身が自社の個客の分析をすることができるんですよ、ということをいつもお話しています。

 2つ目は、『テストPDCA』の重要性です。これはツールがなくてもできることで、例えばあるセグメントを切り出して、そこにあるクリエイティブでメールを配信し、その後定着したかどうかを検証してみる、というようなことです。そのテストPDCAをツールに頼らず「力ずく」でやってみて、上手くいった・いかなかったという経験があれば、何が大変なのか、どういうツールが必要なのか、どういう機能があると必要なデータの確保が可能なのか、などが非常にクリアになります。そこまでやった上で、予算感や、ツールの要件、運用体制などを明確にしたRFPを用意すれば、自社にとってもベンダーにとっても不幸が起きないと思っています。

――それは大企業でも中小企業でも大きく変わらないのでしょうか?

 大企業の場合、お金も体力もあるからテストPDCAをせずに、最初から大型のツールを導入すればいいかというとそうは思いません。逆に大企業の方がテストPDCAをやった方がいいのではないかと思っています。大企業がMAを導入すると大がかりになる場合が多いですし、大企業の特性上、しっかり要件定義をする場合が多いので、ツール単体だけではなく、導入時のインテグレーションに相当なコストがかかることが多く、万が一導入したツールが使えない、となってしまった場合のリスクが大きくなってしまうのです。

 最後の3つ目は、『トータルコスト』を意識することです。
 MAツールの導入と運用には大きく、ツール自体のコスト、導入時のインテグレーションコスト、運用コスト、という3つのコスト要素が含まれてくると思いますが、これらをトータルで考慮した上で、その費用対効果を見極める必要があると思っています。MAツールを導入して、あるユーザーセグメントのLTVが上がったとしても、運用コストやツールのコストの合計が、MA導入による増分売上より低くならないと本質的には意味がないわけですよね。やればやるほど損がでてしまうので。
 もちろん予算がこれだけあるのでこのツールを導入します、という判断でもいいとは思うんですが、後々困ってしまうケースが多いのではないでしょうか。よく聞く話が、MAを導入してみると例えばシナリオの追加設計や、そのためのデータの準備のための開発、それによって追加されたメールのクリエイティブ制作に関して当初予定していた社内リソースでは対応しきれなくなってしまうというケースです。結局、ツールはあるけど運用ができないから外注費で処理するしかなくなり、導入当初のコスト構造の目論見と変わってしまうという話をよく聞きます。導入して終わりではなく、ある程度は運用することまで意識した上で進めていかないと必ず痛い目にあうと思います。

 補足的にもう一つの視点があるとすると、あくまでツールはツールなので、自分がやりたいことの一部分を実現するものだという割り切りを持つことが重要ではないかと感じています。特にIT業界ではよく日本と海外でのツール導入に対する価値観の違いの話になるんですが、日本企業の場合、ツールと自分がやりたいことを完全に同一視してしまう、つまり自分がやりたいことを実現するためにツールをカスタマイズすることがとても多いんです。
 一方で海外企業の場合、所詮ツールはツールという認識があり、いつツールの仕様が変わるのかもわからないし、経営者が変われば方針も変わるかもしれないという前提があるので、カスタマイズをせずにツールが対応出来る部分だけに留めるわけです。

――では日本においても、あまりカスタマイズはせずに、ツールが対応できる部分に留めておいたほうがいいのでしょうか。

 どちらが良い悪いではなく、日本はしっかりとカスタマイズするので、初期費用はかかりますが、やりたいことが実現できます。ただ、ツールが進化した時に齟齬が生じる場合もあるわけですよね。それがリスクになってしまう可能性もあります。海外の場合、やりたいこと全部は実現出来ないこともありますが、ツールに合わせているので、ツールが進化した時にはそのまま進化できるというメリットもあります。

 これは私の一意見ですが、今の時代は環境もツールも進化が早いので、変なカスタマイズをせずにツールに合わせる方が賢明だと思っています。つまり割り切りですね。そうなってくると、当然初期のインテグレーションコストも下がってくるので、トータルコストを下げることが可能になります。ただ、これは導入を検討しているツールの現段階の機能だけでなく、そのツールベンダーの成長性や将来性まで見据えた上で検討する必要があるということですね。

<後編に続く>
「データマーケター」×「個客マーケティング」の時代
カスタマージャーニー分析から見る、これからの時代に求められる”データマーケター”の条件とは

Text by Yuuki Miyagawa


【プロフィール】
内野 明彦
データマーケター
東京工業大学卒業後、ISID、電通、ネットイヤーグループ、ネットエイジなどで、数多くのIT/マーケティングプロジェクトに関わる。ウォルト・ディズニー・ジャパンにてEコマースの立ち上げに関わり、2006年よりオーリック・システムズの取締役としてアクセス解析の新規事業構築を担う。2009年にコンフォート・マーケティングを創業。2015年から個人で活動を開始し、データ活用からマーケティング改善を支援する「データマーケター」として多くの企業に対して戦略・分析・実行支援をおこなう。


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