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2020.06.03

【MiXER Report】熱狂を生み出せ “爆発的ヒットのつくり方” ~“仕掛け人”達に聞く、国民的アーティストたちのブレイクの裏側~

いつの時代にも、人々の記憶を彩り、熱狂を生み出してきた音楽。
人々の注目は、作品の質、アーティストの才能にばかり集まりますが、その裏側には、想像もしないほどの“緻密なマーケティング戦略”があります。
当セッションでは、株式会社ピースオブケイクの徳力 基彦氏をモデレーターに、そして宇多田ヒカルなどを手掛け国民的アーティストをブレイクさせた“仕掛け人”ソニーミュージックの梶 望氏をお招きし、「熱狂を生み出す“爆発的ヒットのつくり方”」に迫った。

梶氏は、デビュー前から宇多田ヒカルのマーケティング担当をしており、2017年に宇多田ヒカルのレーベル移籍に伴いソニー・ミュージックレーベルズに移転した。他にもAI、今井美樹、MIYAVI、GLIM SPANKYなどの宣伝をプロデュースし、現在は、宇多田ヒカル、いきものがかり他の宣伝A&R業務の他、新規事業も兼務している。

音楽業界の変化について

 はじめに、音楽業界における変化について、梶氏に語っていただいた。

 音楽業界は、サブスクリプションマーケットに変化しつつある。
 これまでは、会員制(ファンクラブ)や定期購入(新聞)といった、いわば「サブスク1.0」と言われるマーケットであったが、現在は、いわゆる「し放題」、パーソナライズやシェアリングといった「サブスク2.0」のマーケットが、特に音楽業界では顕著に進んでいる。
 そうなってくると、消費者は能動的に探さなくなる=受動的になる。AIやプラットフォーム側が探してその人に適切なコンテンツを自動的に提供するようなサービスが生き残ってくるため、パーソナライズできるかどうかで生き残り競争が激しくなる時代である。
 なお、このサブスク化の流れは、音楽業界におけるCDの在庫リスクを低減するというメリットも実際にはある。

 従来の音楽業界のマーケティングは「買わせるマーケティング」が主流であったが、サブスクマーケットになると「聴かせるマーケティング」へと180度変化していく。
 「買わせるマーケティング」では、音楽が聴かれようが聴かれまいが、特典をつけるなどして買ってもらえればOKだった為、発売日をピークに購買意欲を駆り立てるようなメディアプランを立て、発売日に刈り取るような「狩猟型」だった。

  一方で「聴かせるマーケティング」では、音楽が配信されてから5年〜10年かけて1億回、2億回聴かれていくことを目指すような、種を巻いて長期的にゆっくり育てていく「農耕型」のビジネスに変化した。「聴かせるマーケティング」では、「どれだけ長く愛されるか」が重要だ。

ファンベースを制したものが、サブスクリプションマーケットを制する

 2019年1月、宇多田ヒカルの「Face my Fears」が、全米のビルボード音楽チャートで、日本人として9人目となるトップ100に入った。これは、日本人アーティストとしてはピコ太郎以来の快挙だ。

 では、なぜ「Face my Fears」は世界的なヒットにつながったのか。それは、アーティストとタイアップしているゲーム双方のコアファンをしっかり掴み、“ファンベースマーケティング”に成功したからだ。
 ファンベースマーケティングとは、「コアファンをベースにして、中長期的に売上や価値を上げていく」という考え方だ。

 欧米をはじめとするサブスクビジネスが主要となっている海外では、ファンベースマーケティングがほとんどを占めており、「お気に入り登録」して、ライブラリから何度も再生されている。一方、日本のSpotifyやApple Musicでは「展開」や「プレイリスト」を中心に音楽が聴かれている。

 しかし、昨今、日本でも、King Gnuやあいみょん、official髭男dismなどの大ヒットアーティストが多数生まれているが、それらも実はファンベースマーケティングがしっかりとなされているのだ。2割のコアファンは何度もリピート再生し、8割の消費をしている。このようなコアファンをある程度の期間をかけて生成した後、TVなどをトリガーにして、コアファンからキャズムを超えて世の中ごとになる。サブスクリプションの面白いところは、ヒットすれば過去のカタログも活性化していくということである。なぜなら、新たなコアファンが生まれるからである。
 徳力氏は、「これは、音楽に限らず他の業界でも同じですよね。シェアリングサービスやサブスクリプションの波が押し寄せた時、重要になってくるのが“ファンベース”を軸にしたアプローチだと考えています。」とコメントした。

 また、宇多田ヒカルがヒットを飛ばし続けている裏側には、もう一つ重要なポイントがあった。

 「今まで、“宇多田ヒカル”を売ろうとしたことは一度もありません。“宇多田ヒカルの音楽”を売ってきました。彼女の作る音楽は素晴らしく、クオリティが高い。だから、6年間休んだ後でもミリオンヒットが出せるのです。彼女の作った“音楽”が長く愛されているからこそ、同じもしくはそれ以上のクオリティを担保した音楽が出る限り、同じように愛される。」(梶氏)

プロモーションの主語を“宇多田ヒカル”ではなく、“宇多田ヒカルの音楽”と定義してきたからこそ、長く愛され続けているのだ。

 「サブスクリプションモデルになったことで、作品を主語にしているアーティストにとっては、いい作品がストレートに評価されるから、ある意味サブスクモデルは音楽にとって健全なマーケットなのではないでしょうか?」(梶氏)

施策を実施する際に重視している指標や効果測定でのこだわり

 レコード会社各社では、どの地域で誰がなんの曲をどのくらい聴かれているのかという数値をデイリーで見ている。この定量的な調査と、その数字の中にどのような人がいるのかといった定性的な調査を、絶えず定点観測してマーケティング戦略を立てているという。

 「これはYouTubeの功績が大きいと思いますが、今の世界の若い世代は、国とか言葉とか関係ないです。ピコ太郎もジャスティン・ビーバーが拡散したことで大ヒットしたとも言われている。やはり、良いものは良い。面白いものは面白い。という感覚がコンテンツを世界中に広げている。
 しかし、ピコ太郎のような例を除くと、この潮流に日本だけが乗り遅れているというのが現状です。データが可視化でき、明確に日本と世界との違いが見える今の時代だからこそ、この乖離したマーケットをどう埋めるか、が今後課題だと思います。」(梶氏)

 徳力氏は「これは音楽以外の産業も同じだと思います。一般的なメーカーさんの場合、これまでは誰が何回購入してるかといったデータが全く取れていなかったので、真っ暗闇の中でマーケティングしていた状態ですよね。それがECや、ソーシャルメディアの普及などで、データが可視化できるようになったことで、お客さんの反応や動向を見ながらヒットの作り方を変えていけるのが大きいですよね。」と付け加えた。
 また、続けて徳力氏は、「私もファンベースを軸にしたアプローチを『アンバサダープログラム』とよんで取り組んできましたが、効果測定に悩む企業が多い印象です。マスマーケの場合と異なり、見るデータのポイントが変わってくるのではないでしょうか?」と質問した。

 「単純にフリークエンシーだけじゃなくて、どう聴かれてるか、何を経由して聴かれてるか、というところまで見てます。ただ、やっぱりライブでお客さんの顔を見るのがわかりやすいですね。リアルの肌感がないとデジタルが生きないと思います。アナログな手法ですが、実際にお客さんの顔を見て「マジ好き!!」って思ってくれている人のイメージを何人作れるかが重要です。また、作り手側も本当に良いと思うものを作ってるのかが重要です。野次馬の法則というものがありますが、面白い人がいるところに面白い人が集まってくるし、アーティストはもちろんのこと、スタッフも本気で良い、本気で楽しいと思っていないと特にこれからは人は集まらないと思います。」(梶氏)

 データを細かく可視化し、デジタルとリアルを掛け合わせ、定量・定性の双方から分析、改善をしていくことで、人々を“熱狂”し、“長く愛される”大ヒット作品を生み出すことができるのである。こうして、国民的アーティストたちの爆発的ヒットの裏側が明かされたセッションが幕を閉じた。

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