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2020.04.10

【MiXER Report】“次の顧客体験の創造へ” データの力でスタジアムを満員にする~横浜DeNAベイスターズ × FC東京の“すごい”データマーケティングの裏側にせまる~

2020年の東京オリンピックに向けて盛り上がるスポーツ業界。エンターテイメント、ビジネス両面においてデータやデジタルの活用の必要性が叫ばれている。
日本プロ野球、Jリーグにおいてデジタル活用を先進的に進め、チーム成績のみならず業績も伸ばし続けている横浜DeNAベイスターズとFC東京。両社の成功の裏側には、データを元にした徹底的な顧客理解と、「また来たい」と思われるコンテンツや演出の数々がある。
MiXER2日目のセッションには、東京フットボールクラブ株式会社(FC東京) マネジメントダイレクター 兼 マーケティング統括部長の川崎渉氏、株式会社横浜DeNAベイスターズ ブランド統括本部 本部長 林 裕幸氏、モデレーターに株式会社Jリーグデジタル コミュニケーション戦略部 部長 杉本渉氏が登壇。プロスポーツ業界におけるトップランナーである2社が編み出した、データ×コンテンツによる「最強の顧客体験」を生み出す方法に迫った。

FC東京

既存客の活性化に下支えされた観客動員数

 いかに会場を満席にするか。FC東京は味の素スタジアムを本拠地として、2019年は創設以来初めて平均観客動員数3万人を超えている。

 「スポーツマーケティングにおいて観客動員数を増やした、という場合、一般的には『新規顧客獲得』に焦点があたりやすいです。しかし、今季のFC東京の場合、既存のお客様の来場が増えたことが動員数の3万人越えに大きく寄与しています。例えば、年間シートを購入してくださったお客様の来場率は、過去60%程度だったものが、様々な施策の結果、80%位にまで伸びました。この『固定顧客の獲得』は観客動員数というKPIにおいて重要なポイントです」(川崎氏)

ターゲットは「若者」。新市場開拓がこれからのテーマ

 FC東京が2019年に注力したターゲットは「既存客」だった。既存客はデータ上でいえば、“試合観戦が習慣化している30~40代の男性・家族”となる。

 「家族連れの方に楽しんで頂くために、スポンサーさんに協力頂いて、スタジアムの横に『青赤パーク』というテーマパークを開設しました。試合の前後や、試合中でも、お子さんが遊べるエリアです。この取り組みの効果はまだ定量的には未知数ですが、青赤パークを経験しているかしてないかで再訪率の差があるのか、そういったことを計測していきたいです」(川崎氏)

今後は新規顧客獲得をより注力していく。その中でFC東京が捉えるターゲットペルソナは、“休日を仲間と思い切り楽しみたい10~20代の若者”だ。

 「FC東京に限らず、Jリーグ全体の課題として、10~20代のファンが少ないことが挙げられます。それは、1993年のJリーグ開幕でファンになった方々が全体の中でボリュームゾーンであり、その層の年齢があがっているからです。例えば、あるクラブでは30代以上の認知率は80%に達していても、10~20代では50%に満たないということもありました。ただ、若者が多い東京にあるクラブとして、FC東京は責任をもって若者を獲得していきたいと考えてます」(川崎氏)

顧客の可視化が既存顧客活性化の第一歩

 FC東京は2018年に顧客IDの取得を始めた。顧客ID数は2019年に前年比2.3倍に伸長したが、IDは新規顧客のIDよりも、既存客のID化が多かった。結果、2019年は顧客データを活用して既存客の活性化を実現している。

 「顧客ID数を伸ばすために、チケット購入場所を変えました。これまでは色々なチャネルで購入できるようにしていました。しかし、クラブが管理しているサイトでの購入促進を強めました。結果、全体のチケット販売量における直営サイトでの購入が占める割合は20%から60%にまでアップしました」(川崎氏)

横浜DeNAベイスターズ

脅威のスタジアム座席稼働率98%

 横浜DeNAベイスターズは、2019年の横浜スタジアムの年間観客動員数は史上最多の228万人を記録した。DeNAが経営権を取得した2012年シーズン以降の8年間で、シーズン当たりで総動員数は倍になった。更に、2016年には93%だったスタジアムの平均座席稼働率は、2019年には98%を越えている。 

 稼働率98%となればもう観客動員数を増やす余地は少なくなる。横浜スタジアムは横浜公園内にあるため、都市公園法における建ぺい率の規定で、更なる増改築は難しかった。しかし、公園としての機能向上と利用者の利便性向上、更に東京2020オリンピックの野球・ソフトボールのメイン会場に選ばれたことで状況に変化が現れる。市議会が条例をスピード改正し、増席増築・改修工事が決定。2019年には工事の第一段階が終了し、観客動員数増が実現された。

 2020年には約5,000人増員され、2021年に年間観客動員数240万人を目標としている。

 試合の中には、天気や曜日、時期、対戦カードなどによって『満員にしにくい試合』も存在する。ベイスターズは、過去のデータをもとに、あらかじめ観客動員数の減少が見込まれる試合には、大きなイベントを開催したり、価格の調整などを行うことで、2019年には平均座席稼働率98%という結果を生み出している。

 「休日はほぼ100%、平日でも常に高い座席稼働率を維持できていることが、結果的に『あまり人気のない試合』でも観客を動員できることにつながっています。今できていないことでいえば、今後はダイナミックプライシング等で需要の平準化にも挑戦したいと考えています」(林氏)

 『将来』への種まきも怠らない。幼稚園生や小学生など、子供が野球に触れる機会を定期的に作り、サッカーやバスケなど様々なスポーツがある中で、野球を身近で楽しいスポーツとして体験してもらうことを続けている。

平日ナイターの観客席を埋める『アクティブサラリーマン』

  横浜DeNAベイスターズは、仕事終わりに飲んだり、休日にはアウトドアを楽しむ20代後半〜30代のサラリーマン層を“アクティブサラリーマン”と命名し、平日のナイターを埋める重要なターゲットととらえている。

 平日のナイターであれば、『仕事終わりの一杯』も大きな収入源となる。横浜スタジアムをグループ会社化した横浜DeNAベイスターズは、飲食の収入もグループ内に入る仕組みを持つ。

 「“居酒屋感覚で使っていただく”ということは非常に大切な要素です。だからこそ、プロ野球界では先駆けてオリジナルビールを開発販売して、野球もみれるしお酒もごはんもおいしいところ、という感覚でスタジアムに足を運んで頂く、ということを考えています」(林氏)

既存客にいかに新規顧客を連れてきていただけるか

 プロ野球の特性上、野球を知った後に、チケットを初めて購入することが高いハードルとなっている。どう応援すればいいのか、どこの席をとればいいのか、といったことが“初心者”にはわかりにくい。

 「広告などを当てても、スタジアムに来たことがない人にチケットを購入頂くのは難しいことがわかってきました。だからこそ、私たちが重要視すべきは『もう来場したことがある人に、来たことがない人を連れてきてもらうこと』なのです。そこで、来場頂いている方にアンケートを取り、NPSを計測しています。“また来たいと思うか”という観点と“人に来場を勧めたいか”という項目は非常に重要な指標だと考えています。

 また、電子チケットアプリで複数枚買った場合に、別の人に渡しているか、という状況も計測し続けています。その渡した相手が新規でIDを作成しているならば、購入者は新規客をつれてきた、ということになります」(林氏)

 どんな方がチケットを購入してくれたのか、横浜DeNAベイスターズは7080%程度は見えているのだという。

リアルビジネスの中でデータで方程式をつくる

 セッション時間も残りが迫る中で、『データをリアルビジネスに活用することの難しさ』がディスカッションされた。

 アプリやWebサービスなどデジタル上で閉じるビジネスの場合、いつまでに顧客と何回接触すれば継続率が〇%に上がる、といった『方程式』を組むことができる。しかし、FC東京の川崎氏、横浜DeNAベイスターズの林氏の共通認識は、『スポーツというリアルビジネスでは方程式を組むことが非常に難しい』ということだ。変動要素が多いためだ。

 だからこそ、変動要素を少しでも減らすために多角的かつ大量のデータを収集分析すること、そしてその分析をもとにした施策に関して、マーケターの仮説構築力が必要不可欠になってくる。

  最後に、杉本氏が議論をまとめる形で締めくくった。

 「データサイエンティストやマーケターの皆さんにとって、スポーツ業界の『データ』分野は今一番ホットな領域です。今はまだ『ファン化のプロセス』は不透明で発展途上ですが、今後数年のうちに解決すると思っています。これにはデータの力がとても重要になります。そしてそれをぶん回せる力を持つ人が必要です。今は飛び込むには面白い時期です。チャンスがあれば是非飛び込んでいただきたいと思います」(杉本氏)

Text by Takuya Kuzumi

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