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2020.03.27

【MiXER Report】「SaaSマーケティング解体新書」 急成長SaaSスタートアップが実践する、 “データファースト”のすごいマーケティング

国内外で多くのSaaS起業が上場し、まさに2019年は「SaaSの年」と言っていいほど現在、SaaS業界は伸び盛りな業界である。
 そんなSaaS業界をそれぞれHR、名刺市場、企業管理情報の分野で牽引している3社「ビズリーチ」「Sansan」「ユーザベース」に登壇していただいた。
 ビズリーチのマーケティングとインサイドセールスを立ち上げ、現在はHRMOS採用事業部、インサイドセールス部を統括する茂野明彦氏。
 Sansanの戦略企画グループでマーケティング全体の戦略企画を担当する福永和洋氏。
 2011年に世界経済フォーラム主催のGlobal Shapersに選出。ユーザベース「SPEEDA」のセールスを担当後、カスタマーサクセス エキスパートを務める西川翔陽氏。
 モデレーターには、リンクアンドモチベーションの麻野氏※を招き、「国内TopSaaSカンパニー各社のマーケティング」をテーマにセッションを行った。
※2019年12月に(㈱リンクアンドモチベーションを退任

ビズリーチ

ビズリーチのマーケティング構想 ~「データファーストによる最適化」とは~

 ビズリーチサービスはtoCである求職者と、toBである求人を出している企業の両方をターゲットとしている。同社のマーケティングの基本思想は、「データファーストで最適化する」ということにある。
 そこで、その実現のため、マーケティングチームが自分たちで必要なマーケティングツールを活用しながらデータを分析し、PDCAを回せる体制を整えた。

 「想像できる『データ』は全て見ています。ビジネスフローにおけるあらゆるKPIを可視化することで、一つ一つの施策の影響範囲をかなり広く捉え、どの施策がどこにどれくらい効いているのかを細かく管理しています。」(茂野氏)

 とはいえ、データに基づいた判断やアクションのみでは、過去慣性にとらわれ、斬新な企画が生まれにくくなる恐れがあった。そこで、ビズリーチでは常に20%はこれまでにない新しい施策を組み込むというルールを作り、3ヵ月に1回、実績ベースで施策の振り返りを行っている。

ビズリーチの『成功事例』 〜データを見ながらギャップをクリエイティブに反映〜

 データが取れてくると何が分かるのか、具体的な施策を例にお話頂いた。

 昨年ビズリーチは、『転職者の3分の2は35歳以上』というメッセージをのせたクリエイティブを発表した。

 「かつて、日本の転職マーケットにおいて、『35歳転職限界説』が唱えられることがありました。しかし、ビズリーチが収集したデータでは逆のことが示されています。実際には、ビズリーチサービスを通じて転職された方の3分の2以上は35歳以上だったのです。

 このメッセージによって、これまで年齢の観点で転職に消極的になっていた方々に訴求することができ、CVRもCV数も向上しました。」(茂野氏)

 今回の企画は、『社会の認知とギャップがあるファクトをデータから見つけ、メッセージに落とし込んだ』成功事例だ。

ビズリーチのマーケティングの秘訣とは~会社全体でデータを共有すること~

 データファーストによるマーケティングを推し進めるビズリーチ。実際にデータを見る時にはどのようなポイントがあるのだろうか。茂野氏は「もっとも大切なのは、組織内で共通のデータを見ること」と語った。

 同じデータでも、少し前提条件を変えるだけでまったく内容が変わってしまうし、意味のない数字になってしまう。

 このデータの定義はこうであるときちんときめて、いろいろな部署で共通の視点でみることが大事であるという。

 「例えば、マーケティング部が取得したリード(名刺情報)数と、インサイドセールスが受け取るリード数がずれてしまうことは、一般的に起こり得ます。そのような少しの違いも、長く続けていると大きな乖離となり、成果を左右します。この修正を細かい頻度で、部門単位で行い、最終的には横でつなげていくことが必要です。」(茂野氏)

 また、データファーストの文化を創り上げるために、経営陣だけではなくメンバーにもデータを「見える化」することも重要である。幅広くデータを共有し、意見を募る方が多くの『インサイト』を得ることができるのだ。

Sansan

Sansanのマーケティング構想 ~3層に分かれたマーケティング~

 Sansanの顧客は名刺を使う全ての企業・組織だ。

 小人数の企業から数千名以上の大企業まで、幅広くビジネスターゲットとなるSansanは、ターゲットを人数規模ごと3層に分けてそれぞれに全く異なった施策を打っている。

 1つ目が、S(スモール)領域である。人数が200名未満の組織をS領域と定義している。S領域に効果的な施策は、「名刺管理の効果を直接的にイメージさせるメッセージ」が有効であるという。

 例えば、『退職者が発生したら人脈や営業ノウハウはどうやって残されていますか?』という、名刺管理をしないことのデメリットを想起させ意思決定スピードを早める広告を、主にオンラインで発信している。

 2つ目が、M(ミドル)領域である。人数規模が200~1000名の組織をM領域と定義している。M領域では、「アカウントベースドマーケティング(ABM)」を実践している。

 ABM実現のため、名刺管理業務の推進者の部署の他、営業部門、経営管理部門、情シス部門などの各部門のキーマンを可視化し、決済を取るまでに関与する、複数の部門へ効率よくアプローチできる営業プロセスを整備している。

 3つ目が、E(エンタープライズ)領域である。人数規模が1000名以上の組織をE領域と定義している。E領域の攻略には、顧客ターゲットの役職者が、サービスを認知しているかどうかが重要である。

 「最近はクローズドな形のVIPセミナーを行っています。一番最近だと、著名人の方をお呼びして、数百名規模のエンタープライズ領域の企業向けのセミナーを開催しました。」(福永氏)

 セミナーに参加された方々に対し、懇親会のタイミングで営業が普段の経営課題を聞く。

 VIPセミナーなので、経営層の悩みを聞くことができるから課題解決につながりやすい。

Sansanの『成功事例』 ~ビジネスマンの共感を呼ぶメッセージCM「早く言ってよ~」~

 「早く言ってよ〜」でおなじみのCM。俳優の松重豊さんなどを起用し、ビジネスのシーンでよく起こるトラブルを発信しているこの企画は、Sansanにおける成功事例だ。

 「CMは第7弾までいきましたが、ここまで行ってもまだキーマンに会えない。『それくらい名刺管理をしておかないと、キーマンには会えませんよ』ということを伝えたいんです。」(福永氏)

 CM放送後はリードも増える。認知調査やデジタルなトラフィックデータの反応率から反応を見ている。

Sansanのマーケティングの秘訣とは ~自社サービスを活用したマーケティング~

 Sansanは、「自分たちが自社サービスを一番活用する」というメッセージを会社全体として出している。

 「Sansanは自社の営業にも有効活用できるツールだと思っています。実際に運用しています。名刺情報に基づき人物単位で管理することで、『どの部署の誰に会ったか』の情報をきっちりと把握していくことができます。さらに、Sansan Data Hubという機能を使えば、社内で使用している他のツールで管理している顧客情報との名寄せ、クレンジングの工数が削減できます。常に最新で正確な顧客情報を構築できるのです。

 また、外部情報ソースと連携し、名刺情報に人事情報や会社の売上情報を統合し、情報をリッチ化しています。」(福永氏)

ユーザベース

ユーザベースのマーケティングとは ~お客様を巻き込んだ「プロダクトマーケティング」~

 ユーザベースは、エンタープライズ企業をメインターゲットとする。

 ユーザベースのマーケティングは、お客様の声を1つ1つ聞いてプロダクトに反映する「プロダクトマーケティング」を重要視している。

 例えば、10周年の期間企画として、実際に10年間利用していただいているお客様を中心に招き、ディスカッションしてもらった。

 「耳が痛い指摘もたくさん受けましたが、それをきちんとプロダクトに反映していくことで、お客様と一緒に成長していくサービスを作ることができます。またそれによってお客様がファンになってくれ、新たなお客様を紹介していただけます。」(西川氏)

ユーザベースの『成功事例』とは ~ニッチな範囲の「オフラインのマーケティング」~

 プロダクトマーケティングにおいては、お客様をサービスのファンにして、違う部署をどんどん紹介してもらうために、オフラインでのマーケティングがかなり重要である。

 「利用してくださっているお客様に刺さるような、ニッチなセミナーを開催したりしています。直近の例ですと、人材会社で大手のお客様を開拓するために、外部情報をどう利用するかというセミナーを開きました。」(西川氏)

 また、最先端というイメージを作るため、人工知能に関する展示会にSPEEDAを出展している。

 「人工知能がテーマに関係している展示会に来る方は、社長や役員の方から何か人工知能を利用して未来を創ることを求められている方が多いんです。

 『人工知能は難しいが、これだったら新しいことができるかもしれない』と思って弊社のサービスを利用してもらえるようになります。」(西川氏)

ユーザベースのマーケティングの秘訣とは 「いかにお客様をファンにして巻き込むか」

 ユーザベースはエンタープライズがメインターゲットであることもあり、大々的な広告を打つことより、ターゲティングチャネルに集中投下していくほうが効果が高い。

 お客様の声を拾い実際にプロダクトに反映させたことで、『一緒にプロダクトを作っていく』という認識を持ってもらうことに成功した。そしてこの協働意識が新たな顧客開拓につながるという好循環を生み出している。

 「弊社はエンタープライズ企業が主なお客様であることもあり、お客様をサービスのファンに育て、違う部署を紹介してもらう流れを求めています。そのためにはオフラインがとても大事で、顧客の声を吸い上げてプロダクトに反映することで、お客様自身がファンになり、サービスを広めてくれます。新しいお客様を紹介して頂けるのです。」(西川氏)

終わりに

 SaaS業界を代表する3社のマーケティングは、マーケティングプロセスを明確に定義し、プロセス上のKPIを細かく管理できるようにデータを活用しているという共通項がある。

 その上で、顧客セグメントを細分化し、セグメントごとに施策を実行している。また、大きな投資を伴うTVCMが目立つが、目に見えない個別の対応、手触り感のあるマーケティングも地道にしかし徹底的に実践していることに着目すべきだろう。

Text by Takuya Kuzumi

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