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2020.03.24

【MiXER Report】データサイエンティスト・オブ・ザ・イヤー夢の共演国内最高峰の“データの使い手”が事例で魅せる、データでビジネスをアップデートする方法

 データサイエンティストへの需要が高まり続ける日本社会。一方で、「データサイエンスがビジネスに果たせる役割」を具体的に説明することは難しいのではないだろうか?

 また政府も本腰を入れて始めているデータ人材の育成は更に難解なテーマである。当セッションはデータサイエンティストオブザイヤーを受賞した「国内最高のデータの知の巨人達」が、そのヒントを伝授する。

 元日本航空、現デジタルガレージ執行役員CDO渋谷直正氏。パイオニア 鎌田喬浩氏。元リクルート、現グラフCEO原田博植氏。

 モデレーターとして、データマーケター内野明彦氏をお迎えし、マーケティング、商品開発、様々な分野で活躍する3名から、事例をベースに「データの使い方」「その成果」「今後のデータサイエンティストに求められるスキルセットと市場」について解説をして頂いた。

マーケティング成果測定のデータ分析モデル「アップリフトモデル」とは?

マーケティング領域において、データサイエンスはどのように活用出来るのか

 「広告やキャンペーンの効果測定において、データ活用する例について話をしたいと思います。例えば広告を出した、出さなかった、でABテストをしたとしましょう。すると全体で見て結果にあまり差が出ない状態だと、普通の人はこれで『広告の効果はなかった』となってしまうのですが、例えばセグメントを細かくしてみるとどうなるでしょうか。例えば性別のセグメントで見ると、男性だけには効果があったが、逆に女性には広告の効果がなかった、結果として全体では差がなかったという事実が見つかる可能性があります。このように、セグメントまで見て検証せず、全体を見て効果があった/なかったの議論で終わってしまうのは、非常にもったいない、という感覚があります」(渋谷氏)

 「また、キャンペーンの効果測定についても同じようなことが言えます。『キャンペーンを当てればその人の売上が上がる』と言われていますが、果たして本当なのでしょうか。例えば、購入しそうな特定のセグメントを抽出して、それに対してキャンペーンを当て、売上が上がったとします。

 すると疑い深い上司から、『それはもともと買うつもりの人を予測してキャンペーンを当てているのだから、キャンペーンをやらなくても売上が出たのではないか。追い銭なんじゃないか』と言われたらどうしますか?」(渋谷氏)

 渋谷氏は、『キャンペーンの本当の成果』を知るために、そして多くのマーケターが考える「売上向上はそのキャンペーンをやったことの成果だと立証したい」という思いを叶えるため、データ活用のモデルを探し出した。

たどり着いた解~アップリフトモデル~

 「そこで行きついたのが、このアップリフトモデル、というものです。例えばキャンペーンを実施した場合と実施しなかった場合で効果測定するとしましょう。

 すると、図のようにセグメントは『てっぱん』『説得可能』『あまのじゃく』『無関心』に分けられるわけですね。実はキャンペーンをやった時の効果の大半は、一番左の『てっぱん』から創出されています。しかし、この層はキャンペーンをやってもやらなくても行動は変わらないわけです。本当に見つけたいのはその隣の『説得可能』領域です。これをどのようにして引き上げるのか、を考えるのが重要になります」(渋谷氏)

 渋谷氏は『アップリフトモデル』を活用し、JALの搭乗促進キャンペーンを徹底分析した。

「私が分析を実行した結果、何もキャンペーンをしない場合、15%くらいの人が搭乗します。そしてキャンペーンを全体に対して行うと、大体25%くらいの人が乗る。しかし全体に対してキャンペーンを実行すると無駄も出てしまい、それよりもセグメントを切って説得可能な8割程度のユーザーにだけキャンペーンを実行すると、35%くらいまで効果をあげられることがわかりました。

 「さらにアウトプットを決定木分析のようなツリー形式で見せるような工夫もしました。全体にキャンペーンを当てた時の効果は20%くらいの事例の時、50%程度の反応効果が得られる特定のセグメントが見つかったりします。これが説得可能性セグメントです。そして、あまり効果のないセグメントにも見つかるので、そこにはコストを投下しても仕方ない、となるわけです。どういうセグメントに効果があるのか・ないのかが、条件分岐とともに一目瞭然で分かるので、マーケターの人にもわかりやすく、また上司にも説明しやすいのです。」(渋谷氏)

※この表の内容は架空のものです

分析モデル作成において意識していたこと

「このアウトプットを作成した時に意識したのは、視覚的なわかりやすさです。こうしたモデルは結局マーケターが使えないと意味がないので、出来るだけ簡単に使えるように、わかりやすさを意識しています。

 私はアップリフトモデルはマーケターにとって夢のモデルだと思っています。これを使うことでコストなどが限定されている時に、本当に必要なところに必要なだけコストを投下することが出来るようになります」(渋谷氏)

パイオニア鎌田喬浩氏が語る、モビリティ産業の最新ケース

どこでどのような事故が起きているかを検知する安全運転支援ソリューション

 「パイオニアはオーディオメーカーのイメージが強いかと思いますが、実は現在はカーエレクトロニクスがメインの会社になりました。本日はデータ駆動型の安全運転支援ソリューションについて、お話したいと思います」(鎌田氏)

 「この端末は何をやっているか、というと事故を減らそうとしています。クラウドとドライブレコーダーを繋げて、さらにそれにオープンデータを掛け合わせて分析をしています。具体的に言うと、パイオニアが10年以上集めている車の動きのデータとデジタル地図データ、交通事故情報や天気情報を組み合わせて、どこでどんな事故が起きやすいかを予測しています。また、ドライバーがどのような運転をしているのか、というのもリアルタイムで取得しているので、そのドライバー毎の今のリスクを算定することも出来ます」(鎌田氏)

 実際に使用するとどのようなイメージなのだろうか

 「これは現在私たちがいる地点の近くの情報なのですが、今見えている小さなつぶつぶが、急ブレーキが起きている、というヒートマップになります。実際に事故多発地域の情報を組み合わせるとブレーキが発生する箇所には相関があります。また事故情報は時間帯や天気によって大きく変化するところがあります。

 それらを踏まえて、テレマティクスから「今日はあなたはここが危ないですよ」という起動時のメッセージや次の交差点はここに気を付けてください、というような具体的なメッセージを出しています」(鎌田)

 オープンデータと自社データの掛け合わせをするパイオニアの先進テクノロジー。オープンデータを活用する時に何か意識していることはあるだろうか。

 「オープンデータと自社データの掛け合わせは確かに非常に難しいものではあります。パイオニアの地図データは徹底的にチューニングされて、精度は結構良いのですが、一方でオープンデータのような外部のデータは正確性が低いものもあります。ただ正確性が低いものに合わせると、会社として尖った一流のサービスを提供することは出来ません。」(鎌田氏)

 「今パイオニアでは正確でない外部のデータをチューニングして使っています。似たような問題に直面すると、自社で持っているデータだけを利用しようとするのが普通の流れなのですが、それだとデータ量で勝るGAFAには勝てないので、なんらかのフックになるものを創る必要があると考えています。パイオニアの場合はそれがオープンデータとの掛け合わせ、というところでした」(鎌田氏)

あらゆる業種業界で進むデータ活用の流れについて、グラフCEOの原田博植氏が徹底解説

産業界における『データ活用』の課題

 グラフはデータサイエンスにおけるクライアント企業の「黒子」であると原田氏は言う。様々な業界の企業のデータ活用を支援してきた同社だが、データ活用のハードルは高い。

 多くの企業ではデータベースが分断されている。先ずは合理的な統合と整備がなされるだけで事業体の収益性や生産性は上がるのだが、「組織的な理由と技術的な理由」のどちらかかその両方で、多くの大企業が実現できずにいるという。

 「例えば商社ですと、一部の出来る営業の方がCRMツールで自分にしか見えないようにデータを囲い込んでいたり、製造業ですと凄腕の職人さんが気難しくて口下手で、結果として知識を共有して一般化していない、というようなことが其処此処で起こっています。あらゆる大規模事業体さまで業務が属人化しナレッジが共有されていないことによって、経営上の判断が正しく出来ない、ということが課題になっています。」(原田氏)

今は課題解決に向け多様な特定産業専用アルゴリズム”にチャレンジし続けられる黎明期

 グラフは、データ活用を実現するという意思決定がなされた企業に、先ずはデータ戦略の責任を負うコンサルティングを皮切りに現場へ入っていき、要件定義を経てAIアルゴリズム開発を実装していく。専業データサイエンスカンパニーとしては稀に見る、異業種混交かつ国内最大級クライアント実績のみを持ち、社会的影響力のあるアルゴリズム開発に邁進している。

「バラバラになっているデータを統合したり、属人化している情報を一般化する、その上で切れ味の良い最小最適化されたアルゴリズムを実装していくことでクライアントとその先にいるお客様に貢献しています。実務上では『Gruff CYPHER(グラフサイファ)』というアルゴリズム開発ツールを使い、各企業のデータ活用に使えるアルゴリズムを開発します。開発したアルゴリズムはPDCAを回していきながら最適化していきます」(原田氏)

データ活用プロジェクト成功のポイントとは?

 数多くの企業のデータ活用プロジェクトを推進してきた原田氏は、全てのプロジェクト成功の秘訣は『ゴール設定』にある、と答えた。

 「ゴールを先に設定してから、データを取るところ、溜めるところに入らなければなりません。コングロマリットのように多様な事業を持っている会社さまほど、合併した事業や、買収した企業のデータベースが統合されていなかったり、優秀なスタープレイヤーが一般化しない事で属人化している情報があります。だからこそニーズもありますが、抽出し統合する作業も膨大だし、蓋を開けてみればデータ整備に大幅な手戻りが必要になっているお客様もおられます。だからこそ、先に使い方を決めて、この予算、この時間、この人の中でどこまでやるのか、というのを決め、予定通りに進捗したらどんな果実が見込めるのか、ということを初手でコンサルテーションするのが、まさにデータサイエンティストの妙です。」(原田氏)

“データサイエンス”の限界に挑戦する

 データサイエンスが持つ限界に挑戦してきた原田氏。いくつかの事例を通して、『データができること』についてお話頂いた。

 ある証券会社では、『投資への興味を少しずつ高めながら予算を増やしてもらう』、いわゆるライフタイムバリュー向上実現のプロジェクトを実行している。

 「手数料収入で稼ぐ、というのが基本のビジネスモデルですが、顧客満足の向上とそれに伴う取引の増加を実現するための分析を行いました。ゴールは口座を活性化させるための広告宣伝費の最適分配を実現です。手段としてAIによる開設口座の収益予測モデルを開発しています。」(原田氏)

 「こちらは通信会社さんの事例です。データサイエンスのアプローチから、顧客毎に、どんな趣味嗜好があるか、という分析をしています。定量的なところを磨くことで、どこまで定性的な感情とか趣味嗜好、好き嫌いというところに迫っていけるか、という点を追っている事例です。」(原田氏)

データサイエンスにおいてアルゴリズムの調整と投入データ、どちらを改善すべきなのか

 データサイエンスをビジネス利用するにあたり、アルゴリズム側をチューニングする方法と、投入する変数、特徴量を調整する方法がある。原田氏が考える最適な方法とは何か。

「モデルそのものより特徴量じゃないでしょうか。どんなデータにも、それがデータサイエンスの実装に伴い影響力を持つ原始的なデータソースであればあるほど、外れ値や異常値が溢れています。その所与の条件の中でのモデルの選定とは、料理に例えれば、包丁と魚みたいなものだ、というのが私が長年の経験の中で獲得した私なりの整理です。

データやパラメータ自体が魚で、それに対するアルゴリズムやモデルが包丁だとします。包丁にこだわっても、魚の大きさや形、季節など素材の問題があります。おいしい料理を作るにはこちらの方が重要ではないかということで、実務上は、どこから仕入れてるとか、その時期に買ってるから美味しいんだとかそういう話をすると思います」(原田氏)

「データサイエンティスト・オブ・ザ・イヤー」が胸に抱いている思いとは?

渋谷氏~データサイエンティストになることはゴールではない~

「『データサイエンティスト』になりたいという人が最近増えていますが、データサイエンティストになることは目的ではないと思うんですね。私自身も必要なことをやっていった結果、データサイエンティストにたどり着いたということで。だから皆さん自身が何をやりたいのか、っていうのが最初に来る必要があると思います。データサイエンティストになりたい、ってだけ思っていると、なった後はじゃあどうなるのって話になって、やっぱり行き詰るんですよね。是非そういう気持ちでやってもらえると、結果としてデータサイエンティストになれるのかな、と思います」(渋谷)

鎌田氏 ~データサイエンティストに求められるのはアイディアを作る力~

「今はスマートフォンが普及していることもあって、世の中で収集されるデータの8割は異動経路のついた位置情報という状況ですが、GISエンジニアさんがいる企業っていうのは、全体の10%もいないと伺っています。しかし、現在地、という情報を足す、一つ次元を足すことによっていろんな視点が生まれると私は思っています。ぜひ、位置情報を使って、色々なアイデアを膨らませてもらえればと思います。

 そして、様々なデータをビジネスにつなげる『アイディアを生み出す力』は、これからのデータサイエンティストにますます求められる能力だと思います」(鎌田)

原田氏 ~可能性がある領域だからこそ自らの″Will″を大切にしなければならない~

「奇しくも渋谷さんと原田が違う角度からお伝えした『何がやりたいのかが先に来るべき』という話が、データサイエンスの実務遂行上も、個人のキャリアの取り方についても、不思議なほどに似通っているように思います。私のこれまでのキャリアについても、役職や建てつけではなく「やりたい仕事」が先に立って、その対象に全てを注ぎ込んできて、返ってきたエネルギーでまた頑張ってこれたような感じです。自分の中の『したい』と『すべき』をいつも注意深く見極めています。真面目な人やしっかり仕事をしている人ほど、『すべき』で埋め尽くされていくと思うのですが、その中で『したい』の中心はどこなんだっけな、というような感じで、自分をほじくり返して、探さないといけないと思っています。我々も、『データ』や『アルゴリズム』、その先のAIという領域を見据えて仕事をしています。AIは哲学の領域もドンドン混ざってきますからね。そういうところを、慎重に、視野を制限せず、引き続き大きな目標に挑みかかっていけたら、幸せな仕事人生になると信じています(笑)。」(原田)

 それぞれの領域において『データサイエンス』を探求し、大きな成果を生み出し続ける3名。そのナレッジが垣間見れる特別なセッションとなった。

Text by Takuya Kuzumi

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