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2020.01.16

【MiXER Report】爆速成長を実現する“マーケティングセオリー”
ラクスル、freee、SmartHRのCMOが明かす、市場変革のドキュメント

11月20日、21日の2日間、ANAインターコンチネンタルホテル東京において、“マーケティングの未来を見に行く2日間”をテーマに、世界No.1サービスをリードするマーケターや、近未来のデファクトスタンダードの創造を目指すサービスクリエイター、更には人気芸能人まで、約70名に及ぶ各領域のトップランナーが登壇した『MiXER ~The Marketing Conference~』。
会計、労務管理、印刷、それぞれの業界を変革し、市場を創造し、国内No1のシェアを有するに至ったラクスル、SmartHR、freee。
b→dash CMOの三浦將太がモデレーターとなり、各社の「業界の常識を覆し、市場創造するまで」にハイライトを当て、爆速成長を実現する中で実践するマーケティング戦略、KPI、施策など、彼らが大切にしている『マーケティングセオリー』に迫った。

Case1 ラクスル株式会社

4年で売上25倍。爆速成長を遂げたラクスルが起こしたマーケティングにおけるイノベーションとは?

ラクスル株式会社 取締役CMO/アドプラ事業本部長  田部正樹 氏

 まず、ラクスルの田部氏から事業概要と成長の軌跡、その裏にあったマーケティング施策の数々が説明された。

 「ラクスルは主にネットで『印刷』を提供するサービスです。ラクスルが登場する以前は、名刺やチラシなどを印刷しようとすると、基本的に営業を介在する必要があるのが市場の常識でした。営業が介在すればその分マージンをとられてしまいます。大量のロットでの注文の場合は営業のサポートを得られるというメリットもありますが、小ロットで注文する場合、営業のサポートは特に必要ないにもかかわらず、マージンの分、コストが高くついてしまうのが印刷業界の常識でした。この常識に対して、ネット化することで中間マージンをなくし、小ロットであっても、『印刷』を手軽に安く注文できるようにしたのが、ラクスルです
 ラクスル参入当初、ネット印刷市場は大体600億円程度で、そのうち大半を大手企業が占めているような状態でした。ラクスルというサービスはその市場に最後発で参入したサービスです。
 2014年段階でラクスルの売上は5~7億円程度でしたが、昨年170億円を達成し、4年間でおよそ25倍の成長を遂げました。」(田部氏)

最重要のKPIは「新規会員獲得数」

 「ラクスルが最重要視していたKPIは新規会員獲得数でした。もちろんリピートビジネスなので、リピートされれば伸びるのは当たり前ですが、新規で会員を増やし続けることも重要です。実際に、新規会員の獲得数と売上は比例して伸びている現象が見られています。」(田部氏)

ラクスルの常識外れのマーケティング投資

 「ラクスルは累計で約79億円資金調達していますが、そのうち約50億円を新規顧客獲得のためのマーケティングに投下しています。売上に対して約5%くらいの金額をマーケティングに投下するのが一般的にヘルシーなラインと言われていますが、ラクスルではそれを大きく超える形でマーケティングに投資をしました。市場の常識を破った、という意味ではラクスルが起こしたイノベーションの一つと言えると思います。

 当時考えていたこととしては、仮にマーケティングにコストを投下した結果、単年で赤字になっていたとしても、ラクスルはリピートビジネスなので、2年で投下コストを回収するという前提に立つと、CPAが10,000円から20,000円でも数年後には黒字になる想定でした。

 面白いのは、投資をすればCPA(発注1件当たりのコスト)が上がるのが普通なのですが、ラクスルの場合は下がっているということです。マーケティング投資額は10倍以上に増やしましたが、CPAは大型投資のスタート時点よりも半分以下に抑えられています。投資によって新規利用者数もリピート数も増加した結果、1件当たりの獲得効率が上がったのです。

 まず回収期間を設定し、徹底的にマーケティングにアクセルを踏む手法は、リピートのあるBtoBビジネスにおいてラクスルが起こしたイノベーションだと思っています。(田部氏)

テレビCMをデジタルマーケティングのように運用する

 「もう一つラクスルのマーケティング施策で特筆すべきなのが、2013年から2014年から開始したテレビCMへの投資です。この二年の間でマーケティング宣伝費がいきなり2億から13億に増えていますが、それはテレビCMの影響が大きいと思います。

 ラクスルがテレビCMを始める5年前は、誰もラクスルのことを知りませんでした。検索クエリ数で言ったら、ラクスルが5,000あったのに対して、競合の大手企業が80,000あるような状態でした。いわゆる純粋想起を取られている状態なので、WEBマーケティングだけだとこの状態をひっくり返せないと思いました。『ラクスル』というキーワードでの検索回数を増やすためのWEBマーケティング以外の方法、ということで、テレビCMを実施することを決断しました。

 しかし、ラクスルにとってテレビCMをやることは博打要素が強かったのも事実です。なぜなら、『印刷』というビジネスの特性上、CMを見たタイミングで「チラシを刷りたい」となるわけではないからです。少しでもリスクを減らし、テレビCMの効果を最大化するために、私たちはテレビCMをデジタルマーケのように運用することに決めました。

 具体的にいうと、テレビCMを全国的に放映する前に、ローカルエリアでABテストを実施しました。例えば最初は富山、石川、福井の三県で、ほぼ素人さん同然のキャストを使った、製作費が2本合わせて5百万円くらいのCMを打ちました。テストした内容は訴求軸です。『チラシ一枚1.1円』、『顧客満足度98%ネット印刷会社』など、様々な訴求軸を作ってどれが一番良いかテストしました。

 少し当たったテレビCMは人口が3百万人以上の都市に移動し、再度テストします。それで良かったものを最終的には関東や関西のテレビで流すわけですね。東京で見られるラクスルのテレビCMは、半年前にローカルエリアでABテストしていたものです」(田部氏)

なぜテレビCMを成功させられたのか?

 「ポイントはメイクセンスする訴求内容を見つけることです。それが見つかれば、あとはCMで起用している役者さんを有名なタレントさんに変えて、タレントパワーでレバレッジをかければより大きな効果を狙えます。

 この5年で『ネット印刷』業界の検索キーワードはほとんど伸びませんでしたが、『ラクスル』というキーワードは20倍くらいになりました。ネット印刷サービス=ラクスルという純粋想起を作れたからこそ、このような状況を作れたのだと思いますし、比較されずに指名されるようになった、という意味でブランディングが成功したと捉えています」(田部氏)

 「ラクスルのマーケティングが上手くいったのは、マーケティングが会社のイチ機能に留まっていたのではなく、経営の中枢にあったからではないか、と考えています。マーケティングはプロモーションをやるだけではなく、サービスやプロダクト自体に介入しながら、そのものを開発しようとする発想の転換が必要です」(田部氏)

Case2 株式会社SmartHR

99.5%が継続利用。毎月1,000社以上が導入する人事労務クラウドサービスが起こしたイノベーションとは?

株式会社SmartHR 執行役員/VP of Marketing 岡本 剛典 氏

 続いてSmartHRの岡本氏から、SmartHRの事業概要と急成長を実現したマーケティング施策の実施背景について説明を頂いた。

 「SmartHRの概要から説明します。SmartHRは毎月1,000社以上が導入しており、現在累計30,000社が導入する人事労務クラウドサービスです。特筆すべきは継続利用率で、SaaSモデルでは継続率98%ならすごいところをSmartHRは99.5%となっています。

 サービス内容を説明すると、人事・労務分野で行われていた紙でのやり取りをなくし、手続きを簡単にするクラウド型ソフトウェアです。具体的には、従業員情報やマイナンバー、年末調整に必要な情報などを収集・蓄積、手続きに利用できるサービスです。

 人事担当者側から見ると、従来12ステップで人事労務業務を行っていたところ、SmartHRによって3ステップに減らせるメリットがあります。」(岡本氏)

SmartHRの急成長を実現したターゲットの変更

 「SmartHRが急激に伸びた背景にはマーケティング方針の転換がありました。転換点になったのが俳優の速水もこみちさんを起用したCMです。当初、SmartHRはIT系の中小企業に利用されていました。しかしその後、飲食・小売り業界を中心にマーケティングしていく方針を決めました、

 なぜそのようなターゲットの転換を行ったのかというと、飲食・小売り業界においてSmartHRの提供価値を最大化出来るためです。飲食・小売り業界は業界の特性上、アルバイト従業員数が多く、入退社や雇用契約更新の頻度が高いことが特徴です。そのため、書類手続きや管理の機会が多く、SmartHRで削減できるコストが大きいと考えました。

 それ以外にも、『拠点が分散していて、紙でやり取りしているとコストがかかるため、SmartHRの提供価値がマッチしやすい』『誰でも知っている企業が多く、その導入企業ロゴを使ってさらなるプロモーションにつながる』などのメリットもあります。」(岡本氏)

 「テレビCMにおいて速水もこみちさんを起用したのは、速水さんが以前『MOCO’Sキッチン』をやられていたことから、飲食業界の人に想起されやすいと思ったのがきっかけです。また、特に飲食業界の方に向けてアプローチをするために、コピーライティングも『飲食業界の人事の方々へ』と表現するなど変更を加えました。

 実際にプロモーションを変えてから、導入企業の構成も変わりました。プロモーションを実施する前はITベンチャーを中心に、従業員数が1人から10,000人の企業が多かったのですが、プロモーション実施後は、飲食・小売業を中心に20,000人から数万人規模の企業様との契約が増えてきました」(岡本氏)

価値を理解して頂く展示会マーケティング

 「また他の施策では、展示会への出展も有効でした。SmartHRはサービス内容や価値が伝わりづらい面を持っています。そのため、WEBやオンラインだけのコミュニケーションでは限界があります。一方で、展示会では実際にSmartHRを触って頂くことで、価値を理解してもらえるので、マーケティングとして有効な打ち手でした。また、展示会でのリアルなコミュニケーションでターゲットユーザーと直接話が出来たのもマーケティング上、良い施策だったと言えます。」(岡本氏)

Case3 freee株式会社

利用事務所数100万以上。法人シェアナンバーワン会計給与ソフトfreeeが起こしたイノベーションとは?

freee株式会社 CMO 執行役員 川西康之 氏

 最後にfreeeの川西氏より、freeeの事業内容と数多くのマーケティング施策を生み出すための組織作りのヒントをご教示頂いた。

 「まず簡単にfreeeの説明をします。freeeは従業員規模300人から500人の企業を中心に導入して頂いております。会計給与の領域では、法人シェアナンバーワンになっており、2019年12月には上場を予定しています(2019年12月17日に東証マザーズ市場上場)。」(川西氏)

 「freeeのマーケティングの特徴はプロダクト開発に多くの投資をしてきたことです。プロモーションの観点では、プロダクトをいかに効率よく、適切なお客様に適切に提供し、適切に回収していくか、また様々なお客様に導入して頂けるようになっているか、そうしたことを意識しています。したがってKPIとしては、ARRや一つ一つの施策のROIを追っています。また指名検索のYoY(year over year)での増加も見ています。」(川西氏)

個人事業主を動かした『バズ企画』

 「今日は特に個人事業主様向けの企画を紹介します。『軽減税率バズ企画』というものなのですが、かなり際どいクリエイティブになっています。正直、私はこの企画はバズらなくても良いと思っていました。というのも、本当に重要なことは、このような尖った新しい企画が次々出てくることだと思っていたからです。

 昔からfreeeを応援して頂いているユーザーさんはこのような尖った企画が好きです。『やっぱりfreeeって面白いな』と思って頂くことが、使い続けて頂く理由になっていたり、広めて頂ける理由になっているのではないかと考えています。」(川西氏)

社内から企画を挙げさせるための組織の作り方

 「メンバーから自発的に企画が挙がってくる組織作りをするために、freeeという会社の価値基準や行動指針の浸透が重要だと思っています。勝手にアイディアが出てくる組織というのが最大の競争優位ですね。

 また会社としても、クオーター毎に、プロモーションコストのうち一定の割合を未知のものに当てなさい、ということを常々言っています費用対効果がわかるものだけやり続けていたら、その期に成果が出たとしても、来期以降どうなるかわからないですから。

 企画を考え、実行する組織にするためには予算の側からアプローチすることを意識しています。セールスは顧客に成長させてもらうものですが、マーケターは予算とターゲットを渡して成長するものです。もし何もしなかったら予算なくなるぞ、というアプローチをして、企画が生み出せる組織作りをしています。」(川西氏)

ファクトを基にした施策『タクシーのレシート活用』

 「もう一つfreeeが実施した企画を紹介すると、タクシーのレシートの裏に印刷されている、個人事業主向けの広告があります。これは個人事業主がタクシーの領収書を清算・確定申告をした瞬間、ここでfreeeのことを知ってもらって使ってもらうとLTVが上がるという事実を活かした例です。」(川西氏)

 「企画を考える時は、どこから来たユーザーが一番LTVが高いのか、どこから来たユーザーがロイヤルカスタマーになるのか、ちゃんとデータで検証し、定量・定性での評価をすることが重要だと思います。またそのために何度も何度もPDCAを回す必要があります」(川西氏)

最後に

 最後に、登壇して頂いた三名から一言ずつ、オーディエンスに対して言葉を頂いた。

 「常に意識していたことは、サービスやプロダクトの“便益”が相手に伝わるかどうか、ということです。良いマーケティングは、何を言いたいのか”というところを絶対に外していない。
 そしてそれを生み出すためのアウトプットは右脳的に、クリエイティブを大事にして考えています。右脳的に出したアイディアを補完し、PDCAを回すためにデータを検証することが必要だと思っています。」(田部氏)

 「大切にしているのは、ユーザーからのフィードバックですね。それをプロダクトに反映していく。SmartHRが高い継続率を実現出来ている要因はターゲット業界とのフィット具合が高いからだと思います。そのような状況が創り出せればバイラルマーケティングもしやすくなります」(岡本氏)

 「マーケティングの企画の上位にある、『果実がなるための土壌』や『地下水』のようなものの管理が大事になるのではないでしょうか。具体的に言うと、予算の枠の管理、事業部構造、組織文化などをどのようにしたいのか明確にすることがマーケティング施策につながっていくと思います」(川西氏)

 印刷、人事・労務、会計。3つの業界に破壊的イノベーションをもたらした『ラクスル』『SmartHR』『freee』。そしてサービスの爆発的成長を実現した各社CMOのナレッジが共有されたセッションとなった。

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