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2019.12.06

【MiXER Report】Dropbox × メルカリの最強のグロースハック
~ここでしか聞けない『急成長の方程式』に迫る~

11月20日、21日の2日間、ANAインターコンチネンタルホテル東京において、“マーケティングの未来を見に行く2日間”をテーマに、世界No1サービスをリードするマーケターや、近未来のデファクトスタンダードの創造を目指すサービスクリエイター、更には人気芸能人まで、約70名に及ぶ各領域のトップランナーが登壇した『MiXER ~The Marketing Conference~』。
オープニングセッションに続き、Keynoteとして『MiXER』全28セッションの1本目を飾ったのは、Dropbox Japan株式会社 Marketing Lead上原正太郎氏と、株式会社メルカリ データアナリストチームマネージャーの野中翔氏によるセッション。モデレーターはオイシックス・ラ・大地株式会社CMT西井敏恭氏が務めた。

 セッションはDropbox Japan上原氏の自己紹介から始まった。

 Dropboxは180か国6億人のユーザーを誇る。特筆すべきはその成長スピードで、世界のSaaS企業の中で最も速く1,000億円の収益を設立からわずか7年で達成した。上原氏は様々な外資企業でプロダクト責任者を歴任し、2017年よりDropbox Japanのマーケティングを束ねている。

 バトンを受け取る形でメルカリの野中氏の自己紹介がスタート。Dropboxと同様、急成長を続けるメルカリは、GMV、売上ともに前期比140%の成長を実現。日本では知らない人はいない、と言えるほどの存在となりつつある今、次の展開としてメルぺイなど周辺サービスを拡充させることで更なるユーザー体験向上を目指している。このような事業展開の中で、野中氏は現在、アメリカにおけるメルカリのデータアナリストチームを立ち上げ、統括している。

 まさに誰もが羨む急成長を続ける2社。そのマーケティングに共通する『グロースハック』とは?会場の期待が上がる中で本題に入っていく。

Dropbox、メルカリにとっての「グロースハック」とは?

 本セッションのメインテーマであり、ここ10年で日本にも広がりつつある「グロースハック」という言葉。セッションは両社における定義からスタートした。

 Dropboxでは創業期から「出費を最低限に抑えながら最大数のユーザーを獲得すること」と定義している。会社のフェーズによって変化はしてきているものの、「徹底した低コストでの獲得」がマーケティングに求められている。

 一方メルカリでは、「LTVがマーケティングコストを上回る状態をつくること」と定義している。単に一度使ってもらう(獲得)ためのコストではなく、何度も長く使ってもらうためのコストをLTVが上回る状態をつくる、これがメルカリのマーケティングに求められている。

 コストという制約条件の中で、いかに圧倒的な成果を生み出すか。この後、両社の施策事例へ話が進んだ。

Dropboxのグロースハック事例

 事例の話に移る前に、DropboxにおけるKPIが紹介された。Dropboxは、SaaSプロダクトとしてLTVを重視する中で、「ACV/ARR(年間発生額/年間定額収益)」、「MAU/WCU(月間アクティブ/週間コラボ)」、「ARPU(ユーザー当たり平均売上)」、「Churn rate(解約率)」の4つをKPIとしている。

 “グロースハック”という言葉の生みの親ともいえるDropboxは様々な施策を実施してきた。上原氏は、「Acquisition(無償ユーザー獲得)」、「Activation(活用促進)」、「Retention(継続)」という3つのマーケティングファネルに分解して事例を紹介した。

① Acquisition

 「“登録のシンプル化”や、“紹介してくれたらストレージ容量アップ”といった施策を実施してきました。
”登録のシンプル化”は、今でこそWebサイトやアプリにおける一般的な施策ですが、Dropboxの取り組みは当時において先進的でした。
“紹介による容量アップキャンペーン”は、グロースハックの事例として非常に有名な施策の一つで、サービス初期の爆発的成長を支えたものです。紹介に限らず、デスクトップアプリをDLするなど、ユーザーがDropboxと関わる面が増えれば増えるほどストレージ容量も増えていく、というサービスによってユーザーの利便性を高め、更に紹介したくなる仕組みを構築しました。」(上原氏)

② Activation

 「“ノークレカトライアル”という、クレジットカードの登録はさせずに、まず登録をさせる、という施策を実施しました。
ここでネックとなったのはCVR(登録後の有償会員化率)でした。“クレジットカードを登録させるべきか否か”というのは、どのサービスのマーケターも頭を悩ませる問題ですが、Dropboxは1年間という長期間の実験を行い、結果として『クレジットカードを登録させない』という選択をしています。

実験ではユーザーをセグメントし、グロースのチームやUXのチームなど、チームごとにテストを行いました。
また、“MAU/WAUへのオファー訴求”については、各ユーザーのDropbox利用状況に基づいたOne to Oneの施策を行うことも実施し続けています。」(上原氏)

③ Retention(解約率)

 「SaaSプロダクトのマーケティングにおいて非常に重視されるファネルである解約率ですが、Dropboxは、プロダクト面では顧客を飽きさせないスピードと数で機能リリースをし続けています。
また、NPSの計測にも大きな投資を行っていたり、CES(Customer Effort Score)という指標も重視しています。“いかにヘルプデスクやサポートセンターに問い合わせずに問題解決できたか”という観点でサイト・サービス作りを進めています。
さらに、「解約をいかに簡単にするか」という改善も多くのサービスに先駆けて実装してきました。解約が複雑であればあるほど、問合せなどのカスタマーサポートのコストや、ユーザー満足度の低下に繋がってしまいます。ここも膨大なデータから「解約の簡易化」を決断しています。」(上原氏)

“Hack Week”

 「Dropboxにとって、何かをハックすることは会社のDeNAとして全社員に求められています。この文化を継承する方法の一つとして、エンジニアも非エンジニアも自分の課題を自由に解決する手段を追求できる1週間が設定されているほどです。」(上原氏)

メルカリのグロースハック事例

 バトンタッチをしてメルカリの野中氏による事例紹介となった。

 野中氏からは、メルカリの数あるグロースハック事例の中でも特にデータを活用して成果を上げてきた、「購入をサポートするクーポン施策」「UI/UX改善」についてお話頂いた。

“クーポン”のグロースハック

 野中氏から、「メルカリのクーポンの歴史をまとめた」と語る3つの施策例が示された。

 ①ユーザーセグメンテーションによる配布対象・内容の最適化
 ②機械学習による最適な配信
 ③大量のABテストを効率よく回すための体制構築

 当初はメルカリも全ユーザーに対して一括同内容のクーポン配布を行っていたが、ユーザーごとの利用額を分析すると、配布したもののコストを回収できないユーザーがいることが分かってきた。つまり、「クーポンがなくても商品を購入していた」というユーザーにも配布してしまっていた。

① ユーザーセグメンテーションによる配信
 「このような課題が浮き彫りになったので、『直近30日間購入していないお客様』など、お客様をセグメンテーションした施策を実施し始めました。その結果、ROASなど重要な指標が改善されていきました。とはいえ、まだ一部のクーポンではコストを回収しきれない状態は続いていました。」(野中氏)

② 機械学習の活用
 「どんな施策を打ってもLTVの増分によりクーポンコストを回収できる、という状態を作り出すために次のステップで実践したのが『機械学習の活用』でした。機会学習を用いて『クーポンによるサポートがなくても将来購入する』お客様を予測し、配布を最適化しました」(野中氏)。

 ①の段階では人間がセグメントを作成していたが、人が運用できるセグメントの数には限界があり、運用が難しくなっていった。この限界をカバーするため、大量のデータで機械学習を回し、配信対象の抽出精度を飛躍的に向上させた。

 例えば、直近30日で購入していないユーザーであっても、商品に「いいね」を押しているユーザーとそうでないユーザーとでは、当然マーケティング施策も変えるべきだ。この微細なユーザーごとの違いを、機械学習を用いて判別していった。

 このフェーズになり、ようやく全てのコストを合算しても、LTVが上回る状態を実現できるようになっていった。そして結果的に、更なる急成長に向けたより大規模なマーケティング投資を可能にした。

③ 大量のABテストを効率よく回す体制構築
 大規模なマーケティング投資ができるようになったメルカリにとって、次の悩みは「大量な施策のABテストをいかに効率よく実施し、いかに結果を判断するか」というものだった。

 そこで実施したのが、データの可視化や判断方法の整備だ。野中氏のようなデータサイエンティストが全ての施策の評価を行うことはできない。そこで、施策の成果指標を定め、あとは誰でも分析できるようにBIツールなどで整備する、という流れをとっている。

「誰が」やるのか?
 メルカリにおけるデータサイエンティストは部署横断的な存在である。そして、上記のようなクーポン施策の企画では、企画担当とデータサイエンティストが組になって施策を実施している。また、機械学習モデルの更新タイミング、データの取得から分析・モデル構築のフローも各施策の効果に影響するため、エンジニアも早い段階で議論に入るのがメルカリのスタイルだ。

LTVが高いユーザーとは?
 “特にLTVが高くなりやすいお客様”に関してはメルカリ内ではノウハウ、そしてデータとして蓄積されており、「カテゴリーをまたいで利用するユーザー」や「購入・出品どちらも行うユーザー」はLTVが高くなることがわかっている。したがって、このようなユーザー行動をいかに増やすか、というポイントはデータサイエンティスト含めたマーケティングの仕事として捉えられている。

 一方でDropboxでは、「コラボレーション」が重要指標と考えられている。Dropboxにデータを貯めるだけでなく、それを社内外に共有しているユーザーは結果的にLTVも高くなることがデータ上でも検証されている。

“検索させる” UI/UX改善

 「これはデータサイエンティストだからこそ気づけた問題とその解決の事例です。お客様がメルカリのアプリをダウンロードした後に検索行動を誘発できないと、購入に至らず離脱してしまいます。実際にUSメルカリではこのような現象が起きていました。そして、この現象は日本で起きたことがなく、誰も想定していないことでした。フラットな目線で、データを分析したときに、この事象が明らかになりました。」(野中氏)

 データから明らかになったこの課題解決のため、USメルカリでは半年で100個以上、検索UIのテストを繰り返した。検索窓に何と記載しておくのか、写真を多く使うのか使わないのか、このような細かい改善を繰り返した結果、「検索させる」UIの実装に成功している。

 メルカリではマーケティング、プロダクト、各チームの協力によるこういったグロースハック事例が多く存在する。

“グロースハック”を実現するためのメンバーのスキルセットや組織体制とは?

メルカリのケース

① ボトムアップで考案される「小さな改善の積み重ね」を経営指標に反映して意思決定ができる人
 「一つ一つのABテストで大きな改善はなかなか生まれにくいです。だからこそ、多くの施策を実施する必要があります。大量の施策を実施して検証するには当然コストもかかります。一つの施策の効果が小さい状況でもそれを繰り返せる体制をつくることの効果や必要性を、経営レベルで語ることが必要になってきます。日々の小さな施策がなぜ、サービスやプロダクトの成功に必要なのかをメンバーが認識できていれば、継続的なグロースハックが可能になると考えています」(野中氏)

② マーケティングチームとプロダクト/サービス開発チームの密な連携・目標の共有
 「また、マーケティングの投資判断を『新規獲得』だけで評価してしまうと、LTVを高めてマーケティングコストをペイする状態をつくることは難しくなっています。従って獲得を行うチームと内部のプロダクト改善を進めるチームとで連携を行わなければ、獲得ユーザーをメルカリのファン、ヘビーユーザーに変えることはできないと考えています」(野中氏)

 メルカリにおいては「データサイエンティスト」が各チームを横断して協働を促す存在として機能している。

Dropboxのケース

失敗を恐れず寛容に ~カルチャーの醸成~
 「Dropboxもデータをもとにした仮説検証が前提です。データのない仮説は証明できません。したがって、各チームはデータ収集と可視化をタスクとして担うリサーチチームと協力しながらサービスのグロースハックを実践しています」(上原氏)

 しかし、仮説は往々にして失敗に終わることもある。そこで全世界的な会社の文化として共有されているのが、『失敗を恐れないこと』だ。日本オフィスには本社創業者が作成したチャレンジすることの重要性を書いたボードも置かれ、日々全従業員が失敗をしても新しいチャレンジを繰り返している。

「グロースハック」を実現したい企業に向けたアドバイス

― “Be Scrappy, Fail Fast”
― “人生のテニスボールを見つける”
 「失敗を恐れないこと。そしてミスはなるべく早くすること。この文化を社内に醸成することが必要です。テストを重ねることが重要なのです。更に、この無数のテストの繰り返しを「楽しい」と感じられることが大切です。弊社では創業時から、『人生のテニスボールを見つける』という標語を掲げています。犬がテニスボールを喜んで追いかけていくように、社員が喜んで追いかけられる目標やビジョンを設定すること、これが経営に求められているのではないでしょうか」(上原氏)

― 1ユーザーとして感じたことを“言語化すること”、サービスグロースのための“仮説に落とし込むこと”
 「データ分析や機械学習の力は大きいものの、それらを用いた施策のアイディアを得るには、いかにお客様の目線に立った仮説立案ができるかが重要です。まずは、サービスやプロダクトの価値を理解し、より使って頂けるためにどういったサポートが必要かを徹底的に考え抜くことが大事だと考えています」(野中氏)

 “グロースハック”実現の方程式、それは「LTV最大化という目標を全社で共有すること」そして「大量のテストを実施できる企業カルチャーの醸成」この2つを両立させること。これが語られたセッションとなった。

Text by Takuya Kuzumi

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