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2019.06.17

【b→academy#9】「一休」の“本当にすごい”データマーケティング
データで支えたサービス再成長の舞台裏、“超LTV経営”と“最良のUX設計”に迫る

9回目の開催となった、データマーケティングを学ぶ国内唯一のスクール『b→academy』。今回は株式会社一休、代表取締役兼データサイエンティストの榊 淳氏にご登壇頂いた。多数の競合が乱立する宿泊予約サイト市場において、わずか5年で時価総額100億円から1,000億円への成長を実現した『一休』。その成功を支えた、850万の会員データを活用した『データマーケティング』について、自らデータサイエンティストとして実現した成長の裏側に迫った。

『一休』参画まで

 榊氏は、みずほ銀行でトレーディングを経験したのち、留学。主にコンピュータサイエンスを学んだ。その後、世界的コンサルティングファームBCGからオファーされ10年間データサイエンスとは関係のない仕事に従事。そして、ターンアラウンド領域におけるグローバルリーディングファームであるアリックスパートナーズへ。該社での最後の顧客が『一休』であり、2013年に正式入社。2014年には取締役副社長COO、2016年より代表取締役社長に就任している。

競争の優位性は”顧客に向き合うこと”

 株式会社一休創業の2000年の頃、宿泊施設のインターネット予約は殆どなかったが、2012年頃からインターネットで宿泊できる施設が増え、予約自体も増加していった。それに伴い、宿泊施設のインターネット予約サイトも増え始めたが、同じのホテルならどのサイトでも価格はほぼ同じ、という事象が発生した。当時の宿泊予約サイトは、「ホテル側」を向いたものが多かった。ビジネスモデルとしてホテルからの掲載料や広告出稿量が主な収益源だったからだ。『一休』も同様にホテル側を向いたサイト設計を行っていた。

 このような事業運営の中で参画した榊氏は、まず『一休』の“競合優位性”を考えた。『一休』の優位性は、高級宿泊施設の取り扱い数であり、「高級」というブランディングである。高級宿泊施設を探すお客様に最も選ばれるサイトでなければ、このブランディングがなくなったと同然になる。従って、高級宿泊施設を利用するユーザーにとって使いやすいサイトを構築しなければならない。「ホテル側」の都合でサイトを構成するのではなく、”高級宿泊施設を探すサイト利用者”を徹底的に大切にすることが、『一休』にとって最大の競争優位性を生む、そう考え、方針転換を行った。

 「最初に考えることは『一休』は誰が使ってくれているのか、ということです。それは高級施設を探す方です。高級宿泊施設を探す方にとって、多くの予約サイトにおける検索結果には、そういう方にとってのある意味「ノイズ」が多く含まれています。例えば安い施設がでてきてしまったり、それならと『5万円以上』など価格条件で絞ると、今度はビジネスホテルのスイートルームが出てきてしまう。『一休』はこういったノイズの排除を徹底し、高級施設を求めるお客様に選んでいただける『質の高い宿しか載せない』という結論に至りました」(榊氏)

“超LTV経営”の本質

 「”高級な宿に頻繫に泊まるお客様”が最大の顧客ではないか、という考えは、競争戦略上生まれた発想です」(榊氏)

 更に具体的なペルソナをいかに絞るかという観点で、『データ』が登場する。榊氏が『ユーザーの1人当たり年間サイト利用額毎の事業売上への寄与』について分析を行ったところ、最も売上に貢献していたのは、『年間100万円以上利用する層』だったという。

 「年間100万円使う人ってそんなにいるんですか?」という西井氏の問いかけに対し、「当時は数千人くらいしかいなかったのですが、今は驚くことに数万人単位になっています」と榊氏が答え、さらに付け加えた。

 「例えば3万円使う人が100万人いても300億円ですが、これがもし50万円くらい使う人が10万人いたとしたら500億円になる。一番大事なお客様の層は明らかです」(榊氏)

 榊氏の話から、データ分析をもとに競争優位を明確に貫くことができるターゲティングの設定という、『一休』の“超LTV経営”の本質が伺えた。

施策はOne to Oneに

 「最初にやったことは、『施設検索から予約までストレスがない』という基本を押さえることです。UIの部分や商品の見にくさをまずは徹底して改善しました。」(榊氏)

 さらに榊氏はターゲット絞り込みの上で大切な観点を語る。

 「私はコンサルタント出身なので、コアセグメントやカスタマーターゲットが大事だと刷り込まれていました。しかし『一休』に入って半年ぐらいたって完全に考え方が変わったのは、そもそもセグメンテーションしなくてもone to oneでいけるということです」(榊氏)

 榊氏は続ける。

 「データを活用したOne to One施策は、商品力の強化にすごく役立ちました。『一休』は、他社と比べて遜色ない商品や集客力があります。なので、サイトの使いやすさとユーザーに響く施策があれば絶対に売れます。サイト改善後は、クーポン発行や検索結果表示などをパーソナライズし、更に自動化しました。」(榊氏)

 『一休』の施策が予約増加につながる実績が生まれたことで、「ホテル側」との連携も強化された。例えば、ダイヤモンド会員への特典付与は、『一休』の1to1施策の効果を信頼するホテル側が負担をすることもあったようだ。ここで西井氏から質問が投げられた。

 「データだけではわからないことがあると思います。例えば、アプローチの相手がズレてしまう事もデータマーケティングでは良くあると思う。『一休』ではどのようにしてこのズレを解消されたのですか?」(西井氏)

 『一休』は実際にユーザーに会うことでこのズレを解消している。ライフスタイルから、なぜこの施設に宿泊するのか、気持ちを理解するためにヘビーユーザーもライトユーザーにも実際に会ってサービス開発に役立てている。

 「お客様と実際に話をすることでニーズが明確になります。データでできた予測の裏付けを得られます。例えば、我々のコアターゲットである『年間100万円以上ご利用頂くユーザー様』は当然お家も立派ですが、家では得られない非日常を求めていらっしゃいます。一般的には重視されるアメニティなどは重視されませんし、お忙しい方も多いですからあまりに多い写真もいりません。そういったことも、実際にお話するとわかりました。『一休』では、写真を大きく綺麗に見せる事を徹底しています。掲載写真は、候補の中で一番綺麗か、お客様に響くか、どの部分を切り取ってどの明るさでどの順番で出すのか。正直ロジカルではなく直感で決めています。」(榊氏)

更にデータサイエンスを深めるために

 『一休』が今後どの領域でデータサイエンスを深め、サービス向上を実現するかという話が展開された。

 「いくつか、データサイエンスに取り組んでいる領域があります。一つはパーソナライズ検索です。これはいわゆるリコメンデーションの世界です。実はリコメンデーションはファッションとか飲食ではまだ未開拓の部分も多い。例えば検索で「大人の隠れ家」などを打ってしまうと機械が対応できないという事があります。こういう所の解析をしています。」(榊氏)

 「2つ目は、パーソナルプライシングです。海外の宿泊予約市場で使われていますが、例えばアジアではどこからアクセスしたかによって、値段が変わるようになっています。僕らも同じことをやっていて、例えばお客様ごとにいくらのクーポンを出すのが最適かということを計算しています。データさえちゃんと選んで渡せば、機械は教えてくれます。データさえ整えれば使えるようになっているので、 マーケターの方々はみな、データサイエンスをやるべきではないかということは一つの提案です。」(榊氏)

 代表取締役であるだけでなく、データサイエンティストとして『一休』のマーケティングを牽引する榊氏は、計6時間専門の学校に通い勉強した。これだけでもやれる範囲がかなり広がると言う。

 「多くの人がプログラミングをするという行動に心理的ハードルがあると思いますが、そのハードルさえ超えられれば、モデルが組めるようになります。皆様が手を動かすか、データを扱える人を使うかは、それは皆様の好みです。ただ、さわりだけでもやれるとだいぶ違います。」(榊氏)

 データをもとに判断する場合、当然失敗のリスクもある。そんな中、榊氏は「何故」を深く思考する事が大事だと、力説する。

 「インターネット企業の経営の専門家ではないので、他の方がおっしゃっていることをまず疑っています。例えばABテストがいいと言われたら、ほんとにいいのかとか、なぜいいのか、うまくいっているのがだれなのか、うまくいっているのはなぜうまくいっているのか、それをすごく考えます。」(榊氏)

 「データだけを見て判断するのは危険です。出てきたデータ、生データを読み取り、理解し、ちゃんと思考する。結構大変ですが。」(榊氏)

 実際にデータマーケティングを実践しながら、時価総額を100億から1,000億へ増加させるだけでなく、収益も拡大した『一休』。その中で榊氏はどういう役割を果たしているのか。

 「そうですね。一応社長という役割ですが、社長業をやっているのは週に1日ぐらいで、後は、1人の社員として働いてます。営業活動は皆が頑張らないとうまくいかない。しかしデータマーケティングは、少ない人数でレバレッジが効きます。社員の一人として何をしたときに一番会社に貢献できるかと考えた時に、自分はこの領域を選んだという感じです。」(榊氏)

ビジネス ✖ サイエンティストの時代へ

 最後に、来場者に向けてこれからデータマーケティングをやるために何をすべきかを語って頂いた。

 「今後、データをどの企業も今まで以上に取得できる時代になれば、データ分析の結果をどう解釈するかという仕事が、物凄く大事になってくると思います。一般的に、ビジネスマンが優位に立つ3つの要素は、『ビジネス』、『サイエンス』、『エンジニアリング』であると言いますが、私は、中でもビジネスが、これから一番大事な時代に突入するという風に思います。要は、サイエンティストの方がビジネスを学んだ方が良いのか、ビジネスやってる方がサイエンスをかじった方が良いのかみたいな論点がある中で、ついに、ビジネスの人がサイエンスをかじった方が絶対に良くなるという時が来たと考えています。」(榊氏)

Text by Takuya Kuzumi


【プロフィール】
榊 淳
株式会社一休
代表取締役社長
1972年、熊本県生まれ。慶応義塾大学大学院理工学研修科終了後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。米スタンフォード大学大学院にてサイエンティフィック・コンピューティング修士課程修了。
ボストン コンサルティング グループに入社し、約6年間コンサルタントとして活躍。
2009年よりアリックスパートナーズ。13年一休に入社。
PL責任者として宿泊事業の再構築を担い、14年に取締役副社長COOに就任。
16年2月に創業社長・森正文氏の退任に伴い社長就任。


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