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2019.04.10

【b→academy#7】『ソニー“顧客に寄り添う”データマーケティング』
― 顧客の“モーメント”を捉え、体験を紡ぐ“One to One”に迫る ―

7回目の開催となったデータマーケティングを学ぶ国内唯一のスクール『b→academy』。今回はソニーマーケティング株式会社、マーケティングマネージャー橋本 好真氏にご登壇頂いた。b→academyチェアマン、オイシックス・ラ・大地(株)のCMT(チーフマーケティングテクノロジスト)西井 敏恭氏と橋本氏によるトークセッションのテーマは「ソニーの“顧客に寄り添う”データマーケティング」。徹底した顧客管理を行い、製品の素晴らしさと緻密に設計されたコミュニケーションを両立させることで、顧客に寄り添った最適な顧客体験を実現させ、多くのファンを創出するソニーのマーケティングについて、話を伺った。

変化するマーケットへの適応が求められる

 セッションは直近の業界情報の紹介からスタート。エコポイントによる特需や金融危機、スマートフォンの登場などの社会の動きを背景に、テレビやデジタルカメラ、及びMP3プレイヤー市場が大きくシュリンク。利益を上げるのが難しい業界環境になったなかで時代の変化に対応し、ソニーが進んだのは高付加価値製品を主軸とする販売戦略で、それを実現するにあたってマーケティング活動で注力している点は”ソニーファンの創出である”と橋本氏は語る。

 「我々ソニーは、過去の厳しい環境下で、高付加価値製品の販売に注力しました。具体的には、4Kテレビやアンドロイドテレビ、サウンドではハイレゾ対応製品、カメラではフルサイズのミラーレスカメラといった製品が挙げられます。このような我々の技術力が生かされた製品を市場に投入することで、市場の活性化を図りました。」(橋本氏)

社会変動に伴って消費者心理は変化する

 続いて橋本氏は、マーケットの未来についても言及した。「2020年まではマーケットは緩やかに上昇していくだろう」としつつも、その先に待つ様々な社会変動に伴う消費者心理の変化を捉える必要性を語った。

 「2020年以降のマーケットに関しては、現状が維持されるか、下落するか、正直なところ分かりません。ただ一つ言えるのは、少なからず人口減少、超高齢化、ライフスタイルの多様化という3つの社会変化に対応していく必要があるということです。人口減少によって消費者自体は減少していきますし、超高齢化は安定志向・ブランド志向な消費者の増加を引き起こします。ライフスタイルの多様化によって、大型家電を購入する機会自体が少なくなることも考えられます。このような消費者心理の変化を考慮すると、今後は新規顧客獲得が困難な環境になるのではないかと考えています。」(橋本氏)

 そのような消費や心理の変化を背景に、ソニーは今後どのようにマーケティングに取り組んでいくのか、改めて橋本氏がまとめた。

 「新規顧客開拓が困難になる環境において、ソニーとして考えていることは、ソニーファンを増やし、ソニーが継続的に選ばれるブランドになることです。まずソニーの商品を手に取って、ご購入頂きます。その後、製品によって生活が変わる瞬間を感じ、ご満足いただきます。そして、また何か家電製品を買う時に、”前回良かったからまたソニーの商品を買おう”と思って頂けるようなお客様を増やしていきたいです。すなわち、既存顧客との関係を構築していくことを目標としています。この目標を会社として成し遂げるために、マーケティングに取り組んでおります。」(橋本氏)

ソニーの”顧客に寄り添う”データマーケティング

 既存顧客との関係性構築に向けた社内基盤として、顧客に寄り添うための取り組みを”カスタマーマーケティング”という社内共通言語を用いて表し、”ロイヤリティループ”というフレームワークを用いて、施策のターゲットや目的、ビジョンを共有していると橋本氏は言う。

 「ループの一番外側、スタートは一般消費者です。まず、PRやマス広告、バナー広告やリスティング広告に触れたことをきっかけとして、彼らに自社サイトへ訪問して頂きます。自社サイトには製品への理解を深めていただくための情報や、様々なコンテンツをご用意しておりますので、製品のことを十分ご理解いただいた上で見込みのお客様になって頂きます。その後メールやレコメンドによってまたウェブサイトに戻ってきて、さらに製品への理解を深めて頂いて、ご納得の上で最終的にご購入いただく、という流れになっております。」(橋本氏)

 ECを除くとソニー製品は、基本的にはリテイラーを通しての販売になるため、顧客と購入後のつながりを維持することが難しい。そこで、”カスタマー登録”というシステムを用意し、そのつながりの維持を目指していると橋本氏は語った。

 「カスタマー登録後は、製品の使い方について、メールやアプリでのご案内を数回にわたって行います。この取り組みの背景には、お客様がソニー製品を買うという行為は、製品がもたらす”体験”に、ご共感頂けたから購入いただいているのだ、という考えがあります。ですので、どのお客様も製品に期待する価値というものを持っていて、その期待する価値をしっかりお客様に体験いただく為にも、製品を正しく使い倒していただく必要があると思っています。そのためにメールやアプリでのご案内でサポートをしているのです。」(橋本氏)

 そうした取り組みから、体験に魅せられた”製品のファン”を作り出し、その後、パーソナライズ化したWEBサイト等で継続的にコミュニケーションをとっていく。そして、より高性能な製品への買い替えや、別の製品への興味喚起を行う、というプロセスを継続していくことで、「最終的には”ソニーファン”を創出することをコンセプトとしている」と熱く橋本氏は語った。

インフォームからコミュニケートへ

 全体コンセプトだけでなく、施策の中で実行される様々なコミュニケーションにも、ソニーには一貫したコンセプトがある。そのコンセプトについても橋本氏は言及した。

 「”インフォームからコミュニケートへ”というコンセプトでコミュニケーションを設計しています。お客様にとって心地の良いコミュニケーションを行うためには、お客様にとって有用な情報を提供すること、その情報を適切なタイミングで提供することが必要です。そのために、お客様の情報を集め、態度変容の過程をきちんと理解したうえでOne to Oneのアプローチを実現することが鍵だと信じています。」(橋本氏)

顧客インサイトを行動から逆算する

 さらに、One to Oneのアプローチを実現するため、ソニーは取得するデータにもこだわっている。”顧客インサイトを行動から逆算する”というコンセプトのもと、データを取得しており、サイトへの流入元や滞在時間の他、ウェブ上の機能の使用履歴を取得することで、ユーザーのインサイトを捉えることを可能にする、と橋本氏は言う。

 「どのような経緯でサイトへアクセスしたかによって、ユーザーの心理状態は全く異なります。したがって、流入元を示したデータであれば、トラッキングコード毎にリストを分けて管理し、顧客の状態を見極めて適切なアプローチを行う必要があります。他に、絞り込み機能の利用履歴データであれば、ユーザーが、どのような機能を備えていて、どのような見た目で、どれくらいの価格帯の製品を求めているかを表していますので、それを把握したうえで、その他のデータを収集していくようにしています。」(橋本氏)

 「これらのデータは、個々で分析に使用することもあれば複数を組み合わせて使用することもあります。複数のページに関する閲覧情報や複数機能の使用履歴を組み合わせることで、総合的にユーザーの興味を判定することができます。その際、判定に一定の基準を設けることで、偶然によるページ閲覧などの影響を排除する仕組みを設けています。」(橋本氏)

 「加えて、ウェブサイト以外からもデータを取っています。シンプルなアンケートのデータや、直営店やイベントへ来ていただいたお客様の行動データが主です。アプリを利用したイベントへのチェックイン登録なども活用してお客様の動線を把握することに取り組んでいます。」(橋本氏)

 また、オウンドメディアの外におけるユーザーの時間の過ごし方を把握し、ユーザー像をより立体的に捉えるために、サードパーティ、セカンドパーティデータも積極的に活用している。

 「オウンドメディアからでは取得できない情報も多くあります。取れない情報に関してはサードパーティのDMPからデータを取得しています。特定の分野への興味関心やライフステージなどですね。しかし、ファーストパーティとサードパーティの顧客の特性データを比較すると、一致しない場合もあります。活用しきれない部分もあるのですが、インサイトを深堀りする際に利用したり、ユーザーの識別子として利用したりしています。」(橋本氏)

ソニーが取り組む具体的な施策

 機械学習等を利用したデータ分析から、ユーザーが購買ステップのどの段階にいるのかを把握し、ネクストステップとの差分を検討することで、ユーザーにとって心地が良く、かつ購買ステップを次に進めるコミュニケーションを設計していく。そして、バナーやソーシャル、メールやアプリなどのツールを利用して、個々のコミュニケーションを実施していくのだと橋本氏は言う。

データ活用による成果

 データ活用の成果例として、まずメール開封率の改善が挙げられた。従来は一斉メール配信を行っていたが、ユーザーの態度変容をトリガーにメールを配信し、さらに配信後の行動をもとにシナリオを分岐するアプローチを導入したところ、1年で開封率137%*、クリック率120%*、成約率213%*という成果を生んだという。(*前年度比)

 「また、広告配信の効率化という点でも成果が出ています。これまでは、サイト上の特定の階層に訪れたユーザーに対して特定の広告を配信する、というような平面的なアプローチをとっていました。しかし現在は、PV数や滞在時間、閲覧ページ数といったサイト上での行動データを利用し、立体的にユーザーを捉えるアプローチをとっています。結果、半分のコストでCVRが前年度比330%、ROASが前年度比232%という結果を残すことができました。」(橋本氏)

 加えてサードパーティデータとの連携においても成果が出ている。サイトに訪問したユーザーの属性と購買データを掛け合わせることによって、広告効果が小さい属性のユーザーへの広告配信を控えるという形をとることで、ROASを1.4倍にまで向上させることができた、と橋本氏は語った。

 他にも、メールに反応を示さなかったユーザーに対してアプリでプッシュ通知を行うなど、ユーザーのライフスタイルに合わせて多様なタッチポイントを用意することによって、リーチ率前年度比170%という成果もあがっている。

データマーケティング成功を引き寄せるカギ

 他社の追随を許さないレベルでのデータ活用を実践しているソニー。最後に橋本氏が、データマーケティング成功の、”データ基盤”、”データ”、そして”人”という3つのカギについて語った。

 「1つ目のカギはデータの一元管理です。当たり前のように言われていることではありますが、全部のデータを1つのデータベースに格納して管理しましょう、ということではないです。施策から逆算してどのようなデータが欲しいかを事前に定義した上でデータと向き合わなければいくら時間があっても足りません。目的から逆算してデータを構築していく必要がある、ということです。」(橋本氏)

 「2つ目がマーケティングの基盤を作るチームの運営体制です。ソニーで言うと、ビジネス、システム、オペレーションの3部隊になりますが、お互いの領域を理解し、連携するということです。皆がビジネスを理解していることで、実現したい世界がビジュアライズされ共通理解が深まります。そうすると、何かやりたいことができた際の要件定義が鋭くなり、手戻りが非常に少なくなります。また、皆がオペレーションを理解していることで、施策のプロセス設計に機転が利くようになります。すると結果的にスケーラビリティを持った運用が可能になります。」(橋本氏)

 「最後が、AIを理解したうえでマーケティングの企画ができる人間です。この3つ目をしっかり意識して人材育成を行っていくかどうかが成功のポイントだと思います。このような人間がいないと、なかなかビジネスに浸透していかないという課題に直面します。場合によっては、外部の研修を活用して育成するということも必要です。また、評価においても新しいことにチャレンジした人間がしっかり評価される環境になっています。きちんと仮説を立てた上での失敗は、PDCAが回り組織全体としての知見蓄積に繋がるポジティブなものと捉えています。」(橋本氏)

 最後にまとめとして、全体で共通のビジョンを掲げる重要性について橋本氏が語り、セッションは終了を迎えた。

 「あらゆる施策を共通のビジョンをもとに進めていくことが非常に大事です。何か迷うことがあったり、施策の意義を再確認したい時に大変役に立ちます。結果的にビジョンをもとに意思決定がなされることもありますし、ビジネスとシステム、オペレーションの部隊がこのビジョンのもとに話を進めることもできるのです。」(橋本氏)

Text by Takuya Kuzumi


【プロフィール】
橋本 好真
ソニーマーケティング株式会社
カスタマーリレーション部 ダイレクトコミュニケーション企画推進課 マーケティングマネージャー
ソニーマーケティング株式会社にてデジタルマーケティング領域をリード。
デジタル広告、ウェブサイトマネジメント、ECシステム構築、DMP、マーケティングオートメーションなどを担当し、One to Oneマーケティングを推進。
過去にはEコマースのプロダクトマーケティング担当としてaiboや小型一眼カメラなどの新カテゴリーの立上げを担当。
一橋大学大学院国際企業戦略研究科修了(MBA)。


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