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2018.04.23

【b→academy #2(後編)】
ニューバランス×ドームのデータマーケティング
データ活用で実現する心を動かすブランドコミュニケーション

 2018年3月にスタートした「b→academy」。4月10日、東京・五反田にて第2回目の講義が開催された。
 企画責任者を務めるチェアマンとして、オイシックスドット大地株式会社のCMT(チーフマーケティングテクノロジスト)兼 株式会社フロムスクラッチCIO(チーフイノベーションオフィサー)西井 敏恭が開講の挨拶をした後、1つめのセッションは株式会社横浜DeNAベイスターズ執行役員 木村 洋太氏にご登壇いただいた。

 続いてイベントはパネルディスカッションに移行。株式会社ドーム CMO付 WEBマーケティングチームチームリーダー 阿部 敏氏、株式会社ニューバランス ジャパン DTC&マーケティングECマネージャー牧嶋 琢実 氏を迎え、株式会社フロムスクラッチ執行役員の三浦 將太がモデレーターとして進行した。
 今回のディスカッションにおけるテーマは「心を動かすデータマーケティング」。ブランドコミュニケーションを重んじるスポーツブランドの2社が、進化を続けるマーケティグテクノロジーをいかに活用すべきか、これまでの取り組みを踏まえて語られた。

コミュニケーションのハブとしてのECサイト

 デジタルというと、ユーザーがデジタルに流れる潮流の中、単純にECサイトを作れば売り上げが上がるのでは、と考えてしまう人も多い。しかし今回お越しいただいた2社はグローバルなブランドが確立されており、そう捉えてはいない。メーカーECとしてデジタルの役割をどのように捉えているか、モデレーターの三浦氏が質問を始めた。

 まず話し始めたのは、昨年ブランドサイトとECサイトを統合したニューバランスの牧嶋氏だ。同氏は2013年からニューバランスにジョインし、デジタルメディア全般、CRM、リテールを含めたオムニチャネルを推進されている。

 「サイトを統合した理由の1つは、ニューバランスというブランドを理解してもらって、共感してもらった上で『自分も履きたいな』という感動体験を作っていくことが僕たちのミッションだからですね。売るだけなら、サイトは別々でいいのですけど。公式ECサイトとはお客さんと一緒に成長していきたいという想いを持っています。」(牧嶋氏)

 モデレーターの三浦氏は、これに対して、「サイトを統合する前に抱えていた課題」についてさらに質問を重ねた。この疑問に対し、牧嶋氏は記事を読んで興味をもってくれたお客様がすぐに購入ができる導線がなかった事」と語る。

 「元々ブランドサイトでブランドアクティビティの紹介等をしていて、ECサイトはモノを買うためだけの場所だったんです。しかし、お客様に商品を届けるというミッションを考えると、ブランドサイトのコンテンツだけを見て『面白いな』、と思っただけで帰られてしまってもいけない。サイトを見て感動して、さらにECサイトに移動して商品を探す、という手間を与えたくなかったんです。共感して頂いた時、その熱量のまますぐに買えるのがベストですよね。」(牧嶋氏)

 この回答に対し、再び三浦氏は質問。「様々なカスタマージャーニーが存在している中で、ECサイトではどのような体験を提供することが重要か?」これに対し牧嶋氏は、「正しい情報を与えることだ」と主張した。

 「サイトに入ったとき、正しい情報を与えたいですよね。第三者によって書かれたものだと、伝えたい意図が違ったりする。そこを、実際にオウンドメディアを運営することで、情報を誠実に、正確に提供できる。それがECサイトをやる強みですね。」(牧嶋氏)

感動体験を伝える媒体としてのECサイト

 続いて、国内でのアンダーアーマー製品の販売や、サプリメントの生産販売等を行う株式会社ドームの阿部氏がお話した。同氏は2012年から同社に勤務し、デジタルを中心にブランドマーケティング、リテールマーケティングに従事している。阿部氏はまず、自社にとってのスポーツの定義から語り始めた。

 「スポーツって、生きていく上で必要のないものなんですよね。でも敢えてお金を使ってスポーツをすることで得られることはたくさんある。その価値観を日本の皆さんと共有して、もっと日本を元気にしていこうという価値観が、ドームにはまずあります。その中で、スポーツがもつ本質的な価値、ワクワクやエキサイトメント、悔しさからの立ち上がりなど、お客様にすばらしい体験を提供したい。僕らのECサイトや直営店では、わくわくがあった、楽しかった、というような体験を提供したいんです。そのように、ブランドへのロイヤリティをあげていくプラットフォームとして自社ECを捉えています。」(阿部氏)

 他社と比べてこだわっている点は、という三浦氏の質問に対しても、阿部氏は再びわくわく感・楽しさの提供について繰り返した。

 「うちの商品は、着たらパフォーマンスが上がるとか、すごいことができる、というようなことをお客様に押し付けない。ただ、自分で意志をもって『こうなりたい、こうやりたい』と考えている人たちが、その意志を達成できる手助けをしたいんです。」(阿部氏)

全ての新規の会員様に送るステップメールから始めるこだわり

 続いて三浦氏は、同社の直近のデジタルの取り組みについて質問した。まず回答したのは牧嶋氏である。同氏が挙げたのは、メール配信へのこだわりだ。

 「ECサイトリニューアルの際、どうしたらお客さんにとって気の利いたコミュニケーションができるのか考えましたね。うちのサイトは、登録すると全てのお客様に4通の決まったメールが来るんです。その4通が送り終わるまで広告メールは送らないと決めているんです。1通目はニューバランスの歴史について。2通目は公式ECのサービス、ラインナップの紹介。3,4通目で便利な使い方を提供。ではここからお楽しみください、という感じ。」(牧嶋氏)

<ニューバランスが会員登録後に送るステップメール>

 ここで牧嶋氏は、この4通の役割について強調した。

 「4通目まで読んでくださる方は結構多いんです。しかも、読んでいない方よりもLTVが高い。しっかり自己紹介して共感してもらうことは徹底しています。ニューバランスの歴史を知った上で、『だからこんなに歩きやすいんだ』というのを共感して欲しい。」(牧嶋氏)

 モデレーターの三浦氏の知人にも、実際にニューバランスの歴史を知りコアなファンになった人がいるそうだ。そのようにして推奨者を増やし、ブランドの理解を広げていく重要性が強調された。続いて語ったのは阿部氏である。

全社のデータ統合が今の最重要課題

 「弊社はまず、データを一元化しようとしているところです。複数のDBにお客様の情報が入っていて、別でExcelに8万人分のデータが入っていたなんてこともありました。それを一元化しようとしています。そもそもデータの定義が社内で統一されておらず、メールのターゲットを抽出するにもメンバーによって同条件で依頼したはずが、抽出した結果の数が異なったりしていました。また、データが一元化されていないことによって、どの施策がどれだけの収益を生み出しているのか経営陣にレポート出来ていない状況でした。今年は会社全体の組織を変えて、全社を挙げて、“マーケティングプラットフォームプロジェクト”として一気通貫のマーケティングを目指しています。」(阿部氏)

えて最近のアンダーアーマーの取り組みとして、Web動画に関する質問が上がった。アンダーアーマーでは、長澤まさみさんを起用した新PV動画を2017年7月18日より公開しており、世間に波紋を呼んでいる。動画作成の背景には、ブランドイメージの変革というテーマがあったのだと阿部氏は語る。

 「弊社のブランドの顧客の多くは男性なんです。女性にアンケートを行うと、『アンダーアーマ―はガチすぎて着たいけど着られない!』という回答もありました。でも実際はそんなことはなくて、僕らの考えるアスリートとは『何かをやる意志を持って進んでいく人』なんです。長澤さんもそうですが、僕らはそういう人を応援しているんだよ、ということを伝えたかった。かなり話題になったのでアンダーアーマーのイメージを大きく変えられたのではないかと思っています。」(阿部氏)

ブランドによってお客さんに関する情報の取得方法は様々

 続いて三浦氏から、「データやデジタルを活用する際に重視していることは」という質問が投げかけられた。今回の2社のようなブランドでは、間違った情報をお客さんに提供した瞬間、ブランドの価値やお客さんの体験が崩れてしまう。その中で何を重視しているのかをご説明いただいた。
 まず牧嶋氏からは、「個人のランニングスタイルに合ったコミュニケーション」について言及された。

 「弊社のサイトでは、ランニングについて細かく質問をします。ランニング初心者とオリンピックを目指す人は求める情報が異なりますよね。その人の走力に合ったコミュニケーションをとることが大切です。お客様に有益な情報を届けたいからこそ、まず情報を教えてくださいというスタンスです。結構答えてくださいますよ。」(牧嶋氏)

 これに対し三浦氏が、「データの要件定義」について語った。

 「データの要件定義って大事ですよね。どんなデータを取得すれば、どのような価値を提供できるのか、というところから要件定義を行うことが大事だと感じています。デジタルを使えばどんなデータも取得できますが、ニューバランスさんは、そこにブランドのアイデンティティを感じます。」(三浦氏)

 続いて阿部氏がドームでの施策を語った。興味深いのは、ニューバランスとは全く逆のアプローチをとっていることだ。

 「弊社では全く逆のアプローチをとりますね。ドームの考え方は、トレーニングをする人をサポートしパフォーマンスを上げてほしいと考えているブランド。『今買いたい、今欲しい』という状況のお客さんにメールアドレス以外に沢山の項目を入力してもらう、ということは行いません。買ってすぐにパフォーマンスして頂きたいんです。なので、弊社はデジタルでできることをやるのではなく、僕らがやりたいことをやるのが大前提です。また、お客さんの趣向や、どのくらいの速さで、どのくらいの頻度で走っているかというデータや、ケガの状況も含めたフィジカルがどんな状況なのかというデータを蓄積していこうとしています。今後コミュニケーションを通してそういったデータを蓄積できる基盤を整えていこうとしています。最終たどり着きたいところはニューバランスさんと一緒ですが、まず使ってもらって、パフォーマンスをしてもらう中で徐々にデータを集めていく。順序が逆ですね」(阿部氏)

オンラインとオフライン両方を統合して活用するフェーズへ

 最後に今後の展望について、お二人からお話をいただいた。

 「来年を目指して、店舗の会員情報を統合していきたいですね。靴を売っているブランドとして、ピンポイントでストレスなくぴったりな靴を買ってもらうにはどうしたらいいのか、ということをずっと考えています。例えば店舗で提供している3Dスキャン。そのデータを用いてぴったりな靴を買ってもらえるようにするとか。まだ正解は持っていないけれど、使命としてやっていきたいと考えています。」(牧嶋氏)

 「現在コミュニケーションツールがメールなのですが、新たにアプリのローンチをしたいと考えています。必要なときに必要なデータを届けられるようにしていきたいですね。あとは、うちの代表の言葉ですが、『デジタルマーケという言葉はない。そもそもやりたいことがあって、それをどうデジタルでできるかだよ。』と思っています。最終的には1対1で面として向かって話すのが大事ですよね。オンラインのデータを用いて、オフラインでのコミュニケーションも工夫していきたいと考えています。」(阿部氏)

 最後に三浦氏から2点のポイントがまとめられ、セッションは終了した。

 「2社とも、お客様とブランドの関係性を深く理解されていますよね。ECを、簡単に利便性良く買ってもらう場所ではなく、お客様とのコミュニケーションのハブとして捉えている。もう1つは目的立脚です。デジタルマーケティングは、できることが目的化しがちです。そうならず、何を提供したいのかを重視されている。これこそがブランドが挑むマーケティングなんですね。」

Marketing Leader’s Review ~参加者の声~

 b→academyは1回目、2回目どちらも参加をしましたが、各回でデジタルやデータについての「手段」だけでなく、顧客とどんな関係を築いていくのかという哲学についてまず各社のお話を聞けたのが非常に参考になりました。今回登壇された、横浜DeNAベイスターズさん、ニューバランスさん、ドームさんは、それぞれがその哲学を持っており、どのブランドも顧客との関係を大切にしつつも、哲学が異なることでデジタルの活用方法や、コミュニケーションのアプローチが異なっていました。
また、新しい取組みをするのに1人のマーケターがホームランを打つことで成功するのは難しく、
横浜DeNAベイスターズさんがメインターゲットとして全社で認識を合わせられている「アクティブ
サラリーマン」のような、シンプルな共通言語を作りそこに向かって全社で取り組むことが重要だと感じました。(株式会社ゴルフダイジェスト・オンライン メディアビジネスユニット ユニット長 福永氏)

 今後、当アカデミーは継続的に開催される予定で随時Webサイトにて最新情報が案内される。次回は6月6日(水)に予定しており申し込みは5月中旬から開始される予定だ。
https://bdash-marketing.com/seminar/b-academy

Text by 岡上杏瑠


【プロフィール】
牧嶋 琢実
株式会社ニューバランス ジャパン
DTC&マーケティング EC Manager
1971年 神奈川生まれ。2013年、株式会社ニューバランス ジャパン入社。2017年に自社ECサイトをリニューアル以降、ブランドサイトをECサイトに統合。デジタルメディア全般、CRM、リテールを含めたオムニチャネルを推進。ブランドと消費者のエンゲージメントにおいてメーカー直販ECサイトが持つ役割について新しい形を提案。

阿部 敏
株式会社ドーム
CMO付 チームリーダー
1979年東京都生まれ。WEB広告代理店、WEBコンサルタントを経て2012年株式会社ドームへ入社。デジタルを中心にブランドマーケティング、リテールマーケティングに従事。現在はデジタルを活用したカスタマーエクスペリエンスの最大化に取り組む。


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