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2019.08.09

【b→academy#10】メルカリの”やばい”データマーケティング
〜爆発的成長を生む、本当は教えたくないメルカリ流グロースハックのすべて〜

データマーケティングを学ぶ国内唯一のスクール『b→academy』は、6月13日、第10回目を迎えた。
今回は講師として、株式会社メルカリ データ分析チームマネージャーの野中翔氏にご登壇頂いた。

 メルカリは国内No1、そして世界でも有数のフリマアプリに成長し、今では取引高1,444億円※に達し、なお躍進を続けている。
 ※2019.1-3月(四半期)のキャンセル等を考慮後の取引高の合計 (JP, US合計) 

 メディアでは華々しい成功が取り上げられているが、成功に至る過程には、徹底的にユーザー目線に立ったUI/UXの改善やテクノロジーの開発、そして先行する競合に打ち勝ってユーザーを獲得し、アクティブ利用させるため日々データと向き合い続けるグロースハックがあった。

 当セッションでは、データアナリストとして、メルカリの日米両国での成長を牽引する野中氏より、(1)ユーザ獲得(2)初回利用(3)CRMという3つの観点で、メルカリを業界No.1にしたマーケティングにおける”データの使い方”を余すとこなくお話頂いた。 

“グロースハック”とは、「サービスの特性を活かした、持続的に成果を上げ続けられる仕組みづくり」

 野中氏の自己紹介の後、メルカリが考える「グロースハック」とは何かを伺った。

 「『グロースハック』という言葉がバズワードと言われるようになって久しいですが、単純なABテストの繰り返しやUIの改善と捉えられがちだと感じています。
 私たちメルカリの分析チームは、グロースハックを『
サービスの特性を活かした、持続的に成果を上げ続けられる”仕組みづくり” 』と定義づけています。グロースハックの有名な事例の一つとして、Dropboxの、友達を紹介してくれたらその分容量をプレゼントする、という施策があります。まさにこれはサービスの特性を活かした、持続的に成長を促す仕組みです。私たちも、単純なUIの改修の提案のみならず、こういった施策の企画・実行に対して、データ分析を通して貢献することを意識してきました」(野中氏)  

グロースハックを実現するメルカリの”データアナリストに求められる要件”

 「メルカリでは、データサイエンティストとデータアナリストを区別しています。データアナリストの役割は、プロダクト開発からマーケティング、経営まで、ほぼ全領域に対する『データ分析を用いた意思決定のサポート』をすることです。機械学習をはじめとする高度なデータマイニングスキルを用いた分析も必要に応じて行なっていますが、それよりも「シンプルな分析でプロダクトの意思決定をサポートすること」を重要視しています。
 メンバーの評価においても、データ分析の量・質だけではなく、その後の解釈・説明までを含めて評価するため、担当チームの意思決定をどれだけサポートできたかを重要視しています。難しい分析を行なったとしても、チームが行動できていなかったら意味がないですから。
 意思決定をサポートするということは、データ分析を行うだけでなく、チームの目標や会社の目標はなぜ設定されたのか、行っているビジネスを成功させるには何を達成しないといけないのかを理解する必要があります。
 また、意思決定をする側にわかりやすく分析内容を伝え、さらなる議論を促すための高度なコミュニケーションスキルも必要とします。データを操るだけではメルカリのデータアナリストは務まりません」(野中氏)

メルカリの「売り」と「買い」を意識したマーケティング上のKPIと活用データとは

 西井氏の質問で、メルカリのグロースハックに繋がるKPIの話となった。メルカリでは、以下3つを主なKPIとして追っている。

① GMV(総流通額) = 購入者数×購入者あたりの購入数×商品単価
② STR(出品物の売却率) = 売却数 / 出品数
③ 購入または売却LTV(一人当たり利用額) = 初回利用率 ×継続利用率×単価

 メルカリのビジネスモデルの特性として、ユーザーが出品者になったり購入者になったりすることが難しい点だと言う。
 例えば、出品を促進できた機能でも、購入のアクティビティに悪影響を及ぼしている場合があるため、新しい機能の評価には注意を払う必要がある。また、一部のヘビーユーザー向けの施策が、まだ経験の少ないライトユーザーに悪影響を及ぼすこともあるため、この3つのKPIを同時に見るようにしている。

 「例えば、購入GMVが上がっても売却LTVには悪影響がある、といった事例も発生します。この場合にそれぞれのインパクトを定量化して本当に行うべき施策かを分析したり、なぜ相反する結果になってしまったのかを調査します。こういったデータ分析を通して、小さなUI改修から経営レベルまでの意思決定をサポートしています」(野中氏)

 これらのKPIを追うために、メルカリでは取得できるデータは全て蓄積し、分析や施策に活用している。
 例えば、商品の値段、説明文、タイトル、値下げした日時、コメントなど、データベースに蓄積されているデータや、ユーザーの行動や表示された商品・バナーのリストなど、アプリのログデータも全て取得する。また、アプリ上で取りきれないデータ、例えばWebの行動データもできるだけ同じIDで紐づけて管理している。

 さらに、Push通知やEメール、アプリ内の通知など、「いつ、何を、どのようなタイミングで表示したか、そこからどのような行動が発生しているか」までをトラックできるようにし、ありとあらゆるデータを徹底して管理しているとのこと。

 「何年経っても全てのデータを残しています。それは、最初に認知したきっかけや行動を見て、今後のアクションを設計していくためです。また、取得するデータの設計から実装、QAまでデータアナリストがPMとして動くことで、取得してみたはいいけど使えないデータになってしまった、というようなことが無いようにしています。とりあえずデータを蓄積しておけば後でなんとかなる、ということは少なく、取得の段階で分析用のIDを実装するなど、分析要件に合わせた実装が必要になってきます」(野中氏)

メルカリ流グロースハック(1)~ユーザー獲得~

 続いて、メルカリで行われているデータマーケティングを、①ユーザー獲得(DL)、 ②初回利用(CV)、③継続利用(CRM)の3つのシーンに分けて解説頂いた。

 「①のユーザー獲得(DL)の部分は、弊社の場合、TVなどの認知施策がメインなので『データは使えないのでは?』と思われるかもしれませんが、実際には、打ち出すべきキャンペーンを現時点のユーザーの行動から予測し、最適化しています」(野中氏)

 ユーザー獲得方法は、オンライン施策とオフライン施策に分けられる。

 「オンラインでは、例えばfacebookの場合、ターゲットオーディエンスの作成にサービス内のデータを利用できるので、それも考慮したログ設計を心がけています。また、どのキャンペーン/クリエイティブから流入したユーザーがサービス内でどのような行動をとったかを分析することで、オンラインマーケティング最適化の材料にしています。
 オフラインだと、皆さんが思い浮かべるのはTVCMだと思います。今の日本市場では、ありがたいことにメルカリへの認知が一定取れていますから、TVCMはイメージアップがメインの目的になりつつあります。
 マーケティングのフェーズにもよりますが、TVCM等のオフライン施策に対してもデータ分析を通したサポートを行うことがあります。例えば、購入が伸びていない、出品が伸びていないというビジネス上の課題が、お客さまのどういった行動の結果として起こっているのかを明らかにします。ここで得られた知見をマーケティングチームに共有することで、オフラインマーケティングがどのようなことをしなければならないかの仮説検証をサポートし、それぞれの施策の確度の向上に寄与するように努めています。
 また、よりマクロな視点で、そもそも購入者と出品者の増加のどちらを重要視すべきか、という疑問に対してデータ分析を用いて意思決定をサポートすることもあります
」(野中氏) 

メルカリ流グロースハック(2)~初回利用(購入又は売却)~

 メルカリでは、アプリのインストールから購入(又は売却)するまでのプロセスを洗い出し、具体的にどこがボトルネックになっているのかを細かく分析している。様々な分析と施策を行ってきたメルカリだが、その中でも野中氏の印象に残る、「初回利用に有効だった施策」を伺った。

1.Sold Out商品の検索結果非表示・表示

 「売り切れた商品を検索結果に表示するかどうかをテストしたことがあります。これは、“Sold Outした商品を表示しないでください”というリクエストをお客様からいただき、実際に社内でも表示しなくてもよいのでは?という声が多かったためにテストしました。テストの結果、非表示にした際には、購入側のアクティビティには変化がほとんどないものの、初出品を行うお客さまの割合が下がってしまいました。売り切れた商品を見ることで、出品しようと思っていなかった人を出品する気にさせる効果があるのではないかと我々は考えています。
 この経験を活かして、どれくらいSold Outした商品を表示することが、お客さまの購入・出品のアクティビティを最大化するかテストしたりもしました。こういった事例はチームとって非常に重要です。もちろんアンケートの声も大事ですが、データは自分たちが想像できなかった可能性を知ることができるので。」(野中氏)

2.“検索させる”UI設計

 メルカリのようなマーケットプレイスの場合、ユーザーは”とりあえず何か商品を検索する”のが通常だと思われがちだが、実際は”検索せずにサービスから離脱する”人が多いそうだ。そこで、”インストールして一度も検索せずに離脱するユーザー”の行動を徹底的にデータ分析したという。

 また、実際にUIの改修を開始してからも、ABテストの結果から得られるデータを元に、施策の最適化を続けている。例えば、インストール後のユーザー登録が終わった後、最初に表示する画面でいくつかのパターンを試した。以下は過去に検証を行ったものだ。

① 初めに「検索してください」と検索ボックスの付いたバナーを出し、流行商品一覧を表示
② 商品を出さずに、先に「検索してください」と表示
③ 初めに「こういったキーワードが検索されています」とキーワード群を表示

 「3つのパターンで、明確に2つ目は効果がなく、3つ目は成果があがりました。丁寧に行動を指示するよりも、他のお客さまがやっていることを示唆する方が、行動を促しやすい、ということが明らかになりました。
 さらに、1つ目の検索ボックスを表示するよりも、3つ目のように具体的なキーワードをレコメンドした方が成果は上がりました。”検索する気がないのではないか”、”方法がわからないのではないか”、という仮説から、より深い”検索する言葉がわからなかった”という学びを得ることができました。この学びを生かして、どのような言葉を提案すべきか試行錯誤し、更に最適化を行いました。UI/UXの改善は、一回やったらOKとなってしまいがちですが、やり続けることが大事だと思います」(野中氏) 

3.データをフル活用したクーポン施策

 クーポン施策も一種のマーケティングであり、データ分析に基づいたターゲットの選定・クーポン内容の設計がクーポンのROI改善に大きく寄与するため、「データアナリストが最も活躍できる分野の一つだ」と野中氏は語る。そんな野中氏に、クーポン施策で成果が出た事例、そしてそのデータ分析を紹介して頂いた。

① 段階的に割引率が上がるクーポン

 「クーポンの割引分のコストを取引の手数料収入でペイするには、お客さまが余程高額な商品を購入しない限り、クーポン使用後に何度も購入して頂く必要があります。そこで、闇雲に割引率の高いクーポンを配るのではなく、初月は5%、翌月は10%、というイメージで、複数回に分けて段階的に割引率が上がるクーポンを提供することにしました。この施策はお客さまのクーポン利用後の継続的な購入回数をある程度担保しつつ、クーポンの費用対効果を高めることができます」(野中氏)

② 特定の出品者と購入者の組み合わせに対してクーポンを配布する

 「基本的にはクーポンを提供すると、クーポンを受け取ったお客さまの購入額は上昇します。例えば、普段なら1ヶ月で1万円購入するお客さまが、クーポンで1万5千円購入して頂ける、ということがあります。
 このようにクーポンにはアクティビティ増加の効果がありますが、クーポンコストを手数料収入でペイするほどの投資対効果を得られるクーポンはごくわずかです。そこで、一つのクーポンで購入者の購入額も、出品者の売却額も増やせるようなクーポン配布を行っています。これにより、クーポンのコストを購入者、出品者両者のアクティビティ上昇で負担できるため、投資対効果を高めることができます。一方で、お客さまから見るクーポンの割引額には変化がなく、コストを按分する分だけ割引額を増やし、さらにクーポンの規模を大きくすることができます。」(野中氏) 

③ 将来購入・売却予測スコアに基づき配布額を最適化

 「データを分析することで、“将来の購入や売却の予測に基づくクーポンの最適化”を行なっています。
 例えば、元々商品を購入する予定だったお客さまにクーポンを配ってしまうと、クーポンで期待していた購入総額の増加が起こりづらくなってしまうため、費用対効果の高いクーポンにはなりません。
 一方で、起こる可能性の低かった購入・売却をクーポンで促すことができれば、そのクーポンの費用対効果は高くなります。例えば機械学習を用いて、あるお客さまが何日後に購入するかどうかを予測し、クーポンの配布対象を最適化しています」(野中氏)

④ 特定の商品カテゴリにおいてのみ有効なクーポン

 「例えば、特定の商品のカテゴリで出品が少ない一方で、探している人が多い場合、そのカテゴリの出品をクーポンで促すことによって、出品者には売却体験を、商品を探していたお客さまには購入体験を与えて、一つのクーポンで2人以上のお客さまを活性化することができます。このような「マーケットプレイス内の商品の需要と供給分析に基づく、クーポンの配布・最適化を行うこともあります。
 クーポン施策は、投資回収率を最重要指標としていますので、回収率が何%だったかは厳密に計算しています。最初は失敗してしまうアイデアも多いのですが、改善を続けることで投資回収率が100%を超え、広告によるユーザー獲得より投資対効果がくなるようなクーポンも今では存在しています」(野中氏) 

 このように、メルカリにおけるクーポン施策の結果は全てデータに基づいて徹底的に計算されている。各種クーポンの組み合わせの結果、新規ユーザー初回利用は2倍に、投資回収率100%を超える持続的なクーポン配布の仕組みを開発し、大きな成果をあげることができたのだという。

メルカリ流グロースハック(3)~CRM(継続利用)~

 最後に、ユーザーに継続的に利用してもらうために行った工夫の中で印象的だったものを3つ、野中氏に伺った。

1.“買うだけじゃなく”初売却のためのサポート

 購入に比べると売却は難易度が高いため、出品はしたが売却をしていないユーザーをサポートする施策を行っている。

 「初出品のお客さまはまだ慣れていませんから、売れるタイトルや説明文の作り方が分からなかったり、綺麗な写真を撮ってCTRを高めることができません。結果、商品は良くても他の要因によって売れない、ということが起こります。
 そこで、全体のバランスを損ねない範囲で検索アルゴリズムを変更することで、PVを増やし、初売却へ向けたサポートを行うことがあります。どちらにせよ、いくら見られても買われない商品にPVを分配することは取扱額最大化の観点では損なので、再分配すべきPVは一定発生しています。もちろん、初売却に向けて出品者にとってもらうべきアクションを選定し、それをメルカリから提案することも行っています。売れない理由は様々なので、どれだけ鋭く理由を推定できるかが、最小限のアクションで売却体験を促すために必要になります。」(野中氏)

2.“売ったら買って頂く”売上金利用促進

 先ほどのクーポン施策の中でも言及されたが、CRMの観点で、売上金を所持しているユーザーに対してクーポン配布を行うことがある。

 「購入も売却も行うお客さまを増やすことはメルカリにとって重要です。獲得コストは1人分ですが、1人分のコストで2人獲得できていることになります。また、購入だけでなく出品・売却も行うお客さまの方が再購入率が高いことがわかっています。よって、初購入 or 売却を終わらせたお客さまにはもう片方のアクションを促すことが重要となります。サービス内でのクーポン施策であればマーケティングによるユーザー獲得より1人あたりの獲得コストは低くすることが可能です。もちろんクーポンを配るだけでなく、どのようなきっかけが購入と売却の両方を行うことに必要なのかをデータ分析によって知り、プロダクト改善に役立てています」(野中氏)

 このような施策の他にも、データを活かしたレコメンデーションや、「公開NG」としていくつかの施策を解説頂いた。「データ分析」をもとにした企画の立案・実行により、改善前に比べ、リピート購入率も2倍に向上している。

最後に~グロースハックの実現に必要なこと~

 ここまで数々の施策を解説頂いたが、メルカリのデータアナリストチームは単純にデータ分析を行うだけの存在ではない。プロダクト開発からマーケティング、経営まで、ほぼ全領域において必須な意思決定のサポートをするチームである。そして、データドリブンな施策により、

・クーポン施策の投資対効果100%超え
・新規ユーザーの初回購入・売却率2倍
・リピート購入率 2倍

という大きな成果を導いた。

 1時間半というセッションの時間が押す中、最後にグロースハック実現に必要なことを伺った。

「まとめると、グロースハックは、『ビジネスにおいて持続的に成果を上げるための仕組み作り』だと思っています。そしてこれまで行ってきたことを振り返ると、グロースハックにはメルカリというビジネスへの理解が必要不可欠でした。
 チームのメンバーが皆、メルカリの、またはC2Cマーケットプレイスのビジネスモデルや、なぜそのKPIを目標としておいているかを高いレベルで理解しているからこそ、マーケティングや経営に響くデータドリブンな企画を提案できたのだと考えています。
 私はマネージャーとしてチームのメンバーが、メルカリというビジネスがマーケティング・プロダクトの両面において、どうなればより大きな成功に近づくかを考えるような高い視座を持てるよう、サポートしています。」(野中氏)

と野中氏は締めくくった。

Text by Takuya Kuzumi


【プロフィール】
野中 翔
株式会社メルカリ
データ分析チーム マネージャー
新卒で株式会社DeNAに入社し、ソーシャルゲームのパラメータデザイン、メディア事業におけるデータ分析チーム立ち上げ等を担当。2016年4月に株式会社メルカリ入社。JP版メルカリにおけるデータ分析業務を担当した後、US版mercari向けのデータ分析チームのマネージャーに。プロダクト改善のための企画支援から、事業の戦略策定サポートまでを担当。


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